貸衣装屋さん
日も暮れた頃、リウィアとサベラはミュージカルを観る為のドレスを貸衣装屋さんで借りる事にした。
ミュージカルは庶民〜王族までお金さえ払えば誰でも観ることが出来る。しかし、厄介なことにドレスコードがあるのだ。庶民は殆どリーズナブルな貸衣装屋さんを利用する。
リウィアは一応貴族だが、家に戻ると時間がかかるので近くにある貸衣装屋さんを利用することにした。
そのせいか庶民の質素な格好の人が建物の中に大勢いた。といっても、リウィアの格好も質素な分類だ。
この人たちみんなミュージカルにいくのかしら?
リウィアと違って、恋人か友達と観に来ていると思うと羨ましくなった。
私も次に来るときは友達を誘おうと、寄宿学校時代の2人の友人を思い浮かべた。メイドのファニーに教えてもらったのだが、父の葬儀に来ていたようで、2人はリウィアに逢いたがっていたそうだ。リウィアは湖に潜っていたので、当然会えなかった。
本当、お母さんのとこにずっと居たいとか、自分のことしか考えてなかったリウィアは恥ずかしくなった。これが落ち着いたら、手紙を送ろう。
考えに耽っているとサベラがドレスを抱えてこちらにきた。
「こちらのモスグリーンのドレスなんてどうですか?女王様が着ていた色ですよ」
「流行はこの色なのね。道理でグリーン系を着ている人が多い訳ね」
バラントの流行は女王か妃のその年の最初の社交界の格好で決まる。女王が珍しく新鮮な格好をしていた場合も流行になっていたりする。
社交界が苦手な上、父に止められていた(止めていた理由は朝わかった)リウィアは女王様に会った事がない。世間の人からは庶民と子供に優しいと評判だから、リウィアも好感を覚えている。だから、流行に乗るのも悪くないと思った。
この時までは女王様を尊敬さえしていたのだ。
「なら、それにしてもいいかしら?」
サベラの持ってきたのは、オフショルダーのイブニングドレスだ。おへそから下がドレープになっており足首まで布が長い。
身長の低いリウィアの足を長く見してくれるデザインで気に入った。
「ええ。気に入ってもらえて良かったです」
こういう風に世話をしてくれるなんて、姉を持った気分で嬉しくなった。
「今度は私がサベラさんのを選ぶわ」
お礼にと思ったが、止められる。
「私は男装しますので」
「え?」
サベラさんの男装は確かに似合う。今も白いシャツに黒のズボンなのだが、遊びに行くのに男装とはどういうこと?折角だしドレスを着たらいいのにとリウィアは思った。
「女2人では、ナンパの格好の獲物になります。それに男装の方がいざという時に動けますから」
「そうなのね。何かあること前提なのね」
思えば、この数日リウィアは人質になり、襲われそうになったりと散々であった。もう男なんてこりごりだわと遠い目をした。




