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呆気ない最期(リウィア視点)

 

「え?」


 真っ赤な視界に光が差し、視界がクリアになった。...いや、やっぱりクリアになってない。顔に何か押し付けられて見えない。息苦しくて顔を上に向けるとアベルの顔面アップだった。びっくりして後ろに下がろうとしたが、アベルに抱きしめられているため無理だった。


「近い!!」


 顔面に文句を言ってやったが、良かったとアベルが笑う。笑う顔は汗が流れて何かを我慢している様だった。


「アベル?そんなに汗をかいてどうしたの」


 視線を横にずらして、衝撃を受けた。アベルの肩から生えてる筈の左腕が無いのだ。全身が震えた。


「何で?何で無いの?」


 震える自分の声に、「大丈夫だからね」と残った右手でリウィアの頭を撫でた。アベルの顔色が悪かった。腕を失った場所から血が流れてる。


 リウィアは血を止めようと、自分の服を切り裂いて紐にして結ぼうとした。しかし、手が震えて上手くできない。手を見てどうしてと呟いた。


「早く浄化を!」


 アベルは誰かに指示する。複数の足音が聞こえる。


「馬鹿者!!おぬしが先じゃ!!」


 アンゲラの焦る声がした。


「まだきっと繋がる筈じゃ!!シルフ!!」


「はいよっ!」


 アベルの腕が繋がると聞いて僅かに震えが収まった。ウィルが床に落ちたアベルの腕を風の能力で持ち上げ、元の位置にぴったりくっつける。


「アクア・ヴィテ」


 アンゲラが呪文を唱えると、虹色に輝く雫が患部に落ち、境目をなくした。アベルはあっという間に治った腕を驚いてみた。手をグッパーと開いたり握ったりして感覚を確かめた。


 良かった!


 リウィアは安心して力が抜けた。へなへなと床に座り込むと、一振りの血が付いた剣が目に付いた。再び全身が震える。


 誰がアベルの腕を切ったの?


 辺りを見渡すと、倒れた人型の物体が目に付いた。肌の色が黒と肌色が混じったまだら模様で、全身切り傷だらけだ。傷口から赤い血や黒い液体が流れる。


 あれは魔物なの?人なの?


 自分があの魔物を切り刻む光景を思い出した。


 そうだ。私は魔物への怒りで我を忘れてたのだった。あれは私が斬りきざんだ。


 サラマンダーが「ヴィニー!ヴィニー!」と呼びかける。


 アンゲラが「そこのトカゲ!そいつの怪我を治したら只で済まぬぞ!」と警戒する。


「おいらに怪我を治す能力(チカラ)はねぇ!」


 トカゲは目を閉じたヴィニーの顔を短い手でぺちぺち叩く。


「アンゲラ。浄化しよう」


 フリッツは静かにヴィニーの横に佇んだ。


「魔物の息の根を止めるのか?」


 アンゲラはフリッツに問う。


「...多分だが、僕には光の勇者の能力が僅かにある。もしかしたら、瘴気とこいつを引き離せるかもしれない」


それは光の勇者と魂が混ざった影響だと思われる。


 アンゲラは頷いた。


「きっとおぬしなら出来る」


 フリッツは魔物に手をかざして唱えた。


「我が名はフリッツ。光の勇者の代行者なり。アストレア神の子の力を賜る」


 フリッツの掌に光が集まりヴィニーの身体に巡る。瘴気がヴィニーの身体から霧の様に抜け出た。身体が元の色に戻った。


 そして、フリッツはアンゲラから杖を受け取ると唱えた。


「我が名はフリッツ。水の精霊の使い手なり。怒り哀しみ苦しみに染まりし力よ。滝の如く激しく海の如く寛大なる聖なる水の力となれ」


 辺りに漂った瘴気は霧となり散っていく。水晶宮の中に清浄な空気が満ちた。


 切り傷だらけのヴィニーは虫の息だった。ヴィニーは目を少しだけ開きサラマンダーに謝った。


「野望を叶えれなかった。すまなかった」


 サラマンダーは目に涙を溜めて、叫ぶ。


「馬鹿野郎!おいらが折角手助けしてやったのにこのざまかよ!情けねぇよ!」


「そう怒るな。ここまで来るのに20年以上も費やしてしまった。もう我は歳だ。歳には敵わん。冥府で弟に叱られてしまうな」


「その事なんじゃが、貴様の弟に心当たりがある。会ってみるか?」


 アンゲラはヴィニーに近づいて見下ろす。


「死体には会いたく無い」


「死体と言えば死体だが、仮死状態なんじゃ。おぬしが望めば生き返らせてやるぞ」


 ヴィニーは怒った。


「人を冷凍食品のように扱うとは精霊は高尚な趣味をしてるな」


「勘違いしないで欲しいが、ここで保護する人間はみんな死にたがるのじゃ。雨を降らせるついでに殺せと言われこちらもパニックになった。だれが死体が欲しいって言った!全人類に言ってやりたいわ。ウンディーネは男が欲しいだけで、殺さんわ!」


 アンゲラはフリッツから杖を受け取ると、ぶんと振った。


 氷に閉じ込められた子供が10人ほど現れた。どの子も眠ったように目を閉じてる。


「子供達の保護を誰かに頼みたい。この中で一番確実なのはアベルだな」


 ボーっと見ているだけかと思いきや、アベルは任して下さいと返事する。


「この手のことは女王に許可をもらえばとっとと終わります」


 結局、女王さま頼りだった。そういう人だった。女王を知らないリウィアはアベルが少し羨ましい。


「女王さまのこと信頼してるのね」


「まぁ。子供関係はあの人強いよ。個人的には関わりたく無いね」


 個人的には気に入らない様だ。世の中には聞かない方がいい事が五万とある。それだな。


 ヴィニーは氷らされた子どもを眺め、弟を探し当てた。アンゲラが冥土の土産に持ってけと、弟の氷を溶かした。


 弟はゆっくり目を開けて、ヴィニーを見て「どうしたのおじちゃん」と聞いてきた。

 ヴィニーは「お前こそ生贄にされて平気だったのか?兄が心配していたぞ」と自分の正体を明かさずに会話した。


「平気だよ。みんなのためなら怖くない。兄上は貴族だ。俺は貴族じゃない。根本から考えが違った。俺は平民の方が良かった。兄上が当主になれば間違いない」


「...お前の兄は異国送りになり殺されかけた。兄はな当主になれなかった。おまけに復讐に囚われ親族を何人も殺した」


「兄上が行う事に間違いなんてない。それは正しい事だったんだ」


 ヴィニーは「そうか」と沈黙した。


 親族を殺したと言う言葉にリウィアは8年前の火事を思い出した。震える全身を叱咤してヴィニーに近づく。サラマンダーが「近寄るな!」と阻む。リウィアがヴィニーを傷つけたので当然だ。ヴィニーが「いい。我もその娘に話しておきたい」と言うのでサラマンダーは引き下がる。


「貴方がお爺様や伯父さまを殺したのね?」


「そうだ。お前達も殺す筈だった。まさかウンディーネがいたとは不覚だな」


 あの火事さえ無ければと考えたことが良くある。少しは現状が良くなったのではと思った。


「弟はウンディーネに殺されたと思ってたからな、ウンディーネが憎くてな。ウンディーネを娶ったオーソンが憎かった。同時に希望も芽生えた。もしかすると弟もウンディーネと共に何処かにいるのではと。実際には仮死状態にされてたとは皮肉だな」


 ヴィニーは咳き込む。サラマンダーが「もう喋るな」とヴィニーを労わる。


「ウンディーネの長!ヴィニーを助けてくれよ!」


 サラマンダーの懇願にアンゲラは首を振る。


「無駄じゃ。其奴(そやつ)は瘴気を使い過ぎた。元々身体が弱いのに酷使しておったのじゃろ。手遅れじゃ」


「そんなっ!」


「よい。もう我は疲れた。憎い奴を殺しても心は癒えなかった。…サラマンダー。お前に会えた事が我にとって唯一の救いだ…な…」


 ヴィニーは目を閉じて、動かなくなった。サラマンダーは「ヴィニー!」と呼びかけるが反応が返ってくる事は無かった。


 リウィアは涙が溢れた。


 憎い筈なのに何故?


 何故、ヴィニーが死んでも喜べないのか分からなかった。


 自分もこうなる可能性があるのだと思うと()()無かった。


「ちくしょう!ちくしょーー!!」


 サラマンダーの叫びが静かな水晶宮に響いた。








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