建国譚
アンゲラが語る『光と闇と四大精霊』
時は200年前に遡る。
世界は瘴気に満ちていた。瘴気は植物を枯らせ、動物を凶暴化させた。それは人間をも凶暴化させ殺し合いが始まり人口を減らしていく。
かろうじて瘴気から逃れられた人々は先の見えない未来に絶望しながら生きていた。
瘴気とは何だ?その疑問に誰も答えてはくれなかった。
この地獄の予言書がある。
平和の女神の啓示。瘴気が満ちる300年前に綴られた。
最後の神が去りこの地を管理する者は居なくなる
数百年の時が経ち 人々は災厄と向き合う事になるだろう
だが諦めるな 神は汝らに最後の希望を与える
この希望を慈しみ崇めば 再起の号令がかかるだろう
闇が光を導き 光に希望と使い手が集う
そして瘴気の地を巡れ
災厄の根源を絶つとき人の世が真に訪れることだろう
但し 失敗すれば瘴気の渦と共に神に葬られるだろう
最後に笑うのは愛を持つ者であることを忘れるな
最後の女神が地上を発つ間際に、人々に発した言葉だ。
最後の希望を託されたのはエリスという1人の女性。
エリスは世界を巡り、四大精霊を生み出した。
四大精霊はそれぞれ育ての親に託された。
精霊は湖に丘に火山に洞窟に住み着いた。
エリスは後に聖母エリスと讃えられる。
時は瘴気が満ちた時に戻る。
瘴気で狂った獣を魔物と呼ぶ。
ある辺境の村が魔物の集団に襲われた。村人は次々に噛み殺されていく。食用の為ではなく、ただ殺すための襲撃である。村人は抵抗するが、魔物の強さに敵わなかった。そして、村人は絶滅したと思われた。しかし、1人だけ難を逃れた少年がいる。後に闇の勇者と語られる者だ。
この少年は、王家に引き取られ王女と出会う。王女は後に光の勇者と語られる者だ。
王女は少年の魔物を元の姿に戻す能力に気づき、再起の号令がかかったことを確信した。
そして、王女の能力も覚醒する。
王女と少年は精霊の地を巡り、精霊の使い手を見つけ、精霊と契約を結ぶ。
王女は瘴気を己に取り込む能力。少年は瘴気を生物と切り離す能力。
精霊使いは瘴気をそれぞれの元素を動かす原動力に変える能力。
とりわけ王女の能力は辺り一面の瘴気を消す程強力であった。また、騎士の鍛錬を受けていた王女の剣の腕は超一流であった。
少年の能力は不安定で、蝕む瘴気の濃度が濃い人や植物、動物から瘴気を切り離す事は出来なかった。そして、少年は元は殺生を嫌う修行僧の為剣などまともに扱えなかった。
少年は精霊使いとの合技でようやく王女に届くかぐらいの能力だった。その為王女ばかり目立ち、自然と王女を光の勇者と崇めることが多かった。
役立たずと言われる少年は王女を妬むことも無く、ただ陰ながら支えることを選んだ。
世界を巡り瘴気を消して周る勇者一行。最果ての地にて、最後の瘴気を消し去った。世界は救われた。勇者一行はそう思った。王女以外は。
王女はこう言った。
「愚かな勇者供。わざわざここまでご苦労だったな」
王女の口調が突然変わり戸惑う一行。
「何だその顔は?気づかなかったのか?お前達は世界など救ってはおらぬ。魔王となる我の手伝いをしたまでだ!」
王女の姿は変形しドス黒く染まり、醜い魔物へと変わる。
そして、勇者一行は気づく。この魔王こそ女神の言う災厄の根源であることを。
魔王と戦う勇者達。力は魔王が圧倒し、苦戦を強いられる。
それでも魔王などこの世に存在しないのだから、精霊達は王女が悪役を演じていると思っていた。闇の勇者は瘴気と共に消される定めなのだ。だから、殺すことを躊躇うなという事だと思った。
だから、油断した。失態を犯した。
予想よりも大きく強力な瘴気に王女は意識を乗っ取られていたのだ。ましてや魂を消滅させる能力を生み出したことは勇者達は当然のこと神に近い知識を持つ精霊達にも衝撃をもたらした。
その犠牲者が水の精霊使いのステファンだ。その魔王の能力はステファンの魂を掠め一部を消し去った。精霊はまだしも人間は魂の一部を失っては死んでしまう。それだけではなく、転生も叶わず完全に消滅する。
アンゲラはステファンの魂の時を止め魂の消滅を阻止する。しかし、アンゲラ自身の寿命を犠牲にするその技は長くは続かない。勇者にステファンに乗り移ってくれないかと願う。勇者の魂とステファンの魂が混ざれば、ステファンの魂は助かるかもしれない。混ざった魂を元に戻す術はないが勇者の魂なら神も重い腰を上げるだろう。
勇者は応じた。ステファンの身体に勇者は入る事ができた。ステファンも魂の消滅は逃れた。そんな勇者に皆心を打たれた。勇者なら世界を救えると誰もが思った。
勇者の元に精霊使いの能力が集まり、光の剣を生み出した。その剣があれば王女を助けることは出来ないが魔王を倒す事が出来る。
但し、勇者は王女を諦めてはいなかった。魔王の瘴気を自分の抜け殻に移し光の剣で消滅させた。
王女やステファン、そして世界を救う為に勇者は自らの身体を失った。
そして、助かった王女は光の勇者とされ、真の勇者は闇の勇者として戦死したと語られた。
王女とステファンの身体の勇者は、結婚するが子をつくらず。ステファンの身体の勇者は、長くは生きられずに30という若さで亡くなった。女王となった王女は、神に夫の魂を元に戻してもらうように頼むために、後を追うように亡くなった。




