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哲学

 





 久しぶりに会う家族の再会を邪魔しないようにフリッツは水晶宮を出て湖のほとりにアンゲラに連れて行ってもらう。


「ありがとう」


「良いのじゃ。フリッツの為ならお安い御用じゃ。おや? アベルか?」


 湖に浮かぶ彼女は僕の背後を見つめる。その視線を追うとプラチナブロンドの髪の美男子がいた。疲れてるのかげっそりしてる。


「どうしたレイアン子爵?」


 アベルは「姉さんにちょっと扱かれただけだから気にしないで」と力無く笑う。薄幸の美少女に見えた。


 ーーいかんいかんこれは男だ。前世の僕が他人に思われて嫌な事を思うのはやめよう。


 前世が可愛らしい少年だったフリッツはかぶりを振った。アベルはフリッツとアンゲラに近寄る。


「話があるんだ。俺の正体と君達に聴きたいことがある」


「正体? もしや精霊だったのか? 意外ではないな」


「はあ。違うよ。ウィルみたいな事を言わないでくれ。俺はアウストレア神の息子だ。そして、光の勇者の能力(チカラ)の元は俺の能力なんだ。だから、フリッツからその能力を返してもらいにきた」


 寝耳に水な発言に驚いた。同時に怒りが湧いた。


「良いぜ。もう役目は終わったからな」


「そう。良かった。掌を出して」


 フリッツは手をアベルに出した。アベルはフリッツの掌に手をのせた。フリッツはアベルの手を引き寄せた。


「なあ。光の勇者はあいつじゃなきゃ駄目だったのか? あいつはよ異世界から飛ばされてきてよ。仲間から引き離されてよ。悩んでたんだぜ。 でも、強がって最後には姫さんの為に身を犠牲にしてよ。僕の身体で生きて死んだんだぜ。 何か言う事はないのか神様」


 アベルは見た事無いぐらいに弱りきった表情を浮かべてた。


「彼を選んだのは俺です。その理由は……優しかったから。でも、彼じゃないといけないという理由ではありません。彼には申し訳ないことをしました。俺はいえ、私はその時子供だった。それでも気軽に選ぶべきじゃなかったと反省してます」


「馬鹿野郎!? 謝ってすむ問題じゃねぇ!?」


 誰でも良かったと言われて頭に血が上ったが、アンゲラが止めた。


「やめよ。怒る権利があるのは光の勇者であってフリッツではない。ましてやステファンでもない。終わったんじゃ。もう。我らを戒める瘴気とやらもない。のうアベル。おぬしは何故地上にいる? 瘴気を消すためか? 違うじゃろう」


「私は選択をする為に地に降りました。人は滅ぶか生きるかの分岐点に今立っています。私はその考えを出さねばなりません」


 フリッツはけっと吐き捨てた。


「神様ってのは良いよなあ。選ぶ側に立てて。人間はそれに従うだけってわけだ」


 アベルはそれ以上は何も言わなかった。ただ静かに耐えるのみだった。フリッツは光の勇者の能力を引き抜かれて少し寂しかった。かつての友を失ったような気がした。





 * *





 フリッツに入ってた能力もアベルの元に戻った。時折透ける片手に限界を感じていた。


 ーー消えるのか? 人としてか、神としてか。これが死への恐怖? 俺はきちんと人の感情を理解してなかった?


 漠然とした不安にアベルは苛まれた。






 * *






「なあ親友。リウィアちゃんに何かした?」


「さあ?」


「あれさ。ちょっと怖いんだけど」


「ほっとけば良いでしょ」


 ーーほっとけば良いでしょって冷たい。やはり感情が欠落してるのか!?


 私は土の精霊のとんがり帽子をガシッと掴みアベルを凝視した。土の精霊(ノーム)は気にしてない。ただ前に進むだけ。リウィアもその後に続く。前にいるのは道案内係のセルウィルスとアベルだ。道無き道をひたすら進むウィルに不安になった。


「ねえ道あってるの?」


「もう。心配症だなぁ。風の向くままに進んでるに決まってるでしょ」


「なあ。ウィル。信用した俺が間違ってた。一発殴らせろ」


 アベルが良い笑顔で拳を握り締める。セルウィルスが嬉しそうにどうぞと言ってくるので、アベルはぞっとしたのかやめた。


 ーーウィルってある意味最強?


 じーとアベルを観察していたリウィアは土の精霊に相談した。


「精霊ってさ心ないの?」


「んん? 心ですか? 面白い質問しますねぇ。そもそも心とは何ですかな?」


「え? 感情かしら?」


 精霊は心がないから感情がないって聞いたわね。土の精霊はふむと髭をさする。


「心とは相手がいて認識するものだ。心とは知識だ。心とは欲だ。心とは身体だ。心とはなんだ? 精霊は自然と意思の疎通ができる。しかし、人間のように感情を出すことに慣れていない。出す必要がなかったからかもしれないだから、心がないと言われるのかもしれない。だが、儂は結婚もしてないが感情があると思わんか?」


 ーー確かに感情があるように見える。


 リウィアは頷いた。アベルとウィルがそれに気付き「面白い事を話してるな」と感心した。


「儂はな思うのだ。心とはそこにあるものではなく、作られてゆくものだと。だから、責任感で襲うのはやめときなさい」


「!?」


 図星で心拍数が上がった。アベルもセルウィルスも首を傾げた。


「襲う?って何?」


「し、知らないわよ!!」


「心とは面白いなぁ」


 土の精霊が生暖かい目を私に向ける。


 ーー何故バレた!? エスパーか!?


 ウィルが「ねえ。ノーム。トンネル作ってよ。草むらを歩くの疲れちゃった」と愚図る。


「若造は頑張れ」とお爺ちゃんのように笑うノーム。見た目は完全に小さなお爺さんだからね。


 見た目20歳の三十路のシルフはにやりと悪い笑みを浮かべた。


「ねえ。もしも、トンネル作ってくれたらさ〜。陛下が喜ぶかもよーー」


「ふむ?」


「ほら女王様がさ天空城に行くときにトンネルがあったら喜んでノームのほっぺにチューしちゃうかもよーー?」


「ほお! 仕方ありませんな!」


 土の精霊はどっからともなくスコップを取り出すと人間ではあり得ない速度でトンネルを掘り始めた。


 ガガガガガガガ


 目が光ってて怖かった。




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