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帰宅(アベル視点になります)

 アベルは湖の近くの町まで歩く。薔薇が綺麗な町なのだが、時期が過ぎてた。湖に潜って一ヶ月は経ったようだ。

 煉瓦の家が点々と並んでいる。家の門の前を竹箒で掃除してるおばあさんがこちらに気づき、にっこり笑った。


「おや?出張とやらはもう終わったのか?」


 このおばあさんは、お世話好きで、アベルはしょっちゅう助けて貰っている。


「出張?」


「隣国で仕事だったのだろう?」


「あー。そうそう出張だったんだ」


 なるほど、ウィルと姉はアベルの不在を誤魔化すために出張にしといたんだ。適当に頷く。


「立派になったねぇ」


 この台詞はしょっちゅう聴く。


「はははは」


 適当に笑って誤魔化した。


「お前たち〜アベルが戻ってきたぞ〜!」


 突然おばあさんが叫び出したから、びっくりした。同い年ぐらいの娘がわらわらと出てきたのに更に驚いた。


「アベル様!」


「アベル様お帰りなさい!」


「一ヶ月も会えなくて寂しかった〜」


「あ〜んカッコいい〜」


「良ければこれ食べて下さいな!」


「あっ!ずるーい!」


「わたしもわたしも!」


 一気に詰め寄られ、一気に話されて、手にはプレゼントを押し付けられ、アベルの頭の中は大混乱だった。


「えっとただいま。みんな元気そうでよかった。プレゼントありがとうね」


 そう言ってあとずさりするが


「もう少し話しましょうよ」


「そうよそうよ」


 なかなか逃げれない。


「話したいのは山々なんだけど、まだ仕事の途中だからごめんね」


 アベルはウィルのような和かな笑顔を浮かべて、その場を速足で去った。


 本日かわからないが、2度目の女性からの猛攻撃を受けて、リウィアのまともな反応の稀有さに気付かされたアベルであった。なんだかリウィアに会って安心したい気分だ。


 押し付けられたプレゼントは毒が入っている可能性があるので、捨てよう。バレたら面倒なので、先ほどいた女性達に見られていないか辺りを警戒して、プレゼントを茂みに隠した。






 それから辻馬車を拾い伯爵邸へむかった。伯爵邸のある街はクレールという名前だ。王都に隣接しており、工場地帯と観光施設があるためとても栄えている。そんな重要な街をクレイ伯爵は治めなければいけないのだ。クレイ伯爵が亡くなった後は息子が受け継ぐのだが、まだ7歳のため代理がいる。母のカーラが代理になるのだが...。アベルも子爵として支えなければ、とてもじゃないが無理だろう。それを一ヶ月は空けてしまった。


「大丈夫かなぁ」


 女王も認める姉の才覚に期待しよう。





 伯爵邸の前で辻馬車から降りた。アベルは去っていく辻馬車を見送ると、嫌な視線を感じた。まただ。リウィアといたエッディンの屋敷でも感じた。


「隠れてないで出てきたら?」


 この呟きを無視されたら、虚しい独り言になるのだが、どうやら大丈夫そうだ。


「これはこれは。気づかれてしまいましたか」


 黒いハットに丸い茶色いサングラス。黒い燕尾服に杖まで持った小肥りの男が現れた。


「俺に用?それともストーカー?」


 髪を伸ばしていた頃は男にも言い寄られた経験があるため半ば本気で思った。


「いえいえ。そういう趣味はございません。ただお話があるのです」


 話ねぇ。まともな話じゃないだろうが、放っておくわけにもいかない。


「急いでいるので手短に」


「ええ。実はわたしくし元クレイ伯爵の従兄弟殿に仕えております。従兄弟殿から現在のクレイ伯爵領の運営について調査するように仰せつかっております」


 オーソンの従兄弟と聞いて眉を寄せた。


 オーソンの父には兄がいた。その兄の娘は今の女王陛下の母君だ。しかし、オーソンの伯父は国外追放となっている。何故か。

 先代の国王陛下が王太子になる前まで時間は遡る。元々、先代の国王陛下は次男であった。習わしでは1番歳上の長男長女が跡を継ぐのだが、この時は違った。

 バラントでは精霊と平和の女神(アストレア)が信仰されている。


 この世界は多くの神々が降臨して造られた。しかし、人は神を迫害し、人に落胆した神々は去っていく。平和の女神は人を信じて最後まで留まるが、あえなく地上を去る。平和の女神が去る時に、いつか来るであろう脅威のために精霊を生み出した。それが、四大精霊だ。その精霊が次男である先の国王陛下が誕生した時に祝福したのだ。その事は隠されていたのだが、精霊と関わりをもつ当時のクレイ伯爵は精霊からその事を聴く。精霊を信仰するその男は自分の娘を使って、祝福を受けた次男を王太子にしようと画策する。まずは長男の婚約者候補にして次男と接触を図らせた。無事に次男を焚きつけて、王太子にした。のちに当時のクレイ伯爵の策略だと知った王太子は怒り国外追放を命じた。


 その従兄弟達は海外で暮らしていたはずだが、何故クレイ伯爵領を気にする?


 まぁ理由はだいたい予想がつくが...。


「それはわざわざどうも。こちらは何も問題はございませんのでどうぞお引き取りを」


 さっさと立ち去ろうと踵を返したが


「オーソン様は水の精霊に殺されたとか?」


 聞き捨てならない発言に足を止めた。何故知ってる?


「それは面白い冗談ですね」


 にっこり笑ってやった。


「おやおや。しらばっくれるつもりですか?オーソン様は伯爵を継ぐためにかつて愛していた水の精霊を捨て、カーラ様と結婚した。ああ、権力のためになんて浅ましい」


 アベルがウィルについ最近知らされた事実を何故こいつまで知ってるんだ!

 頭が痛い。


「だとして何か関係があるの?」


 笑ってやろうと思ったが苦笑いにしかならなかった。


「おや?認めるんですね?なら話が早い。爵位を我が主人ヴィニー・クレイに譲りませんか?あなた方の負担がグッと減る事間違いなしですよ?」


 なんだが訪問販売みたいだな。


「間に合ってます」


 冷たく見下ろしたのだが、そう簡単に諦めてくれなかった。


「そう言わず。水の精霊に恨まれては夜もおちおち寝れないでしょう。それにオーソン様はカーラ様のことを愛してないのでは?カーラ様も心労が絶えないでしょう。息子さんのことも恨めしくなってしまうのでは?」


 うるさいなぁ。


「生憎と姉は息子をそりゅあもう愛しています。旦那とはどうだったかは知りませんが、貴方がたに心配される覚えはございませんのでこれにて失礼」


 今度こそ逃げれた。なんでこうも興味ない人にばかり目を付けられるんだ。





「姉さん戻りました」


 姉の執務室に入ると、姉が書類仕事をしている最中だった。


「こちらに来なさい」


 待たせると、不機嫌になるのでそそくさと近づいた。


 よく見るとやつれて赤い髪に艶がない。


「随分遅いおかえりですこと」


 凄味のある緑の目で睨まれた。こわっ!目に光がない。やっぱり旦那が亡くなったことが辛いのだろう。ちょっと義兄さん恨むわ。


「リウィアがいたよ。あと、リウィアのお母さんも」


「そう。リウィアさんをこちらに連れてきて」


 感情の起伏が少ないため、冷たく見えるが、実のところリウィアをきちんと心配していたのだろ。


「実は水の精霊に頼まれて、恋人捜しをすることになったんだ。だから、またしばらく留守にするね。あっリウィアも一緒だから」


「そんなことしてる暇あったら仕事しなさい!」


 襟首を掴まれた。く、苦しい。

 そして、姉の言うこと正論だなっ。

 姉がはっとして、パッと襟首から手を離した。目頭を指でほぐし始めた。

 姉は疲れてるようだ。


「姉さん俺だって、くだらないと思ってる。けど、精霊のことを蔑ろにするのは良くないと思う。これも立派なクレイ伯爵の仕事じゃないかな?」


 貴方はレイアン子爵だけどねと呟かれたが、聞こえない。


「わかった。どうしても行くと言うのなら、この仕事も持っていくことが条件よ」


 書類の山の中からどさっと束をアベルの手に載せた。うん。わかってくれてないことがわかった。


「オーソンさんの従兄弟が爵位を狙ってるから気をつけて」


「わかった」


 姉は一瞬固まったが、すぐに何事も無かったように仕事に戻った。





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