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俺が先手を打つ件について

今回は先手を打つ話です。

先手を打つと言っても手紙の事を話したりするだけなんですけど、果たして遊華はどんな反応をするのでしょうか

では、どうぞ

「遊華達にも話しておくか……早川みたいになったらシャレにならんし」


 放課後、俺は特に部活をやっているわけではないので家に直行し、私服に着替える。今回はいつもの前置きはなしだ。学校で浩太と敬に肝試しの時の様子を聞いて遊華達が不安にならないように先手を打っておく必要があるし


「はぁ……何て切り出せばいいんだよ」


 手紙の事を話すにしてもどう切り出していいかがわからない。これがプロポーズとかなら指輪を用意して遊華達を集めて一言言うくらいで済むのに……


「悩んでいても仕方ないし、夕飯の時にでも話すとするか」


 夕飯の時には全員揃っているし、これからの方針を話すのにもちょうどいいタイミングだからな。話すなら夕飯の時だ


「ったく、恨むぞ俺の本当の母とやら」


 目の前にいない人物に恨み言をぶつけてもどうにもならない事くらいは俺だってわかっている。わかっていても恨み言をぶつけずにはいられない。本当に面倒な事になった……


「お兄ちゃんただいま~」

「おう、おかえり。遊華」


 遊華1人か……由紀と美優はどうした?いつもなら一緒に帰って来てるのに今日は遊華1人なんて珍しいな


「由紀と美優はどうしたんだ?」

「2人とも今日は委員会で遅くなるって言ってたよ」

「委員会?」

「そう。文化祭の実行委員」


 夏休みが終わったばかりだというのに文化祭の実行委員とはご苦労なこった。そう言えば高校もそろそろ文化祭に向けて動き出す時期か……


「由紀と美優もそうだが、ひょっとしたら香月と美月の帰りも遅くなるかもしれないって事か……重要な話があるのに」


 俺は肝試しの日に見つけた俺宛ての手紙について話そうと思った矢先に出鼻を挫かれて少し凹む。プロポーズをするわけじゃないからガッツリ凹む事はなかったんだが、それでも少し凹む


「重要な話?」

「ああ、遊華達に重要な話があるんだ」

「それってどんな話なのかな?別れ話?」


 どうして重要な話=別れ話をするのか聞いてみたいところではあるが、別れ話ではない。不可解な話ではあるが、断じて別れ話ではない


「別れ話ではないが、あー、聞いてて不可解な話ではあるな」

「ねぇ、お兄ちゃん」

「ん?どうした遊華?」

「その話さ、私が1人で先に聞いてもいいかな?」


 できれば全員揃ったところで話したいが、別に遊華1人でも問題はないからいいか


「別にいいが、当事者である俺ですらわからないところがある。それでもいいか?」

「うん、私が知りたいのは肝試しの日にお兄ちゃんに何があったのかだから」

「そうかい。じゃあ、話す。肝試しの日────────」


 俺は肝試しの日に手紙を見つけた事やその手紙が俺宛てであった事、高2になった時に迎えに行くと書かれていた事を遊華に話した。見つけた場所が学校である事など不可解な事が多いが、遊華達を不安にさせたままにしておくよりかはマシだ


「そんな事があったんだ……それにしても────」

「それにしても?何だ?」

「お兄ちゃんの本当のお母さんはバカなのかな?」


 遊華の意見は早川と全く同じものだった。意見が同じなだけでどの辺がバカなのかがわからない


「どの辺がバカだと思うんだ?」

「“進級”ならまだしも“進学”はないよ」


 手紙を書いた人物がいくつかは知らないが、やっぱり“進級”と“進学”を間違えるのはマズイよなぁ……早川と同じところを指摘しているとかのツッコミはなしにして、中3に言われちゃお終いだよなぁ


「それ早川も言ってたわ。俺はこの手紙の主が母を名乗っているだけで実際に書いた奴の歳は俺達とあんま変わらないと俺は思っている」

「うん、私もそんな気がする。ところで、お兄ちゃん?」

「何だ?」

「お兄ちゃんは私達に黙っていなくなったりしないよね?」


 目に光を宿していない遊華。これは……アレだな。ヤンデレになっているな。大体、俺が黙っていなくなったとして行く宛てなんてないことは遊華が1番よく知っているだろうに……


「俺が黙っていなくなったとして俺の滞在先がないだろ?浩太や敬の家だとすぐに見つかるだろうしな」

「で、でも……秘密の隠れ家があったりするかもしれないじゃん」


 不安気に俺を見つめる遊華。俺も男だから秘密の隠れ家には憧れるが、雨風を凌げる場所で冷暖房がしっかりしていて飯もできれば自炊できる場所じゃないと俺は嫌だぞ?そういった意味ではこの地下室は最高だな。雨風を凌げて冷暖房がしっかりしていて飯だって自炊できるし


「ねぇよ。そもそも、そんな場所があるなら遊華が無愛想だった時にさっさとそこへ移ってる」


 不安気な遊華の頭に手を置く。俺の隠れ家は外には存在しない。家にならあるけどな!


「本当……?」

「本当だよ。こんな事で嘘吐いて俺には何の得もない。得があっても遊華達には嘘なんて吐かないけどな」

「それもそっか。ごめんね、変な想像しちゃって」


 いつもと同じ笑顔で謝る遊華だが、当事者の俺からしてみれば今更本当の家族に出て来られても困る部分がある。というか、困る事しかないんだけどな


「はぁ……遊華」

「な、何?」


 遊華の身体がビクッと跳ねた。その様子は悪戯をして叱られる事に怯えている子供の様だ。俺は遊華を叱るつもりは毛ほどもないんだけどな


「別にこれから説教をするとかそんなんじゃないんだ。ただ、遊華に聞いてほしいだけなんだ」

「う、うん……」

「俺は今まで藤堂遊として過ごしてきた。それは遊華もわかっていると思う」

「うん、お兄ちゃんはずっと私のお兄ちゃんとして今まで過ごしてきたね。今は恋人としてだけど。それがどうかしたの?」


 俺が今まで遊華の兄として、今は恋人として過ごしているのは前置きに過ぎない。が、これからが本題だ


「今までこの家で過ごしてきて父を藤堂遊斗、母を藤堂華。妹を藤堂遊華と思って過ごしてきた。今更俺の本当の母や父、妹が現れても俺は困る」

「どうして?お兄ちゃんも本当の家族と一緒の方が幸せじゃないの?」


 遊華の言う事は正しい。だが、俺本人の幸せが本当の家族と一緒にいる事とは限らない


「今更迎えに来られても困る。手紙には“遊へ”なんて書いてあるが、本当の家族が俺の事を“遊”って呼ぶとは限らない。何より俺は大人の身勝手に付き合う気はない」

「そっか……」

「ああ、で?遊華は納得してくれたか?」

「うん……でも、お父さんとお母さんはどうするの?」


 ん?どうして親父と母さんが出てくるんだ?あ、俺の親権の話になると親父と母さんが争う事になるのか


「別に?どうもしないぞ?何か言ってきたらその時に考えるし」


 親父も母さんも俺にとっては扱いやすい事この上ない。万が一の事があった時には適当に唆せばいいだろし


「お兄ちゃん……」


 不安気な表情から一転し、呆れた表情をする遊華。俺は悪くない!単純な親父と母さんが悪いんだ!


「な、何だよ?その呆れた目は」

「べっつにぃ~?私はお兄ちゃんが失踪する時に私も連れてってくれないかな~?とか考えてないしぃ~?」


 あ、失踪する時は連れて行ってほしいんだな?別に俺としては構わないが、しばらく学校に行けないぞ?


「遊華がしばらく学校に行けなくなくてもいいって言うなら失踪する時に連れて行くけど?」

「え!?本当!?」


 遊華の表情が一気に明るくなった。失踪する場所は隣りの部屋なんだがな……


「ああ。あ、そうだ!」

「ん?何?お兄ちゃん?」

「失踪する時に使う予定の部屋見るか?」


 俺が失踪時に使う予定の部屋の確認もしておきたいし、遊華だけでも部屋の開け方を知っていれば香月達と寂しがっているフリして部屋を閉め切った後で移る事も可能だし


「え!?いいの!?」

「いいよ。遊華が開け方知ってれば俺がいなくなってもすぐに開けられるだろうしな」


 俺と遊華は一旦、風呂場に移動した。家の中からだと風呂場からの移動が1番早い


「お兄ちゃん、ここお風呂場だよ?」

「知ってるよ。ここから入るんだよ」


 俺は風呂場の鏡の右上の壁にあるスイッチを押した。未来じゃ気が付かなかったし、普段は湯気で見えなくなっているが、スイッチあったんだな。と思わせられる


「おおっ~!開いた!」


 鏡が左にズレ、その後ろに通路が現れた。何も知らない人からしてみればこの風呂場は無駄に広いと感じると思う。それこそ、湯船からの距離が長いと感じるだろうな


「ほれ、感動してるのもいいが、行くぞ?」

「うん!」


 俺に続いて遊華も扉を潜った。遊華が潜った事を確認してから扉を閉める。今は誰もいないから別に閉めなくてもいいが、念のために遊華には閉め方を教えておかなきゃな


「で、扉を閉める時は普通に扉をスライドさせれば閉まるから」

「あ、そこは自動じゃないんだ?」

「まぁな。自動だと今みたいに人が複数いる時に面倒だから開ける時だけ自動にして通路に入って閉める時は手動になるんだよ」


 簡単な説明を済ませ、俺と遊華は通路を進む。そう言えば、遊華にこの部屋を見せるのって初めてだったかな?


「…………お兄ちゃん」

「何だ?」

「ここって私達がいつも使っている部屋だよね?」


 言うと思った。そう思っても無理はないな。いつもの部屋と家具の配置とか全く同じだし


「遊華がそう思っても無理はないが、寝室を見てこい。そうすればわかるから」

「うん」


 遊華は寝室に向かって行った。家具の配置とかは全く同じだが、俺達がいつも使っている部屋で寝室ならば遊華達の私物がある。だが、この部屋の寝室を見てもらえれば一目瞭然だ


「お兄ちゃん!!」


 遊華が大慌てで戻ってきた。ったく、慌ただしい奴だなぁ~


「おー、どうした?」

「寝室に私達の私物が全くないんだけど!?」

「そりゃそうだろ。ここは家具や部屋の配置こそ全く同じだが、この部屋は全く別の部屋なんだからな」


 どうして家具や部屋が全く同じ配置なのか俺にはわからない。作ったのは親父だ。多分、家を建てた業者の方々も戸惑ったと思う


「どうしてこの部屋を作ったのかな……?」

「さぁな。それは親父に聞いてくれ」


 本当にどうしてこんな部屋を作ったのかは親父にしかわからないが、俺はこの部屋があってよかった。心底そう思う。

今回は先手を打つ話でした

やはりと言うべきか、遊華も手紙にある進学の部分をツッコんでいました。まぁ、進級ならともかく、進学はちょっと・・・・

今回も最後まで読んで頂きありがとうございました

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