邂逅
第12話 邂逅
マスターは翔さんを見つめていた。
その瞳は我が子を見るように優しかった。
翔さんもマスターを父親のように慕ってるように見える。
「そうだったな。あの時は翔に助けられたよ」
「何言ってるんですか? 助けられたのは俺の方ですよ」
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11年前
俺はマサの紹介で翔と出会った。
翔はまだ少年のように見えた。
マサは言った。
「拳ちゃん、こいつは若いけど見所があるんだ。鍛えてあげてくれないか?」
「おいおいマサ。俺は人を教えれるような男じゃ無いぜ」と言ったが
「ああ、拳ちゃんはそう言うと思った。でも頼むよ。こいつを一人前の男にしてやってくれないか?」と珍しくマサが強引に俺に頼んで来た。
翔を見ると
「拳さん。よろしくお願いします」と目をキラキラさせてる。
正直、その頃の俺は人の事など気にかけてる心境じゃ無かった。
翔は明るく素直で気持ちの良い若者なのに、何故か俺と同じ匂いがする。
だから翔の純粋な目を見てたら断れ切れ無かった。
「分かった。預かるよ。でも俺といたら後悔するかも知れないぞ。それでも良いか? 翔」
「はい。マサさんが言ってました。拳さんと居れば本物の男になれるって。俺、本物の男になりたいんです」
俺はそれを聞いて苦笑するしかなかった。
「そいつは買いかぶり過ぎだ。マサ、何を言った?」
マサは惚けた顔をして
「俺は正直に思った事を話しただけだよ」
なんて言いやがる。
その日から俺と翔の奇妙な共同生活が始まった。
翔は家事全般何でも出来た。
料理も炊事も洗濯も。
しかも、完璧にこなす。
「おいおい、俺は家政婦を雇った覚えは無いぜ」って言うと
「あっ、気にしないでください。俺、家事するの好きなんです。子供の頃からやってましたから」と爽やかに答える。
それから俺は翔に知ってるだけの探偵のノウハウを教えた。
翔は勘が良かったし、若かったから直ぐに吸収していく。
一年も経つと立派に一人前の探偵になっていた。
特に翔は人懐っこい性格で直ぐに人の懐に飛び込めるので、情報収集能力が優れている。
探偵にとっては大切な事だ。
そして探偵には強さも必要だ。
翔を近くの総合格闘技のジムに通わせるとメキメキ腕を上げ、今ではジム一番の腕になっていた。
元々身軽だったし才能もあったのだろう。
それに度胸もある。
俺より遥かに探偵に向いていた。
もう俺の相棒としても充分に勤まる。
そんな頃、あの事件が起こった。
俺と翔は恒例の早朝のランニングをしていた。
公園の林を抜けて池が見えた時に若い女が半裸の状態で、転がるように道に飛び出して来た。
俺と翔は異変に気づいて、直ぐに女に駆け寄った時、林から五人の男が出てきた。
「助けてください」と女が言った。
随分と若い。
まだ十代と思われた。
「おい。その女を渡せ」と男達の中の一人が言った。
「おいおい、朝っぱらから物騒だな」と俺は答える。
翔は自分の上着を脱いで女に着せてやってた。
「お前らには関係ない。怪我したくなければ、女を置いて帰れ」と憎々しげに男が言った。
「生憎俺は困ってる女を見捨てるような男じゃないんでね」
「後悔するぞ」と男が叫んだ。
「どっちが?」と男は聞いてやった。
男達はいきり立って一斉に俺に向かって来たが、そこに翔が飛んで来た。
翔は殴りかかってくる最初の男を軽く避けるとローキックを見舞った。
男は悲鳴を上げて倒れた。
次の男はタックルに来たが捕まる前に膝げりを入れた。
男は声も立てずに仰向けに倒れた。
三人目の男はナイフを取り出し、一気に突いてくる。
翔はその腕を小脇に抱えると曲がる反対の方向にねじ曲げる。
男の悲鳴が上がる。
残り二人の男が後ずさった。
「なんだお前らは?」
男の一人が叫んだ。
「それはこっちのセリフなんですが」と翔が笑いながら答えると男達は倒れた男を抱えて逃げて行った。