空気の読める黒幕(アベル視点)
「今頃リウィアちゃん何してるかな」
「…」
「寂しくて。俺らの部屋来てないかな」
「…」
「湯浴みしてるのかなぁ。あの子意外と胸ありそ」
「黙れウィル」
「だって。野郎2人でこんな暗闇に潜んでも楽しくないだもん」
アベルとセルウィルスは現在最初にとった質素な宿にいる。しかもランプも付けずに、真っ暗な中となりの部屋の様子をひたすら気にしている。
「まあ退屈なのは頷けるけど、もう少し静かにしてくれない?」
「へいへい」
手に持つ糸がゆっくり引っ張られた。
「きた」
静かに扉を開けて廊下に出る。隣の部屋の扉の前でウィルに合図を送る。
扉を一気に開けると同時にウィルが風になり、部屋の中にいた手にランプを持った2組の男を突風で壁に打ち付けた。
ドカーンと痛そうな音がした。
「一丁上がり♪」
ウィルは部屋の真ん中に悠然と立っている。
「お疲れ」
アベルはランプが灯る部屋を見渡した。1人は気絶して、もう1人はかろうじて意識はあるようだ。意識がある方に見覚えがあった、あの丸いサングラスに黒い燕尾服の男じゃないか。ステッキ持ってるし、武器かな。ステッキを取り上げて、男の喉元ぎりぎりに突き刺した。男はビクっとした。
「ここで何しようとしたの?」
男は怯えて声が出ないようだ。それともわざとかな。
「聞こえてないの?じゃあ耳いらないよね?」
そっとステッキで耳に触れた。
「ゔ、ヴィニー様に頼まれまして...」
「それは知ってる。だから、何をしようとしたの?」
「あのウンディーネの娘を人質にして、爵位を譲るように貴方を脅せと命令されました」
「ウンディーネの娘は恋人でもなんでもないよ?それに俺はクレイ伯爵じゃないから、脅しても無駄でしょ」
「それが命令ですので、わたしにはなんとも...」
舌打ちしたい気分だ。ヴィニーはほぼ的を得た正確な行動をしている。俺がいつリウィアに好意があると分かる行動をした?あの一年前の事は不可抗力だったが、あれ以来噂がたたないように気をつけたつもりだった。やはり恋人をつくらないと前の噂が更新されないのか。
それに子爵である俺の言葉なら女王もきくかもね。
「ヴィニーはどこにいる?」
なんとしても消さねばならない。
「心配しなくともここにいる」
声にハッと扉の方を見る。
そこにはリウィアを人質にした茶色の髪の貴族風の中年の男がいた。しかも肩に光る大きなトカゲを乗っけている。
あれはもしや火の精霊か!?
「ご名答。これは火の精霊だ」
何にも言ってないし!
不気味な男だ。
「若造がこの私に敵うと思ったのか?」
茶色い瞳にはただ闇を感じる。
こいつ一体何人殺した?
「おや?殺めた数なんぞ数えたことないな」
仄暗い笑顔を浮かべる男にぞっとした。こいつはヤバい。人を殺めるのは本当に最終手段だった。だが、ヴィニーの場合はそんな甘い考えでは、此方が殺される。
「そうそう。それがいいと思うが、彼女はどうするのかね?」
「くっ」
「あの〜。さっきから何独り言言ってるの?頭いかれてるの?」
ウィルよ。空気読め。お前一応風の精霊だろ。リウィア完全に気絶してるし、いや気絶してて良かったかもしれない。
「おや?私は至って普通ですよ?ねえ?」
「オイラ普通のやつには興味ないから違う」
火の精霊が喋った。
「おやおや。酷いな」
「リウィアちゃんを離してよ」
「それは、こちらの条件を呑んだら離そう」
ほら来た。結局これだ。
「もうわかってるだろう?」
アベルを見るヴィニーの瞳が女王にヴィニーこそがクレイ伯爵に相応しいと言えと脅迫してくる。
「でなければ、彼女を…」
神秘を使ってはいけない。使えば自分が壊れる。神により人が世界が壊される。わかっているだけど、リウィアが
「私が何よ?」
リウィアは目を開けた。気絶はフリだったのか。ヴィニーも予想外らしく目を見張る。ふふんとリウィアはヴィニーに不敵に笑った。
「凍れ!」
リウィアが叫ぶと、火の精霊がいたあたりのヴィニーの肩から氷柱が出てきた。火の精霊がびっくりして消えた。肩にダメージを受けたのか、リウィアを拘束する手を緩めたのをリウィアは見逃さなかった。肘鉄をヴィニーの腹部にのめり込ませ、アベルの元へ駆け寄る。アベルはリウィアを抱きしめた。良かった。生きている。この温もりが恋しいが、また後だなとアベルの後ろにリウィアを下がらせた。
「ウィル!」
「ガッテン承知」
ウィルは風となり、ヴィニーに突撃した。しかし、ヴィニーは横に転がりやり過ごす。
扉に激突したウィルは姿を元に戻す。
ウィルのすぐ目の前に火の精霊が現れた。
「じゃあな。風の精霊」
火の精霊の口から炎が吐き出され、セルウィルスに直撃した。
「ウィル!」
アベルが火の精霊をステッキで突き刺そうとしたが、消えた。ヴィニーもいない。下っ端2人は部屋に伸びたままだ。見捨てられたのだろう。
火はすぐ消えたのだが、ウィルの服は腹部が燃えて、火傷を負っていた。よほど痛いのだろう、身体を丸め呻いている。
「大変!」
リウィアが部屋についてる洗面所に走り、タオルに水をつけ、ウィルの腹部にそっと載せた。
「大丈夫!?」
ウィルは弱々しく大丈夫と笑った。これはまだ駄目だ。ウィルの顔色が青白い。アベルは洗面所にあるバケツを取り出し、水を入れてはウィルの腹部にそっと水を流す作業を続けた。途中でリウィアがやると言ったので、任して部屋に転がる男2人を縛った。そういえば、この2人骨折れてるが、死にそうにないから大丈夫だな。
私兵を4人ほど待たしていたので、窓からこちらへ来るように指示を出した。リウィアにつけていた2人は一体どうなったのか、心配になった。
ウィルはセルウィルスの略です!
アベルさん意味わからんことを考えてますが後々わかりますよー!




