俺が夜更かしする件について
今回は遊が夜更かしして調べものをする話です
何だかんだで遊の行動パターンを把握しきっているのは遊華かもしれませんね
では、どうぞ
俺達が生活している部屋の書籍を調べたが、結局は何も出てこなかった。書斎の二の舞にならなかっただけマシだが、1日中調べて何も出てこなかったのには納得いかないが、こうなったら仕方ない。親達のコネを使う必要があるな……現状だとただの高校生である浩太に大学教授の知り合いがいるとは思えないし、敬だってまだライターじゃない。明美さんと早川だって未来に俺が飛ばされた事は信じてくれたが、過去に飛ばされた人達の文献なんて持ってるわけじゃないと思う。ん?どうして未来に飛ばされた経験を誰も本にしてないんだ?誰か1人でも本にして出版していればそれなりに売れたと思うが……
「男女や年齢を問わずに未来に飛ばされた人がいるなら誰か1人くらいは書籍にしていてもおかしくないと思うが……」
俺はなぜ誰も未来に飛ばされた経験を本にしてないのか……いや、違うか。どうして未来に飛ばされた事やそういった人間がいる事実が記録として残ってないのかが気になる。先の未来を知るって事はこれから何が起こって、世間がどう変わっているかを知ってるわけだから簡単には言えないと思うし、俺だって身内にしかこんな事は言えない。しかし、それでも誰か1人くらいは書籍にしていてもいいもんだと思う
「未来に飛ばされただなんて俄かに信じがたいから仕方ないか」
遊華達が寝て静かな部屋で1人パソコンの前で呟く。昼間調べた時はネットの文献はほとんどが冷やかしみたいな記事しかないと聞いていたし、遊華達が嘘を吐くとは思えない。しかしだ。しかし、本当に冷やかしみたいな記事しかなかったのか?
「俺は遊びに行くために電車に乗り込んで未来に飛ばされた。だが、俺の前に飛ばされた人達は全員が電車に乗って未来に飛ばされたわけじゃないし、俺が2回目に飛ばされた時は客室のドアを開けて飛ばされた」
俺みたいに2度も未来に飛ばされた人間もいないと思う。原因は飛ばされた人間を強く思っている人の想いだったり、願いだったりといろいろあると思う。だが、共通して言えるのは“その人に会いたい”と思う気持ちだ。それが強かったから未来に飛ばされた。
「未来に飛ばされるって事は過去にも行けるのか?」
未来に飛ばされるなら逆に考えると過去にも行けるんじゃないか?無理だとは思うし、ありえないとも思う。例えば会いたい、想いを伝えたいと思った奴がどうして過去に飛ばされたという文献がないんだ?
「過去にも行けたという文献は未来でも見た事がないからたぶん無理だろうな……」
未来の浩太からもらった資料では未来に飛ばされたという文献は見たが、過去へ飛ばされたという文献は1つも見ていない。つまり、未来に行けても過去へは行けないという事だ。これからどうなるかは知らないが、息子の遊亜から過去へ飛ばされたという話は聞いてない
「ダメ元で浩太を頼ってみるかな」
普通の高校生である浩太に何ができるかわからないが、それでも頼ってみる価値はあると思う。自分の両親達を信用していないわけじゃないが、親父と羽月さんの職業を考えるとあんまり頼りになる事は少ないだろうと思う
「お兄ちゃん……こんな時間まで何してるの?」
「遊華か……どうした?眠れないのか?」
背後から遊華の声がしたので振り向いた。遊華は目を擦っているなんて事はなく、俺がこのパソコン部屋にいる事を予想していたかのようにノックなしで入ってきた。
「お兄ちゃんがいなかったら眠れないよ。それで?お兄ちゃんはこんな遅くまで何してたの?」
俺がいなかったら眠れないか……それはそれで嬉しいし、愛されてるという実感が湧く。
「未来の事についてちょっとな」
隠す事でもないし、遊華達────特に遊華には隠し事は通じない。隠すだけ無駄だろう
「未来の事を調べるのはいいけど、やり過ぎると身体壊すよ?」
「だな。今日はもう遅いし、寝るか」
「うん」
遊華の言う通り、調べるのはいいが、やり過ぎると身体を壊してしまう。今日はもう寝るとしよう
「ゆう……」
部屋に戻ると香月が俺を呼ぶ。だが、本人は起きていない。寝言か……夢の中でも俺の名前を呼ぶとは……
「お兄ちゃん、愛されてるね~」
「冷やかすのはいいが、俺は自分の彼女達を愛しているからな。遊華が冷やかしても意味はないぞ」
「そ、そっか……」
照れたように微笑む遊華。嘘は言ってないが、遊華は母さんの娘だ。無視したらエスカレートするのは火を見るより明らかだし、太陽に向かってあなたはどうして太陽なんですか?って聞いているようなものだ
「遊ちゃん、遅くまで調べものをするのはいいけど、身体には気を付けてね?」
「美月も起きていたのか?」
遊華が起きていた事も意外だが、美月が起きていた事にもある意味驚きだ。俺は遊華達が寝たと思って部屋を抜け出したからな。
「遊ちゃんがいなくなったら眠れないからね~」
遊華からも聞いたセリフを美月からも聞くとは……昼間も思ったけど、打ち合わせでもしているのか?
「遊華からもさっき聞いた台詞だが、2人とも打ち合わせでもしているのか?」
「「してないよ?」」
声まで揃って否定されると本当は打ち合わせをしているんじゃないか?と思うが、本人達が否定しているからここは打ち合わせはしていない事にしよう
「何にせよ香月達も起きてたら同じ事を言うだろう事は簡単に想像できる。それなら早く寝るに限るな」
「「うん」」
俺はベッドに入り、毛布を被る。未来の事は一旦忘れるか。このまま考えても無限ループに入るだけだ。それならそうと早めに寝るかな。
「おやすみ、お兄ちゃん」
「遊ちゃん、おやすみ」
「ああ、2人ともおやすみ」
遊華と美月も俺と同じように毛布を被る。布団に入って毛布を被ってからそんなに時間は経ってない。遊華達はもう寝ただろうか?
「未来に飛ばされる事もそうだが、遊亜が言ってた事も気になるな」
未来に飛ばされる事も調べなきゃいけないが、遊亜が言ってた事も気になる。俺が遊華達の前からいなくなる事を決断する何かが起こる。最終的には遊華達の元へ戻るんだろう。しかし、何が原因でそうなったかを遊亜から聞いていない。喧嘩じゃないとは思うが……
「喧嘩じゃないとしたら何なんだ?」
喧嘩じゃないなら何が原因で遊華達の元からいなくなる?親父達と喧嘩?喧嘩する理由も原因もないしなぁ……
「お兄ちゃん、一緒に寝ていい?」
「いいぞ。おいで遊華」
怖い夢でも見たんだろうか?遊華は幼い頃に怖い夢を見ては俺の部屋に来て一緒に寝てたっけ……
「お兄ちゃんはいなくならないよね?」
「ああ、いなくならないぞ?」
「それならよかった……」
俺は何回も言っているように遊華達の元を離れる事はない。ん?離れる?そう言えば遊亜は俺が失踪するとは言っていたが、俺が失踪している間の遊華達の様子や俺がどこで発見されたかを聞いていない。つまり、俺がどこへ失踪するかも俺が失踪している間、どこにいたかを具体的に聞いていない。今の段階で遊華達にあの部屋の存在を教えておくか
「いなくなるで思い出したが、遊華に───遊華達にはまだ言ってない事がある」
「言ってない事?浮気の報告かな?」
言ってない事を浮気に繋げるのは止めて頂きたい。そうじゃなくて、新しい隠し部屋のことだからな?
「違う。この家にはもう1つ隠し部屋があるって話だよ」
香月達が寝ているから大声で騒ぎ立てる事はしないが、俺はこの家にはまだ隠し部屋があるという事を遊華達に教えてない。最近はいろいろあってこの家に存在する隠し部屋の数を全部教えたっけ?
「もう1つ?本当は他にもあるんじゃないのかな?」
なるほど、遊華は今いるこの部屋しか知らなかったか……
「ああ、この部屋の隣りに1つと2階に2つある」
「お兄ちゃん、1つじゃなかったね」
「ああ、俺の趣味じゃない。完全に親父の趣味なんだが、全部緊急避難用の部屋だ」
呆れた事に隠し部屋の全てが緊急時に避難する隠し部屋だという事には驚きだ。どうやったら緊急時に避難する隠し部屋が3つも必要なんだいうツッコミは……なしの方向で考えよう
「そ、そんなに隠し部屋があったんだ……でも、どうして今のタイミングで話してくれたの?」
遊華が疑問に思っても無理はない。だが、高2に俺が失踪する話を遊亜にされた。その滞在先は聞いてないけど、今から遊華達に隠し部屋の存在を教えておくのはいざという時に役に立つと思う
「そうだな……未来で遊亜に聞いたんだが、俺は高2のいつになるかはわからないけど、失踪するらしいぞ」
遊華にもそうだが、他のメンバーにバレても後が怖い。ならば事を起こす前に遊華達にある程度の事は知っておいてもらって、俺の失踪に第三者が絡んでくるのであれば、ソイツが知らずに遊華達が知っている事を作っておいた方がいい
「そう……それと私に隠し部屋の存在を知らせるのと何の関係があるの?」
遊華の言い方は冷たいようにも思えるが、俺からしてみれば当たり前の事だ。今、隠し部屋の話をするのと俺が失踪する事とは関係ない。が、遊亜は俺が失踪するとは言っていた。しかし、俺がどこで発見されたか、俺がどこから出てきたかは話していない。俺が失踪しなきゃいけない状況になった時にどこへ失踪するか?警察に捜索願を出されて警察が動き出したら外へいるのは危険だ。だが、捜索願を出されても探しようがない場所。それは隠し部屋しかない。俺なら隠し部屋に逃げ込むだろう
「俺が失踪するとしたら浩太達の家を含めて外へ出る可能性は低い。その時の為に遊華達だけには隠し部屋の存在を教えておこうと思ってな。部屋の場所を知っていたら遊華達に寂しい思いをさせる事はないだろ?」
失踪したとして遊華達が俺の居場所を知っていると何かと有利だし、俺が飛ばされた未来で遊華達は声優だった。芝居をするスキルはそれなりにある方だろう。
「それはそうだけど……」
納得していないみたいだな……俺が遊華の立場だったら納得してない。だが、俺は遊華達を悲しませないためにも隠し部屋の場所は教えておくに越した事はない
「納得してないみたいだが、俺が失踪を選択するくらいだ。余程の事だと思う。頼む、聞いてくれ」
未来で美優のストーカーを退治した時に俺は自分の身体を張った。ストーカーを煽り、俺を刺すように仕向けた。咄嗟の事だったが、遊華達に危害が及ばないようにするためとはいえ遊華達に────遊華に心配を掛けてしまった。俺が未来でとった行動を現在の遊華達に言った時にも怒られたしな
「お兄ちゃんが真剣にお願いするなら聞かせてもらおうかな……隠し部屋の場所」
「ああ、じゃあ、最初は──────」
俺は遊華に隠し部屋の場所と部屋の開け方を遊華に細かく説明した。途中、遊華から“どうしてそんなに隠し部屋があるの?”って質問があったが、“それはこの家を建てた親父に聞いてくれ”俺はそう答えるしかなかった。
今回は遊が夜更かしして調べものをする話です
何だかんだで遊の行動を把握しきっていたのは遊華でしたね
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました