生きていくための選択
元魔人の狩人の案内でリウィア達はポルペ火山の麓のテルマ村にやってきた。白い石作りの建物たちが壊されそこは廃墟と化していた。植物型の魔物が黒い木の根っこを足の様に動かし村を闊歩する。よく見ると人の死体が転がっている。黒い瘴気が蔓延して、温泉も黒く染まる。そこは正に地獄であった。浅黒い肌のシワが目立つ狩人はリウィア達に問う。
「なあ、あんたらこの惨状を見てもまだ瘴気をどうにかできるって思うのか?」
その問いに男臭い顔付きのフリッツは迷いなく「ああ」と頷く。ステファンだった頃の記憶ではもっと酷い修羅場を経験したからこそ言える言葉だった。沢山の人の死体を見てリウィア、サベラ、セルウィルスは絶句した。
ーーこれはむごすぎる。
固まる3人を見てフリッツは、「ま、僕も初めはそんな反応だったな」と呟く。
狩人は落ち着いてるフリッツを胡乱げに見る。
「あんたは戦争経験者か?」
「いや前世で世界を救えなかった只の研究者だよ」
ますます狩人は眉間にしわを寄せフリッツを睨む様に見た。リウィアは目を閉じて、この空間に漂う負の感情を感じた。
ーーー助けてくれー!
ーーーどこなのママ!?
ーーーいやあああ!来ないでバケモノ!?
ーーこれが瘴気!私はこの人達を守りたい!もう瘴気で苦しむ人が出ないように今私にできることは!
リウィアの水色の瞳は力強く光る。そして、フリッツを見る。
「フリッツ先生は瘴気の浄化をお願いします!私は魔物をどうにかします!サベラは先生に魔物が近づかない様に援護を!ウィルは私の援護をお願い!」
フリッツは「おうよ!」と口角をあげる。サベラは「はいはーい。元気になって良かったですねーっ」とふざけて敬礼のポーズをとる。セルウィルスは「......役に立てるかわかんないけど頑張るわ」と肩をくすめる。
「みんな頑張って生きよう!」
「「「おーー!」」」
リウィアの掛け声に3人は拳を上げた。狩人は「こいつら正気か?」と驚いた。
* *
バラント国北部沿岸部にてロマネ人は集められていた。沖にはバラントの海軍艦
が10隻ほど浮かんでいた。
ロマネ人はフレンス人が陸に上陸した時の為の囮だ。アベルは軍艦の窓からその様子を見ていた。手首は手錠で繋がれている。何の為にここまで連れてこられたのか全くわからない。
外には怒号が飛び交う。どうやら、フレンスの敵軍艦が姿を現した様だ。
ヒューーードン ヒューーードン
砲撃の音が聞こえる。
ーー俺はこのまま死ぬのか。
瞑想してみた。
自分の使命は何だったのか。何のために人間界にきたのか。自分はどう生きていくか。
ーー俺は足掻いてみせる。
目を開き、扉に飛び蹴りをした。鍵がかかった木製の扉は僅かに軋んだがまだ壊れない。何度も何度も蹴る。足がじんじんと痛む。
ガコッ
蝶番が外れて扉が外側に倒れた。
ーー外には誰もいないか。俺を見張ってるどころじゃない様だな。
誰もいない廊下を進んだ。




