女王立ち上がる
プラチナブロンドの美しい髪の青年は玉座に座る悠然と微笑む女王を睨んでいた。女王の座る玉座の後ろの赤い垂れ幕には太陽を背にした目を閉じた髪の長い乙女が金糸で描かれていた。それは王家の紋章だ。太陽は光の勇者、髪が長くて目を閉じた乙女は水の精霊使いを模している。この女王にはいや初代以外はその血を引いている者はいない。なのに騙してきた王家。その矛盾の象徴がこの女王だ。精霊や神を嫌い憎み、人間を愛する。この女王はその矛盾を正すべく行動を起こす。女王はもう淑やかな女性を演じることは辞めた。
「何故、止めるのですか?今こそ選ぶ時です。何が大事で何が不要なのかを」
女王は仄暗い笑みを浮かべてアベルを見つめた。アベルは「人間が人間を選ぶなんて間違っている!」と叫ぶ。アベルのこの険しい表情を初めて見た女王は満足そうに笑った。
「貴方のその顔、好きよ?だっていつもは怯えているもの。何故?何故怯えているの」
ふと女王は真顔になった。
「神である事に負い目があるからでしょう!?」
冷たく見下ろす女王の目は虫を見るように冷ややかだ。アベルはやはりな。とバレている事に驚きはしなかった。
「神こそ私たち人間を選別し、おもちゃにしているっていうのに敬えとは、何様だ!?」
「神は人間を決して見捨てない。だがら試練を与える。人間の能力の限界を知りたいんだ。そして、心の豊かさも知り得たい。人間は優しいんだよ。ただ不器用なだけ。わかっている。俺たち神だって不器用に生きているんだ。そんな人間を他国だからって宗教が違うだけで、選別するのは間違いだ」
「私の伯父は神教に祭り上げられ、父は精霊教に祭り上げられた。この二人の争いを納めるために伯父は北大帝国に婿養子になった。祭り上げられなかったら、順当に、伯父さまが国王だった。私は伯父様が大好きなの、だからそんな世の中が、よかったわ。だから神と精霊は邪魔よ」
冷たくアベルをあしらう女王。この姿が本来の女王の姿であったようだ。
「ロマネ国を敵にするつもりですか?神教の信者も一緒に葬るおつもりですか?!」
「そうだ。アベルにはしばらく大人しくしといてもらいます。きなさい衛兵!」
4人の黒い帽子が長くて、制服が赤い衛兵がアベルを取り囲む。手を縛られる姿はまるで大罪人だ。
「すぐに牢に入れろ。死ぬ事は許さんいいな?」
この言葉に衛兵は驚いた。こんな女王見たことがない。
「すぐに伝令を連れてこい。今から戦争が始まる。みな心してかかれ!」




