ステファン
(アンゲラ視点)
「ステファンはなぁ。漢らしさとは縁遠くて、火の精霊使いをそれはもう尊敬してたのじゃ」
リウィアがステファンの話を聞きたがるとは意外じゃなぁ。まぁあんなサイコーでナイスな人物はなかなかいないで当然かのぉ。
手鏡に映るリウィアはどこか虚ろな目をしていたが気のせいじゃな。
「ステファンにはステファンの良さがあるというのに、全く人の言う事を聞かなくってのぉ。まぁ意思が強い人間だから仕方あるまい。火の精霊使いの真似をして筋トレを始めたのだが、次の日起き上がる事も出来なくて、我があれこれと世話をしたのじゃ。我は幸せだったのだが、ステファンは恥ずかしそうでそれが何とも可愛らしくてのぉ。ついつい意地悪をしてしまって、怒られたわ。ん?どうしたのじゃ?元気がないのかえ?」
リウィアの目が死んだ魚の目の様だが気のせいかの?リウィアはハッとびっくりしてた。まさか寝てたのか?
「…こっちの事はいいから続けて」
「そうか。ステファンはな光の勇者と仲良しでな。きっと性格が似てたから気があったのだろうな。誤解するでないぞ!光の勇者は男だぞ!あとステファンと一番の仲良しは我ぞ!」
そんな事どうでもいいわとリウィアの表情が訴えているが気のせいじゃな!
まだまだ喋る事はある!と口を開こうとして身体がピクッと一瞬止まった。湖のほとりに誰かきた。
頭に映像が流れる。モーニングコートを着た茶色い髪に無精髭を生やした男が1人湖の側にいる。
あれはステファン!!
「リウィア!!ステファンが来た!会いに行ってくる!!」
居ても立っても居られないアンゲラは水晶宮から飛び出した。
「ステファンが来たってどういうことよ!?ちょっとアンゲラー!!」
無造作に床に投げつけられた手鏡からリウィアの叫びが主人のいない部屋に虚しく響いた。
急いで水面から上がると茶髪の男、フリッツがアンゲラを見て微笑む。アンゲラの心臓はずきゅーんと幸せなダメージを負った。
裸足にもかかわらず、水面を走り地面を走りフリッツに抱きついた。胸板ががっしりと筋肉質で驚いたが、今はフリッツが優しく抱きしめ返してくれることが嬉しい。きっと記憶が戻ったのだ。そうに違いない。じゃないと説明がつかない。
「会いたかった」
アンゲラの耳元に囁かれた言葉に全身蕩けそうだ。
「我もじゃ。会いたくて会いたくて仕方がなくて時空を超えてしまったわい」
冗談めかしていったが実際に時間を能力で高速させた。おかげで早くフリッツに会うことができた。上手いこといって安心だ。
「アンゲラらしいね」
爽やかに笑う姿は錯覚で中性的な顔立ちのステファンに見えた。この感じが懐かしくて泣きそうになった。会えて嬉しい。奇跡だ。心からありがとうございましたと今なら神様にお礼を言いたい。
「少し散歩しない?この辺りがどうなってるか知りたいんだ」
「すまないがあまり遠くに行けないのじゃ。契約があってな。すまね」
せっかくステファンが誘ってくれてるのに契約書が腹立たしい。破り捨てたいが、重要な書類だから無理だ。
「そっかぁ。それでも少しならいいんだね?。ちょっとだけだから」
断りすぎて嫌われるたのも嫌だし少し散歩しよう。
「少しならのぉ」
ステファンの手を握りニヤッと笑う。
ステファンはフッと笑い返し、手を握り返し歩き出した。
「僕の手の方が温かい?アンゲラは水の精霊だから? 」
「確かに低めよの。そういう性質だから仕方ない。逆に火の精霊は湯たんぽに最適じゃ」
はははとステファンは笑い出した。
「そうそう冬とか寒い場所にいくと、サラマンダーを暖房がわりにしてたねぇ」
「サラマンダーは皮にさらわれるのを嫌がるが仕方ないことじゃな」
「みんな遠慮しなかったなぁ。懐かしい」
しみじみと昔話をしてると切なくなる。もちろん嬉しい。だが、他の救国の旅のメンバーはもういない。みんな死んでしまった。
「のぉ。みなの墓を探すのはどうじゃ?我はここで留守番だが、手鏡で通信してステファンをサポートするのじゃ。名案じゃ!」
「そんなの端から見ると寂しいぼっち旅だよ。僕はアンゲラと行きたいな」
「難しいのー。手はないことはないのだが…」
「どんな?」
「また精霊使いになってくれぬか?そして世界中回って、瘴気を消すのじゃ。流石に女王も許可するだろう。会いたくないがの」
ステファンは嫌そうに眉をひそめた。
「それはパス。もういいじゃん瘴気なんて放っとこ!」
断られて驚いた。心優しいステファンなら困っている人を放っておけないはずだ。臆病になったのだろうか?
「ステファン。考え直してくれないか?瘴気は人間や動物、植物に有害で魔物にしてしまうのじゃ。我らも放っておけば魔物に襲われるかなるかもしれない。また協力してやっつけよう!」
「君こそおかしいよ。せっかく生きてるのに危険にわざわざ飛び込もうだなんて」
ステファンの言い分は痛いほどわかる。瘴気のある場所には魔物もいる可能性がある。魔物退治は半端な覚悟では出来ない。人を殺す可能性がある。責任を負わされ精神的にも消耗する。何より危険な魔物に己から近づくだなんて無謀である。
「・・・そうじゃのぉ。なんで我らだけ頑張らないといけないのじゃ。阿保らしくなってきたぞ」
ステファンの肩に頭を載せる。頰が赤くなる。
「我はステファンがいれば幸せじゃ。これ以上求めたらバチが当たるわ」
ステファンの筋張った手がアンゲラの頰に触れた。上から覗く顔が魅力的でどきりとして目のやり場に困り斜め下を見る。徐々に顔が近づいて唇に唇が重なった。甘く痺れる感触に酔いしれる。唇が離れるとステファンがアンゲラをしっかりと抱きしめた。
「僕は怒ってるんだ」
「何に?」
ステファンが抱きしめる力を緩めてアンゲラの顔を伺う。ステファンは眉にしわをよせる。
「君に」
アンゲラは戸惑った。
何かしたかのぉ?キス下手だったかのぉ?
「何故にじゃ?」
「僕は死んだ。だから君も死ぬべきだ」
ステファンの瞳は殺気立ち本気なんだと思い知らされた。涙が溢れた。死を望まれて悲しかった。同時に求めらることが嬉しかった。
アンゲラと優しい呼ぶ声にダメだと思いながら縋る。ステファンが寂しいのならこの命をあげたい。
優しく抱きしめられた。
「愛している」
睦言を耳元に囁かれた。胸に激痛が走りアンゲラは意識を手放した。




