ドロドロ好きなメイド
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「湯加減どうですか〜?」
リウィアはメイド服の女性に肩にお湯を流してもらっていた。
「ちょうどいいです」
「なら良かったわ〜。腕を上げてくださーい」
「……」
言われた通り腕を上げる。脇の部分にもお湯をかける。その後、泡立ったスポンジで丹念に洗われた。
「ふふふ。なかなか湯あみのお手伝いなんてする事出来ないから、リウィアさんは平気で良かったわ〜」
リウィアは自分で身体を洗えない訳ではないが、ファニーがいるとつい頼ってしまうのだ。だから、人に洗われ慣れている。
「アベルは男だから無理として...サベラさんはよく来るみたいですよね?」
サベラさんを洗えばいいのでわ?
「サベラ様は嫌がるのよね〜。よく怪我をなさるから、人に見せるのが嫌なのよ」
「…なるほど」
私兵隊はなかなか物騒な世界らしい。
身内、親戚以外のアベルと親しい人を思い浮かべた。
「…恋人は?」
1年まで恋人がいたはずだ。邸宅に連れて来る事もあっただろう。そして、良からぬ事をあれやこれやしてたに違いない!
「ふふふ。旦那様は邸宅に招くことは一度もありませんでしたよ」
一度も?それってちょっとおかしくない?両親や祖父母がいるならまだしも...。ちょっとまてよ。アベルが子爵を受け継いだのは2年前でそれと同時に祖父母は別宅に移ったのよね。最後の恋人がギリギリ被るが1年は自由な筈だが、1年間だけだしそこまでおかしいこともないか。
「そこまで本気ではないようでしたわ。ほほほ」
髪を丁寧に洗いながらメイドの人は、リウィアの気になるところを答えてくれた。
本気ではないと聞いて何故かホッとしたが、結局弄んでいたのかしらとモヤモヤした。
「モテる男は良いわよね」
「モテる女の方が怖いですよ〜。平気で彼氏の悪口を裏で言ってますし、浮気しても隠し方が上手くてわからないのですって!」
何それ怖い。
「はい。目をつぶってくださーい」
ザバーと髪についたシャンプーが流される。
「リウィアさんは好きな人は〜?」
「プハッ。いませんよ」
顔に流れたお湯で呼吸が出来なかった。動揺した訳では決してない。
「恋愛はしたくないの〜?」
「裏切られるくらいなら恋愛はしたくないの」
思い出すのは母が父をナイフで刺す光景。伯爵邸にいる異母弟。あんな事になるなら恋愛はしたくない。世間では恋人イコール結婚とはならないかもしれないが、リウィアにとっては切り離して考えられないのだ。
「あらあら、お若いのに怖い事言うのね〜。穏やかな恋がお望みかしら?」
ドロドロの愛憎劇よりも退屈だろうが平和で穏やかな恋愛が断然良い。
両親も穏やか恋愛だったと思うけど、最終的にはあんまりな結果になった。
「恋愛自体したくないです」
「枯れてるわ〜!」
メイドの人は大仰に嘆いた。
友人にも同じ事を言ったら、枯れているとか言われた。別に良いけどね。
「まぁ。少し遊ばせてもらいますわ」
メイドはニヤリと笑った。
「何か言いました?」
小声で聞こえなかった。
「何にもないわ〜」
最近、小声で独り言が多いわね。流行かしら? リウィアも今度真似しよう。
(メイド視点)
見目麗しい期待の若手貴族として有名なアベル様に仕えて早5年。
ここのメイドになった理由は、アベル様を慕う令嬢達の醜い争奪戦を見るためである。
メイド自身は労働階級の出身だが、お金持ちの商人、世間で言うところのエリートを捕まえた猛者だ。
エリートを狙うライバルは軽く10人は超えた。勝利の鍵は相手が一目惚れしてくれたからだ。そもそも、私は勝てない戦には参加しない主義だ。会った途端、熱の篭った目でボーと見つめられてメイドは参戦することを決意した。
群がる女たちを次々と蹴落とすのは快感だった。しかし、誰も対抗しなくなり、結婚していざ夫と向き直ってみると冷めた。女性との戦いの方がよっぽど楽しかった。私が上位なのよと威張ることが快感だった。夫に対してはお金以外興味なかった。
冷めた途端にほかの男に惚れられた。浮気に走ってしまった。リウィアに言ったことは自身の過去の経験だ。浮気は、バレずに未だにしている。
これではいつかバレて破滅すると思い、他人のドロドロを見て発散させようとしたが思ったようなドロドロ劇がなかなかない。
アベル様こと旦那様はどこか冷めた目をして周りを見下している。モテる男の特徴だが、旦那様は基本的にみんなに優しく接していたから少し違う。1年前までは期待したような目をすることもあったが、今では諦めた目をしているのが常だ。
恋人を作ってやる事はやっているようだが、その冷めた恋愛は気に入らない。もっと熱量があるドロドロした恋愛が見たい。
最近は、男に興味があるのでは説が出来て、なるほどそっちか!と少し面白くなったが、男同士の恋愛劇はぶっちゃけ想像するのは良いが見たくはない。
もう別の貴族のところで働くかと思った矢先に、憔悴しきった旦那様が帰って来た。ドロドロを求める感情をそっとしまい、純粋に心配して気を使ってみたがお湯に浸かりたいと言う以外には何も言わなかった。他人に弱みを見せる事自体珍しいので、戸惑った。旦那様は首をハンカチで押さえており、怪我でもしたのかと心配した。洗濯物を回収するときに、ハンカチに紅いものが付いていて、血かとギョッとしたがよく見たら口紅だった。
蓋をしていた感情がにょきっと現れ、ニヤッとした。
あの冷めた目をした旦那様を弱らせる存在がいる。面白いわ。
エントランスの方が騒がしくなって、誰だろうと覗くと旦那様が寝間着のままお客の応対をしていた。
さっきまで真っ青だった顔色が嘘のように元に戻っている。親しいサベラ様が来たから、落ち着いたのかと思った。しかし、もう1人女性がいた。前に一度お会いしたわね。名前はリウィアさんでクレイ伯爵の養女。アベル様は妹の様に接していたわね。容姿が身長が低いせいでお子ちゃまに見えていたが、今はイブニングドレスの影響で大人びて見えた。
ふむふむと観察していると、老執事にお湯の準備をする様にと命じられ、渋々仕事をした。
せめてリウィアさんを探ろうと湯あみの手伝いを申し出た。リウィアさんは恋愛に興味がないようで内心舌打ちした。しかし、旦那様が女性を泊めるのは親戚以外初めてだと気づく。リウィアさんはカーラ様の娘になるが、血は繋がっていない。いける!楽しくなってきた!もしもに備えて隅々まで綺麗にしてあげよう。
込み上げる笑みを顔に出さない様に気をつけながら、リウィアの背中に泡の付いたスポンジを滑らす。
リウィアは悪寒がしたようで、こちらをそろーと向く。
「適当でいいですよ?」
あらま。気づかれたかしら?
「ほほほ。仕事ですから手を抜けないのです」
「...そうですか」
満面の笑みで誤魔化すと、リウィアはそれ以上何も言わなかった。
お湯から上がって、用意してもらった寝間着に着替え、お湯と寝間着を用意してくれたお礼と女王と何があったのかを聞こうと部屋に案内してもらった。
正直に言うと貴族令嬢の立場からして寝間着で会うのは抵抗はある。だからと言って貸衣装をまた着るのもおかしい。先にアベルが寝間着だったので、お互い様だと腹をくくることにした。
メイドはアベルの部屋の前で立ち止まり、リウィアに振り返る。
身長が高めのメイドの顔を見上げると、顔が真っ青だ。
「...どうしました?」
「どうしましょう〜。ああ!なんてこと!わたしとしたことがなんてこと!」
メイドが突然取り乱した。頭を抱え込むその姿は、悲劇のヒロインのようだ。
「どうしました?」
リウィアには意味がわからないので、同じように聞くしかない。
「リウィアさ〜ん!わたしを許して下さいますか!?それともわたしを見捨てますか!?」
…リウィアの方が頭を抱えたくなった。許すも何も本当にどうしたのよ。
「…ああ。やはり許してくれないのですね〜」
「...えっと、とりあえず落ち着きましょう。何があったのですか?」
「許して下さいますか!?」
もうラチがあかないので、適当に頷く。
「大丈夫ですから、話して下さい」
「お優しいのですね〜。良かったわ〜」
何でもいいから早く言ってよ。
涙が出そうだったようで、目を拭うメイド。悲壮なオーラが引っ込み、健気な少女のような笑みを浮かべた。
「実は、リウィアさんのお部屋の準備が出来てないのですわ〜!私すっかり忘れてましたわ〜!」
「...そ、そうですか。貴女は悪くありません。夜遅くにきた私が悪いんです」
思ったよりも大変なことではなかった。リウィアは床の上でも寝ようと思えば寝れるのでリビングでもいいのだ。
何故このメイドは、湯あみの時と違って、大袈裟に嘆くのだ。もう少し落ち着いてほしい。
突然扉がガチャッと開き、珍しく不機嫌な顔をしたアベルが現れた。
「…うるさい。今何時だと思ってるの?」
寝癖がついた短いプラチナブラウンの髪。顔を手で押さえて、メイドの持つロウソクの灯りを目から遮る。
寝てたわね。
メイドが慌てて謝罪をした。
「大きな声を上げて申し訳ございません。わたくしリウィアさんのお部屋の準備を忘れてまして、本当わたしとしたことがうっかりしてましたわ〜。どういたしましょう」
困った顔のメイド。リウィアは床で寝ると言おうとしたが、アベルが簡単なことじゃんととんでもない事を言い出した。
「そんなの俺と一緒に寝ればいいじゃん。行くよ」
「...そうよ。床と一緒に寝れば...ん?」
腕を掴まれ、部屋の中に強い力で引っ張られる。
「残業代執事に請求しといてね。もう帰っていいよお疲れ様」
「は〜い。ありがとうございます。おやすみなさいませ〜」
アベルはメイドに向けて棒読みで喋った。メイドは満足そうな笑顔で扉を閉めた。
アベルはリウィアの腕を掴んだまま、スタスタと居間から、寝室へ入りリウィアごと寝台に倒れた。アベルは俯せに倒れ、片腕が仰向けに倒れたリウィアの肩をがっちりと抑え込む。
「ちょっと!」
抗議の声を上げるが反応がない。まるで屍のようだ。アベルの腕を退けようとしてもビクともしない。
しばらく腕を持ち上げようと粘ったが、力では勝てないと判断し、大人しく離れるのを待つことにした。
「何で来ちゃったのかしら」
様子がおかしいと言われて来たものの、元気そうだ。サベラに騙されたのかしら。
暗闇に目が慣れてアベルの顔を覗くと穏やかな表情で寝ていた。綺麗な顔をずっと見てると動悸が酷くなりそうで顔をそらす。
「床が恋しいわ」
アベルの横は落ち着かない。床の上の方がよっぽど寝れる。




