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いい大人ってなんだろう

 

 我ながらお節介すぎて鬱陶しいと思う。しかし言い訳させてほしい。神さま時代と今の年齢合わしたら30歳になる。精神年齢は三十路なのだ。だから15歳のリウィアなんて娘みたいに思うのだ。子供は心配で仕方がないと思う。


 記憶が戻ってから、同い年の子とか若く見えて仕方がない。自分もそうだったのに青いなって思う。何千年単位で生きている神々に言ったらきっと叱られるが、年はとるもんじゃない。嫌な記憶とか、経験は行動を制限させる。記憶なんてない方が幸せだと思う。


 記憶が蘇ってから気づいたのは自分の容姿が神さま時代とあまり変わらない事だ。プラチナブラウンの髪はレイアン一家や親族の中でアベルを除いて誰もいない。父が母に暴力を振るった理由は、アベルが父にも母にも似ていなかったからだ。父が事故で亡くなると母はアベルに対してよそよそしくなった。母は心の中では似てないアベルを罵っていて父と同じ思いだったのかもしれない。真実は怖くて聞けないでいる。


 そんな俺のやるべき事は少しでも神々に人間を良く見てもらう事なのだが、上手くいく気が全くしない。人間が良い存在に全く見えないのだ。せめて瘴気を消して神々の懸念を取り除こう。リウィアが協力してくれると言ってくれて少しは希望が見えた。仲間が出来ると心強い。


 胸当てを外す。アベルには外傷もなく、鍛錬のつもりだったのだが、リウィアの防具を次々とはずして袖や裾をめくってみると、腕や脛の部分に痣がある。痣を見てもリウィアは我関せずだ。


「いたそー!軟膏ない?」


 サベラが近づきてリウィアの傷をチェックすると睨まれた。睨む目が神経質な姉に似ていてアベルを怯ませた。


「女の子に傷を負わせるとか最低ですね」


 そう言いながら駆けつけてきたメイドが渡した救急箱の中から軟膏を取り出してリウィアに塗る。


 ただじっとしていたリウィアはサベラに対して申し訳なさそうに謝った。


「アベルは悪くないの。私が我儘言ったから。そのごめんなさい」


 怪我したのに責めないリウィアは良い子だ。


「リウィアさんは良いんですよ〜!アベル殿なんて最近腑抜けですからコテンパンにしちゃってください!」


 マジか俺腑抜けに見えていたのか。ショックだ。


 サベラは楽しいそうだ。鼻歌歌ってるし。サベラは不機嫌になったりご機嫌になったりと忙しいな。メイドも楽しげに鼻歌歌っていた。


「サベラ。俺は姉のところに行くからリウィアを着替えさせてあげて」


「はいはーい。任してください」


 リウィアが不安げにこちらを見る。捨てられた仔犬みたいで可愛い。


「大丈夫すぐ戻るよ。アンゲラの話でも聞いてあげなよ」


 アンゲラはステファンについては永遠に話が止まらない精霊だと思う。むしろ話がしたくて仕方がなさそうだから情報収集のためにも聞いてあげてほしい。


 安心させる為に笑うとぽーと頬を染めて見つめてくる。


 さっきから可愛いんだけど!誰にも嫁に行かせたくなるからやめて欲しいです。


 サベラがおやおやとニヤニヤ笑ってる。その顔不気味だからやめてとサベラを睨んでやった。









(フリッツまたはステファン視点。)


「ヘックション」


 己のくしゃみで目が覚めた。何故だか重たくて怠い頭。カウンターテーブルにもたれかかって寝てたせいで固まった首と肩。喉が渇いた。


「いててててて」


 頭痛がした。頭を手で押さえて頭痛に耐えてると、テーブルに水の入ったグラスが置かれた。これは一体何だろうと顔を上げると皿を拭く店主がいた。カーテンがない窓から太陽の光が射し込み、店主の髪が一本もない頭をピカッと輝かした。


 まぶしっ!


「ようやく起きたか。店閉めるからとっととそれ飲んで金払え」


「…どうも」


 飲んでいいみたいなので、有り難く水を頂いた。渇いた喉が潤い、身体に水分が行き渡る気分だ。お陰で頭痛も薄れた。


 はて。ここはいつも通ってる酒場だ。そして、酔い潰れるほど酒を飲んだ様だ。フリッツは酒に強い。いつも酒は嗜む程度しか飲まない筈なのに何故酔い潰れる程飲んだのか?......思い出した。アンゲラとかいう妖艶な美女が、僕の前世は精霊使いだとか言って僕を苛つかせたんだった。何でイラついてんだ?無視すれば良いことでは?僕もう25の大人じゃないか...。


「はぁ」


 ため息しか出ない。研究してるので、そもそも精霊の存在は信じている。しかし、前世の自分が関わってたとか信じられない。


 あっでもそれいいネタだ!いやいや、やっぱなし!


 百面相してるフリッツを見て店主はこめかみに血管が浮き出た。


「はやく金払って出てけー!」




 酒場を追い出さられベンチでぼーっと噴水を見る。いつも大勢人が集まる大広場も早朝すぎると人がまばらだ。


 あっ鳩だ。


 噴水の端にとまる灰色の鳩がこちらをじっとみてる。


 餌よこせって言ってるな。何か食べれるものなかったっけ?


 ズボンのポケットや上着のポケットを探ってみた。


 やっぱないか。


 ふぅと諦めた時、目の前に燃える様に鮮やかな赤い髪の美女が現れた。帽子で顔が半分ほど隠れていたが恐ろしく整っているのがわかった。赤い布に黒いレースがあしらわれた帽子とドレスだ。雰囲気がどことなくアンゲラに似ている。見惚れていると紙袋を差し出された。


「これは?」


 首を傾げると、美女は鳩を指差した。


「ああ。餌か。もらっていいの?」


 コクリと頷くのをみて、紙袋を受け取った。美女は紙袋を渡すとさっさと去っていった。


 不思議な女性だ。


 しばらく目で追ってたが、鳩がバサバサとこっちに近づいてきたので、紙袋の中身を見ることにした。開くと甘い香りがした。スコーンだった。


 美味そうだ。鳩にやるには勿体無いな。


 そう思いつつも、鳩にちまちま千切ってあげた。つんつんと嘴で突いてはスコーンを食べる姿に頰が緩む。


 あの女性に何かお礼したいけど、名前聞いてないしなぁ。貴族か、金持ちだと思うんだが。


 紙袋に身元がわかるものはないか調べてると、文字が書かれた紙切れが入っていた。


<これを見ても決して取り乱してはいけません。貴方はウンディーネに狙われています。レイアン子爵は貴方をウンディーネへの生贄にする気です。その証拠に貴方は見張られています。>


 内容に驚いた。なるべく顔に表さないように気をつけて周りを観察した。


 大広場の時計は6時。季節は夏。水曜日。ちなみにバラントには曜日があり、月火水木金土日である。土日は休日になる学校や仕事が多い。


 大広場にいる人は、ランニングをする人、恋人を待つ人、犬の散歩をする人、ベンチで寝転がり新聞を被っている人だ。少し遠くなる場所だが商店街に新聞配達員と郵便配達員がいる。


 犬の散歩は女性でそれ以外は男性だ。


 フリッツが怪しいと思ったのは、まず恋人を待つ人だ。花束を持っているから恋人を待っていると思う。今日は水曜日で休日でもなくこんな早朝に恋人を待つなんて違和感がある。その手に持っている花は青い紫陽花。開花時期はあっている。花言葉は移り気や冷淡、辛抱で贈るにしてはマイナスなイメージだ。そしてこちらに視線を良く向けるので見張りかもしれない。


 次に郵便配達員が怪しい。ローリスの郵便配達時間は午前10時と午後4時ぐらいだ。今は午前6時なので早すぎる。よく見ると1つの封筒を持ってウロウロしてるだけだ。それに比べて、新聞配達員は新聞を素早く店のポストに入れていく。郵便配達員は封筒を見るふりしてこっち向いてるし見張りかもな。


 ベンチで寝転がっている人も疑ったが、よく見ると知り合いだった。毎晩酒場で飲んだくれてはここで寝てたわこの人。除外。


 最後に怪しいのはこの紙切れを渡してきた女性なのだが、見張りが本当にいそうだし、ウンディーネに狙われてるとか生贄とかもウンディーネは男をよく攫うから信憑性はある。昔のクレイ伯爵はウンディーネを信仰するあまりに隠れて生贄を捧げてたという噂がある。レイアン子爵はクレイ伯爵のお目付役だしありえるな。


 でも何故に僕⁇ もしかして女王が怒った?解説本の事好き勝手にし過ぎたからかも。


 紙切れには続きがあった。


<ローリス城にて真実を教えます>


 これは行くしかなさそうだ。


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