なんでも出来る漢
クレイ伯爵家専属の御者はバラントまでしか道が分からないので、ロマネからは御者を代える事にした。ロマネにまで同じ業者だと重労働で訴えられるからでもある。魔物騒ぎでロマネ国内は混乱状態。これでは白壁の荘厳な街並みも台無しだ。ロマネ国の兵士も慌てふためいている。ロマネに入ったリウィア達は馬車の中から街の様子を観察した。
「おい!法王様が逃げたそうだぞ!」
「またか!こんな時に!」
法王とはロマネ国の最高指導者の呼称だ。ロマネは国家と信教が混じる融合型の国だ。バラントも融合型だが、ロマネはバラントと違い世襲制ではない。聖職者の中から指名される。
兵士の叫びから、リウィア達は察した。
法王様はロクな人ではない。こんな緊急時に逃げるとは言語道断だ。自国の女王はなんて有能なんだろう。好き嫌いしている場合ではないな。仕事してるならまともだな。比べるべくもなかった。
「おいおい。ロマネはどうなっちまうんだ?」
茶色の短い髪をわしゃわしゃかくフリッツ。髪はぼさぼさになる。正面に座るリウィアは水色の瞳をフリッツに向ける。
「え?どうなるの?」
フリッツはさらにわしゃわしゃ髪をかく。
何で自分の質問に答えないといけないんだ。
「…多分、聖職者の連中は神に祈るしかないとアホな事を言ってるんだろうな」
「あー。そんな国ですっけ」
サベラもリウィアと一緒でロマネ国には詳しくない。セルウィルスは「うんうん」と相槌をうってるだけなので仲間だな。
「国民はそんな聖職者を見捨てて、バラントに逃げて来たんだよなぁ」
結局フリッツは自己完結した。
流石フリッツ。旅をした人は違うね!
リウィアはフリッツを尊敬した。そんな時、御者が悲鳴をあげた。馬もひひんと叫び馬車が止まる。何だ?と馬車の窓から外を見ると、街の住民が何十人といて道を塞いでいた。
「馬をよこせ!」
ぎゃああ わぁああ と住民がうるさい。リウィア達はどうしようと4人で話し合う。
「馬渡す?」
「やだよー。俺は偉い精霊使いだー!とフリッツが言えばいいんじゃない?」
「...やりたくない。こんな歳でそんなことしたくない」
「フリッツさんって何歳なんですか?35歳ですか?」
「…25だよ!どうせ老け顔だよ!」
「「「えええっ!?」」」
「うわぁ僕むかついちゃうわ」
無精髭のせいでフリッツは老けて見えた。いやあだって物知りだしね。あっセルウィルスよりは歳下なのか。実年齢30歳すぎのセルウィルスは20歳にしか見えない。精霊は歳をとらないそうなので仕方ない。
「ま、まだ大丈夫ですよ。若いですよ」
サベラが励ますが、よりフリッツは不機嫌になった。
「若いやつに励まされると何故だかムカつくな」
確かに。
サベラは「そういうものですか?」と首を傾げる。
馬車の扉がドンっと開いた。リウィア達がそちらを見ると、住民が血走った目で「降りろ!」と指示して来た。
ああ。フリッツの年齢で盛り上がってる場合じゃなかった。
リウィア達は住民達により馬車から出された。馬車に乗ってた荷物もちゃんとリウィア達に「忘れ物だ」と渡して来た。
あれ?ちょっと親切?
ちなみに馬車から出された時点で親切ではない。馬車は回収された。住民達が御者と馬車と共に去っていった。
街の道の真ん中でぽつんと佇むリウィア達。長い木製の2メートルの杖を持つフリッツがぽつりと「歩くか」と歩き出した。杖を持つフリッツはより老けて見えたが3人はそれを突っ込まずにフリッツに続き歩き出した。
その日は山中で野宿だった。風呂などもちろんない。近くの川で布を濡らして身体を拭く程度だ。
ああ。アベルはこの事を言っていたのか。
多分アベルの予想よりだいぶ違うのだが、リウィアはしみじみと人の話の大事さを思い知った。だからと言って旅をやめないけどね。
「あっ上見てください。綺麗ですよ〜」
サベラの指をさす方を見ると満天の星々が輝いていた。街中では見られないその景色になんだか救われた気分になった。
ウィッグを外して頭が涼しくなったリウィア。星空を見上げてごろんと草原に寝そべった。近くで焚き火を焚いてるフリッツは鍋をかき混ぜて料理をしていた。ちなみに他の3人は料理できない。
「お前ら役に立たないな」
とフリッツはぶつぶつ文句を言っていたのであった。




