目が覚めた
感動の再会の余韻に浸っていたリウィアは母の質問に目を逸らしたくなる。
「能力使ってないわよね?」
これはいつぞやアベルに問い詰められた時のことを思い出した。
ーーまた怒られる。
父は薄々勘付いたようで、リウィアを同情的な目で見つめた。リウィアが内緒で湖に来ていたことを知っていたので、能力を使っていたのも気付いていたのかもしれない。
「怒んないでやってくれ。ラエティティアに逢いたくて必死だったのだよ」
母は鬼の形相になった。こんな母は初めてみる。
ーーアベル並みに怖いよー!
「何ですって!? 貴方はそれを容認してたってこと!?」
父は母を必死に宥める。
「仕方がないだろう。リウィアに構ってる場合じゃなかったのだ」
それは母の怒りの炎にガソリンを注ぐ発言だった。
「貴方がそんな人だとは思わなかった!? リウィア! 何かおかしいところはない?! 感情が暴走したりとか……」
「ありました。すいませんでした」
「やっぱり!! でも、今は何ともないのよね?! 周りで心が壊れた人とかいない!? 大丈夫!?」
リウィアの肩を掴み揺さぶってきた。
ーー痛いです。苦しいです。グワングワンします。
「お母様。痛いです。そんな人はいません」
「え!? あっごめん。それだとおかしいのよ。貴女が元に戻る時に誰かいなかった?」
キス魔及び誘惑事件は覚えてないが、ヴィニーの時に暴走したのをアベルが止めたのは覚えている。
「アベルがいたわ」
「その子は貴女のなに?」
ーーなにだと? 義理の叔父さん? 保護者? しっくりくる言葉が出てこない。
「保護者ヅラしたお兄さんかな?」
これも何か違う。もやもやする。
母は真剣な表情でリウィアにとんでもないことを言いおった。
「責任とって襲いなさい!!」
「「は?」」
父とリウィアは目を点にして固まった。
ーー淑女に何言ってるんだ。
淑女かは謎だが、母として愛娘に薦めることかそれ?
父は「落ち着け!?」とパニックになってる。父も落ち着こう。
「落ち着いてられますか!? 私がいなかったばかりに娘は人殺しに片足を突っ込んでいる!? 襲うぐらいで治るのならそれが一番いい!!」
ーーそ、そんな……。濡れ衣だ。能力使って暴走したぐらいで人殺しって……。そもそも襲うってどういう意味合いでいってるのだ?
「あの……。お母様落ち着いて下さい」
思わず貴族のマナーに則った敬語になったよ。
「良いですか? 良くお聴き下さい。リウィアさん?」
母がなんかカーラみたいな口調でやだな。
「精霊のハーフが能力を使い過ぎると、一部の心が欠けます。欠けますと補う必要があり、人から奪おうとします。よってアベル様の心は欠けてる疑いがございます。人の心が欠けますと死の危険がございます。だから私は娘を敢えて人殺しと呼びます」
冷や水を被った気分だ。
ーーえ!? え!? えええええ!?
「あ、アベルは生きているよ!! それに襲うって何!?」
「それが、不思議なんですよ。もしかして、生きる屍だったりして……。襲うとは ……私に恥ずかしい事を言わせないで下さい!!」
「はい!? 恥ずかしい方の襲う!?」
「心の欠如は愛によって補われるのです」
ーーなんかの宗教で言われそうな言葉だな!?
父が暴走する母を止める。
「ラエティティアいいじゃないか。知らなかったことにしよう。証拠はない。黙っておけば誰も気づかないさ」
ーー犯罪に手を染めたのに、それを隠す様に言わないでいただきたい。だが、父の言うことが一番現実的だ。襲うって余計な罪が着せられるでしょ!?
「人殺しさんは良いの? アベル様のことは大事じゃないの?」
ーー誰が人殺しさんだよ。アベルは大事だよ。大切な人。でもさ……。
「襲うってそりゃないでしょう!?」




