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忍び寄る影

 







 宿の看板猫にメロメロになったリウィア。他のメンバーが先に馬車に乗りリウィアが来るのを待っているというのに、動けないでいた。いや正確には動きたく無かった。足元には「にゃ〜お」とすりすりともふもふの身体を当てるにゃんこ。


 かわいいーーー!!


 足元のにゃんこを見てリウィアは赤面した。ダークグレーのズボンに白い毛がつくがそんなことはどうでも良い。


 あああああ!連れて行きたーい!


 馬車からセルウィルスが「どしたの?」とこっちの様子を見た。


「どうしよう。可愛い」


「そうだね。それで?」


「可愛いんだよ?!」


「そうだね。で?」


 セルウィルスは冷たい。冷たい人間だ。いや、人じゃなかったわ。この可愛い生き物を振りほどけって!?リウィアには出来ない!


 ううと泣きそうになるリウィア。セルウィルスは「えーー?俺虐める趣味無いんだけど?むしろ虐めてよ」と意味わからんことを言う。


 宿の方から「みーちゃんおいでー」と宿屋の女将さんが餌を持って呼ぶ。リウィアの足元にいた猫はスーと女将さんのところへと駆けて行った。それを見たリウィアは「薄情者〜」と悲しくなった。いつまで動けないリウィアをセルウィルスはずるずる引っ張って馬車に入れた。


 馬車は動き出し、窓からリウィアは「みーちゃんまた会おうね」と餌を食べるみーちゃんの背中を見つめた。


 セルウィルスが「リウィアちゃんってこんなキャラだっけ?」とこそっとサベラに問う。


「人とは奥深い生き物なんです」


 サベラは生暖かい目でリウィアを見ていた。







 2日目までは旅は順調だった。


 だった。


 国境付近で問題が起こった。


 太陽がほぼ真上にある頃。長い橋の前にリウィア達はいた。河川でバラントとロマネは隔てられている。巨大で長い橋が国と国を繋げている。


 橋の門は閉ざされている。男も女も入り混じる声が「開けろー!」と門の向こうから響いた。辺りは喧騒に包まれた。土埃がまう。門の前は役人がパニックを起こしている。


「一体どういう事だ!?」


 顔も知らぬ役人がそう叫んだ。門はどんどんと叩かれる。河川に船が何隻も浮かびバラントへと進んでいる。


 この状況が異常だとリウィアでもわかった。門が押されて、軋む。今にもはち切れそうな門。役人は兵士を呼ぶ。


「早く来てくれ!ロマネの奴らが突破するぞ!」


「不正に入国する気か?!」


「まさか戦争でも起きたのか?!」


 門の前の人々はただただ戸惑った。ロマネに旅行に行こうとした者は結構な人数いた。パッツンパッツンの旅行鞄を抱える男性は妻と一緒にこの場から逃げた。他の者もそれに続く。


 兵士が門を支えるべく力で押し戻す。何人かそれに続いたが、ロマネ側の人の方が圧倒的に多い。このままでは、こちらが潰され兼ねないと危機を感じた。役人は兵士に引くように指示する。


 ゴゴゴバキッ


 するとたちまち門が破られた。門の残骸が辺りに散らばる。人々が雪崩れ込み中にはこける人もいた。


 ただ呆然と見ているしかないリウィア達は、背後から来た騎士団に驚いた。馬に跨る、騎士の服を着た者達。その代表者である騎士団長が後方から現れた。他の騎士は道を譲る。兵士も国民も道を開けた。ただ道を開けないのはロマネ国の者達だった。


「聞け!我は女王陛下のご命令で参った。みな騒がず我に従え。さすれば命の保証はしよう」


 辺りはほっとした空気に包まれた。心優しい女王陛下が助けて下さる。悔しながらリウィアもそう思った。


「出国者をみな捕らえろ。固めて置いておけ」


 捕らえられると聞いて危機を感じたロマネ国の人々。大丈夫よね?すぐに開放してくれるわよね?そんな不安な空気になる。


 騎士団長がリウィア達に近寄り、瘴気がないか調べてくれと言う。素直にリウィアもフリッツもウィルも従った。ロマネ国の人々は騎士に囲まれた。ロマネの人々の顔を見ると、泥だらけで必死にここまで来たことが分かる。瘴気の危険はないと言うと、ロマネの民は安心した。その反応に違和感を感じた。瘴気を知っているみたいじゃないか。


「瘴気から逃げて来たんですか?」


 思わず大きな声で言ってしまったが、もう後の祭りだ。ロマネ国の人は「そうだ。魔物に作物がやられた」と怒った。


「魔物はあたしらを襲った。もう居場所などないよ。勇者もいない。もうおしまいさ」


「木々がどんどん魔物化してな、ポルペ火山の麓が大変なことになった。観光客も村の人も散り散りになって逃げた」


 サベラが「皆さん魔物に詳しいですねーっ」と驚き、「常識だろ」とフリッツに怒られた。リウィアもアンゲラに説明されるまでは良く知らなかった。怒られたくないので黙っといた。


 優しそうな騎士がロマネ国民の前に現れた。


「皆さん野営地に案内します。急がず騒がず順番について来て下さい」


 準備が良いわね。この事態を予測していたのかしら?


「女王様はこの事を予測していたの?」


「同族のシルフ達が協力してロマネ国を調査したからね。多分それで知ったんだよ」


「...それは心強いわね」


 リウィアは納得した。


 シルフって身体を風に変えれるし、移動も早いし味方だと心強いわね。


 しかし、魔物が発生したとなれば事態は最悪の方向に進んでいる。フリッツがサベラ、セルウィルス、リウィアの順番に顔を見る。その表情は真剣だ。


「ここから先、生半可な気持ちじゃ死ぬぞ。瘴気は人の気持ちをことごとく挫かせるエネルギーの塊だ。覚悟がない者はここに残った方が良い」


 セルウィルスはふざけ半分に「精霊だから関係ないねー」と明るく言う。


「私は真面目じゃないから、どんなにジメジメした空気だろうと関係ありませんよ」


「たしかにお前らは大丈夫そうだな」


 フリッツはふざけた2人に感心半分呆れ半分といった感じで言った。


 何も言えないリウィアにフリッツは心配になる。


「無理して付いてこなくていいんだぜ?これはだいぶ予想外な事だし、引き返しても誰もお嬢ちゃんを責めないぜ?」


「私はっ」


 覚悟?そんなもの私にあった?ただ女王に反発して来ただけだ。アベルを傷つけた戒めで来ただけだ。


「フリッツは覚悟があるの?」


 リウィアの質問にフリッツは目を丸くした。


「そうだなぁ。そもそも瘴気は前世の僕がしくじった所為であるわけだ。だから、責任を取らないといけない。覚悟があるというより、無理矢理覚悟を決めた感じだな」


 フリッツの前世ステファンは魔王との戦いで殺された。それこそ誰も責めれない事ではないのか?


「まぁ。瘴気があれば魔物が現れる。魔物が現れたら人間が生きていけない。只生きる為に選択するんだ。只それだけの事だ」


 それなら、リウィアにも分かりやすい。そして、選択肢は1つしかないと思う。


「私も行く!行って、瘴気を消して沢山の人に生きてもらう!そして私も生きる!」


 フリッツはリウィアの意志の強い目を見て、満足気に頷いた。


「ああ。僕たちの未来のために進もう!」


「「「おおーー!!」」」


 みんなで腕を振り上げる光景にフリッツは既視感を覚えた。良い大人なのに泣きそうになる。遠い過去の仲間に想いを馳せた。


 あいつらのやった事は無駄じゃない。僕が無駄にさせない。













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