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帰宅

 



 アンゲラの半ば強制的なお願いで、アベルはアンゲラの恋人を捜すことになった。それは良いのだけど。


「何で私まで」


 エッディンの湖のほとりにリウィアとアベルはいた。水の精霊(ウンディーネ)が地上まで運んでくれたのだ。泡の中に入って水の中を移動したので楽だった。アベルは行きも泡だったそうだ。しかし、何故リウィアもアベルに同行しないといけないのだ。アンゲラ曰く、監視だそうだが、何故リウィアなのだ。


「嫌なら結婚する?」


「...」


 リウィアはアベルを無言で睨んでやった。


「冗談だよ。怒んないで」


 アベルは苦笑いしながら謝った。

 よく軽々しく結婚だの言うよね!アベルもアンゲラもどうかしている。


 湖に潜る前より、少し気温が上がった気がした。どれくらい経ってしまったのだろうと、不安になる。リウィアはともかく父が居なくなってカーラはどうしているのだろう。そんな疑問を察知したのかアベルが話し出した。


「お父さんの葬儀は済ましたよ。予め姉に言ってあったみたい」


 死ぬ覚悟はあったのだろう。しかし、リウィアにも一言話して欲しかった。父を避けていたから話してくれなかったのか。リウィアのことは嫌いになったのだろうか。死んでしまっては聴けないじゃないか。

 落ち込んだリウィアに気づいたアベルはいいお父さんだよねと父を褒め出した。


「なんでよ」


「葬儀に大勢のオーソンさんを偲ぶ人がやってきたんだ。先生にとてもお世話になったってさ。偉ぶって煙たがれたうちの父とは大違い」


「アベルのお父様が亡くなった時悲しかった?」


「どうだろう。陛下に暴力のこと告げたの俺だし、それで離婚に追い込まれたし、父は俺を恨んでると思う。仕返しに来るんじゃないかと怯えたし、父が事故で死んで正直安心したかな」


 なんてサバサバした親子関係なのだろう。オーソンは身勝手な父だが、アベルの父のように暴力的じゃなくて良かった。


「リウィアのお父さんは本当にいい人だね」


 にこやかなアベルが少し不憫に思えた。


 そして、リウィア達はエッディンの自宅へ向かった。


 玄関の前で呼び鈴を鳴らすと、ファニーが扉をゆっくりと億劫そうにはいと言いながら開いた。しかし、リウィアの顔を見た途端、目を見開き、億劫そうな雰囲気が消し飛んでリウィアを抱きしめた。


「お嬢様!ご無事で!」


「ただいま!」


 嗅ぎ慣れたファニーの服の石鹸の香りで、色々あって凝り固まった心がほぐされてくようだ。涙が出てきた。最近気づいたのだが、リウィアは涙脆いらしい。ファニーがどこか痛いのですかと心配してくれている。


「大丈夫。怪我はしてないの」


 怪我はね。


「お嬢様...」


 暗い表情のリウィアを見てファニーが悲しそうな表情をする。このハウスメイドはリウィアのことを己の事のように心配してくれる。思えば、リウィアは自分の事しか考えてなかった。ファニーはリウィアが居なくなって心配していると、少し考えればわかってた筈だ。なのに自分の居場所が無いと思い、母の元に縋りつこうとした。母はもうリウィアを覚えてないというのに、自分が情けない。


「私はお嬢様失格ね」


 自分で言ったくせに、落ち込んで涙目になる。上を向いても、涙が溢れるのを防げなかった。


「何故そんな事を言うのですか?」


 はっとしてファニーの顔を見るといつになく厳しい表情だ。


「私のお嬢様は貴女様しか居ないのです。失格なら、貴女に一生懸命仕えていた私も、失格になります。どうか私の為にも自身を否定しないで下さい」


「ごめんなさい」


 ファニーを否定だなんて出来ない。だから、自分も否定出来ない。ずるいなぁとふふっと笑えてきた。


「ありがとう」


 涙目だから上手く笑えてるのか自信はないが、ファニーがにこっと笑ってくれたから良いことにしよう。


「良いところで申し訳ないのだけど...」


 アベルがおずおずと話しかけてきた。


 存在忘れてた!


 リウィアは涙を隠そうと慌てて目を擦る。ファニーに擦ったら腫れますと止められた。


「ファニーさんの旦那さんはいますか?」


「ええ。庭にいますよ」


 ファニーの旦那はファニーより10歳上の庭師だ。ガタイが良く、いかついせいか、顔を見ただけで大半の子供が泣く。男嫌いなリウィアも未だに慣れない。


「旦那さんと一緒にこの家でリウィアを見張っといて下さい。俺は姉に顔を見せないといけないので、しばらくお願いします」


「ちょっと待って。私も行くわ」


 私に見張りっていらないでしょ。というか私がアベルを見張らないといけないでしょ。


「いいから。積もる話もあるだろうし、すぐに戻るから待ってて」


 ファニーを見ると、沢山話したそうにしている。地上にいればアンゲラの目を気にしないでいいからまいっか。


「わかったわ」


 このまま湖に戻らなければ良いのでは?と思いながら、リウィアはアベルの去って行く後姿を見送った。






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