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前王の苦難

 







 バラント国ロマネ人野営地にて、騎士団はロマネ人の手首を縄で縛った。縄は繋がって大勢のロマネ人を拘束する。ロマネ人を並ばせ歩かせた。抵抗する者は容赦なく殺された。殺伐とした空気は騎士達の精神をも疲弊させた。


 助ける筈のロマネ人に何故酷い仕打ちをしなければならないのか。長年平和だったバラントの騎士達に動揺を生んだ。


 女王陛下の命令は騎士達にとって絶対だ。その絶対に対して、騎士にその光景を眺める国民に疑問を抱かした。従うだけでいいのか?ただ呆然と見ているだけでいいのか?罪のないロマネ人を見捨てた先に自分達に明るい未来はあるのか?


 ここにいる人たちには沢山の葛藤があるが、逆らえば自分が殺される。ただ従い見守る。今はただそれだけだった。




 一方で王都の大広場に設置された柵で囲われた処刑台。神教の信者3人の処刑が執り行われた。ギロチンよるその処刑にどよめきと歓声と怒号が響き渡る。新しい遊びを求めてやまない一部の貴族達の余興にもなった。暗い瞳の女王はその光景に口角を上げた。





 貴族用の牢屋に投獄されたアベル。貴族の邸宅の一室に見えるその部屋の窓には鉄格子がはめ込まれている。椅子に座りアベルは考えを巡らせていた。


 フレンス国の反資本主義派に対して女王はロマネ人を盾にするつもりだ。そんな事をすればロマネ人からの怒りを買う。しかし、瘴気で衰弱しているロマネ国にはバラントに反抗できる戦力がない。騎士団を沿岸に移動させ、ついでにロマネ人も戦力にする。冷たく無駄のない女王の采配にぞっとした。


 神教の連中はどうするつもりだ?神教の信者を処刑すれば、神教達の反乱が起こる可能性もある。そして、精霊教の信者は女王を守るために立ち上がる可能性がある。


 他国との戦争と内乱が予想される現状。ただ頭を抱えて時が過ぎるのを待つしかないのか。


 ガチャリ


 重たい扉が開いた。視線を扉に向けると前王クリフォードが部屋に入ってきた。アベルは慌てて立ち上がる。前王が立っているのに自分が座っているのは不敬だ。


「クリフォード様何故この様な場所に?」


 前王は申しわけなさそうにアベルに頭を下げた。


「この様な目に合わしてすまぬ」


 その姿に逆にアベルが申しわけなくなる。


「お願いします。顔をお上げください」


「わたしは娘を止めれなかった。これも全てわたしの責任だ」


 何故王様の責任になるのだ?俺は女王に刃向かい、囚われたのではないのか?


「どういう意味ですか?」


「わたしは早くに王位を娘に引き継がせた。娘はそれに足る器だと思っていたのだ。だが、娘の心は繊細で未熟な子供であった。娘の心の傷に気づいてやれなかった。まさか兄上の事を好いてるとは思わなかった」


「伯父上が大好きだと言ってました。だから、神と精霊が邪魔だと」


 そういえばクリフォード様から神様に似ているだとか言われた気がする。


「もしかして、私のことを神様だとか言いました?」


 クリフォードはすまなそうに頷いた。


「すまん。一年前辺りに言ってしまった。本当にすまぬ」


 ...前王がバラした様だった。なんとも言えない気分だった。


「その様子だと本当だった様だな」


 クリフォードもなんともいえない顔をする。この状況で隠すのも馬鹿馬鹿しいので素直に頷いた。


「おぬしが人間界にいる理由を聞いても良いか?」


 アベルは緊張した。


「…200年前に人々は瘴気を完全に消す事に失敗しました。瘴気は神々にとっても脅威です。人の魂を消滅させない様に、瘴気を発生させない様に永遠に魂を眠らす方法があります。私はそれを実行に移すかの選択をしなければいけません。人間にとって勝手に私が決めるので不愉快なことかもしれませんね」


 クリフォードは「ふむ」と顎に手を当てて考えた。


「それが誠であれば、わたしはそなたを手助けしたい。わたしは神々を信じている」


 アストレアに認められたエリスの生まれ変わりの前王クリフォード。クリフォードは何処までも慈悲深い。アベルはやはりクリフォードは信用できる存在だと思った。凝り固まった心が解れる気がした。


「その言葉だけで私は救われました」


 晴れやかな気分だった。


「と言ったわいいが、わたしの言うことを娘は全く聞いてくれぬ。娘も儂にとっては大事なのじゃ。平和的解決方はないものか」


 支持率が高いクリフォードが王の立場を奪還するのは不可能ではない。その場合エリザベス女王も支持率は高いので、クリフォード派とエリザベス派で対立する恐れが高い。それは状況をより最悪にする。


「クリフォード様の兄上に諌めてもらうのはどうですか?」


「兄上はもう他所の国の者だ。関わらせる訳にはいかない。国を任されたというのにこのザマでは正直なところ兄上に合わせる顔がない」


「ですが一つ懸念があるのです。戦争により瘴気が発生する可能性があります。私はそれが一番恐ろしいのです」


 クリフォードは目を剥く。


「なんだと?それはどういうことだ?」


「瘴気とは人の怒り悲しみ苦しみです。戦争はそれが溢れている。瘴気が発生しかねない」


「...なるほどな。一つ試したい事がある。わたしは此処を離れる。間に合えばいいのだがな」









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