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軽薄男は好きじゃない


その日のお昼過ぎ。リウィア達は忘れかけていたアンゲラの恋人捜しを再開した。ウィルが大体の場所を予想して、アンゲラと通信できる水鏡で捜す。この水鏡、遠くからでもアンゲラとなら顔をお互い見ることができるのだ。アンゲラは姿を見ただけで恋人だとわかるそうだ。それはそうとして。


「ウィルがなんでわかるのよ?」


王都の中央にそびえる王城のとんがった屋根が煉瓦の建物の上から覗く。

リウィア達が歩くこの通りは商店街だ。この日は晴れて、絶好の外出日和のため人が多い。同い年ぐらいの華やかな貴族の女の子をリウィアはつい目で追ったが、よく見たらアベルのが美人だわと我にかえった。


「ないしょー」


ウィルが両手を頭の後ろで組んで素知らぬ態度で答える。腹部の火傷はすっかり治ったようでウィルは元気に動けるようになった。普通の人間なら重傷だったが、精霊のため身体が丈夫で回復も早いようだ。リウィアも昨晩例の男に薬を嗅がされ気絶したがすぐに意識が回復した。

アベルは眉間に皺を寄せる。


「人には散々話させといて、それはどうよ」


アベルは苦々しくウィルを責める。アベルの恥ずかしい話なんてしてないじゃないの。恥ずかしかったのはリウィアの方だが、どうしたのだ。アベルは怒った顔も化粧してないのに綺麗だな。リウィアもしてないけど良くて中の中だよ。


「だって、話したら殺されるんだもん」


呑気に言ってるけど、物騒だな。あんまり興味がなかったから良いけどね。


「アベルやめときましょう。あんまり関わらない方が良いわ」


「わかったよ」


アベルははーとため息をついた。くっ この美人め。とアベルの顔に見惚れているとウィルがにやっと笑った。


「リウィアちゃんってアベルのこと好きだね〜」


何だと!?ウィルのびっくり発言に思わず固まった。


「...リウィアもこの顔が好きなの?」


アベルは冷静に自分の顔を指す。どうやらアベルにとっては見た目に惚れられるのは日常茶飯事の様だ。私もそこら辺の女、いや男もいるな、と一緒にされては困る。


「むしろ嫌いよ!」


アベルの気持ちを考えずに勢いで言ってしまった。しまった。後悔したが遅かった。


「そう」


アベルはにっこり笑った。それはとても寒々しい周りを凍らせる笑みだった。

嫌いって言われたら誰でも嫌な気持ちになるだろうが、どう答えたら正解なのよ。不器用なリウィアにはアベルを喜ばせる答えを用意できない。もう投げやりだ。


「べ、別にアベル自身に言ったわけではなくて、顔が私よりも綺麗だから嫌いなのよ!」


うん。この発言はやばい。周りが注目してるし、逃げよう。


「えっちょっ!待ってよ!」


ウィルが焦ってるが、気にしないで逃げた。




「だーもう。だから、アベルの監視とか無理なのよー!すぐこうなるんだから!」


苛ついて喚いた。貴族令嬢としてはしたないが、路地裏なので許してほしい。ハーフは感情のコントロールが難しいか、確かにさっきは冷静に対処出来なかった。これからどうしよう。どんな顔でアベルのところに戻ればいいんだ。自分の顔を見てみようとスカートのポケットから頭ひとつ分の大きさはある鏡を取り出した。


「鏡よ鏡。この世で一番美しい女はだあれ?」


ふざけてみたけど、鏡に映っているのは呆れ顔のアンゲラだった。真っ赤で色気のある唇が開く。


「戯けたことをしてないで、はよう捜せ」


鏡よ鏡。何故この世には美人が多いのだろうか。リウィアも仲間に入れて下さい。


「はいはい。私はただの雑草ですよ」


鏡をそっとしまった。すると、土を踏む音が近づいてきた。男だな。しかも二人。くすんだ金髪の男が話しかけてきた。


「どうしたの?誰かと待ち合わせ?」


「...」


男のにやけた顔が不気味で答えれなかった。すると、おや?と顔を覗きこまれる。


「この子なかなか可愛いよ。俺好みだわ」


もう一人の男にそう話す。その男はサングラスにハットと立襟で顔が全くわからない。


「見張っててね?」


くすんだ金髪の男にそう言われたがサングラスの男は動かないし喋らない。サングラスの男を何処かで見た気がした。緊張で身体が動かないことを良いことにくすんだ金髪の男はリウィアの顎を持ち上げた。男の顔が近づきリウィアに囁く。


「大人しくしてれば、痛くしないよ」


怖い。身体がガクガク震える。寄宿学校で騎士の基礎を学び、剣の成績も女子では学年2位のリウィアだったが、男嫌いは治らなかった。ましてや、色恋に疎いので、男に迫られると大混乱するのである。これで万事休すかと思うと、頭上から人が降ってきた。


「その手を離しなさい!」


ショートカットの赤い髪の女の人だ。黒い布のズボンに白いシャツで男に見えるが、声で女だとわかる。

その女性はリウィアを庇って男から離してくれた。すると男はチッと去っていった。サングラスの男はすでにいなかった。


「あ、貴女は?」


女性というのもあって、安心した。

赤い髪の女性は微笑んだ。すると風が吹き、リウィアは目を瞑った瞬間に赤い髪の女性は消えていた。


何あれー!カッコいい!

リウィアの胸はときめいた。


「リウィアちゃんって惚れっぽいねぇ。アベルも大変だわ」


いつの間にウィルがそばにいた。その生温かい目をやめてほしい。


「いつの間に!」


「いやさ、さっきの風俺だったんだよ」


そういえば良いタイミングで風吹いたね。わざとかな?


「さっき赤髪の女性が助けてくれたんだけど、誰かな?」


「というか、何があったの?」


「えっ?!あー。男に挨拶されただけよ」


話すのも嫌なので隠せたら隠しておこう。だって何にもなかったんだし。

ウィルがえー。って顔してるし。疑ってるな。


「それよりアベルはどこ?」


「え?来てないの?」


ウィルがむしろきいてきた。アベルがまさかの迷子か。と自分が逃げたことを棚に上げて心配した。するとアベルが現れた。ほっとしてアベルに近づくと、アベルはしょぼんとした顔をしていた。


「どうしたの?」


「リウィア。ごめんね」


そう言いながら、リウィアの頬を両手で包む。


「ごめんね」


優しい目つきでリウィアを見つめる。何の拷問だ。もだえ死ぬ。顔が熱い。


「熱でもあるの?」


そう言って、アベルがリウィアのおでこにコツンとアベルのおでこをくっつけた。


その至近距離でもアベルは目を優しく細める。死んだなこれ。


リウィアはふらーと倒れた。いや、倒れたかった。アベルが支えました。そしてまさかのお姫様抱っこ!?


「アベルそれ以上はリウィアちゃんが死ぬから!」


ウィルが察してくれた。もうウィル様と呼ぼう。


「ウィルは黙ってて」


しかし、無情にもアベルはお姫様抱っこをやめなかった。あー楽だわ。じゃなくて、顔が近い!腕が、胸板が触れているだけで細いながら逞しいとわかる。


「あ、アベル。その下ろして」


必死に呂律の回らない口で訴える。

アベルが相変わらず優しい目で見つめるので、自分が自分なのか分からなくなってきた。


「わ、私は元恋人じゃないわよ。あんなに美人でもないわよ」


目を覚ましてほしい。私は只の雑草だ。アベルの横に並ぶのに相応しくない。思えばアベルの恋人達は皆ジャンルの異なる美少女であった。そうきっとアベルは外見重視派だ。しかし、中身ももちろん重視してある。恋人達は賢い人だったりお淑やかであったり、リーダーシップがあったりとすごかった。え?両方?うん。リウィアはどう頑張ろうと無理だ。リウィアはすぐ怒るし、拗ねるし、逃げるし自分でも情けない。恥ずかしいので俯いた。


「やっぱり、それが原因か。俺はねリウィアが嫌がるなら恋人を作る気なんてなかったんだよ」


そんなことを言われても困る。普通好きじゃないと付き合えないでしょう。


「でも、リウィアは女性の気持ちを尊重してって言ったよね。その時悲しかったんだ」


その言葉にびっくりした。アベルを見ると悲しそうに目尻を下げている。


「俺の気持ちはリウィアにとっては二の次なのかと思った」


確かに、当時のリウィアは女性が告白するのはとても勇気があることだと思って、アベルを傷つけてるとは知らずに本心ではない事を言ってしまった。やってしまった。いくら男嫌いだからって、身近にいるアベルの気持ちを考えていなかった。これはリウィアの心に重くのしかかった。


「ごめんなさい」


どうしたら許してくれるんだろうと思い。アベルの胸に頭を埋めた。


「あれはリウィアの本心?」


首を横に振った。


「私には告白だなんて大それたこと出来ないから、それで振られたら死んじゃう。だから、そう言ったけどね。私は相手に自分を重ねてたの。今ならそう思える」


アベルは笑い出した。


「当時は9歳だったんだよ?もうそこまで考えてたなんてすごいよ。第1、4つも歳上の男に相談された時点で、理不尽でしょ。リウィアは怒っていいんだよ」


世間はそうなのかしら。でもリウィアはそうは思わない。


「アベルはいつでも私を対等に扱ってくれたでしょう?だから私も真剣に考えたのよ」


父は母と離婚してからは、よそよそしくて、リウィアは辛かった。ファニーが姉みたいに接してくれるが、使用人という枠組みからどうしても外すことが出来ない。近所の子供は、何処か余所者と接してる様な扱いだし、正直なところ寂しい。

しかし、アベルはリウィアが避けようとも辛抱強く接してくれた。毎日のように家にきては何気ない日常の話やら、学校の話をしているのをリウィアはなんともなしに聞いていた。表面上には現れなかったであろうが、内心感謝していた。だから、いざという時は助けになりたかったのだ。


よっぽど意外だったのか、アベルは目を見開いてびっくりしている。


「そんな風に思ってたなんて意外」


さぞアベルには生意気な子に見えたんだろうな。そんなにびっくりしなくてもいいのでわ?そう思うと、冷静になった。

恥ずかしいしお姫様抱っこをやめてほしい。ウィルが見当たらないし。


「離してほしいんだけど?」


アベルがさらにびっくり。いやいや、恥ずかしいからね!

ゆっくり地面に立たしてくれた。


「ウィルはどこ行っちゃったのよ?」


アベルが切り替え早いなぁとぼやいているけど、気にしないどこう。




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