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試合は、精神面が大事だよね。

 

 土埃が舞う鍛錬場でリウィアとアベルは木刀を構えて向かい合っていた。


 アベルはいつも通りのラフな服装の上に胸当てを付けた格好だ。対するリウィアは乗馬姿に胸と胴を覆う鎧と肘当てと膝当てを付けている。リウィアとしては胸当てだけでよかったのだが、アベルが強制してきた。


 数メートル離れた場所にはサベラが真剣にリウィアとアベルを見ていた。サベラには審判をしてもらう。


「両者共準備はいいですか?」


 サベラの確認に私は真っ直ぐにアベルを見ながら良いわよと低い声で答えた。アベルからは睨んでいるように見えたのだろう。アベルはなんだかこわぁとびびっている。


 男のくせに何びびってるのよ!


 リウィアの顔は険しくなった。アベルの実力は知らないが私兵隊の隊長でもあるしリウィアよりは上の筈だ。


 男ってだけで女より筋力があるのだもの!本当不公平よ!


 寄宿学校の女子で剣術が一番の子でも、男子の平均ぐらいの腕前であったのだ。まあ4対1という女子の割合が圧倒的に少ないのも要因だ。


 私が男だったら水兵になりたかったんだから!


 リウィアの脳内は寝不足と精神的疲労により大パニックであった。それにより八つ当たりが必要になった。


 ふと頭に馬車でのサベラとの会話を思い出した。


 アベル殿はリウィアさんを大切に思ってますよ


 アベルが私を大切って何よお!?どうせはぐらすんでしょ!?


 サベラがでは構えてくださいと片手をあげる。


 リウィアはぐちゃぐちゃな思考の中両手で木刀を構える。アベルはリウィアの物言いたげな様子に首を傾げながら右手で木刀を構えた。


「始め!」


 サベラが手を振り落とすと同時にリウィアは地面を蹴る。


「っだったら剣できくのみぃぃ!!!」


 ガッキィィン


 真っ正面から飛び上がって頭上に木刀を振り落とす。それをアベルは驚きながらも木刀で受け止める。しばらく押し合いになったが、力もなく身長が低いリウィアに敵う筈がないので後ろに引いて距離をとる。


「なんで受け止めたのよ!避けれたでしょ!?」


 リウィアにとっての渾身の一撃を難なく受け止められて大変ムカついた。多分避けられてもムカついた。

 アベルはえーとと頰をポリポリかく。アベルにとっては大変理不尽である。


「だってさー。俺の事コテンパンにしたいだろうし、受け止めた方がいいかなぁと」


 その言葉にリウィアはキレた。いや元々キレていたので益々キレた。


「はあああ!?馬鹿にしてるの!?」


「え?いやそうい」


 最後まで言わさずに木刀を左横腹に打ち込んだが、受け止められ舌打ちする。

 アベルは本気で殺す気かと身震いした。


「ね、ねぇ。リウィアさん。俺のことそんなに嫌い?」


 木刀での力比べにリウィアは本気で力を込めている。僅かにアベルが後退してる。


「嫌いに決まってるでしょー!!」


 だからとっとと本気になりなさいよー!


 アベルはリウィアが力任せに押す木刀をなんとか押し出し、その反動で後ろに跳びづさる。


「くっ。言うと思った」


 眉間にしわを寄せこちらを伺うアベル。リウィアは構わず攻撃を仕掛けようとしたが、サベラの言葉に身体がピキッと固まる。


「アベル殿〜!ご報告があるのですが、喋ってもよろしいです?」


「いいよー」


 緊迫感ないわね!


 アベルがきちんと構えをとってるので許す。


「実はリウィアさんとのミュージカルの帰り道に火の精霊(サラマンダー)とその手下があらわれて、リウィアさんを誘拐しようとしました」


「それは聞いたね」


 アベルは無表情にうごく。少し後ろに退がると勢いを付けてリウィアの頬すれすれの空間を木刀で突いた。


 ヴィィィイン


 剣の風圧に頬がビリビリと強張る。


 反撃してきた!


 アベルの木刀はまた別の場所をつづげざま打ち込んできた。リウィアは木刀で防ぐものの弾きれなくて手やら肩に痣ができそうだ。


 リウィアの部が悪くなろうがアベルと真剣に戦えて嬉しくなる。ようやくまともに 話せた気がする。楽しんでいたのにサベラはまだ報告をする。仕事熱心かな?


「下っ端とサラマンダーは逃げました。ちょうどいた私兵隊が水風船を使って

 サラマンダーの攻撃を阻止しました。リウィアさんの協力のおかげで屋根が吹き飛ばされましたが死人怪我人はいません」


 死人怪我人なし!良かった‼︎


 アベルの猛攻を受け流しながらリウィアは誰も怪我させてなくて安心した。アベルは攻撃をやめて首を傾げる。


「水風船はまぁ置いとくとして、どうやったら屋根吹き飛ぶの?」


 水風船を突っ込んで欲しかった!屋根については無視して欲しい!


「それはですねー」


「さ、サラマンダーが火玉を落としたからよ!」


 能力を使ったことを隠すべくリウィアはサラマンダーの仕業だと叫ぶ。だってアベル怒るもん。木刀を握る手が微かに震えた。アベルはリウィアの必死な様子に違和感を感じた。


「そっかー。なら剣にきくよ」


 語尾を低く言い放ちアベルは攻撃を再開した。それに反撃するものの身体が僅かに重く感じた。アベルは半眼になる。


「何か隠してるでしょ?」


「どういう意味よ!?」


「動きが遅くなった」


「ただの疲れよ!」


 アベルの胸元に向かって木刀を振るが、相手の木刀で絡め取られ弾き飛ばされた。木刀を拾おうとしたが剣先を首に突きつけられ動きを止めた。恐る恐る顔を見ると、アベルは目を細めてにっこり笑っていた。それはもう綺麗な笑顔だ。


「まさかリウィアが吹き飛ばしたの?」


「ほほほほほほほほ」


 目が泳いだ。しまった。これでは肯定しているようなものだ。逃げたいが疲れきって逃げきれる自信がない。


「能力使ったんでしょう?」


 バレたーー!


 ダラダラ汗が出た。嘘がつけない自分を恨めしく思う。もう開き直ろう。


「あの時は咄嗟だったのよ!火事にならないように必死だったんだから!私は悪くないわよ!」


 うん。私は悪くない。全てはサラマンダーとその一味のせいだ。そこら辺間違えないでいただきたい。


 コバルトグリーンの瞳がじっとこちらを見つめる。ん?アベルの瞳の色ちょっと青くなった?


 首に向けた木刀を下げアベルはため息をついた。


「たしかに仕方がないかもしれないね。俺が悪かった。でもね。心配ぐらいさせてほしい」


 プラチナブラウンの睫毛に縁取られた目を伏せた姿は哀愁が漂い一枚の絵画のように美しい。


 瞳の色の事はすっかり忘れて見惚れた。姿と心配という言葉に心臓がドキドキする。リウィアは頬を染めた。目を見開いてアベルの姿を焼き付ける。


「嫌いな俺に心配なんてされたくないだろうけど、両親がいない君を導く義務がある。本当はカーラと仲良くしてほしいんだけどね」


 アベルがそんな責任を感じてたとは初耳だ。だから父が死んでからやたらと構うようになったのか。少しもやっとしたが、アベルも若いのに偉いなぁと尊敬した。私は自分のことばかり考えてる。少しは見習いたいなぁ。


「アベルの為に何か私にできないかしら?」


 素直に口から出た言葉に自分でびっくりした。アベルも驚いてこっちを見てる。まぁ、今まで我儘な印象が強かったんでしょうね。


「私には自分のやるべきことが解らない。だから、アベルのやるべきことを教えてほしいの」


 叶えたい夢があった。母と父とずっと仲良く暮らして生きたい。努力はしてきたと思う。けど努力を嘲笑うかのように母と父はリウィアの横にいない。剣術だって鍛えて水兵になろうとした。女という理由で断られた。おかしいのだ。世の中がおかしくて仕方がないのだ。何故人は夢なんて抱くのだ。叶わないのなら夢など見させないでほしい。もしかしたら、他の人は夢を叶えられるのだろうか?それを確かめようとアベルの夢に縋ってみようと思った。リウィアを心配してくれる優しいアベルの夢なら応援したいと思った。


 アベルはそうだなぁと顎に指を添えて考え出した。


「アンゲラを助けてあげなよ。それは俺の助けにもなるから」



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