【本当の母襲来編未来D渡航1】元の時代へ帰れると思ったら別の未来へ飛ばされた件について
いつから未来は一つだと錯覚していた?
人は考えるのを止められないとはよく言ったものだ。考えるのを止められないが、同時に期待することも止められない。例えば好きな異性に告白する時なんかがそうだ。YESを期待し、NOだった時に何とも言えない感じになってしまう。俺の場合、告白こそしてないが、目的を果たしたから遊華達が肉食動物と化した未来から元の時代へ帰れるのではないかと淡い期待を抱いていた。だが……
「マジかぁ……」
来たのはまたもや未来の世界。さっきまでいた未来と異なるのは俺がいる場所が自宅だということと遊華達が水着だってこと。他は調べてないから知らん。現状分かっているのはここは未来の世界。何年後かは不明。自宅にいるところから見て親父達との関係も良好。遊華達に自重する心があるということだけだ
「遊、私達の水着見れて嬉しくない?」
「そうなの?」
「お兄ちゃん?」
「遊ちゃん、私達魅力ない?」
「遊さんの為に用意したのに……」
「遊さん?」
香月、美月、遊華、美優、由紀が上目遣いで見つめてくる。彼女達は黒、白、赤、ピンク、紫と色はバラバラだが、全員水着姿。俺は現在進行形で風邪。ツッコミが追い付かない。とりあえずだ、最初に飛ばされた未来を仮に未来A、遊亜がいる未来を未来B、遊華達が肉食動物と化した未来を未来C、この未来(仮定)を未来Dとしよう。未来Aで読んだ資料には目的が果たせれば元の時代へ帰れるとはあったが、別の未来へ飛ばされるだなんて記載はどこにもなかった。何がどうなっているのやら皆目見当もつかないが、どうしてこうなった?
「風邪引いてて嬉しいも何もないだろ。ただでさえ考えが纏まらないんだ、水着の感想は風邪が治ったらちゃんと言う。今は寝かせてくれ……」
リビングに水着姿の女がいるという状況に慣れてしまった俺は確実にどうかしている。普通なら火が出るんじゃないかってくらい顔を赤らめ、慌てふためくか泣いて喜ぶこの状況。しかし、よく考えてほしい。みんなは美女・美少女の柔肌を見られて顔を赤らめたり、泣いて喜んでいるのか、それとも、水着を見られてなのか。どちらにせよこれだけはハッキリ言っておこう。柔肌なら手とか顔とか見える範囲でだが、日常的に見てる。水着は小学校の水泳学習で見ているだろ。どちらも顔を赤らめたり泣いて喜ぶ要素はもちろん、慌てふためく要素は皆無だ。それよりも────
「なら私達がお兄ちゃんの肉布団になるよ!」
遊華を筆頭に目をギラギラさせてる女達をどうにかする方が先だ。風邪引いてるって言ったの聞こえてなかったのかよ……何で風邪引いてるから寝かせてくれって言ったのに返しが肉布団になるなんだよ……
「俺は風邪引いてるから寝かせてくれって言ったはずなんだが……人の話聞いてたか?」
「「「「「もちろん!」」」」」
人の話を“ちゃんと”聞いてたら肉布団になるだなんて言わないはずなんだが……
「聞いてたならどうして肉布団になるって選択をするんだ……」
遊華達に聞きたいことはたくさんある。同時に考えることもたくさんあるが、最優先すべきは風邪を治すこと。この時代が何年後の未来なのかとか、この時代の俺はどうしてるのかはもちろん、自分がこの時代へ飛ばされた理由は後だ
「風邪引いてる時って人肌恋しくなるでしょ~?」
「だから私達が遊さんを温めようと思っただけです」
「お兄ちゃんは私達に身を委ねていればいいんだよ?」
「悪いようにはしないから」
「優しくします!」
美月の主張は解からんでもない。由紀、遊華、香月、美優の主張は身の危険しか感じない。温度差で風邪悪化しそうなんだが……
「肉布団はいらんから代わりに後で飲み物を部屋に持って来てくれ」
「「「「「むぅ~!」」」」」
膨れんな。こちとら病人だぞ。俺は膨れっ面の遊華達を残し、最初にいた部屋へ戻った。俺の部屋に戻ってもよかったのだが、ここは未来の世界。自分の自室が誰かの部屋になってたら堪らん。親父達がこの家に住んでるのかは知らんが、鉢合わせるなら彼らの方がマシだ。目が覚めたら遊華達の誰かがとなりで寝てましただなんて心臓に悪すぎる。何でもない風を装っているが、たまにドキッとする。主にどっから湧いて出た的な意味で
「はぁ……また別の未来線かよ……」
部屋に戻り、ベッドに寝ころんだ俺の口から出たのは溜息。未来Aで読んだ資料に沿って考えるならこの時代に呼ばれたのには理由がある。遊華達あるいは俺と交流があった誰かが何かの理由で俺に会いたいと思ったから。呼んだ張本人には悪いが、迷惑でしかない。自分の身勝手な都合で人を未来へ呼びつけるだなんて迷惑以外の何物でもない。有無を言わさず呼び出されるのだって迷惑なのによぉ……
「この時代で俺は何をすればいいのやら……」
未来Cに呼ばれた理由すら分からず終いだってのに……この未来へ呼ばれた理由が全く分からん。見た感じ遊華達の関係は良好だし、ここに住んでるってことは親父達とも大なり小なり不満はあれど上手くいってるはず。呼ばれる理由が何一つないはずだ
「この時代に呼ばれたのも実母のせいか?」
未来Cでは実母のせいで遊華達の関係がぶっ壊れた。その実母は病気で入院と大人達からすりゃ踏んだり蹴ったり。遊華・香月・美月の3人も学生時代の交友関係を断ち切り、残したのは仕事上の関係のせいか羽月さんだけ。そういや、未来Cで美優と由紀については聞かなかったが、あの未来線じゃアイツらはどうしたんだろう?
「はぁぁぁぁぁぁ……」
この未来Dに飛ばされてから間もないのに出るのは溜息ばかり。最初に未来へ飛ばされた時は右も左も分からなかったが、慣れてしまえばどうということはない。この時代に飛ばされた理由と何年後の未来なのかを冷静に分析できるようになる。最初から慌てたりしなかったから説得力はないか
「これからどうすりゃいいんだよ……」
静かな部屋に1人で風邪引いてるせいか絶望にも似た感情を抱いてしまう自分がいる。冷静になれば自分が何をするべきか答えはすぐに出てくるのに……
「ダメだ……考えが後ろ向きになってしまう……」
自分がこの時代ですべきこと……俺はいつから某世界の破壊者になったのやら……そのうち通りすがりの~って言い出したら末期だぞ……
「トイカメラでも首からぶら下げりゃいいのか?」
藤堂遊は未来に飛ばされた経験と彼女が5人いることを除けば普通の高校生だったはずなんだがなぁ……
「アホらし。寝るか」
俺は考えることを放棄し、目を閉じた。目的さえ果たせば元の時代へ帰れる。これはいわば一種のゲームで俺はゲームの主人公。ゲーム感覚なのはどうかと思うが、ゲームだと思ってなきゃやってられん
あれからどれくらい時間が経過しただろう……ふと目が覚めて時計を────って身体が動かないんだが……
「お兄ちゃん……」
「遊ちゃん……」
「遊……」
「「遊さん……」」
「マジかよ……」
遊華と香月が俺の腕を抱きしめながら寝ていた。道理で身体が動かせないわけだ。抱き着かれてりゃ動くモンも動かねーよな。美月達がその側に布団を敷いて寝ていたのは不幸中の幸い。恰好が水着のままなのは……何も言うまい
「飲み物……は身体が動かせないから無理か……」
今朝────というか、ここへ飛ばされた時に比べて身体の怠さは多少マシにはなった。完全に回復してはいないだろうから無理は禁物。まずは話を聞くところから始めなきゃならんのだが、話を聞きたい連中はそろって爆睡中。身動きがとれず、スマホも手元に……そういえばスマホは未来Cに置いたまま……積みじゃね?
「この未来じゃスマホ購入から始めなきゃならねーのかよ……」
ここでまさかの緊急事態。今までの未来じゃ使える使えないは置いといてスマホ常備がデフォだった。だから苦労は少なかった。スマホがないのはかなりの痛手だ
「スマホの購入から始めなきゃいけないのかよ……つか、よく考えたら財布すら持ってねぇとか終わりだ……」
未来Cで俺のいた場所はリビング。オマケに恰好がスエット・Tシャツ。外へ出るような恰好とは言わないが、どう考えても遠出や駅前に行くような恰好じゃない。情報収集の前に必要なものを揃えるところから始めなきゃならんとは……溜息すら出ない。というか、今回はハードモード過ぎるだろ
「ワンチャン俺の服どっかに残ってねーかな……」
この時代に限らず未来の世界じゃ俺は何も持ってないに等しい。学校にも行かず、定職にも就いてない。未来の世界じゃ別人にならない限り学校に行くのもバイトするのも不可能。生きていくためには遊華達あるいはその時代で俺を拾ってくれた人達の金を当てにするしかないのだが、ヒモになってるみたいで気が引ける
未来に飛ばされるだけで色々と面倒だというのに生活に必要なもの一式を揃えるところから始めないとならないとは……いつから俺の人生はハードモードになったんだよ……
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました