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みんな怪しい自分も怪しい

 


 仕事部屋兼自宅に戻ると、誰もいなかった。


 別に期待してた訳ではない。むしろホッとした。


 デスクの上に一枚の手紙が置いてあった。


<突然押しかけて前世とか精霊使いとか訳がわからないこと言って混乱させてごめんなさい。でもアンゲラの言うことは本当だと思うの。私はアンゲラに父を殺されたようなものだけど、不思議と憎んではいないの。アンゲラはウンディーネの長だからウンディーネを守る義務があったから仕方ないって思えた。アンゲラはまっすぐな精霊よ。貴方が恋しくて恋しくて仕方がないみたい。貴方の事なら何でも知りたいみたい。これから貴方の作品を観に行ってくるわ。また会ってアンゲラと話してほしい。じゃないとアンゲラがうるさくて仕方ないわ。リウィア・クレイ>


 父を殺されたとか物騒だな。リウィアは単純そうな娘かと思ってたが、複雑な事情を抱えてるみたいだな。作品を観てくれるのは有難いが、前世がどうとか僕には関係ないね。しかし、職業柄が精霊の研究家だ。割り切って仲良くするフリして精霊の事を聞き出せばいい。だが、割り切れない自分がいる。そもそも、アンゲラに会った瞬間に殺されるかもしれない。


「だぁーー!考えても仕方ねー!」


 だいたい眠いし、酒臭いんだよ!

 公衆浴場でまず身体をさっぱりしよう!






 ローリス城の中に入るのは例の本を陛下直々に頼まれて執筆中だからできる。次は中に入ったらどこに行けば良いんだ?


 貸衣装屋から借りたモーニングコートを着たが、僕には似合わないな。


 素朴な女性がゆっくり近づいてきた。あれは女王の近侍だ。


「ローリス城へようこそお越しくださいました。事情は聞いております。こちらへどうぞ」


 近侍はゆったりと歩き出した。


「そのぉ。今日は本の事じゃないのだが…」


 女王の元に行く気はないと遠回しに伝えた。近侍は振り向き、はいと答えた。


「知っております。スコーンのお礼ですね?」


 にこっとした近侍に何故だがうすら寒いものを感じた。こちらの事情を知ってるようだ。


「こちらへどうぞ」


 今度は呼び止めずに素直に後に続いた。





「ようこそ〜悪の巣窟へ〜」


 くすんだ金髪の男が2人がけのソファの上でふざけて手を振ってきた。テーブルを挟んだ向かいに1人がけのソファが2つありその1つに鮮やかな赤い髪の美女が座っていた。


 もうすぐ昼なのにカーテンを閉め切ってロウソクをムダ遣いしている。ロウソクの火が灯っているのに部屋が薄暗い。


 カーテン開けろよ!ロウソク勿体無いだろう!これだから貴族さまは嫌いなんだよ!


 庶民なフリッツは苛ついた。


「座って座って!あれ?何か怒ってない?」


「お前がふざけてるからだ」


 窓側の奥のデスクの椅子に中年の男が座っていた。その男がくすんだ金髪の男をに怒った様だ。ちょうど暗くて顔がよく見えない。


 いや違うから!ロウソクだから!僕の気持ちなんてわかんないだろうな!ていうか奥の人ボスっぽいな!


 美女の横のソファに座るものの僕はこれから薬物でも買わされるのかとどきどきした。


「そっかぁ。でもごめんね〜。君が慣れてね」


「いやそんな事よりあんた達誰?」


「ああ!自己紹介まだだった!奥の偉そうな人はねぇ女王陛下の伯父上だよ。クレイ伯爵の血筋だね。あっ名前はヴィニー・クレイだから。そこの女と俺はその手下」


 マジか。国外追放された人じゃん。悪人じゃん。来なきゃ良かった。


 青い顔してると、鮮やかな赤色の髪の女性が案じるように僕の事見つめていた。


 この女性はいい人なのかな?てか一言も喋んないな。


 不思議そうに視線を向けると、くすんだ金髪の男がああ!と僕の疑問に気づいた。


「そいつ喋れないから!てか喋るとぶはぁっ!」


 目の前の男は腹を抱えて笑い出した。喋れない事を揶揄(からか)うとは最低だな。僕と赤髪の美女は笑う男を見て不愉快になった。


「お前は少し黙っとれ。お客人よ不愉快な思いをさせて申し訳ない。我のことはヴィニーと呼んでくれ」


 奥の御仁は低い声で謝ってきた。


「いえ別に大丈夫です。何故ヴィニー様は僕を呼んだのですか?」


「逆に聞くが貴殿は何故ここに参ったのだ」


 逆に質問されドキッとした。美女に釣られたとは言えない。まともな理由があるとすれば...。


「ウンディーネの言うことよりも、女王陛下に認められた人達の方が信用できるからでしょうか」


 ここがローリス城内だからだ。城の中には女王陛下が認めた者しかいない。


「成る程。だがそれだけではないだろう」


 赤髪の美女のことを言ってるのか?え?そんなこと言ってほしいの?


「ウンディーネの長が憎くて堪らないのだろう?」


 たった一度喋った女が憎いだと?まさかな。しかし、この胸のざわつきは何なんだ?


 ヴィニーの言ってることにそうだと肯定する自分がいる。


「認めるんだ。あの女が心底嫌いなんだろう?大丈夫。ウンディーネは人ではない。男を誑かす化け物だ。貴殿は精霊の研究者だから、わかっているだろう?」


 僕はウンディーネが美しい反面危険な生き物だと知っている。嫌い?嫌いだったのか??


 そうだ。あいつの所為で酷い目にあった。あいつが僕を選ばなければ酷い目に合わなかった。


 誰だ?これは誰だ?自分が自分では無いようだ。


 なのに!あいつはアンゲラはのうのうと生きてた!僕と一緒に死ねば良かったのに!僕はアンゲラなんて大っ嫌いだ!


 コイツはもしやステファンか?アンゲラはステファンの為に寿命を削ってまで魂を救ったのでは?


 そんなの当たり前じゃないか!でも僕はその時に死んだんだ!なのにアンゲラは生きてる!許せない許せない!


 ようやくこのモヤモヤの正体が分かった。魂が元に戻ってもステファンは苦しんでる。この苦しみは僕に悪影響を及ぼす。僕も苦しくなる。物語では優しいステファンがまさかこんな奴だとは思わなかった。まさかステファンの魂と混ざった勇者の魂はこの苦しみの所為で若くに亡くなったのか。


「自分に素直になれば楽になれる。素直になれフリッツ」


 男の声はフリッツの中にいるステファンを呼び覚ます。


 アルコールで酔っ払ったようにふわふわする。だんだんと身体の感覚がなくなり気持ちが楽になってきた。


「ありがとう。ヴィニー。僕はやっと解放される」


 フリッツにあった迷いは無くなった。






(赤髪の美女?視点)



 漢らしい仕草だった無精髭の茶髪の男は、ヴィニーの暗示にかかると、育ちの良さそうな丁寧な仕草になった。


 誰だこれ?見た目おじさんだけど可愛くなった?


 あまりのギャップに髪と同色の鮮やかな赤い目が瞬いた。


 フリッツは女の目線にも気付かず。というか興味なさそう。くすんだ金髪の男からナイフを受け取り、刃を確認して付属の鞘にしまう。それをコートの内ポケットにしまう。


「健闘を祈るよ」


 ヴィニーの声は僅かに高くなってる。計画通りに進んでご機嫌になったようだ。


 フリッツはもう用は済んだとばかりに、立ち上がりヴィニーに会釈すると部屋を出て行った。


 フリッツがいなくなった事を確認すると、赤髪の美女は安堵してドレスに皺になるにもかかわらずソファにもたれた。


「なんでおいらがこんな目にあわなきゃいけないんだぁ」


「お疲れ!すげー美人だったぜ!喋ると残念だが!」


 ケラケラ笑うくす金髪野郎を睨んでやった。


 もー我慢できん!!


 ポスンと煙が上がると、美女が全長1メートル程の光る蜥蜴に変化した。服の締め付けのないこの裸同然の姿は楽だ。ソファの上で俯き手足を広げてぺたんと伸びた。


「だらしがない」


 ヴィニーが文句言ったが無視だ。おいら今回頑張り過ぎじゃね?精霊の労働基準法違反で逮捕だ!


 そんなものないけどね。


「まぁまぁ。滅多に見えない美女姿が見えて良かったじゃん。コイツが普段からああなら仕事も捗るのによー。何で?」


 くす金髪野郎がこっちを責めるような目線送る。


「何でってっおいらは男だしこの格好が一番漢らしいだろう!!」


 この爬虫類の浪漫が詰まった固い皮を自慢げに見せた。


「マジで言ってるわコイツー。ひくわぁ。人型なら女にも男にもモテるくせに宝の持ち腐れだぜ」


 人間にモテても嬉しくない。


「おいら強いヤツが好きだからモテなくていい。くす金髪野郎はモテなくて哀れだね」


「グオォ!心が傷ついたー!蜥蜴の分際でなまいきだ!」


 くす金髪野郎が涙目になりながらおいらの尻尾を掴んでひっぱってきた。


「やめろ!!抜けるだろう!!生え変わるまで何週間かかると思ってるんだー!?」


「全く賑やかな奴等だ」



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