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終結

 

  黒い人間……魔人達は次々と炎に焼かれ、風に切り裂かれ灼け爛れ血を流す。


 女王はサラマンダーに血を与え浄化の能力を授けた。


「陛下の血には確かに神の血が通っています。しかし、何千年と長きに渡り受け継がれ能力が微弱な為に血を直接介さねばなりません」


 己の血を流すことに迷いなどなかった。長剣で掌を浅く傷つけると血が滴る。それをサラマンダーに飲ませた。その結果魔人達に大ダメージを与える事に成功した。


 アベル曰く、まだ初期の状態だからどうにかなるそうだ。殺した方が早く解決するのだが、瘴気に染まった肌の所為で誰かわからないが自国の民かもしれないのでなるべく生かしておきたい。


 アベルは剣にセルウィルスの風を纏わせながら魔人に斬りつける。魔人は黒と肌色のまだら模様となる。


 ーーリウィアが斬りつけた時と同じ状態になった。けど、このままだとヴィニーの様に死んでしまう。


 伸びる魔人の腕を斬りつけながら、どうすれば殺さずに済ませれるか考えた。


 ーーフリッツがいればな……。


「待たせたな」


 どこかで聞いたことのある低い声が戦場に響いた。振り返るとそこには前王クリフォードがいた。横には1メートル程の身長しかない白い長い髭の老人がいた。団子鼻に瞼が重そうな細い目。はっきり言って醜いし、どこか怖い。


「あれはっ!?」


 女王の顔が引きつった。恐ろしい物を見る目であった。この時女王は幼少期の恐ろしい記憶を思い出した。


 王女であった頃、エリザベスはおてんば姫だった。勝手に城を抜け出しては城下町に遊びに行った。その習慣を見破られたのか、エリザベスを疎ましく思う誰かが城を出たエリザベスを誘拐した。


 目隠しをされ連れてこられたのは農家の倉庫と思われる場所であった。両手両足を縄でぐるぐる巻きされてたが暴れ回ってなんとか目隠しが外れた。するとどこからともなく、「ドン。ドン」と何かを殴る音がした。一人ぼっちだったエリザベスはその音に怯えた。そして突然木製の床が揺れてバリーンッと下から突き破られた。そこから現れたのは目が血走った小さな老人。手には大きな斧が握られていた。エリザベスは全力で叫んで、恐怖のあまり失神した。


 そして、今現在父の横にいるのはその時に出会った老人であった。後から分かった事だが、あの老人はエリザベスを助けてくれたのだ。しかし、小さな頃のトラウマは拭い去ることが出来ない。エリザベスにとって最大の天敵となったのであった。


 後ろによろよろと下がるエリザベス。恐怖で顔が青を通り越して白い。


 そんな事とは知らないクリフォードは老人を連れて歩み寄る。


土の精霊(ノーム)を連れてきた。この場は私に任せてくれ!」


 老人は土の精霊だったようだ。土の精霊はエリザベスを見つけると「姫さま〜!!」と駆け出した。


 それを見てエリザベスは女王の威厳や矜持をかなぐり捨てて逃げた。


「あっまた逃げられました」


 しゅんと落ち込む土の精霊。その頃アベルは必死に魔人と戦っていたのでその面白い場面を見逃した。


「土の精霊の(おさ)殿。力を貸して欲しい」


 土の精霊は当然だと頷いた。


「もちろんでございます聖母殿」


 男であるのに聖母と呼ばれたクリフォード。別に気にしてないようだ。聖母エリスとは精霊達から尊敬と畏敬を払われる存在だ。その生まれ変わりであるクリフォードもそんな存在だ。神の血を引く上に魂は聖母の生まれ変わり。クリフォードは魔物にとっての最大の脅威である。


 土の精霊は砂浜を操り魔人14体を拘束した。動かない隙にアベルは魔人から瘴気を引き剥がす。


「我が名はアベル。アストレア神の子なり。人の罪は過去に流すべき故に救済を与える」


 アベルは魔人一人一人から丁寧に瘴気を抜き取った。セルウィルスが化現し、その様子を物言いたげに見つめた。その所業は普通の人間ではない証拠である。


 ーーアストレア神の子なりね〜。俺がシルフって秘密にしてた事にショック受けてたけど、そっちのが酷くない? 明かす気なかったね?


 親友に内緒にされてた事に気付いてウィルは肩を竦めた。


 瘴気が魔人から抜け出し辺りに漂う。クリフォードは古びた金のコインを取り出した。


「我が名はクリフォード。精霊の母なり。怒り哀しみ苦しみに染まりし力よ。生命を形作る元となった塵となれ」


 息苦しい瘴気の空気が灰色の土となり地面にさらさらと積もった。雲で覆われていた太陽が顔を出す。クリフォードや魔人であった人達の顔に照らす光。倒れた人達は眩しさに起き上がり後光が差すクリフォードに跪く。騎士や兵士、ロマネの人質達は聖母エリスの生まれ変わりに救われたと感謝した。


 戦争も瘴気もどうにか出来た。ロマネ人の被害者は騎士や兵士の奮闘のおかげで死者はいなさそうだ。事後処理のことを考えると頭が痛いが、ひとまずは良しとしよう。だが、1人物言いたげに睨んでくるシルフに気付いて「あちゃー。流石に誤魔化せないか」と全て話すことにした。


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