火星の裏側
「まるで蟻だな」
全ての人間に義務付けられている銀色の人民服が
歩道のエスカレーターに
規則正しく整列している
走るものどころか歩くものすらいない。
火星の中枢では
歩行者はエスカレーター
自動車、バスはレール
全ての人、物が決められた時間に
決められた位置につけば
目的地に到着する
事故も事件も最小限に抑えられる。
何層にも重なったレール上の自動車や
エスカレーターに直立不動で立つ人の周りを黒い大きなバケツのようなロボットが浮游しながら監視している。
ガンポッドと名付けられた
この治安維持ロボットは
人びとをスキャンし、違法があれば機体を開き衝撃波を撃ち込み違法者を駆逐する。
目に見える全てのものは管理され、その代わりに
日光、酸素、水、食事、エネルギーを買える人民権を手に入れられる。
高度に発達した文明は異色を嫌い
全ての人間に同色を望んだ。
街中に張り巡られたエスカレーターとレール
全て同じ色形の建物
決まった時間に消灯する人工太陽
この時代の法は
酸素を売る ゼウス社
エネルギーを売る 神石産業
この二大企業の支配下にあるハーフコーポレーションがが運営し
軍隊、警察、病院、刑務所、人びとの生活に至るまで
全てに影響していた。
火星法では
違法人体改造者は問答無用で射殺である
彼の身体は9割人工的な改造人間。
パスポートを偽造し、サイボーグ部分をありとあらゆる方法でカモフラージュし
火星の住人になりきる。
彼が危険をおかしてまでこの虫酸の走る街に来た理由は2つ。
ある男に会うため。
そして
火星でしか手に入いらない上物な煙草を買うため。
食物以外の植物の栽培を禁止されているため、煙草は貴重品だった。
着慣れない人民服に、ややたらと気に障る速度のエスカレーター。
変わり映えのしない景色。
顔が歪む。
同じ色形のビルを差別化するのは番号だけで
ショッポは目的地の893ビルに到着する
一見普通の靴屋だが化粧室から地下に抜けられる。
ボディチェックシステムをクリアして入ったのは
地下一面に広がるカジノだった
さまざまな違法なものが売られる悪の巣窟893ビルだ。
いくら完璧な秩序を強制しても
どこにでも悪い奴はいる
火星にもしっかりと 裏社会は存在し、社会の歪みを金に変えていた。
ショッポは自動販売機で煙草を買い込み。
一箱だけ残して、
あとは愛着のある薄汚いキャプテンハットしか入っていない手持ちのスキャン防止装置付きの特殊なケースいっぱいに煙草を詰め込む。
目的の一つを果たした彼は
左の人差し指をたて
指に内臓された火炎装置で煙草に火をつけ、人工の肺に思い切りニコチンを流し込む
やっと落ち着くことが出来た。




