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【本当の母襲来編未来渡航9】羽月さんの変わり様に戸惑ってしまう件について

うん。人は変わります

 10年という長い年月は少なからず変化をもたらす。例えば、陰キャだった奴を陽キャに変身させたり。例えば、兄を毛嫌いしてると思われていた妹のヤンデレな部分を目覚めさせたり。例えば、知らない女性が義母になっていたり。人間にしろ人間関係にしろ変化はする。それはあっていいと思うのだが……


「変わり過ぎなんだよなぁ……」


 俺は目の前にいる女性の変化に思考が追い付かない。自分の知っている人物なはずなのに外見が違いすぎて困惑気味だ。ハッキリ言おう。この人は誰だ?


「お兄ちゃんがいなくなってから色々あったんだよ。そう、色々ね……」


 遊華から哀愁が漂う。色々あったのは何となく理解できる。だが、詳細な話を聞こうとは全く思わない


「遊、現実を受け入れて」


 香月よ、俺にも受け入れられる現実と受け入れがたい現実があってだな。これは後者なんだ


「遊ちゃんが信じられないのも解かるけどね~」


 美月、俺の気持ちを理解してくれるのは嬉しいが、若干失礼な気がしてならないぞ


「はぁ……勘弁してくれよ」


 未来に飛ばされた時あるあるなんだが、飛ばされた先々で俺と関わった人間が何かしら受け入れがたい変貌を遂げている。誰がどうとかここでは言わんけど


「ちょっと、さっきから失礼じゃない?」

「すみません……()()()()


 遅くなったが、遊華達が出演するアニメのイベントを終え、楽屋に戻るとそこには見知らぬ……というか、受け入れがたい変貌を遂げた羽月さんが待っていた。イベントに呼ばれた理由は……単に声優の身内でイベント出演OKな奴ということで俺に白羽の矢が立っただけだ。話を戻そう。目の前にいる羽月さんなのだが……


「全く!失礼しちゃうわ!」

「ほ、本当にすみません。で、ですが、どうしてそんなにその……太っちゃったんですか?」


 ブクブクに太っていた。俺の知ってる羽月さんは香月達と並んで歩いたら姉妹と見間違うくらい若々しく、スリムな体系をしていたはずなんだが……今の羽月さんはブクブクに太っている。メイクは控えめだから特に触れない。この10年の間に何があったんだよ……


「遊君本当に失礼ね!」

「す、すみません……何しろ10年前からいきなり飛ばされてきたんで、戸惑う部分が多いんですよ……」


 ハムを作る機械か何かに巻き込まれてもおかしくない羽月さんを前にどうにか苦笑を張り付けながら謝る。もしかして遊華達が俺に羽月さんを会わせたくなかった理由って……そう思って遊華の方を見ると彼女は苦笑を浮かべながら頷いた。なるほど、このブクブクに太った羽月さんを見て俺がショックを受けないようにしようとしてくれていたのか


「戸惑う部分なんてないでしょ」


 そう言って腕を組み、鼻を鳴らす羽月さん。戸惑う部分しかない。敬のチャラ男化には驚かされたが、今回の羽月さんも破壊力あり過ぎる。マジで何があったんだって感じだ


「す、すみません……」


 喉元まで出かかった言葉をグッと飲み込み、謝罪の言葉を口にする俺。偶然にも会いたかった人物に会えたんだ、ヘソを曲げられたら堪らん。聞きたいことが聞けなくなる


「全く、失礼な子ね。いつから躾のなってない子になったのかしら?」

「すみません……」


 アンタはいつから豚みたいにブクブク太った上に躾だなんだとウザいマダムになったんだ?


「お母さん、落ち着いて。遊だって突然のことで戸惑ってる。失礼も何もない」


 どう話を切り出したらいいか考えていると香月から思わぬ助け船が出た


「どう見ても今の私にドン引きしているようにしか見えないのは気のせいかしら?」

「気のせい。遊が女性の体型を弄るわけないでしょ」

「そうだよ~遊ちゃんが女の子の体型を弄るわけないよ~私だって3キロ太ったけど、遊ちゃんは何も言わなかったし~」

「2人の言う通りですよ、羽月さん。お兄ちゃんは太った私達でも可愛いし、愛してるって言ってくれたんです。お兄ちゃんなら今の羽月さんでも可愛いと言ってくれるはずです!」


 香月の援護は嬉しいが、美月と遊華のは若干余計なことが混じってるのは気のせいだよな……美月の3キロ太ったのは初耳で遊華に至っては言った覚えのないことなんだが……余計なこと言ってヘソ曲がりが増えたら面倒だから言わんけど


「本当かしら?」


 羽月さんが期待に満ちた目でこちらを見る。俺はいつから女性なら誰でも受け入れる愛深き男になったのやら……


「どんな羽月さんでも素敵です。何があったかは知りませんけど、あまり自分を卑下しない方がいいですよ。体型をどうこう言ってくる奴は所詮それまでですから」

「遊君……」


 止めて……そのこんな私でも受け入れてくれるのみたいな期待したような目で俺を見ないで……居た堪れなくなるから


「俺はどんな羽月さんも好きですよ」

「遊君……それってこんな私でも受け入れてくれると取っていいのかしら?」

「え、ええ、そう捉えてもらって構いません」

「遊君……」


 羽月さんは感極まったのかボロボロと大粒の涙を流し始めた。この未来狂い過ぎだろ……遊華達が変態化し、羽月さんがビックリするくらい太っているだなんて正気の沙汰じゃねぇよ。親父が俺を売り飛ばしたって時点でおかしいんだけどよ


「どうなってんだ……」


 ブクブクに太り、若干涙もろくなっているだろう羽月さんに俺は困惑を隠せなかった。これじゃ親父が俺を売り飛ばした話ができないんだが……






「つ、疲れた……」


 今日のところは帰宅しようという遊華の案により俺達は家へ帰って来た。今日の羽月さんはとてもじゃないが、話をできる状態じゃなかった。ボロボロ泣いて話どころじゃなかった。遊華が帰宅を提案しなかったらどうなっていたことやら……ちゃんと話せるようになったのは俺達が帰る寸前。親父の話を聞くよりも先に精神的疲労の方が勝って話を聞くどころじゃ……羽月さんもだが、遊華達が出るアニメのイベントに突然参加させられたダメージも相まって疲労感が……


「お疲れ、お兄ちゃん」

「遊、よく頑張った」

「お疲れ、遊ちゃん」

「ああ、マジで疲れた。さっさと部屋で休みたい」


 俺達は適当に靴を脱ぎ捨てるとリビングへ向かった







「俺、疲れてるんだが……」


 リビングに着き、すぐさまソファーに倒れ込んだのだが……


「私達も疲れてるんだよ、お兄ちゃん」

「疲れてるの遊だけじゃない」

「遊ちゃんはゲストだったけど、私達はメインキャストだったんだよ?」

「そりゃそうだけどよ、だからってこれはないだろ……」


 どうして俺は遊華達に圧し掛かられているんだ……ハッキリ言おう。重い。大人の女性3人に乗っかられて身体の感触を楽しめとか、匂いを堪能しろと思ったバカは出て来い。現実は小説とかよりも残酷だって教えてやるから。感触や匂いなんかより重量感の方が勝つから


「お兄ちゃんは私が重いって言いたいの?」

「遊は紳士。女性に重いだなんて言わないよね?」

「遊ちゃんにブタって言われたら私泣いちゃうよ……」


 俺は一言も重いとか、ブタとか言ってないんだが……


「はぁ……」


 今日はもう疲れた。3人の女性に圧し掛かられるのは重いし、動きづらいが不思議なものでこんな状態でも眠気に襲われた俺は夢の世界に旅立った






 羽月さんと再会してから3日が過ぎた。その間、何もなかった。羽月さんの方から俺に会いに来るのはもちろん、遊華達から事務所へ連れて行かれることもなく。平凡な日々を過ごしていた


「このペースじゃ元の時代に帰る頃には年越しが差し迫る時期に差し掛かりそうな予感しかしない……」


 何だかんだでこの時代に飛ばされてから1か月とちょっと。いや、今日で2か月。このペースじゃマジで元の時代に帰れる頃には冬になってそうで怖い。元の時代との季節感の差とかが特に


「帰らなくていいよ。お兄ちゃんはこの時代にずっといていいんだよ」

「そうそう~、遊ちゃんはずっと私達とこの時代で生きていくんだよ~」

「遊、帰る必要ない」

「あのなぁ……」


 遊華達は多分、忘れている。未来の時代に長期間滞在するとまるで今までの空白を埋めるかのように全身を激痛が襲い、ぶっ倒れるということを。最初の未来で俺がぶっ倒れて病院に担ぎ込まれた。彼女達の望みを叶えるってなったら一度は病院に担ぎ込まれるのも覚悟しなきゃならないんだよなぁ


「お兄ちゃんが激痛で意識失っても私達が病院手配するから。ね?」

「私の知り合いに病院経営者がいる。何も問題ない」

「何ならこの部屋に呼び寄せることもできるよ~」


 遊華達の用意周到さに恐怖しか感じない。対策してくれるのは嬉しく思うが、ちょっと複雑だ。だからこそ俺は彼女達に何も言えなかった

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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