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【本当の母襲来編未来渡航12】食べ物の恨みが恐ろしかった件について

食い物の恨みは恐ろしい

 遊華宛てに妙なメールが入ってから早いもので1週間が経過。あれ以来妙なメールは来ていない。どうやらアレは単なるイタズラだったようだ


「またか……」


 はい、どうも。藤堂遊です。いきなりですが、俺は今どこで何をさせられているでしょうか?答えは────


「まただよ」


 香月が出るアニメのアフレコ現場お邪魔させてもらっている。でした


「部外者が入ることに対して少しは警戒心持ってほしいんだが……」


 初めて遊華が出るアニメのアフレコ現場に連れ込まれた時もそうだが、アニメとかのネタバレ厳禁な職場って声優の身内であっても部外者を簡単に入れたらダメだと思うのは俺だけだろうか?


「遊亜は私の身内なんだからスタッフやキャストがダメって言うわけないでしょ。業界でも私の遊亜好きは有名な話なんだから」

「初耳なんだが……」

「今初めて言った。ちなみに美月や遊華の遊亜好きも業界じゃ有名な話」

「それも初耳なんだが……」


 今日は不思議なことに初めての話をよく聞く日だなぁ……俺がこの時代に飛ばされたのってほんの3か月くらい前だったと思うんだが……もしかして香月達は行く先々で必ずと言っていいほど俺の話をしてたのか?


「今初めて言った」

「さいですか……」


 どこか誇らしげな顔をする香月に俺は何も言えなくなった。声優に限らず業界というのは意外と狭い。1人に話すとあっという間に他の人へ知れ渡ってしまう。一時期嵌ったアニメのラジオに出演していた声優がそう言ってたのを聞いた時は半信半疑だったが、今更になってそれを体験する羽目になるとは……皮肉にしても笑えない


「さいですよ。ちなみに写真見せて説明してある。何も抜かりはない」


 抜かりしかないんだが……突っ込んだら負けだ。黙っておこう


「これでいいのか……アニメ業界」


 アニメ業界の将来を案じているとアフレコ開始の声がかかり、俺は足早にアフレコブースを出た。その後は前回と同じでもよかったのだが、実母と会うことが確定しているので特に考えることがなく、スタッフの1人に一声かけて外へ出た






「10年後……なんだよなぁ……」


 スタジオの外へ出た俺は辺りを見回し、呟く。この世界は10年後の未来。それも俺がいなくなったことになっている未来。最初に飛ばされた時もだったが、自分がいなくなった未来に来てその後の話をされるのは複雑なものだ。実感が湧かないからなのかもしれない


「10年後か……」


 10年後、自分がどうなっているかなんて誰にも分からない。未来は自分自身の手で切り開いていくものだとはよく言ったものだ。その未来に来ているんだからお笑い草だ


「はぁ……」


 スタジオを出てきたはいいが、特別行きたいところもなく、かと言ってスタジオに戻るわけにもいかず、俺はとりあえずコンビニへ向かった。特に意味はない。時間を潰すには最適な場所がコンビニだったってだけで。幸い金はある────というか、遊華達に持たされた。俺は10代だが遊華達は20代。遊華限定で言うと口じゃ俺を兄と呼ぶが実年齢は彼女の方が上。10年前の世界じゃ妹だった奴にブラコン姉属性が付いた。香月と美月は……妹だったところ以外は遊華と同じだ。大金貰ったところで使い道は食費だったり、生活費だったりと必要最低限のもの。いつかは元の時代へ帰る身だ。下手にこの時代の娯楽に触れるわけにもいかないと考えた故の使い道なんだけどな



「久々に天ぷら食いてぇ……」


 しょうもない願望を漏らし、俺はコンビニへと向かった







 香月の仕事へ同伴した日から2日が経過。この2日間平和な日常を過ごしていた俺だが、さすがに我慢の限界だった。行動を制限されることに対してじゃない。食に関してだ


「て、天ぷらを寄越せぇ……」


 遊華達が全員仕事で出祓い、家には俺一人。広いリビングを独占できる喜びよりも天ぷら不足で床に伏していた


「な、何か食材は……」


 どうにか身体を起しキッチンへ向かい、食材を求めて冷蔵庫を開ける。すると────


「エビ……椎茸……エリンギ……」


 所狭しと並ぶ食材が俺の目に飛び込んできた


「材料はある……次は……」


 材料を確認し、次は天ぷら粉と油だ。俺の記憶が確かならついこの間買い足した。だからなくなってることはないと思うが……


「天ぷら粉と油OK」


 戸棚を開け、確認してみると両方あった。つまり、俺は今から天ぷらを揚げられるということに他ならない


「……作るか」


 いつもなら大はしゃぎするところなんだが、生憎と今日ははしゃぐにならない。俺は無心で準備を始めた





 天ぷらの調理開始から30分。ついに完成。今回はエビ天オンリー。理由は俺が好きだから


「できた……」


 最後の1本を皿へ盛り付け、リビングへ運ぶ。なんて手間の掛かることをしてる余裕は今の俺にはない


「誰もいないし、ここで食っても文句言われねぇだろ」


 普段は天ぷらで使用した油はすぐさまポイなのだが、今回は違う。少し冷めてから油の入った容器に戻す。遊華達が一緒なら油の汚れ具合で決めるのだが、今は違う。断言しよう。油は再利用できる状態でちゃんと天かすさえ取り除けば問題ない。俺が1人で天ぷらを食べても証拠さえ隠滅してしまえばバレないのだ


「塩振った、コーラOK、さて、食うか」


 全ての準備を終え、俺はエビ天にかぶりついた。遊華達を疎ましくは思わんが、たまには1人でする食事も悪くないと思う今日この頃。普段の飯はアレだしなぁ……うん、普段の飯は忘れよう。別にマズいわけじゃないが、環境が環境なだけに思い出したくないものがある






 天ぷらを堪能してから早いもので数時間。外はすっかり夕日に染まり、遊華達が帰宅したのだが、俺はリビングの真ん中でなぜか正座させられている。帰って来た彼女達の第一声が「正座」だったのはビックリだ。油もちゃんと容器に戻したし、換気だってした。俺が1人で天ぷらを食ったのはバレてないはずなんだが……


「お兄ちゃん、何か言い訳は?」

「遊、この罪は重いよ?」

「遊ちゃん、さすがにこれは私も許せないかな~」

「何の話だ?」

「お兄ちゃん私達のいない間に食べたエビ天は美味しかった?」

「うっ……どうしてそれを……」

「遊、コレ見て」


 香月がこちらへ寄越したスマホに映ってたのは俺が1人で天ぷらを食べてる姿


「…………」

「お兄ちゃん、私達に言うことあるよね?」

「遊、私達が仕事している間に食べたエビ天は美味しかった?」

「遊ちゃん、さすがにこれはないよね~?」


 目の前に仁王立ちする遊華達は顔は笑顔だが、目は全く笑ってなかった


「悪かった。可能な範囲で言うことを聞くから許してくれ」

「遊、悪かったで済んだら警察要らないって知ってた?」

「お兄ちゃんは食べ物の恨みは恐ろしいって知らないのかな?」

「遊ちゃんは私達がお仕事している間に1人でエビ天食べてズルい……」


 俺を羨望の眼差しで睨みつける遊華達。目は口程に物を言うと言うが、彼女達が何を言いたいか何となく分かった


「はぁ……今から天ぷら揚げるから許してくれ」

「「「……許さない」」」

「何でだよ……」

「「「明日1日私達に付き合ってくれなきゃ許さない」」」


 今回ばかりはバレないと油断して1人で天ぷらしてた俺が悪い。しかし、内緒で天ぷら食べただけで1日拘束されるのはちょっと理不尽な気しかしない。とはいえ、俺に拒否権はなく……


「分かった、付き合う」

「「「よろしい」」」


 大人しく要求を吞むしかなかった


「こんなことなら遊華達の誰かがいる時にすればよかった」


 我ながら軽率な行動を取ったと後悔しながら明日俺はどんな目に遭わされるのかと内心ビクビクしながら楽しそうな笑みを浮かべる遊華達を見つめるしかなかった。本当に食べ物の恨みとは恐ろしい……





今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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