平和な場所
ガタガタと揺れる馬車の窓から外を覗くと、陽の光に照らされ黄金に輝く麦畑が広がっていた。時折、収穫する人も見かけた。
のどかだなぁ。
瘴気により魔物が出る危険性など微塵も感じさせない風景に心が温まる。
馬車の中に視線を戻すと、地図を真剣に見るフリッツと銃の手入れをするサベラ。因みにセルウィルスには先に行って偵察してもらっている。
サベラの手元を見て、リウィアは眉間に皺を寄せた。
「その物騒なものは何?」
リウィアの視線に気づいたサベラはリウィアを見てにっこり笑った。手元の銃をリウィアに見せて解説しだした。
「今回女王様に特別に使用の許可を頂いたミニエー銃です。従来の銃とは違ってライフリングが刻まれてるんです。ライフリングがある事で再装填が簡単になるんです。最新モデルをくれるなんて女王様も太っ腹ですねぇ」
ミニエー?ライフリングがなんだって?いや、そもそも銃自体、現物を見るのは初めてだ。
「銃なんて持ったら危ないじゃない」
バラントでは銃の所有は認められない。戦争中なら許可されるが、今は平和そのものだ。まぁ私も剣を持ってたりするんだけどね。
「私たちは国外にも行くんです。海外はここと違って治安が悪いですからねぇ。念のためです。それに魔物にも効いたりして」
フリッツが魔物という単語に眉間に皺を寄せた。
「...アンゲラと魔物の戦いを見た限り、銃じゃあ全く効かないな」
「それは残念です」
サベラは一瞬ガッカリしたが、すぐにふふっと楽しそうに銃の手入れを再開させた。
それしまって欲しかったんだけどね。
リウィアはフリッツの地図を見て質問した。
「今からどこに向かうの?」
「えっとだな。南西に進んでコッツウェルスに向かう。そこの村で一泊だな」
「ロマネにはどのくらいかかるの?」
「火山の麓まで行くと馬車だと4日はかかるだろうな」
「行ったことあるの?」
「ああ。研究がてらポルペ火山の麓の村に行ったことがある。あそこの温泉は最高だった」
温泉!入ったことない!どんな場所だろう楽しみー!
リウィアは目を輝かせた。サベラも「どんな効能があるんですか?」と興味を持ったようだ。
「確か硫黄が入ってたな。皮膚病に効くらしい。泥には美白効果があるらしいぞ。良かったな」
女の子にとって嬉しい情報だった。イェーイとリウィアとサベラはハイタッチした。
リウィアとサベラは男装してるのに女子のようにきゃっきゃっしてる姿を見て「平和だねぇ」とぼそりとフリッツは呟いた。
日が暮れた頃にコッツウェルスの村に着いた。馬車から降りたリウィア達に茶色に染めた髪のセルウィルスがおーいと駆け寄ってきた。
「ウィル!お疲れ様。様子は?」
「うん疲れた!この村平和だわ。盗賊とか来たことないらしい」
「流石。我が国は治安が良いな」
「女王様様だね。宿もとっといたよ。俺って有能すぎない?」
リウィアとサベラは「凄い凄い」と棒読みで褒めといた。
小川が流れる村は人が少なくて静かな場所だった。宿に入りリウィア達は夕飯を食べてお風呂に入ってふかふかのベッドで眠りについたのであった。
幸せな気分で眠っていると、まぶたにぷにっと柔らかいものが触れた。まだ起きたくないリウィアは寝返りを打って、柔らかいものから逃げた。しかし、またぷにっと柔らかいものがまぶたに触れた。
何だろうとぼんやり目を開けると目の前には可愛らしい白猫がいた。リウィアを真っ直ぐに見るまん丸な目が可愛い。この猫は宿の看板ネコだ。ふかふかした毛にリウィアは顔を埋めた。
幸せだなぁ。
顔が毛だらけになるのも御構い無しに、ネコの毛に顔を埋めてネコの匂いを嗅いだ。
フガフガ
ネコはゴロゴロお腹を鳴らす。
お日様の香り〜。
隣のベッドで寝てたサベラむくっとぼさぼさの頭で起き上がる。そして「変態ですねー」とリウィアの奇行を眺めた。




