第九話 終わらせた邪神は闇に消える
更新するのすっかり忘れてました。
大変申し訳ございません(土下座)!
自身の切り札のあっけない幕切れに、ロバートの叫びが響く。
「……あ、あ、あ、あああ、あぁぁ、ぁぁぁぁ…………!!!」
ヴァニリノが近づいても、ロバートの目は虚空を見つめるのみで、口から小さな呻き声を出すだけだ。
ちょっと刺激臭がすると思ったら、どうやら下半身から垂れ流してしまったらしい。……小さい方も大きい方も。臭い。
ヴァニリノの真の姿は、ちょっとだけ刺激が強いので、たとえ一部だけでも人間が見てしまうと発狂してしまうことがある。
ロバートは切り札の喪失と共に強い精神的衝撃を受けて、発狂してしまったのだろう。
(…………殺そうと思っていましたが、ちょっとやる気が失せましたね。何というか、哀れです)
これでも複数の邪神の奉仕種族を操って、疑似神域すら作り出した魔術師だ。
まっとうに努力していれば、今頃世界中に名が響く魔術師になっていただろうに。
隅の方の死体の山には魔術師だったであろうものが多く見受けられ、おそらくガルダルの怪の首謀者もこいつなのだろう。
邪神への儀式の贄として使っていたようだ。
魔力を多く持った魔術師の方が、贄としての質はいいから。
まあ、その贄を送る対象はヴァニリノの肩に乗っているわけだが。
空気を読んでこれまで黙っていたのだろう、その贄を送られた対象が口を開く。
「それは殺さなくてよろしいので? …………あれ、ヴァニリノさん?」
ナダに話しかけられたヴァニリノは、それに反応せずに死体の山を見つめている。
「どうかしたのですか、ヴァニリノさん?」
「……ああ、すみません。あの山、まったく食べ物は大事にしなさいと親に教わらなかったのかと思いまして…………躾の成っていない人間はこれだから困りますね」
私でさえ最近はめったに食べれないのに、とヴァニリノは愚痴をこぼす。
「確かに、アレはボクとしても減点ですね。食べ物は大事にしないといけません。まあでもボクは、信者からよく供物をもらうので……」
その言葉に、ヴァニリノは目を見開いた。
さすが世界有数の規模を持つ秘密結社の主神は違う。
………………うらやましい。
「…………すこし分けて差し上げましょうか?」
どうやら、目に出てしまっていたらしい。
しかし、まだ出会って少しの相手に食べ物をたかるほど恥知らずではない。
「い、いえ。それには及びませんよ。……じゅるり」
おっと、何故かよだれが。
……恥知らずではない。
「いえいえ、ボクが差し上げたいのですよ。これから何かと頼ることもあるかもしれませんし」
そう言ってナダは尻尾をふりふりと振った。
な、なるほど。先行投資というわけなんだ。……だったら、貰ってもいいよね?
「そ、それではお言葉に甘えさせてもらって……」
「期待していてください。それで、この男はどうするのですか? もしヴァニリノさんがよろしければボクの教団に引き渡して裁ければと思っているのですが」
なるほど、教団の求心力を高めるために利用すると。
こちらとしても、もうこの男に大した興味はないので問題ない。
「ああ、別に私はかまいませんので、お任せします」
「ありがとうごさいます」
肩に乗った蛇の頭がぺこりと下げられた。
そのとき、ヴァニリノの視界の端で、何かがもぞりと動いた。
それは、この部屋にある大きな魔法陣の中央にあった白い何か。
ヴァニリノはそれを何らかの魔道具か何かと思っていたが、それは違ったようだ。
それは一人の幼女だった。
真っ白な幼女。
短く切られた白い髪の毛に、身体に纏う白い布。
その中で真っ赤な瞳だけが鮮やかなコントラストになっていた。
ヴァニリノが近づくと見えてくる、やせ細った体に薄汚れた髪と肌。
ここに来るまではもしかしたら孤児だったのかもしれない。
その幼くも美しい顔は、無感動にヴァニリノの顔を見つめていた。
生贄、だろうか。
おそらくロバートが今日の儀式に使うために攫ってきたんだろう。
さてどうするべきか、とヴァニリノが思っていると、肩の方から感心する声が聞こえてくる。
「なかなかですね、この人間」
「なかなかとは?」
「ヴァニリノさんの真の姿を一部とはいえ見ているのに、全く動揺していないとは。見どころがあります」
「ああ、それは確かに……」
ヴァニリノは自分の右腕を見る。
そういえば、自分本来の姿をさらしてからこれまで戻していなかった。
今もヴァニリノの右腕は、複数ののたうつ触手になっている。
確かにこれでビビらないのは、人間にしては珍しい。
幼女の前でしゃがむと、幼女の瞳が動いて背の低くなったヴァニリノを見続ける。
目の前でパチンと指を鳴らすと、幼女はビクッと体が跳ねて目をしばたたかせた。
反応はちゃんとする。心が壊れているわけでも、発狂しているわけでもないらしい。
指で頬をつつくと、ぷにっとした感触が返ってきた。
体は痩せているのに、不思議だ。
幼女はきょとんと首をかしげる。……かわいい。
つんつん。
きょとん。
……かわいい。
うーむ、まさか自分に人間を愛でるような感性があったとは。
驚きだ。
だがそもそもヴァニリノが人間と真面に関わったのは、考えれば復活してからの五年間だけ。
神代大戦のときは、ただ戦っていただけだったのだから。
この世界に来る前の世界には人間などいなかったし、ヴァニリノは常に一人で行動していた。
今までとは全く違う行動をしていたおかげで判明した嗜好なのかもしれない。
「この可愛らしい人間、どうしましょう」
「う~ん、そうですね。ボクの教団で引き取ってもいいですけど、影の世界になど進んで入るものでもないですし」
「まあ取り敢えず、この疑似神域からは連れ出しますか」
「そうですね。ここも壊しちゃおうと思っていたのでちょうどいいです。こんなのが無造作にあると、ボクも聖神に目を付けられかねないですから」
「それじゃあ私もお手伝いしますよ。帰るついでという事で」
「ああ、それはありがたいです」
「じゃあ行きますか」
ヴァニリノは右腕を人のものに戻し、幼女を抱っこする。
そういえばロバートがガルダルの怪の首謀者であれば、路地裏で遭遇した者たちのような部下がいるのか。
これも乗り掛かった舟。それもついでに対処するとしよう。
これにて、ガルダル市を騒がせていた《ガルダルの怪》は人知れず終息し、その噂はいつしか完全に忘れ去られて無くなることになる。
それを成した邪神は、それをちょっとした日常の一コマとして記憶の隅に埋もれさせ、いつしか忘れてしまうだろう。
……いや、そのようなことは無いかもしれない。
結局この時保護した白色の幼女はその邪神が保護することになり、その時に出会った蛇の神とも、これまで関わりが無かったがこれ以降は交流を深めていくことになる。
その切っ掛けとなったこの事件を、邪神は忘れることは決して無いだろう。
それからはこの2柱と1人で様々なところに行き、そこで幾つもの事件に巻き込まれることになるが………………それはまた別のお話である。
――――To Be Continued.
これにて完結になります。
お読みくださりありがとうございました。
とはいえ、この物語は気に入っていますので《完結済み》にはなりますが、完結済みを解除してまた更新を始めることもあると思いますので、もしそうなれば引き続きよろしくお願いいたします。