喧騒
第14話 喧騒
「おい、どうした?」と顔を腫らした男が聞いた。
翔に膝げりを喰らった奴だ。
「今朝の奴だ。ふざけやがって。麻衣を返せ」とバーテンが叫ぶ。
「何だと? 一人で乗り込んで来やがったのか?」と足を引きずりながら遅れてやって来た男が聞く。
かなり痛そうだ。
翔のローキックはかなり効いているみたいだ。
「あれ? 一人足りないようだか? デートでもしてるのか?」と俺はからかう。
「あいつは病院だ。あの若い奴はどうした? おとしまえをつけて貰うからな。覚悟しやがれ」ともう一人の男が喚く。
単純な奴だ。
「ナイフなんか出すから怪我をする。翔は容赦無いんだから」と笑いながら言ったら
「ふっ ふざけるな」とバーテンがどもりながら叫ぶ。
「なあ、もう女を泣かすのは止めにしたどうだ? クミちゃんもそう思うだろ?」と横で震えているクミちゃんに聞いた。
クミちゃんは何も言わなかった。
「おい、お前事務所まで一緒に来い。逃げるんじゃないぞ」とバーテンが凄んだ。
「おまえら本当に馬鹿だな。逃げるくらいなら一人でこんな所に来てないぜ」
「いい度胸だ。後悔するなよ」
俺は事務所に付いて行った。
そこには10人くらいの柄の悪い男達が下品な笑い声を立てて俺を迎えてくれた。
どいつもこいつも阿保面を隠そうともしない。
「お前これからどうなるかわかってるのか?」と兄貴と呼ばれてる男が俺に尋ねてきた。
「ああ、わかってるよ。お前達全員が俺に土下座して、俺は金を貰って帰る。只それだけだ」と微笑んだ。
「ああぁん。こいつ何言ってるんだ。おい、誰かこいつに自分の立場を判らしてやれ」と兄貴が喚いた。
すると
「俺がやります」とガタイの良い男が出てきた。
「おい、おっさん。随分舐めた口をきいてるが俺のパンチを喰らえばもうそんな口はきけなくなるぜ」と意気込んで言った。
俺はそいつを見た。
まるでなっちゃいない。
まったくの素人だ。
男が大振りのパンチを打って来る。
俺は少しだけ顔をずらして避けると、ボディに渾身のアッパーをいれてやった。
男は九の字に折れ曲がると胃の中の物を全て吐き出す。
「汚いな。弱い癖に意気がるからだ」と俺は言って周りの男達を見た。
男達は少し怯んだ。
多分今の男が一番の喧嘩上手だったのだろう。
男達が一斉に俺に飛びかかろうとした時、入口のドアが開き恰幅のいい男が入って来た。
「お前ら、何をしてる?」
「あっ、頭この男が・・・」
頭が俺を見た。
笑顔になる。
「これは拳さん。久しぶりです。お元気でしたか?」と頭と呼ばれた男が俺に言った。
「おお、巧か? 久しぶりだな。俺は元気だよ」
巧は辺りを見回して
「お前ら何をした。拳さんは俺の命の恩人だぞ。拳さんに失礼な真似をしたら指詰めるくらいじゃすませないぞ」と凄んだ。
「おい!巧、あんまりいきり立つな。ちょっと運動してただけだ。準備運動にもならなかったがな。俺はまだ何にもされちゃいないよ」と、笑って言ってやった。
巧も苦笑して
「まあ拳さん、汚い所ですが座ってください」とソファーに座るように言ってくれた。
「おい!お前ら客人にお茶も出さないつもりか?」と頭が言うと蜘蛛の子を散らすように男達は部屋から出て行った。
「それで今日は?」と巧が聞く。
「ああ、ちょっと頼みを聞いて欲しくてな」
「拳さんの頼みなら何だって聞きますよ」と巧は笑顔で言った。
「お前の舎弟のスナックでバイトしてる女が嫌な事を強要されたみたいで、俺に助けを求めてきた。お前らのシノギだと言う事も分かるが、俺は女を泣かす奴は許せない。なぁ女を解放してやってくれないか?」と頼んだ。
それを聞いて巧が
「タケシ、ちょっと来い」と大声で呼んだ。
呼ばれて来たのはバーテンだった。
「お前、女に何をした?」
「いえ・・・あの・・・女が言う事聞かないので、ちょっと脅したら逃げ出しまして、捕まえようとして追っかけたらこの人達に邪魔されました・・・」と言って俺の方をチラッと見た。
「成る程。拳さんいつもの人助けですか。おいタケシ、もうその女とは一切関係を持つな。忘れろ。いいな」
「はい。ですがその時、こちらのお連れの若いのにトオルが腕を折られまして、かなり恨みに思ってるみたいで、何するか心配で・・・」
それを聞いた巧は
「トオルか・・・ちと厄介だな」と呟いた。