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1人の魔人

 










 恨みつらみ悲しみ苦しみ溢れる世界。瘴気は森を蝕み居場所のない人々は彷徨う。私はどこにいけば良い?飢えに苦しむ私に神は微笑んでくれるのか?安らぎの死を与えてくれるのか?今日も私は生き延びてしまった。早く早く安らぎが欲しい。早く早くあの世がみたい。どす黒い感情が溢れ地面を黒く塗りつぶす。誰かが言った。生きていればいつか救われる。だから生きて生き続けてくれ。私は人としての最期にふと笑った。今がその時かな。




 魔物と化した人を魔人と呼ぼう。今日また1人の魔人が生まれた。黒い人型をしたそれはただ人の死を願う。魔人は人に死を与える。ーーいや死を与えてくれるのだ。魔人は人だった頃の最期に見せた笑みを浮かべてゆったりと歩き出した。ーー眩しいな。太陽を見て顔をしかめる。魔人から瘴気が膨らみ広がっていく。瘴気は太陽を覆い隠した。はははと笑う魔人。魔人はただ喜んだ。人だった事を辞めた魔人は狂気に目を覚ましたのだった。


 それを丘の上から見つめる4人。シルフの男は冷めた目で瘴気を眺める。茶色の髪の男らしい顔をした無精髭の男は悔しそうに顔をしかめる。短い赤髪を縛った男装した少女は不思議そうに魔人を見る。短い焦げ茶色の髪のお坊ちゃまみたいな格好の少女は顔を引きつらせた。


 魔人は4人に気づき人としてありえない速さで走ってきた。フリッツは杖を掲げ呪文を唱えウンディーネを召喚した。セルウィルスは姿を突風に変えて魔人の行く手を阻む。リウィアを守るべくサベラは銃に弾丸をつめて構える。リウィアも剣を構えようとするが、瘴気がリウィアの思考をかすめた。悲しい苦しい恨めしい憎い!とリウィアに訴える。


 これが瘴気!?身体が上手く動かない!!


 魔人は瘴気を手から放った。黒い閃光がセルウィルスをかすめ人型に戻す。フリッツが呪文を唱え、アンゲラは氷の結界となり黒い閃光を防いだ。フリッツの精悍な目は魔人を睨んでいた。絶対に諦めない。そんな意志が魔人に伝わる。魔人はフリッツを哀れんだ。諦めの悪い奴ほど最期は辛いというのに哀れだ。早く楽にしてやろう。魔人は腕を伸ばして氷の結界を殴る。何度も何度も殴る。少しづつヒビの入る結界。横で呆然と佇むリウィアは焦った。


 これじゃ、来た意味がないじゃない!私はどうして来たの!?何がしたいのよ!?


 焦れば焦るほど金縛りの様に身体を縛った。サベラはそんなリウィアに気づき話しかける。


「あまり深く考えなくていいんですよ。私を見て下さい。ほら、へっちゃらでしょ?」


 おどけてみせるサベラにリウィアの焦っていた感情が落ち着いていく。


「フリッツさんも言ってましたよね?生きるか死ぬかの選択だと、生きていくことだけを考えればいいんですよ」


 瘴気が見えない筈のサベラ。だが、瘴気を確かに感じていた。そして、それを理解した。そして、吹っ切れた。


「アベル殿が帰りを待ってますよ。あの人を悲しませない様に生きましょう」


 達観しているサベラ。リウィアはサベラの発言からある誤解をした。少しずきっと胸が痛む。


「アベルのこと好きなの?」


「...はい?...すいません。ちょっと今忙しいのでそういうのは後にして下さい」


 はぐらかされた。リウィアは少々拗ねた。でも何だか身体が軽くなった。


「サベラありがとう」


 サベラが魔人に放った銃声の音でその声はかき消されたが、サベラは口角を上げにやりと笑った。弾丸は魔人の頭部に命中して魔人はぴたりと動きを止める。弾丸が当たった場所から黒い液体を流す。だがすぐにその傷穴は自己再生して塞がる。セルウィルスが風の刃を放ち魔人の首を飛ばす。魔人はぐらりと倒れた。リウィアは魔人に駆け寄り剣で心臓部を突き刺した。そこから赤い血が流れた。魔人は頭を繋げて心臓に突き刺さった剣を手で引き抜こうとする。リウィアは必死に剣に力を込めた。魔人の掌から黒い瘴気が抜けていく。


「うおおおおお!!」


 魔人は叫んだ。魔人の人だった頃の記憶がリウィアの頭に映像としてながれた。鹿狩りをしていた男性。帰ると植物型の魔物に襲われた村。妻と子供は魔物に殺されていた。泣き崩れた男性。その映像に動揺してリウィアの力は弱まり剣ごと突き飛ばされ身体を木に打ち付けた。胸部からの出血がとまり立ち上がる魔人はリウィアに黒い風の刃を飛ばした。セルウィルスが風の刃を飛ばし相殺させる。フリッツが長い呪文を終え魔人の目の前に巨大な津波が現れた。魔人は波に呑み込まれ流された。波が消えると魔人は地面の上に虫の息で倒れていた。フリッツは魔人に駆け寄り光の呪文を唱えた。魔人から瘴気が抜けて空気中に漂った。黒い瘴気は森を覆っていた。フリッツは瘴気を霧に呪文を唱えて変えていくが瘴気はまた湧いてくる。何度同じ呪文を唱えただろうか。フリッツの精神力はだんだんとすり減っていく。アンゲラはこのままではフリッツの精神が崩壊すると危機感を抱いた。痛む背中を我慢してリウィアはアンゲラの元へ近づいた。


「アンゲラ」


「リウィア。頼みたいことがある。おぬしの魔力を我の魔力の波長に合わせてくれ」


「合わせるってどうやって?」


「こうするのじゃ」


 アンゲラはリウィアの手を握った。リウィアとアンゲラの魔力が混ざり合う。


「我が名はフリッツ。水の精霊の使い手なり。怒り哀しみ苦しみに染まりし力よ。滝の如く激しく海の如く寛大なる聖なる水の力となれ」


 フリッツの呪文により今度こそ森の瘴気は一掃された。魔人であった人は元の人に戻り、瘴気が霧となり太陽が光をさして虹が出来る光景に涙した。


 何で私だけ生き延びたのだ。


 生きていればいつか救われる。だから生きて生き続けてくれ。











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