俺が遊理達と喫茶店に入る件について
今回は遊が遊理達と喫茶店に入る話です
もちろん、喫茶店にただ入るわけじゃありません
では、どうぞ
どうしたものか……俺は今、どうしていいかわからずに困惑していた。遊亜と遊美は部屋を決める────いや、部屋の目星が付くのには当分時間が掛かるだろうから俺が遊華達と喫茶店に入って話し合いをするには十分な時間があるだろう。何よりも遊華はいいとして、遊理がいる事がバレたら遊亜がブチ切れそうだ。見つからない場所に移動するかな
「遊華はいいとして、遊理がつけてきただなんて遊亜にバレると遊亜がブチ切れる。とりあえず、そこの喫茶店にでも入らないか?」
俺は遊華が見つかるのはいいが、遊理が見つかるのはマズイと思い、喫茶店に入る事を提案した。遊亜はそもそも遊理達から離れたいから1人暮らしをしたいって言ったわけだし
「お兄ちゃん、どうして遊亜達と一緒じゃダメなの?」
遊華は何も知らないのか?遊亜と遊理達の間に何があったのか、どうして遊亜が1人暮らしをしようとしていいるのか、その理由を
「遊華は遊亜が1人暮らしをしようとしているか知らないのか?」
遊華のこの様子からして何かを知っているとは思えない。となると遊理も遊亜が1人暮らしをしようとしているだなんて夢にも思ってないだろうな
「1人暮らし?何それ?」
コンビニから戻ってきた遊理が初めて聞いたという感じで訪ねてきた。やはり初耳だったか。さて、どう説明したものか……
「あ、遊理……」
マズイ事を聞かれたと言った感じの遊華。俺もマズイ事を聞かれたと思うが、いつかは遊理達全員が知る事なんだ。遊理が今知ったところで何も問題ない
「ねえ、お父さん。遊亜が1人暮らしするってどういう事?」
「どういう事も何も聞いた通りだが?遊亜が1人暮らしを────いや、家を出る事に何か問題でもあるのか?」
遊亜だって20歳超えてるんだ。別に家を出て暮らす事に何の問題もないはずだ。未成年じゃあるまいし
「あるよ!どうして家を出る必要があるの?」
理由を説明してもいいが、立ち話なんだ。遊亜が家を出て行く理由を説明するのは喫茶店に入ってからにしよう。
「それを説明するのは喫茶店に入ってからでいいか?」
「お兄ちゃん、それって込み入った話になりそう?」
何かを感じた遊華。さすが俺の妹兼彼女だ。察しがよくて助かる。込み入った話というか、遊亜の人間関係に関する事だから立ち話で済ませられるものじゃないのは確かだ。その遊亜の人間関係を話しても遊理がそれを受け入れられるかな?
「そうだな。遊亜の人間関係に関わる話だから込み入った話にはなるな」
「そう。じゃあ、喫茶店に入ろうか。お兄ちゃん」
「わかったよ……」
納得した遊華と納得のいかないと言った感じの遊理。対照的な2人だが、俺はこれからこの2人に遊亜が家を出ようとする理由を説明しないといけなくなるのかと思うと憂鬱になる。面倒な事にならなきゃいいが……
「で、説明してくれるよね?」
遊華達と喫茶店に入った俺は対面する形で座った。俺が通路側に座り、その迎えに遊華と遊理が座る。遊華は気まずそうに、遊理は俺を睨んでいる。俺を睨んでも仕方ないだろうが。遊亜の話と遊美の反応を見る限り悪いのは遊理達だ。
「遊華、説明するが、その前に俺を睨む遊理を何とかしてくれない?」
「遊理、お兄ちゃんを睨んでも何にもならないでしょ?」
「わかってるよ」
不機嫌そうだが、遊華の言う事を大人しく聞く遊理。こうして見ると遊華も母親らしいところがあるんだな。それにしても、母親とはいえ未成年に注意される大人の女性ってのもそうはいないだろうな
「さて、遊理が俺を睨むのを止めたところで説明に入るがいいか?」
遊理が俺を睨むのを止めたところで説明を始めるとしようか。遊理が遊美と同じで素直にそれを聞き入れるかどうか……
「うん……」
先程とは対照的に明らかに元気がない遊理。睨まれてる状態よりかはマシだけど、遊華の娘だからヒステリックを起こさないとも限らない。
「じゃあ、説明するが、遊亜が家を出ようとしている理由は遊理達の過剰な干渉だ」
細かい事を説明するのは面倒だから端的に説明する事にする。過剰な干渉で遊理に心当たりがあればいいが……
「過剰な干渉?お兄ちゃん、もうちょっと細かく説明してもらっていいかな?」
遊華は過剰な干渉の意味ではなく、遊理達が遊亜に何をしたかがわかってないみたいだ。昨日の女子会ではこの時代の俺達の普段の様子を聞いただけとかそんな感じだろ
「遊理に心当たりがあるかどうかは知らないが、遊亜の人間関係───特に女性関係に対して口出しし過ぎて遊亜の交友関係をメチャクチャにしたらしいじゃない。遊理、心当たりはないか?」
「…………ある」
長い沈黙の後、遊理は答えた。心当たりがあって家を出る理由を聞いたと思うと事実から目を背けたかったのか、自分のやっている事は間違っていないと思い込んでいるかのどっちかだ
「そうか、あるのか。じゃあ、遊亜が遊理達をどう思っているか?今まで遊亜が遊理達をどう思っていたかは大体解るだろ?」
「…………うん」
あれ?少しやり過ぎたかな?そういえば遊美も泣きながら遊亜に謝ってたっけ?
「お兄ちゃん、私には何が何だかサッパリわからないんだけど?」
俺と付き合ってる遊華には無縁なものだと思うが、わかりやすく説明するか。
「遊華が俺と付き合ってなかったとするだろ」
「は?いきなり何言ってんの?お兄ちゃん」
案の定目から光を消している遊華。だが、誤解しないでほしい。これは例え話で遊華にもわかりやすく説明するのに必要な事だ
「これは例え話で遊華が理解しやすいように俺達を例えに出しているだけだ」
「うん、わかった。続けて」
例え話だという事を理解してもらったところで話を続けるとしよう。遊華にも遊美達がした事をわかってもらう為に
「俺達が付き合ってなかったとして、遊華が俺を他の女に渡したくないくらいに好きだとする」
「うん」
「で、俺達は兄妹だから絶対に付き合う事はできないが、俺を独占したいとして、遊華ならどうする?」
どうする?とは聞いたが、遊華がどうするかくらいの予想はできる。遊理達がした事と大体似たり寄ったりの事をするだろう
「う~ん、お兄ちゃんの周りにいる女を排除する?」
遊華は俺がほしい答えをすぐに出してくれた。遊華の答えは遊理達が遊亜にしてきた事と同じと言ってもいいものだった
「さすが俺の彼女にして遊理の母親だ。俺がほしい答えをすぐに出してくれる」
「褒められて嬉しいけど、素直に喜べない……」
「素直に喜べない気持ちはわかるが、本当の事だ。遊理達は遊亜にそれをしたらしい」
遊理のしでかした事に飽きれたらいいのか、怒ったらいいのかわからない。当の本人である遊亜からしてみると自分の交友関係をぶち壊しにした姉達とは一緒にいたくないと思っても無理はないだろうな
「遊理、お兄ちゃんの話は本当なの?」
「うん……」
遊華が真剣な表情で遊理に尋ねる。遊理は落ち込んだ様子で遊華の問いに答える。遊亜と遊美の話を信用してないわけじゃないが、遊亜と遊美だけじゃ2人の問題にも思える。だが、遊理の様子で遊亜と遊美だけの問題じゃなく、息子と娘達の問題だと改めて実感する
「4人の姉達に自分の人間関係を姉達の独占欲によってメチャクチャにされたんだ。遊亜が家を出たいと思うのも無理はない。厳しい事を言うようだが、それに関しては遊理達が悪い。それは解るな?」
「うん……でも、どうして遊美が遊亜と一緒に不動産屋さんに行ってるの?」
そうか、遊理は遊美が遊亜に許してもらえたことを知らなかったっけ?それも伝えておくか
「遊美は遊亜に今までの事を謝って許してもらったんだよ」
「じゃ、じゃあ、私も遊亜に謝って許してもらえれば……」
遊理は遊美が遊亜にタダで許してもらえたと思っているようだが、それは違う。遊亜に許してもらうのに遊美は自分にとって1番大事にしていたものを失った。遊亜が大事にしていた人間関係をメチャクチャにしたんだ。まぁ、当たり前っちゃ当たり前だとは思うが……
「そ、そうだよ!遊理も遊亜に謝って許してもらおうよ!ねえ?お兄ちゃん?遊亜は謝ったら遊理も許してくれるよね?」
懇願するように俺に尋ねる遊華。だが、人の大切にしているものを奪ったり、ぶち壊したりしてタダで許してもらえるはずがない。まぁ、遊美が遊亜に許してもらうのに自分が大切にしていたものを遊亜に捧げたわけだ
「遊華、遊美は遊亜に許してもらう代わりに遊美が1番大事にしていたものを遊亜に捧げた。だから遊亜は遊美を許したんだ」
「そっか……遊美が1番大事にしていたものって何?」
「ファーストキス」
「「…………」」
遊美が大事にしていたものを答えた後、遊華と遊理は黙り込んでしまった。だが、遊亜の心の傷はそれだけ深かったという事になる。さて、遊理は何が1番大事なんだ?
「遊華と遊理は黙ったままだが、遊理にとって1番大事なものは何だ?遊美と同じでファーストキスか?」
「うん、私は───いや、私達姉妹はファーストキスを恋人になった人に捧げようって幼い頃にみんなで決めたの……でも、弟である遊亜も大事だから……だからッ……」
遊理はついに泣きだしてしまった。目の前で泣いている遊理を見て思う。弟を大事にするあまりに弟に嫌われてしまった。可哀そうだとは思うが、遊理達は少々やり過ぎた。遊亜の交友関係にまで口出しし、さらにはぶち壊すなんて
「遊理が遊亜を大事にしたい気持ちはわかるけど、過剰に干渉して遊亜に嫌われたら元も子もないでしょ?」
「うん……」
泣いている遊理を慰める遊華。見た目はおかしいが、泣いている娘を慰める母か……今から遊華の将来が楽しみになってくる。そんな暑い日の昼下がりだった
今回は遊が遊理達と喫茶店に入る話でした
遊理は遊亜に謝罪できるのか?
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました