古い竜の日常
初投稿なので、絵本感覚で、何も考えずにつらーっと読めるものを目指して作りました。
生温かい気分で、広い心で読んでいただければうれしいです。
昔々、あるところに大きなドラゴンがおりました。
ドラゴンはとても永く生きてきたものですから、背中にはたくさんの樹が生えていて、動物たちもたくさん棲んでいました。その姿は、ドラゴンと知らない人は山だと勘違いするほどでした。
ドラゴンは、若い頃こそちょっとやんちゃで、とんがっていたもので、人間を食べたり、街や国を滅ぼしてみたりすることもありました。けれども、今はもう、大地の精気を浴びればお腹いっぱい。のんびり森を背負ったままうつらうつらとして暮らしておりました。
あるとき、ドラゴンの前を人間が通りかかりました。
人間は、旅の商人のようでした。
大きな荷物を背負って、えっちらおっちら山を登って降りたら、たまたまドラゴンが目を開けたのです。
商人は、今まで自分が登っていた山がドラゴンだったことにびっくり。腰を抜かしてしまいました。
「どうか、どうか食べないでください」
ドラゴンの目には、大きな荷物を背に負った、おびえて震える中年の男が映っています。
口をきくのも何年ぶりでしょうか。ドラゴンは正直おっくうでしたが、大きなため息をつくように答えました。
「食べぬよ」
人間は「は?」と信じられないといった目でドラゴンを見ています。
「食べないんですか?」
「ふむ、食べてほしいということかい。……変わった人間だ」
人間があまりにも意外そうで、拍子抜けした様子だったので、ドラゴンは何か勘違いしてしまったようです。ちょっと嫌そうに息をついています。
土臭い息を浴びた商人の方は、生きた心地もありません。ふるふると首を横に振るだけでした。
「人間には小骨が多くてね、皮膚も硬いもので覆っていたりするだろう。特に旨いわけでもない。若い頃はともかく、年をとってからはいけないねえ」
やれやれ、どうしたものかとドラゴンは少し思案すると言いました。
「悪いが食べてほしいなら、他のドラゴンに言ってくれるかね」
「は……はい、お邪魔しました」
人間はまだ震えながらも、あわてて立ち上がると、走っていきました。
ドラゴンは、あっさり人間が去ってくれたので、一息つくとまた目を閉じました。そうして、背中の森に住んでいる鳥たちの声に耳を傾けます。
お日様はぽかぽか、森の精気もぽかぽか、ドラゴンはそれだけでお腹も満たされて幸せです。
「ああ、人間など食べないですんで、良かった」
そう独りでつぶやいて、ドラゴンはまた眠りにつきました。