よくわかんないけど協力するわ(前半フリッツ目線で後半リウィア目線です)
「そして、そなたの魂の状態が完全なものか確かめに来たのじゃ」
「...」
鏡に映る彼女が発した言葉があまりにも衝撃的で頭が働かない。
僕の魂は一度消滅しかけた。
それを聞き魂の叫びなのか、首元に冷たい刃物を突きつけられたような恐怖を感じた。
そんな僕に気づいたのか、彼女は申し訳なさそうに謝った。
「そなたにとって思い出したくない事であるな。我の配慮が足りなかった。すまない」
何をわかった気で話しているんだ!
僕のことなんてこれっぽっちも知らないくせに!
アンゲラの言葉に憤った。
「悪いが、僕は信じていないから。当たり前だろう?誰がそんな言葉信じられるか!」
「すまないステファン」
「僕はステファンじゃない!フリッツだ!2度と姿を見せるな!」
鏡をリウィアに押し付けて、部屋を出る。アンゲラから逃げる己が1番腹立たしかった。
フリッツの部屋に残る2人と鏡。リウィアは何故フリッツが怒ったのかちんぷんかんぷんだった。
「我はこれからどうやって生きていけばいいのじゃ」
アンゲラは今にも死にそうな顔をして、ブツブツ言っている。
「アンゲラに見惚れてたくせに何で前世の話したら逃げるのかしら?小心者ね」
アンゲラを慰めたつもりだが聞こえてないようだ。
「あのね2人とも…。いや待てよあれはまんざらでも無さそうだったな。俺は口を出さない方がいいのか。下手に喜ばせて調子に乗られてもな」
「何ブツブツ言ってるのよ!」
アベルめ何かわかったな。そして、何か企んでいる。けしからん。
「アンゲラさんもうこれ以上深追いしない方がいいのでわ?魂は大丈夫でしたよね」
「確かに魂は大丈夫だ。だが、問題が1つあるんじゃ」
アンゲラは深刻な表情をしながら、リウィアとアベルに語り出す。
「200年前。瘴気の消滅と共に精霊使いの能力も失った。いや、失わなければならないのじゃ。それは瘴気にもなる能力なのじゃ。この鏡を触ってステファンは我と話しておったじゃろ?」
今は鏡をリウィアが持っている。
「確かに持っていたけど、それが何よ?」
「この鏡は、水の精霊しか使えない代物なんじゃ。しかし、ステファンは使えていた。これが意味することは...」
「なるほど、フリッツには精霊使いの能力が残っているという訳ですね。もしかして、消滅した一部の魂が復活したときに戻ったのでわ?」
「そうなるのう。やれやれ、神の能力でも切り離す事が出来ぬようじゃのう」
「ええと、ならどうするのよ?」
「瘴気がまだどこかにあるはずじゃ。それをステファンが我を使って消滅させるしかないのじゃ」
「瘴気があるの?それって大変なことよね?魔物が出るの?」
「形状は知らぬが必ずあるはずじゃ。植物を蝕んでおるかもしれんし、魔物かもしれんし、はたまた魔人かもな」
「アンゲラ〜。喧嘩している場合じゃないんじゃない?」
「好きで喧嘩しておらんわ!何故じゃ何故我を避けるのじゃ」
アベルがため息をつき、アンゲラに助言した。
「アンゲラさん。ステファンはもういないんですよ?フリッツ先生にとっては前世であっても最早関係のない事です。今のフリッツ先生を知る事が大事なことではないですか?」
アンゲラは泣きそうになった。
「ステファンはステファンなのじゃ。我はステファンに会いたいのじゃ」
こうしてみると、妖艶な美女もか弱い乙女に見えるわね。
突然恋人を失った気持ちは、想像するしかないが辛いのだろう。
ていうかアンゲラは心あるな。涙を見て確信したリウィアであった。
仕方ないわね。ここまで付き合わされたらとことん付き合ってあげるわよ。
「アンゲラ。案外フリッツ先生はステファンの頃の記憶があるかもよ?」
「真か!」
アンゲラの顔が輝く。
「フリッツ先生は精霊の研究をしているのよ?本も書いてるの。それって前世が関係していると思わない?」
「ほお!そうか!やはりステファンはステファンじゃな!」
「なら早速フリッツ先生の作品を拝みにいくわよ!」
「リウィアよ。お主は良い娘じゃなぁ」
「まあね」
リウィアはふふんと鼻を鳴らす。アベルのいた場所を見ると居なくなっていた。
「あれ?」
辺りを見渡しても居ない。いつの間に部屋を出たのか、扉が開いてアベルが出てきた。
「どこ行ってたのよ?」
すぐに戻ってきたから、ほっとした。トイレかな?
「ちょっとね」
うんトイレだわ。
アベルは面倒くさそうにはーとため息ついてる。
お腹の調子が悪いのだろうか?
「大丈夫?」
その言葉に少し驚いた様子で、ニコッと笑った。
「大丈夫だよ」
むむむむ。その笑顔とても素敵だわ。
赤い顔を隠すためにリウィアは背を向けた。
「実はこれから用事があってリウィア達に付き合えないんだ。1人だと危ないし護衛を貸すよ」
どうせレイアン子爵の仕事だろう。リウィアが本当は付き合わされているのだが、アンゲラに協力すると自分で決めたので文句はもう言わない。
「ふーん。わかったわ。護衛って?」
「入って」
リウィアはアベルの方に向き直す。
すると、男に襲われそうになったときに助けてくれた女性がいた。
「あ、貴女はあのときの!?」
赤いショートカットの髪の女性は、礼儀正しく挨拶した。
「私めはサベラと申します。クレイ私兵隊、副隊長を務めています」
クレイ私兵隊は、アベルを隊長としたクレイ伯爵の剣にも盾にもなる軍隊だ。
リウィアは伯爵邸に行く事が少ないためアベル以外の私兵を知らなかった。
「え?何であの時あそこにいたの?」
タイミングよくリウィアをナンパ男から守ってくれたのだが、何故あそこにいたのだろう。
「たまたまです」
「そっかぁ」
そういう時もあるよねぇ。
サベラさんはぷっと笑った。
何がおかしいのよ?
アベルは苦笑いした。
「くれぐれも1人にならないでよ?」
「何よ。子供扱いしないでよ。こう見えて剣の扱いなら負けないわよ?」
胸を張って威張った。それを見てアベルは眉をひそめる。
「2回も酷い目に遭っているのによく言うよ」
「...」
ぐうの音も出なかった。




