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意外

第9話 意外


警察署内

「OL殺人事件」「マンション夫婦殺人事件」の合同捜査本部


今井刑事が飛び込んで来て

「武田さん。あの似顔絵の男の事なんですけど」と、武田刑事に慌てた調子で話しかけた。


「どうした? 何か分かったのか?」


「今、目撃者が現れまして、あのOL殺人の現場を見てたらしいです。しかもその男は知ってる男かも知れないと言う事です」


「何だって! それは凄いじゃないか。今井君」


「はい。今、会議室で待ってもらってます」


「直ぐ行こう」




二人が会議室に入ると一人の老人が落ち着いた様子で座っていた。


深い皺と落ち窪んだ目がこの老人の人生を語っている。


「これはこれはわざわざお越し頂きありがとうございます」と武田刑事は老人に敬意を払った。


「うむ、早く捕まえて貰わんと物騒だからな」と老人は武田刑事を睨むように言った。


「それにしては少々時間が経ってますが?」と今井刑事が言うと


「日本の警察は優秀だから、ワシの話など聞かずとも直ぐ捕まえると思っていたがの。ワシの間違いだったようだな。10日過ぎても捕まえられんので仕方なく来てやった」と老人は傲慢に言い放つ。


「厳しいお言葉です。我々も努力はしてるんですが」とベテランの武田刑事が言った。


「ばかもん。努力と言うのは他人に向けて使う言葉だ。自分に対して使う言葉じゃないわ」


老人の放つオーラは強く、幾度となく修羅場をくぐり抜けてきた武田刑事さえ気圧されてしまった。


「すみません。それで殺害現場を目撃なさったとか?」


「ああ、見た。ナイフを持った男が横断歩道の所でじっと向かいのマンションを見上げていた。ワシは怪しいと思って見ていたら急に笑い出した。すると男の後ろにいた女がその声にびっくりして声を出した。男は振り返ってもう一度笑うと躊躇いもせず女の胸を持っていたナイフで刺したんだよ。そしてまた笑いだしおった。あの男は人間じゃないな」


「それは酷いですな。と言う事は行きずりの殺人と言う事ですね」と武田刑事が言った。


「ても何故ナイフを持ってマンションを見ていたんでしょう?」と今井刑事が聞く。


「ああ、それはな、女を刺す前にマンションに入って行った別の女の後をつけていたようだったな」と老人が答えた。


「やっぱりふたつの事件は繋がってたと言う事ですか? ご老人、この写真を見てください。男が後をつけていたというにはこの女性ですか?」と今井刑事はマンションで殺害された奥さんの写真を老人に見せた。


「いやいや違う。もっと細くて良い女だった。ワシでも後をつけたくなるようなな」


「これはご老人。ご冗談を・・・。いや、ちょっと待ってください。今井君、この間の探偵さんの事件の調書を持って来てくれないか」と武田刑事が言った。


今井刑事は

「あの事件と何か関係あるんですか?」と聞いた。


「良いから早く」


「はい」と言って今井刑事は会議室から急いで出ていった。


武田刑事は今井刑事が出ていくと

「ご老人は何をしてらっしゃるお方ですか?」と聞いた。


「ワシか?ワシはただの古本屋のオヤジだ」


「そうでしたか。私も本は大好きなんです。今度お邪魔しても良いですか?」


「来たけりゃ来れば良いさ。もてなしはせんがな」


相変わらず老人は傲慢だ。


そこに今井刑事が戻って来て調書を武田刑事に渡した。


武田刑事は調書を受け取り、何ページかめくって一人の女性の写真を老人に見せた。


「ご老人が後をつけたくなる程、良い女と言うのはこの人じゃ無いですか」


「そうそう、確かにこの女だった」


「やっぱり」と武田刑事は納得した。


その写真には明日香が映っていた。


「おや? この男は『拳ちゃん』とか言う男だろ?」と、老人は同じページに映っている写真を見て言った。


「ご老人、ご存知でしたか? この女性の恋人ですよ」


「なに。けしからん男だな。こんな良い女を独り占めしとるのか。孫をいつも危険な事に巻き込むくせに」と老人が急に怒り出した。


それを聞いて武田刑事は

「ひょっとしたらお孫さんはマサさんなのではありませんか?」と尋ねた。


「おや? 孫を知っとるのか? そうだ正夫はワシの孫だ」


「そうでしたか。先月の事件の時にお目にかかりました。マサさんは大変優秀で情報を集めるのが得意のようですね」


老人は苦い顔をして

「そのお陰で正夫はあの男に利用されて、いつも危ない事に巻き込まれてる。まったく困った奴だ。しかもこんな良い女と付き合っとるとは。怪しからん。あの男を逮捕しろ」と無理な事を言った。


「そう言う訳には・・・。あの人は大変優秀な探偵さんでしたし、困ってる人を何人も救ってます。我々警察より人助けをしてる立派な方ですよ」と武田刑事は弁護した。


「何が立派なもんか。ボクサー崩れの探偵風情が」


孫を心配しての事だろうが老人の言葉は辛辣だった。


武田刑事は苦笑いしながら

「それで肝心の犯人をご存知だと言う事ですが?」と似顔絵を見せながら聞くと


「この似顔絵はだめだな」と老人は意外な事を言った。


「どうしてです。私が犯人を目撃して書いてもらった似顔絵ですが?」


老人は武田刑事を見て

「あんたはベテランの癖になんも分かっとらんな。この顔はな細工された顔だ。特殊メイクで作られた偽物の顔だ。こんな似顔絵は何の役にもたたんわ」


「なんですって? 特殊メイクの顔ですと? 何故そんな事判るのですか?」と武田刑事は驚いて老人に聞いた。


「何故判るのかだと? ワシが教えたんだから判るに決まっとるではないか」


武田刑事と今井刑事は顔を見合わせて驚いた。

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