私が悪うございました
「いや〜。死ぬかと思った」
翌朝。病院の寝台の上でウィルは寝ていた。上半身は裸で腹部は包帯でグルグルだ。ウィルはあんまり筋肉ないなぁ。と 寝台の横に立つリウィアはつい胸筋を見てしまった。
「リウィアちゃんのえっち〜」
「え!あっ!ごめんなさい!」
怪我人に対して失礼であった。本当に申し訳ない。
「べつに怒ってないよ。俺が呼び出したんだし。椅子に座って」
素直に寝台の横にある丸椅子に座った。ウィルは和やかな笑みを浮かべてたが、急に無表情になった。
「昨晩さ。使ったよね」
「何のこと?」
何だか先生に怒られている気分だ。ウィルは精霊だから、ハーフが能力を使い過ぎるとダメだと知っているんだろうな。
「とぼけないでよ。水の精霊の能力使ったよね?」
「ええ。確かに使ったけど...」
「あの時は仕方がなかったって?」
いやいや仕方がないでしょう。こっちは人質で、なんか知らないがアベル焦ってたし。そのあと、ありがとうってアベル言ってくれたし、良いことしたよねわたし!?
「君はハーフなんだよ?能力を使ったらどうなるか知ってるよね?」
父が心が壊れるとか言ってたわ。
「知ってはいるけど、ただの迷信じゃない?」
「それって、君が何度も能力を使ってるから言ってるの?」
ぎくっ 誘導尋問かー!そりゃ、かつての私は湖に潜るために頑張ったさ!冬の湖で、氷のトンネル作るとかアホなことやってたよ!そんなもの出来なかったけどね!
「ほほほ」
ウィルはほぼ初対面なんだから、そんなに心配するほど仲良くないでしょう。
「君ね。俺には関係ないって思ってるでしょう。でも君だって俺が火傷した時、心配してくれたでしょう?これでも、君には感謝してるんだよ?だからさ、君に何か合ったら後味が悪いわけ」
「だから能力を使うなと?」
いやでもまたヴィニーが現れたら、心よりも命の方が大事だしと思ってたら、アベルが部屋に入ってきた。なんか恐い顔してるし!
「何かって何?」
ウィルにきいてるし、いやもうこの話題やめようよ。
「大したことじゃないわよ」
「リウィアは黙って」
あっやばい。これは逃げよう。勢いよく立とうとしたら、アベルに手で上から頭を押さえ込まれた。痛いんですけど!
「アベルは何年もリウィアちゃんの近くにいるよね?何かリウィアちゃんの様子がおかしい時なかった?」
「…それはあった気もするけど、それと関係ある?」
え?私何かおかしかった?全く記憶にございません。
「リウィアちゃんが水の精霊と人間のハーフって教えたよね?ハーフってねなかなか生まれてこないんだ。少なくとも俺が見たのはリウィアちゃんが初めてだね」
「へー。ウィルって何歳なの?」
「えーと33だよ。妻もいるよ。人間と精霊って寿命そんなに変わんないよ。ただずっとこんな姿だけどね」
「え?どうやってこんな姿で生まれたの?」
「基本的に精霊は死者の彷徨う魂が自然と融合して出来るんだ。だから、俺の場合、風の中から現れたりしたらしい」
バラントでは人が死んだら冥界から使者がきて、魂が回収される。だが、未練のある魂は使者から逃げて、彷徨うこともある。まぁ、実際には見えないからわからないけど。
「この世に未練は?」
恐る恐るリウィアは聞いてみた。チャラ男にも過去の闇があるのかもしれない。
「いや。前の自分は覚えてないよ。でも、今の生活は悪くないね」
さてと話を戻した。私としてはもうここら辺で終わって欲しい。
「ハーフって珍しいからなかなか記録に無いんだけど、心を少しづつ形成していく精霊より感情豊かだけど能力が低いし、人間より身体が頑丈だけど感情を上手くコントロールできないみたい」
感情のコントロールが出来ないって、すぐに怒る人みたいじゃないか。
「確かに」
アベルが大仰に頷く。
すごく苛ついたが我慢我慢。
「何故かは知らないけど、ハーフは精霊の能力を使いすぎると感情のコントロールがより困難になる。まぁ、これは我が族長から教わったんだけどね」
すご〜い。そういうことだったのね〜。
「へー。ウィルありがとう。じゃあ、わたしはこの辺で」
また、去ろうと立とうとしたら、アベルにまた頭を押さえられた。痛いな。
「何よー!私そこまでは知らなかったし、能力なんてそんなに使ってないもん」
「へー。一応知ってたんだ」
にっこり笑ってるんだけど、アベルの目が恐い。
コイツら揃って察しがいいな!私が鈍いのか!ハーフだからか!なんでウィルのが感情読めてるの!
ウィルを睨むと、愛のおかげさと自慢げに言われた。あっウィル結婚してるから、心あるんだわ。納得。
「昨晩は助かったけど、随分使い慣れてたよね?初めて会った時も使ってたよね?一体何回使ってるの?」
「えっえーと。130回ぐらい?」
一応やばいかなと数えてはいたんですよ。だから2人とも有り得ないって顔をしないでほしい。そんなけかーって思ってほしい。ごめんやっぱり自分でも多いと思う。
ウィルが顔を引きつらせた。
「リウィアちゃんがおかしい時あったってアベル言ってたよね。詳しく聞かせて」
アベルが言わないとリウィアが反省しないよなぁ。と悩みながら話し出した。
あれは、一年と二ヶ月前の春のこと。貴族の毎年恒例の社交会シーズンが始まった。リウィアは社交会デビューの年であった。思えばその舞踏会当日の朝から様子がおかしかった。まず、貴族の女性は舞踏会に行くのに一日かけて準備をする。リウィアが朝から行ったことは、かつていた執事を口説くことであった。しかも妻子もち、その後執事は泣きながら辞表をだし去って行った。
「面白い冗談ね〜」
確かに執事は辞めていったが、違う理由じゃなかったっけ?
「まぁ、これはまだ序の口だから」
「へ?」
その後、屋敷を抜け出し、エッディンの町にいる同い年の男を誑かした。
「キス寸前だったんだよ。俺が止めたけど」
「イヤー!」
頭を抱えた。何じゃそりゃー!!
「まぁ向こうも気があったと思うし、気にしないでいいんじゃない?」
「なんか普通に話してた気はするけど、キスするような感じじゃなかったわよ!」
ウィルが冷静に分析する。
「なるほど、それは恋愛面の感情が暴走してたんだね。リウィアちゃんの記憶は精神衛生上の都合で書き変わっていたということか。で、続きは?」
「...これでお終い」
良かった〜。良くないけど、良かった〜。ウィルが全然納得してないけど、もうないよね?
「それでは、元に戻った今の状態に納得できない」
「あー、あとは舞踏会で、大勢の男を誘惑してたね。俺が止めてなかったら大変だった。それでリウィアは満足したのか元に戻ったよ」
これか!半年前の誰でも誘惑する発言の理由はこれだったのか!アベルが止めてなかったらと思うと考えたくない!そりゃ、避けるよ!私が男だったらそんな尻軽女避けるよ!
「ごめんなさい」
本当に申し訳ないと思い謝った。
「いや、こっちも酔っ払いかと誤解してたから、いいよ。ただ、もう能力は使わないでね?」
「はい。使いません」
心の底から、誓います。もうそんな尻軽女にはなりたくありません。
アベルが満足したように、綺麗な笑みを見せる。くっ。浄化される。
「リウィアはあんまり寝てないでしょ?仮眠室使ったら?」
「それじゃ、お言葉に甘えて…」
私は精神的なダメージが酷いので、その言葉は助かった。




