【本当の母襲来編未来渡航7】俺が1日中暇してる件について
タイトルこそアレですが、遊が売り飛ばされた事を知っても怒らなかった理由がここにあり!
美月の日の翌日。言っちゃなんだが、遊華達の同伴は俺にとって作業ゲーに近いものがあった。彼女達は仕事だが、俺は暇を持て余し、天井を眺めながら考え事をしていただけ。家を出てからアフレコあるいはラジオ収録現場に辿り着くまでの簡単なRPG。道中モンスターが出るでもアイテムがドロップするでもないからRPGと呼べたものか怪しいけどな
「親父が俺を金で売ったねぇ……」
今日は珍しく遊華達は全員仕事で席を外していて家の中には俺1人。彼女達の誰かに同行してもよかったのだが、考えたい事があるからと留守番を買って出た。静かなリビング、窓から差し込む太陽の光。そして、オレンジジュース。1人最高!と騒ぎ立てたいところだが、美月から聞かされた話が未だ頭から離れない。未来というのは無限で明日何が起こるか分からない。最初の未来じゃ俺の母と香月達の父が亡くなっていたから親父が俺を売り飛ばした未来があっても不自然ではない。だからこそ怒りが湧かないのだが……
「どう転んだら俺を売るって決断に至るのやら……」
俺の父親は母の病んだ部分見たさにすぐ女の影をチラつかせたり、キャバ嬢の名刺を大量に持っていたりと間抜けな部分が多い。だが、人身売買に手を染めるクズではないはず。大人の事情は分からんし、美月が嘘を吐いてるとも思わけど、どうにも引っかかる部分があるのだが……
「勝手に外出できないから確かめようが……オマケに電話も通じないしなぁ……」
未来の世界だから当然と言えば当然なのだが、この時代じゃ俺のスマホは全く役に立たない。いつ元の時代に帰れるか分からないから一応、持ってはいるが、いつまで持つか……着信来ることはもちろん、遊華達と常に行動を共にしていたからスマホ見なかったから忘れていたが、実はこのスマホ充電が切れかけている。残り10%。一か月も放置していて残り10%とは……我ながら物持ちがいいと思う
「せめて羽月さんに会えれば全ての真実とまではいかないが、大人目線の話を聞けるんだが……」
遊華達の話じゃ羽月さんとは辛うじて繋がりがあるらしい。彼女から俺がこの時代に来た日あるいはその翌日に何があったか聞ければ元の時代に帰るヒントは掴める。遊華達が何のために俺をここに呼んだか分かるはずだ
「羽月さんに会う方法か……どうにかしないとな」
遊華達が信じられないわけじゃない。ただ、この話ばかりは彼女達以外で関わった人間の話を聞く必要があるってだけで。親父や他の大人に会えそうにないし、多分だが会わせてもらえない。そうなると羽月さんしかいないが……
「遊華達が素直に会わせてくれるわけないよなぁ……」
彼女達自身、不用意な外出はしない。仕事で事務所に行く用事もあったが、俺は毎回留守番。いや、連れてけって言ったことないんだけどよ。事務所に顔出すって時に限って留守番させられるから遊華達は俺を羽月さんに会わせたくないんだろうとは思う。乗り込んでこないところを見るに多分、ここにいることすら知らないだろう
「どうしたものか……」
最初の未来なら手放しで出歩けたが、実母と婚約者の影があるこの時代じゃ勝手に出歩いた結果、見つかりでもしたらと思うと軽率な行動はできない
「せめて電話が使えたらよかったんだが……」
バッテリーと電波の都合で俺のスマホは使い物にならない。羽月さんと直接話をしたい気持ちはあるが、電話ダメ、遊華達ダメと打つ手なし。マジで困った……。んで、結局困った結果……
「止めた」
俺は考えるのを止めた。元の時代だったらワンチャンあったかもしれんが、今の遊華達に力でも口でも勝てる自信はない。何より遊華達に俺がいなくなる可能性を匂わせると次はマジで監禁されそうだって考えると羽月さんに会いたいだなんて言えるわけない。考えるのは止めだ。どうせこの時代で何か月、何年経とうが元の時代に戻ったら大して時間は経過してないんだ。どうにでもなれ
考えるのを止めた俺はテレビを観ることにしたのだが、点けてすぐ消した。時間帯が時間帯なだけにどの局もバラエティ番組かドラマの再放送で面白くもなんともない。昼夜問わず俺はテレビを好んで見る方ではない。アニメは……面白いと思ったものはって感じだ
「暇だ……」
この家の主達は声優だから当然ゲームはある。ちゃんとパッケージを見たわけじゃないから何とも言えんが、おそらくは彼女達が出演した作品。ギャルゲーから格ゲーまで網羅しているところを見ると純粋に自腹で買ったものもあるだろうが、ゲーム会社から貰ったってのもありそうだ。まぁ、やらんけど
「はぁ、痴女でもいた方がいいのか……」
天井を見上げると遊華達の笑顔が浮かぶ。痴女でもいないよりかはマシだ。話し相手って意味じゃな。今までは全員揃って家を空けるってことがなかったから気にも留めてなかった。彼女達がいなくなって初めて大切だと感じるとは……皮肉にも程があるだろ。死んだわけじゃないけどよ
「元の時代に帰る方法よりこの時代で実母と婚約者に言いたいこと考えた方が早い気がしてきた……」
今までは元の時代に帰ることや実母と婚約者に見つかったらどうしたものかと考えが保守的だったが、よく考えたら俺が高校生のままこの時代に飛ばされたのはチャンスかもしれない。失踪から10年も経ってるんだ、警察じゃ俺は死んだこととして処理されているに違いない。事情を知る連中からすると誰かが呼んだと察するが、何も知らない連中からすると俺は幽霊。このチャンスを逃す手はない
「言いたいこと……ダメだ、1つしか浮かばねぇ……」
実母と山岸に言いたいことはたった1つ。何時間考えようと他に思い浮かばない。言いたいことは1つしかないが、思うところもある。俺が言いたいことは言ったら2人を酷く傷つけると思う。実母を傷つける……別にいいか。事実を突きつけるだけだしよ
「けどなぁ……遊華達の許しが出るかどうか……」
実母と山岸に会うってのはこの時代における最高難易度のクエストだ。羽月さんですら会わせてもらえるかどうか怪しいってのに……
「遊華達が帰って来たら聞くだけ聞いてみるか」
俺はもしかしたら会わせてもらえるかもと期待に胸を膨らませながら遊華達の帰りを待った
遊華達が帰宅してきた頃には外はすっかり夕暮れ。事務所に行った後、何をしていたかは聞かないでおいた。大人には大人の事情があるだろうしな。で、飯は出前。なんでも今日は3人共やる気が起きないらしい。そして現在────
「動きづらいんだが……」
夕飯を済ませ、ソファーで優雅な食後のティータイム……ではなく、遊華達に抱き着かれていた
「1日頑張ったんだからいいでしょ?」
「遊、褒めて……」
「遊ちゃん~疲れたよぉ~」
甘えてくるのはいいんだけどよ、飯終わった途端に人をソファーへ投げ込むのはどうかと思う。無言で手を引かれたかと思ったら強引に座らされた時は焦ったぞ
「褒めるし甘えさせもするけどよ……」
1日中頑張った彼女達を褒めるし、労いの言葉もかける。誰を最初にしたらいいか分からんけど。それよりも俺は遊華達に大事な話があるんだが……甘えてくる彼女達にどう話を切り出したらいいものか……
「だったら甘えさせてよ」
「遊、褒めて」
「遊ちゃん~お姫様抱っこ~」
要求がバラバラ過ぎんだろ……遊華が甘えさせろで香月が褒めろ。美月に至っては抱っこときたものだ。藤堂遊は1人で分身の術なんてできない。3人の願いを叶えてやれはするけど、同時には無理だ
「要求は吞んでやるから順番だけ決めてくれ。3人同時には無理だ」
「「「え~!」」」
「え~じゃない。3人同時だと俺の身が持たないんだ」
遊華達は俺を何だと思ってるんだか……遊華は甘えてくる時ハグが多い。香月が褒めろって言ってくる時はオプションで頭を撫でるのがセット。この2人だけだったら同時進行可能だが、そこに美月のお姫様抱っこが加わると俺が2人に分身するか腕が4つないと不可能だ。結論、同時は絶対に無理
「私達は全員同時がいいんだけど?」
「そうだよ。私達全員頑張った」
「同時じゃなきゃいや~」
無茶言うな
「勘弁してくれよ……」
俺は眉間に手をやり溜息を吐いた。話し合いの結果、3人の願いを同時に叶えるのは無理だということで彼女達は要求を変え、一緒に寝ろと言い出したのだが、その……なんだ……遊華達の恰好が……な。俺は普通に服着てていいらしいのだが……彼女達の恰好が……これ以上は察してくれ。男子高校生────いや、男の精神衛生面には非常によろしくないとだけ言っておく
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました