俺の彼女達が意外にもアホだった件について
今回は遊が遊華達に包丁を向けられて迫られる話です
あ、でも、遊が殺されるとか、遊華達が本気で遊を殺そうとかそういう事じゃありませんよ?
では、どうぞ
人の命は儚い。ドキュメンタリー番組なんかだとよくこんな表現が使われてる事が多かったりすると思う。俺もそう思う事がある。それと同時に人間はいつ死ぬかなんてわからない。明日死ぬかもしれない、いや、今日かもしれない。人の運命なんて誰も予想できない。それはいいんだが、俺はどうして普通の状態じゃないガチのヤンデレと化した遊華達に迫られている?ヤンデレにガチとネタがあるのかどうかも知らんが
「お、落ち着け!話せばわかる!」
夏休みのよく晴れた日の昼。俺こと藤堂遊は困惑していた。俺には遊華達に何かした覚えはないし、女性との関わりも一切ない。5人も彼女がいて今更新たに女性と関わる事を求めたりしても仕方ない
「お兄ちゃん、私達は落ち着いてるよ?落ち着いてお兄ちゃんに迫っているの」
遊華、落ち着いている人間は包丁を持って迫って来たりしないんだぞ?一体全体どうなっているんだ?
「とりあえず包丁を置いてくれ!」
未来で美優のストーカーに包丁で刺された事のある俺にとって包丁を向けられる事に恐怖心はほぼない。俺の感覚が狂っているのかもしれないが
「遊が逃げるからでしょ?」
「そりゃ包丁を持って迫られたら誰だって逃げるだろ!」
ヤンデレと化した香月も俺とは別の意味で感覚が狂っているようだ。そもそも、どうして俺は自分の恋人達から包丁を持って迫られているんだ?意味がわからない
「遊、大人しくしなさい?私達だって好きでこんな事をしているわけじゃないの」
美月、それはそっちの言い分だろ?向けられている方は怖いんだが?
「いや、包丁を向けられている方としては恐怖で足ガクガクだし今にも漏らしそうなんだが?」
恐怖で足ガクガクで今にも漏らしそうは大げさだと思うが、ここで取り乱したらいけない!冷静に、冷静になれ!遊華達はどうしてこうなった?何か前触れがあったか?俺が何かしてしまったとか?いや、今は夏休みで外に出る機会なんて部活でもやってない限りない。じゃあ、どうして?
「遊くん、何考えてるの?」
「い、いや、別に何も考えてないぞ?」
目に光がない美優が聞いてきたが、ここで俺の考えている事を教えるわけにはいかない!
「遊さん、他の女の事を考えていたとかはないですか?」
「変な言いがかりをつけるな!他の女の事なんて考えてるわけないだろ?」
由紀は俺が他の女の事を考えているんじゃないか?と思っているみたいだが、その読みは的外れだ。俺は他の女の事を考えているんじゃない!自分の恋人に包丁を持って迫られてる理由と原因について考えてるんだ!ん?俺の恋人は5人。それはいい。だが、家に包丁は5本もあったか?ないな!って事は……
「遊華達が俺を独占したいなら俺を刺せ」
「「「「「え……?」」」」」
独占したいなら自分を刺せという俺を遊華達は目を丸くして見つめる。遊華達が俺に包丁を向けて迫ってきているという目の前の事実にばかり気を取られていたが、そもそもがこの家のキッチンを管理しているのは俺だ。少し考えれば簡単にわかる事だが、この家に包丁は5本もない。だが、遊華達は1人1人包丁を持っている
「いや、“え……?”じゃなくて、独占したいなら俺を刺し殺せばいい。遊華達に刺されて死ぬなら俺はそれでも構わない」
遊亜達の存在がある以上、俺が高1で死ぬ事はないと思う。それに、心なしか包丁に鋭さを感じない。ここから出る答えはギミックナイフ。それしかない
「お、お兄ちゃんは怖くないの?刺されるんだよ?」
通常の状態で全く知らない人間だったら怖いだろう。だが、遊華達がヤンデレだとしても俺を刺し殺す事はしない。やって監禁くらいだ
「ギミックナイフで刺される事くらいで怖がってられるか」
ギミックナイフという保証はない。あくまでも俺の予想だ。しかし、ヤンデレは本当だとして、持っている包丁が本物とは限らない。遊華達の反応を見て確かめよう
「遊……いつから気づいてたの?」
「香月、その問いは自白として取っていいか?」
香月の問いかけが俺の予想を確かなものにした。香月達が持っているのはギミックナイフだ。ヤンデレの威圧感が邪魔して包丁が本物かどうかに気が回らなかった。こういった部分で俺は間抜けなんだろうな
「遊、質問に質問で返さないで。香月の質問にちゃんと答えて」
「美月は手厳しいな……そうだな、俺がいつから気づいていたかだが、気づいたのは俺を刺せって言った時のみんなの反応を見てからだ」
クールな美月も好きだが、この時ばかりは俺に手厳しかった。優しい中にも厳しさありってか?
「そう……じゃあ、私も遊の質問に答えるけね。さっきの質問が自白としてとっていいか?だけど、その通りだよ。これはギミックナイフだよ」
「やっぱり……で、どうしてこんなドッキリにも近い事をしたんだ?」
正直、寿命が縮まった。ヤンデレの彼女達に包丁を持って迫られるとかマジでシャレにならない
「遊くん、これ」
「ん?ただの女性誌だな」
美優に渡されたのは中高生向けの女性誌。俺は女性誌を読む特殊な趣味はないんだが……
「遊さん、その雑誌の恋愛の部分を見てください」
「あ、ああ。だが、それがどうし────────」
由紀に指定された恋愛の部分を見た瞬間、俺は言葉を失った。どうしてか?そんなの決まっている。“片思いの相手と結ばれる10の方法”という項目を見てしまったからだ。そこから先、俺はなんて言っていいかわからない
「お、お兄ちゃん?」
「遊?」
「遊ちゃん?」
「遊くん?」
「遊さん?」
不安そうに俺を見る遊華達。怒っているとかそんなんじゃない。純粋に何を言っていいかが浮かんでこない
「遊華達に1つ確認だが、遊華達はこの“片思いの相手と結ばれる10の方法”を試そうと思った。そうだな?」
俺の問いかけに無言で頷く遊華達。これじゃ俺が尋問しているみたいじゃないか……いや、実際に尋問しているんだけどな!
「10個の項目のうちの1つにある“危機的状況が2人の距離を急接近させる”っていうのを試そうとした。俺はそう解釈しているが、それでいいか?」
またも俺の問いかけに無言で頷く遊華達。された方としてはこれで納得がいったが、1つだけ間違いがある。それは──────────
「この遊華達が雑誌に載っている情報を検証しようとする事を俺は止めないが、1つ言うなら、“危機的状況が2人の距離を急接近させる”って言うのは迫りくる危機が将来結ばれる相手じゃない限りはこの雑誌に載っている通りだ。だが、遊華達と俺に当てはめて言うなら俺は正直、ドン引きしたぞ」
迫る危機が恋人や片思いされてる相手では意味がないって事だ。実際に真実を知った俺も軽く引いた
「う、うそ……うそでしょ?お兄ちゃん」
なぜか絶望したような顔をしている遊華。だが、こんなしょうもない事で嘘を吐かない
「いや、本当なんだけど?」
遊華を絶望させる為とかじゃなく本当に純粋に思った事を口したまでだ。恋人に包丁を持って迫られたら少し考える
「遊は私達の事きらい?」
香月、好きとか嫌いじゃないんだけど?好きか嫌いで言えば好きだけどさ
「好きだよ。好きだけど、さすがに包丁はちょっと……」
本当に包丁はちょっとな……ヤンデレの代名詞みたいになっている包丁だが、実際に向けられたら引く
「遊ちゃんはどう迫られたら嬉しいの?」
「回答に困るな……そうだなぁ……」
恋人にどう迫られたら嬉しいかか……う~ん、考えても仕方ないし、特別な事をしてもらわなくてもいいしなぁ……普通が1番だな
「遊くん……お願い、美月さんの質問に答えて」
「遊さん、お願いします……」
涙目で訴える美優と由紀。答えに困るだけで答えがないわけじゃない。別に困らないしいいか
「別に俺は好きな人に迫られる時に恋人に特別な事をしてほしいわけでも危機的状況で迫ってほしいわけでもない。普通に恋人と寝食を共にしてその中でいい雰囲気になって押し倒されるくらいの方が俺は嬉しい」
迫られ方に正しいものとか模範解答があるわけでもない。俺が嬉しいと思う迫られ方を言っているだけだから咎められる理由は何もない
「「「「「そうなんだ……」」」」」
5人揃って目が虚ろだった。そりゃ、既に付き合っているとはいえ、自分達の事をもっと見てほしいと思ってした事がものの見事に黒歴史と化したんだ。虚ろにもなるだろ
「あー、今からみんなでリビングに布団敷いて雑魚寝でもするか?」
「「「「「うん!!」」」」」
虚ろな目をしている遊華達になんて声を掛けていいかわからないからとりあえず雑魚寝を提案してみた。修学旅行の夜みたいにみんなで布団に入れば何か言葉が浮かぶかもしれない
「ふぁ~あ、ねむい……」
布団に入った瞬間、大きな欠伸をした遊華は眠そうに眼を擦っていた。香月達も同じように眠そうに目を擦っている。かくいう俺も眠い。俺達は何かを話すわけでもなく、そのまま寝てしまった
「今何時だ?」
遊華達とリビングに布団を敷いてみんなで布団に入ったが、全員がそのまま寝てしまった。そして、現在、俺1人が目を覚まし遊華達はまだ寝ている。今何時だよ……
「げっ!もう5時か……」
携帯で確認したが、17時と表示されていた。そもそも、俺は今日初めて携帯を見た。起きた時間はわかっているが、寝た時間がわからない。つまり、俺は自分が何時から寝たか、どれくらい寝てたかもわからない
「一先ず晩飯の用意だけするか」
何時間寝たかは知らんけど晩飯の用意だけする。今日は遊華達にギミックナイフを向けられて迫られたという衝撃的な出来事があり、朝飯に何を食べたか、昼飯は食べたかどうかすら覚えていない
「まぁ、ギミックナイフとはいえ刃物を持って迫られたんだ。1日の出来事が記憶にないのも無理はないか」
未来で美優のストーカーを退治する際に相手が包丁を持っているんじゃないか?とかの予測をし前もって準備をしているのと突然、刃物を持って迫られるのとじゃ気の持ち方が違う
「今日は……簡単に麺類でいいか」
今日は疲れたから凝ったものを作る気力はない。簡単に麺類にする事にした。夏休みの思い出と思えばいい思い出になるとは思うが、本音を言うならもうこんな体験は2度としたくない
今回は遊が遊華達に包丁を向けられて迫られる話でした
遊華達が持っていたのは本物の包丁ではなく、ギミックナイフでした。自分が見つけれないだけかもしれませんが、最近ギミックナイフをおもちゃ屋や100円ショップで見てないなぁ・・・・
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました