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美優が注射を怖がる件について

今回は注射を怖がる美優です

注射が怖いと思った事は誰でも1回はあるはずですが……

では、どうぞ

 幼い頃、注射が怖くて病院で泣いてしまった。なんて記憶のある奴はどれくらいいるだろうか?恥ずかしながら俺も幼い頃は注射が嫌で嫌で仕方なかった。嫌だったが、俺が風邪を引くとどうしてか毎回遊華が付いてきたので兄としてのプライドか、幼いながら男としてのプライドで注射の痛みで泣く事はなかった。


「遊くん、本当にやらなきゃダメかな……?」

「早く風邪を治したいならやらなきゃダメだろ」

「でも……」

「でもじゃない。美優だって中3だろ?点滴くらい我慢しろ」


 そう、俺は美優の付き添いで病院に来た。まぁ、ただの風邪だって診断されたが、それでも大事を取って点滴だけ受ける事になったんだが……寸前になって美優が点滴を怖がってしまって今に至る


「で、でも、私、痛いの苦手なんだよ……」


 今の美優は幼い子供だ。注射が嫌で駄々こねる子供だ……


「このまま風邪が長引くのと今、一瞬の痛みに耐えるのとどっちがいい?」


 点滴が怖い美優にとってはある意味、究極の選択だ。風邪を長引かせるのと注射による一瞬の痛み。俺なら風邪が長引いてしんどい思いをするくらいなら今だけ痛い思いをする方がマシだと思うが……


「そ、それは風邪で苦しいのは嫌だけど……」

「だろ?何なら俺もついて行くから」

「なら痛いの我慢する」

「偉いぞ、美優」


 病院の待合室で何をイチャついてるんだ俺は……幸いだったのは俺達の他にいたのがほぼ全員年寄りで俺達の方を見向きもしなかった事だ


「秋野さーん、処置室にどうぞー」


 順番待ちをしていたところへ看護師からお呼びの声が掛かった


「ほら、呼ばれたぞ美優」

「う、うん……遊くん、ついて来てくれるんだよね?」

「俺が一緒に入っていいかは看護師さんに聞いてみないとな」


 幼い子供なら保護者が一緒に行く事はある。だが、美優は中学3年生だ。未成年とはいえ注射くらい1人で受けられる年齢だからなぁ……俺がついて行っていいものかどうか……


「そ、そんなぁ……」


 涙目の美優を見捨てたくはない。だが、さすがに中学生にもなって注射をするだけで保護者同伴ってのはなぁ……


「と、とにかく、看護師さんに相談してみないとな」


 もう俺がどうこうできる話じゃない。看護師さんの意見を仰ごう


「秋野さん、3番の部屋へどうぞ。あ、彼氏さんは外にいてくださって構いませんよ」


 俺が美優の彼氏だってのは間違ってない。が、その前に平日の昼間に彼氏が彼女の付き添いで病院に来ているところをどうしてツッコまない


「わ、私、彼に手を握ってもらってないと怖くて注射を受けられないんですけど……」


 恥ずかしいのか、美優は控えめに自分の意見を言ってみせる。小さな子供じゃあるまいし彼氏同伴が許されるわけ─────────


「ふふっ、それなら彼氏さんも一緒で構いませんよ」


 許されちゃったよ……しかも、看護師さんの俺を見る目が少し暖かいのは気のせいだろうか?


「は、ハハハ……ありがとうございます」


 俺は苦笑いしかできない……この看護師さんには間違いなく過保護な彼氏か何かに思われてる……


「遊くん、どうしたの?」


 周囲の視線を気にしている余裕がないのか、美優はキョトンとしている


「なんでもない……」


 風邪引く予定はないが、俺は当分この病院には来られないな


「そう?それより、私が注射する時はしっかり手を握っててね!」


 風邪引いてるのにお願いごとする時だけは元気だな


「わかったわかった。だから、大人しくしてなさい」

「はーい」


 こんなアホなやり取りで美優の気が少しでも紛れればいいんだけどな。


「遊くーん!!怖い!注射怖いよー!」


 前言撤回。注射直前になって注射が怖いって騒ぎ出した


「はぁ……」


 大騒ぎする美優に溜息しかでない俺。彼女に対して冷たいようだが、子供じゃあるまいし少しは静かにできないのか……


「か、彼氏さん!!彼女さんを抑えてください!!」


 大暴れする美優を数人の看護師で押さえつけているが、それでも暴れる美優。そして、そんな美優を抑えるように言う1人の看護師。うん、地獄絵図だな


「はぁ……落ち着け、美優」


 暴れている人間を強引に押さえつけたらもっと暴れるに決まってるじゃないか。ここは優しく声を掛けるのがいい


「そんなんで大人しくなるわけないじゃないですか!」


 押さえつけるのではなく、声だけ掛ける俺を咎める看護師さん。これで大人しくなったら料金はタダにしてもらおうか?あ?


「うん、落ち着く……」


 鶴の一声じゃないが、俺の一声で落ち着きを取り戻した美優


「「「「お、大人しくなった!?」」」」


 それに対して驚いている看護師一同


「はぁ……」


 そして、そんな美優と看護師一同を見て溜息しか出ない俺


「そ、それでは、秋野さん、少しチクっとしますよ」


 美優が落ち着き、看護師一同が再起動してから数分後、ようやく点滴の用意が完了し、いよいよ美優は注射される


「ゆ、遊くん……」


 いよいよ注射される時になって俺を涙目で見つめる美優。自分も1度は通ってきた道だから強くは言えないが、ここまで来たら諦めろ


「はいはい、手を握ればいいんだよな?」

「う、うん……」


 俺はすでに泣きそうな美優の手を握る。俺はこの瞬間、世の中にはいくつになっても苦手なものは苦手だっていう事を学んだ


「はい、終わりましたよ」


 美優が俺の手を握ってる間に点滴の為の注射が終わったようだ


「美優、終わったらしいぞ」

「う、うん……」

「怖かったか?」

「遊くんが手を握っててくれたから平気だよ」

「そっか」


 痛かったかどうかは聞かなくてもわかるだろう。注射は痛いってのは当たり前だ


「それでは、秋野さん、別室へどうぞ」


 看護師さんに案内され、美優は点滴スタンドを押しながら、俺はそんな美優を支えながら別室に移動した


「遊くん、私はどれくらいで帰れそうかな?」


 点滴パックには薬と思われる液体が半分以上入っている。俺は点滴が終わる時間なんて計った事なんてないが、半分以上入ってるとなると1時間以上掛かるだろう


「さあ?点滴パックにはまだ半分以上液体が入ってるから、1時間以上掛かるだろう」


 1人で何もない状態なら退屈な事この上ないが、今は2人だし問題ないだろう


「そう……でも、遊くんとお話したりして時間を潰せば退屈はしないよね?」

「そうだな」


 美優は俺と話したりして時間を潰せば退屈しないと言ってたが、俺は話題のレパートリーが多いわけじゃないから何時間も時間を潰せるほど話ができるわけがないだろ?


「ところで、遊くんはどうして私を助けてくれたのかな?」

「いきなり何だ?」


 唐突に『どうして自分を助けてくれたの?』なんて聞かれても俺は何の事だかサッパリだ


「付き合う前…………いや、最初に私を助けてくれたのは遊くんが飛ばされた未来だったのかな?でも、それはどっちでもいいや。私は遊華ちゃんの同級生ってだけなのにどうして助けてくれたのかな?って思って」


 俺の記憶では美優を助けた回数は2回。両方ともストーカー関係でだ


「別に深い意味はない。ただ、妹の同級生が困ってた。ただそれだけだ」


 俺にとって美優を助けた事に意味なんてない。感謝されたくてした事でもお礼が欲しくてやった事でもない。ただ、妹の同級生が困ってる場面に俺が遭遇したから何とかしたに過ぎない


「本当にそれだけ?」

「そうだけど?他に何かあるのか?」

「お金とか?」


 金欲しさに人助けして金がもらえるなら俺はいくらでも人助けをする。だが、世の中金を持っている奴ばかりじゃない。


「人を助けて金がもらえるなら俺はいくらでも人助けをするが、世の中の人全員が金を持っているってわけじゃないだろ?」

「それはそうだけど……私の家ってお金持ちだから」


 美優さん?それは嫌味なのか?美優に限ってそんな事はないと思うが、それは貧乏な人達へ向けての嫌味か?


「俺は美優と出会った時にはまだ金持ちの家のお嬢様って知らなかったんだけど?」


 未来でもそうだが、俺は美優が金持ちの家のお嬢様だって知らなかった。由紀もそうだが、金持ちの家ってのも大変なんだな


「それもそっか……でも……」


 美優は俺が自分を助けた意味を必死に探しているようにも見える。これは金持ち故の弊害か?


「人を助けるのに理由が必要か?」

「え……?」

「俺は美優が困ってるし、遊華が困っているからできる範囲で助けた。それじゃ不満か?」

「不満は……ないけど」

「ならいいだろ。それに、未来じゃ俺はストーカーを煽っただけだし、この時代じゃ俺は幼気な少年を危ない道へと誘っただけだ」


 美優は俺を助けたと思っているだろうが、俺が実際にした事と言えば未来じゃストーカーを煽っただけ、この時代じゃ幼気な少年を危ない道に誘っただけで大した事はしていない


「それでも、私は感謝してるよ?」

「そうかい。それならそれでいい」

「うん」


 美優は風邪を引いてるからなのか、考えがネガティブ気味になっているみたいだ


「風邪を引いて考えがネガティブになっているんだ。少し眠ったらどうだ?」

「うん、そうする。遊くん、手を握っててくれないかな?」

「わかった」


 俺が美優の手を握ると安心したのかすぐに眠ってしまった。


「美優はストーカーを引き寄せる体質なのか?」


 眠ってしまった美優の頭を撫でながら1人呟く。未来では人気声優だったからストーカーに遭っても仕方ないと思ってた。だが、元の時代に戻ってきて遊華に美優を紹介してもらってストーカーの事を聞いた時はまたかと思った。


「未来でも現在でも美優がストーカー被害に遭うのは変わらなかったな」


 未来じゃ俺は死んだことになってた。だが、美優はその間も生きていた。当たり前の事だがな。その間にも美優はストーカー被害に遭っていたと思うが、どうしてたんだろう?


「俺が飛ばされた未来までの事なんて気にしても仕方ないか」


 俺が今ここにいて美優と付き合っている以上、未来は変わってるわけだから気にする必要はない


「美優……これから喧嘩もするだろうけど、よろしくな」


 多分、俺と美優──────美優だけじゃない。遊華達とも喧嘩する事はある。だが、その時は全力でぶつかって全力で向き合えばいい。

今回は注射を怖がる美優でした

注射が怖いと思った事って誰でも1回はあると思います。そうじゃない方っていらっしゃるのでしょうか?

今回も最後まで読んで頂きありがとうございました

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