【本当の母襲来編未来渡航14】実母との話が済んだのに謎が増えた件について
はい、実母との話です
人は不測の事態に弱い生き物だと思う。例えば、災害が突然やって来た時、大抵の人間は焦る。そりゃそうか。何事もなく過ごしていたところに突然災害に見舞われたら焦るのも無理はない。じゃあ、物心つく前に自分を捨てた実母に会ったらどうなるかというと……
「遊……なの……?」
「…………」
黙るしかない。特に過去の時代から飛ばされてきたのなら尚更。目の前にいる女にだけは絶対に俺が何者かの手によってこの時代へ飛ばされたことや願いさえすれば過去の時代にいる人間を自由自在に呼び寄せられるのは口が裂けても言えない。今は弱っているように見えるが、退院した後を考えると言わない方がこの女の為だ
「お願い……お願いだから答えて……あなたは遊なのよね?」
「…………」
懇願するように女はこちらを見つめてくる。未来関係に関して誰に言ったらダメという明確な決まりはない。SFマンガじゃないからな、時渡りに関しての法律は何もない。これは単なる俺の自己満足だ。何となくコイツにだけは未来関係の話はしない方がいいと思っただけだ
「どうして答えてくれないの……?」
女は大粒の涙を流しながら俺をジッと見つめる。さて、どうしたものか……ここで何かを言ってしまえば後々面倒なことになるのは目に見えている。だが、黙ったままでも何も前に進まないのも事実。やりづらい
「はぁ……こんな展開になるんだったら遊華達の誰か1人を残しておけばよかった……ったく、めんどくせぇなぁ……」
溜息と共に吐き出したのは実母への文句でも質問への回答でもなくこの状況への不満。遊華達がいれば絶対にまともな話し合いにならないと思い、追い出したが、今になって思えば遊華達────いや、羽月さんを残しておけばよかったと心底思う。それをしなかったのは俺が目の前にいる女に殴り掛かることはないと確信していたからだ。しかし、リアクションに困る展開は完全に予想外だ
「遊……遊なのよね?」
「ああ、そうだよ。ったく、これ以上面倒事を起さないでくれよな……」
乱暴に頭を掻くとジト目で女を見る。彼女に対して憎しみはない。この時代はあくまでも可能性の1つ。だから親父に怒りは湧かないし、女に対しても特に思うことはない。憎しみの1つでもあったら怒鳴って罵倒して終わりだったが……何も思わないから面倒だ
「面倒事なんて起こしてないわ」
泣いてたのはどこへやら。開き直りにも似た態度で言い放つ女。アレだ、この女は謝罪ができないタイプの人間だ。だったら話は簡単だ。言いたいこと言ってとっとと帰ろう。うん、そうしよう
「自覚なしかよ……まぁ、俺の件に限って言えば自覚してないのも無理はないんだが、これだけは言っておく。俺はアンタを母親だとは思わないし、アンタは必要ない。過去に俺を迎えに来たらしいが、ハッキリ言って今更母親面して迎えに来られても迷惑だ。関わるなとは言わないけどよ、金輪際方々で俺の母親を名乗るな。以上」
俺は用件だけ言うと女の制止も聞かずに病室を後にした
「はぁぁぁぁ……」
病室を後にして最初に出たのは深い溜息。これは実母の身勝手さや遊華達を外へ出すんじゃなかったという後悔から来るものではなく、単なる疲労。未来へ飛ばされようと何しようと俺は穏やかに暮らしたいだけなんだが、現実というのは厳しく、思い通りにいかない。だからこそ生きている実感を得られるが、親しい人物達の変貌を目の当たりにすると溜息の1つも吐きたくなるというもの
「お兄ちゃん……いなくならないよね?」
「遊ちゃん……」
「遊……」
「いなくならない。俺の居場所はお前らの元だからな」
声のした方を見ると不安気な表情の遊華達がいた。あの女の1番の被害者はもしかしたら彼女達なのかもしれない。とりあえずこの時代でやることは済んだ。後は元の時代へ帰るだけなのだが、どうやったら元の時代へ帰れるのか皆目見当もつかない。遊華達は俺をこの時代へ呼んだのは自分達で望むのは俺と一緒にいることだと言っていた。俺的には全部叶えたからそろそろ元の時代へ戻れてもいいはずなのだと思うのだが……思考は人それぞれ。これで帰れなかったらマジどうすんだか……
「遊ちゃん、今の言葉に嘘はない?」
「ない。俺は遊華がいて、美月がいて、香月がいる日常が好きなんだ。好きなものを手放すほど俺はバカじゃない」
この遊華達はヤンデレでこの時代じゃ痴女と化してるし、正直大変だと思うことしかない。世の男子から見れば羨ましい状況なのかもしれないが、当事者としては大変以外の何物でもない。彼女達なりに好意を示してくれてるだけだろうから大変でも受け入れてるけどな
「遊、そこまで私達のこと……」
「お兄ちゃん……」
「遊ちゃん……」
「遊君……」
若干約1名余計な人が混じってるような気がしなくもないのだが、気にしたら負けだ。俺は何も言わずに歩き出した
病院を後にし、帰宅した俺達は……
「柔らかい……」
リビングで雑魚寝をしていた。帰宅途中の車で遊華が帰ったら一緒に寝るよ的なことを言い出し、香月と美月が彼女の意見に賛成。羽月さんは俺達を送り届けると早々に帰って行ってしまい……早い話がストッパーとなる人間がいないわけだが……時間帯を考えてほしい。今は昼間。発情するには早すぎる
「私達の胸気持ちいでしょ~?」
「遊も男の子だったんだね」
「私達で発情してくれるだなんて嬉しい……」
柔らかいとは言ったが、胸を押し付けられて気持ちいいとは一言も言っておらず、遊華達に発情した覚えもない。全て彼女達の妄言なのだが、癒しという意味で今日だけは遊華達の妄言に乗っておくとしよう
「好きな女達に胸を押し付けられたら気持ちいいし、発情するのは当然だろ。俺だって男だからな」
「「「え?」」」
「何だよ?」
「お兄ちゃんが」
「素直に」
「なるだなんて」
「「「珍しい……」」」
信じられないものを見るような目で俺を見る遊華達。コイツらは普段俺をどう見てるんだ?
「お前らは俺を何だと思ってるんだよ……」
「鋼鉄の理性を持つ子供」
「私達を不安にさせる恋人」
「遊ちゃんってあんまり自分の思ってること言わないよね~」
「あのなぁ……」
遊華達が俺をどう思ってるかはよ~く解かった。この時代限定で言えば遊華達がグイグイくるから戸惑ってるだけなんだが……
「だってそうじゃん。お兄ちゃんは私達がアピールしても手を出してこないじゃん」
「あそこまで鉄壁だと女として自信失くす……」
「遊ちゃん、私達、女として魅力ないかな~?」
「女として魅力がないっていうより遊華達が積極的過ぎてどうしていいか分からないってのが本音なんだが……」
年上の女性が積極的に自分を求めて来てくれるのは悪い気はしない。だが、遊華達は別だ。彼女達の場合は積極的を通り越して何て言うか……肉食獣だ。自分が食われると分かっていて飛び込んでいくバカはいない。言明は避けるが、とある状態の遊華達はハッキリ言って怖い。ヒントは酒
「お兄ちゃんにとってそこまで私達が魅力的に映るんだね」
「遊、嬉しい……」
「私達は遊ちゃんなら襲われる準備は整ってるよ~。心も身体もね」
それが怖いんだよなぁ
「未成年に手を出すのは犯罪なんだが……」
「「「愛さえあれば関係ない!!」」」
愛の前に法律勉強してから出直してこい。未成年に手を出すのは犯罪だぞ?
「愛があっても法律という壁があるんだがなぁ……」
「「「細かいことは気にしない!!」」」
何も細かくないんだが……突っ込むと余計に疲れるから止めとくか
「はいはい、俺が悪かった」
「「「分かればよろしい!」」」
分かってはいたが、遊華達にとって法律より愛の方が重要らしい。それはそうと、俺はいつになったら元の時代へ帰れるのやら……実母に会うってビックイベントは終わった。ゲーム的な流れで言うととっくの昔に元の時代へ帰っていてもおかしくないのだが、結果は現状が物語ってる。元の時代に帰れてない
「どうなってるんだ……」
遊華達の願いは可能な範囲で叶えてきた。俺をこの時代へ呼んだのが彼女達なら満足した時点で元の時代へ帰れるはずなんだが……もしかして俺をこの時代へ呼んだのは遊華達じゃないのか?
一難去ってまた一難。今度は遊華達の本心を聞き出すか俺をこの時代に呼んだ人間を探さなきゃならないようだ。いつになったら元の時代へ帰れるんだよ……
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました