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生まれ変わりとの再会

 それから30分ぐらい歩いたが誰にも会わないし、足が痛い。

 辺りはペンキが剥がれたり窓が割れた建物が並んでる。ここではないなと素通りしようとしたその時、人の声が聞こえた。


 人!


 アベルと顔を見合わせ、お互いコクリと頷く。


 レンガの建物の中から声が聞こえた。

 恐る恐る入り口だと思われる場所に近づくと、うるせー!と怒鳴り声が聞こえた。


 リウィアは怖くなり、アベルの背中に隠れた。


 アベルは御構い無しにスタスタと汚い木製の扉に近づく。置いていかれるのも嫌なのでアベルの背中を追った。


 トントン


 アベルは木製の扉をノックした。


「ごめんくださ〜い」


 反応がない。


 ドン ドン


 アベルはさらに大きくノックをした。


「誰かいませんか〜?」


 おかしいなとアベルとリウィアは顔を見合わせた。


「開けてみよっか」


 ガチャっと開けた。中は廊下でその先に部屋があった。廊下には缶詰の殻やら、ワインの瓶やら散らかって汚い。


 アベルはスタスタと廊下を歩く。リウィアは汚い廊下に嫌悪感が募り入りたくないため見守る。


 すいませんとアベルは扉を開けた。すると部屋から、言い争う声が聞こえた。


「だから、何度も言ってるだろ!光の勇者と闇の勇者は逆なんだよ!」


「こちらも何度も申しておりますが。現代語訳なので、内容を変えないで下さい!」


「僕は陛下直々に執筆を頼まれたんだ。僕の思うように書かないでどうするんだ!」


「だから、陛下に頼まれたのなら、ちゃんとした史実に基づいて書いて下さい」


「これは事実だろうが!」


「これのどこがですか!?」


 リウィアのとこまで声がよく聞こえた。どうやら、アベルの存在に気づいてないようだ。

 アベルがこちらを向いて招いてくる。汚い場所は嫌だけど、我慢して廊下を歩いた。


 部屋の中を覗くと、本が散乱している。怒鳴り声をあげているのは2人。椅子に座ってる男性と机を挟んで正面にたつ男性。椅子に座ってるのが、茶髪の男性で無精髭を生やして30代前半に見える。立っているのが、黄色人種の東洋人で黒髪の男性、10代後半に見える。


「アンゲラに確認して」


 リウィアはポケットから鏡を取り出した。鏡を見ると、墨で塗り潰したように黒い。


「アンゲラ聞こえる?」


 呼びかけると、波紋ができ頬杖をついたアンゲラの顔が映し出された。


「なんだ?やっと見つけたか?」


「分かんないけど、確認して」


 鏡を言い争う2人に向けた。しばらく経って鏡を覗くと、頬を染めてうっとりと微笑むアンゲラが映っていた。

 そんな表情できるんだと、リウィアとアベルは少し引いた。


「それでどっちなの?」


 アンゲラは照れたように髪を弄る。


「茶髪の方」


「わかった。この鏡を見せるからアンゲラ説得して」


 するとアンゲラは顔を青ざめた。


「無理だ。こんな鏡に映る女などこわいだろ」


 急に弱気にならないで欲しい。いつもの女王モードはどこに行った?


「なら、どうやって連れて行けばいいのよ?」


「お主らで考えてくれ。我には無理だ」


 プツンと鏡が暗くなった。


「あっちょっと!アンゲラ!」


「あんた達誰?」


 リウィアの叫び声で、こっちの存在に気づいたようだ。

 男の人は怖いので、アベルに隠れた。

 アベルはこっちをむいて、どうするの?と聞いてくるが、アベルがどうにかして。


「用がないなら、出て行ってくれる?お前もついでに出ていけよ」


「貴方がしっかりと仕事してくれるのなら、さっさと出て行ってあげますよ!」


「だぁ!本当うるせーな!」


 また言い争いが始まりそうだが、アベルが一歩前にでて、喋り始めた。


「許可を得ずに入室して申し訳ありません。私はアベル・レイアンと申します。かの有名なフリッツ先生にお会いできて嬉しく思います」


 アベルが茶髪の男性の正体を知っていて驚いた。学校と自宅の往復しかしていなかったリウィアが知らないだけで世間あるいは貴族の間で有名な人なのかもしれない。


「アベル・レイアン?まさかゴシップ誌を騒がしているあのレイアン子爵?」


「…すいません。多分別人です」


 アベルは否定した。

 貴方以外にレイアン子爵はいないのだけど?

 ゴシップ誌は主に労働階級が好んで読む雑誌だ。内容は今話題の有名人の恋愛についてが多く、不倫や嫉妬による犯罪など教育上よろしくない内容ばかりなので上流階級からは下品だと毛嫌いされている。

 リウィアはもちろん読んだ事はありません。

 フリッツという人物はアベルに興味を持ったようで立ち上がり、こちらに近寄ってきた。


「はじめましてレイアン子爵。なるほど、世の女性たちが放って置けない理由も頷ける」


 アベルを上から下まで観察すると勝手に納得した。


 あんまり見ないで欲しいのだけど?


 リウィアがアベルの背後からじとーとフリッツを睨んだ。


「おや?お嬢さんは新しい恋人?」


「んなっ?!」


 リウィアの顔は真っ赤になる。


「違います。姪です。誤解しないで下さい」


 アベルはスパッと否定。

 違和感あるけど姪といえば姪だね。

 そこまで刺々しく言わなくてもよくない?


「へぇ。まぁそういう事にしときますか」


 ニヤニヤ笑うな!


「それで、僕に何の用?その姪っ子の反応はサインが欲しいとかじゃないでしょ?むしろその子は僕の正体を知らなかったね?」


「ご明察の通りです。フリッツ先生のことは私が個人的に知っているだけです」


「へぇ。個人的にねぇ。僕の作品は女性向けばかり。きっと恋人とみたミュージカルで知ったんだね。僕の名前を知っているなんて流石だ」


 ほお。アベルは恋人とミュージカルに行ったことがあるのか。さっきの言い争いと合わせて考えるとフリッツは脚本もできる執筆家だね。覚えちゃうほど、ミュージカルにアベルは通っていたのか女性と。


「私のことはこれくらいにしましょう。あちらの方は大丈夫なのですか?」


 アベルの目線は東洋人の方へ向いた。

 図星だったんだなとリウィアは眉をひそめた。

 東洋人の方はやれやれと呆れて、リウィア達の横を通り過ぎて廊下に出たところで振り返った。


「話していても無駄なので帰ります。この事は陛下にお伝えしますので覚悟して下さい」


「へいへい。帰った帰った」


 フリッツはしっしっと手で追い出す動作をする。

 東洋人の方はスタスタと去っていった。


「いつになったらお嬢さんを紹介してくれるわけ?そんなに喋らせたくないのならいいけど?」


 リウィアとしては、フリッツのように男臭さを感じるような人種とはあまり話したくないのだがアンゲラのためにも仕方ないよね。


 アベルの横に並びフリッツに向き合った。


「私はリウィア・クレイと申します。フリッツ先生にお話があり参りました」


 スカートを摘み会釈した。


「これはこれはご丁寧にありがとうございます。私は只のフリッツです。精霊研究の傍ら執筆活動もしております。以後お見知り置きを」


 わざとらしく胸に片手を添えて会釈した後リウィアにウィンクまでした。

 少し背筋が寒くなった。

 いやいや、それより精霊研究で執筆活動にフリッツって何か引っかかる。

 はっと気づいた。リウィアが精霊について調べてるときに読んだ本の著者じゃないか!

 文章が優しく丁寧でわかりやすいため、気に入っていた本だ。

 あの文をワイルドな如何にもアウトドア派な人が書いているなんて意外だ。


「あ、あの『精霊の生態』の著者ですよね?私その本がお気に入りなんです」


「もっと砕けた口調で良いよ。今更だけど僕まで丁寧に言わないとダメ?」


「なら、お言葉に甘えて。フリッツ先生も気にしないから、元の口調でどうぞ」


「そらどうも。作品を気に入ってくれるなんて有り難いね。関係者以外には秘密だけど、『光と闇と四大精霊』の現代語訳というか解説本になりそうだけど、そちらも年内には出ると思うからよろしく」


 光と闇と四大精霊はバラントでは有名な物語であり、今の王家の成り立ちが記された歴史書でもある。

 文章は約200年前に書かれた当時のままの為、古めかしい表現が多く非常に読みにくい。

 リウィアは家庭教師から一度だけ読んでもらったが、内容の半分も理解出来なかった。古い表現に気を取られて物語を楽しむどころではない。

 大事なことは、滅びそうな世界を救った光の勇者と闇の勇者と四大精霊のそれぞれの精霊使いのうち、光の勇者と水の精霊使いが結婚して今の王家が誕生したことだ。家庭教師曰くそれが分かればいいそうだ。

 今の王家は不思議能力があった子孫なんだぞとすごいんだぞって言いたいんだね。


「さっき言い争いしていたこと?あの人怒って帰っちゃったけど大丈夫なの?」


 関係者以外秘密って初対面でよく知りもしない人に話して良かったのかな。

 やはり見た目どうり豪快でいい加減な男なのだろうか。


 フリッツはにっと笑った。


「大丈夫!気にするな」


「そうですか」


 怪しいが関係者でもないしもう気にしないどこう。


「早く用事を済ましたいんだけど?」

 とアベルがリウィアに耳打ちする。


 胸がどきっとした。アベルの口調は不機嫌なのだが、低めにいった声が頭を痺れさせ、鼻にアベルのいい香りが漂って頭が一瞬クラっとした。


「うー」


 不意打ち禁止。赤い顔で唸りながらアベルを睨む。アベルの低い声って破壊力あるのね。


 アベルはどうしたの?ってキュトンとしてるし。自分のフェロモン自覚してよ。


「見せつけてくれるねぇ」


 フリッツはニヤニヤしてこっちを観察してる。楽しそうだな。今度はフリッツを睨んでやった。


「おいおい。お嬢さんそんな顔したら逆効果だぜ?」


「何のことよ?」


「いやだから、そんな真っ赤な顔で睨んでもかわい…。アベルくん怖いからその笑顔やめよ?」


「何のことでしょう?」


 フリッツが青い顔をしてアベルを見るから、リウィアはアベルの方を向く。それはそれは美しい淡い笑みを浮かべてフリッツを見ていた。目が笑っていなかったけど。


「…からかって悪かった。だから早く要件言って帰ってくれ。マジ怖い」


 フリッツがふらつきながらさっき座っていた椅子に戻った。

 アベルが何を怒っているのかわからないが、怖いから要件を早く終わらそう。


「実は水の精霊(ウンディーネ)の長にフリッツ先生を連れてきてほしいと頼まれたの」


「へぇ水の精霊(ウンディーネ)って町あったっけ?」


「違うの。精霊の水の精霊(ウンディーネ)よ。フリッツ先生水の精霊(ウンディーネ)の前世の恋人だそうよ」


「浪漫だね〜。流石僕のファン」


 フリッツは何か納得したようにうんうん頷いている。


「悪いけど、サインで我慢してくれ」


「何故サインなのよ?何か誤解してない?」


「え?僕のファンの妄想だろ?」


 あーそうきたのね!確かに普通に前世って言われても何のこっちゃ妄想か?ってなるわよねぇ。

 仕方ないから、鏡を見して納得してもらうわ。


 鏡をポケットから出して呼びかける。


「アンゲラ〜いる〜?」


「お嬢さんまで妄想癖が…」


 フリッツが何やら誤解しているが、この際無視しよう。


「貴女の恋人が逢いたいって言ってるわよ!」


 真っ黒な鏡に波紋が揺れた。スーと真ん中からアンゲラの顔が映しだされる。


「リウィアよ。それは誠か?」


 照れて髪の毛いじっている。

 騙すのは可哀想に思えたが、リウィアにはどうにもできないので、当人同士に任せる。


「ええ。フリッツ先生いいわよね?」


 フリッツを見ると、鏡が喋ったと驚いてる。


「先生?」


「...え?」


「アンゲラと喋って」


 水鏡をフリッツの手に握らした。

 フリッツはギョッと見る。


「…綺麗な女性だな。何これ動くし絵じゃねぇ!?」


「綺麗とは嬉しいのぉ。そなたは随分漢らしくなって、その姿もかっ格好いいのぉ」


「あっどうも。僕の前世を知ってるのか?」


 え?さっきリウィアの言葉疑っていたのに掌返すの早くない?やっぱり男は美人には弱いのね。


「ああ。そなたは我を覚えておるか?」


「…いや覚えてない。よければ教えてほしいんだが」


「我はアンゲラ。水の精霊(ウンディーネ)の長をやっておる。そなたは前世で水の精霊使いで我のパートナーとして勇者と共に旅をしていたのだ」


「僕が精霊使い?それって200年前の救国の旅のことか?」


「無論そうじゃ。そなたの名前はステファン。バラントを建国した女王の夫の名前

ぐらいきいたことはあるじゃろ?」


「…嘘だろ」


 フリッツは呆然としている。


 リウィアもフリッツの前世のことを始めて聞いたのでびっくりした。

 アンゲラの言うことが本当ならフリッツは、前世で光の勇者ことバラントの初代女王と結婚していた。

 なのにアンゲラと恋人って修羅場以外想像できない。

 ステファンと女王は30代で亡くなる。きっとステファンはアンゲラに嫉妬で殺されたのね。


「アンゲラがフリッツを殺したの?」


 フリッツがリウィアの言うことに驚いて水鏡を落としそうになったが、慌てて持ち直した。


「まぁ。最後まで聞け。光の勇者と結婚したステファンは正しくはステファンではないのじゃ」


読んでくれてる方ありがとうございます!!(*≧∀≦*)

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