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【本当の母襲来編未来渡航6】なぜか全く怒りが湧かない件について

遊って変じゃないですか?

 香月の仕事に付き合わされた翌日。俺は……言わなくても分かるだろ?


「遊ちゃん!今日は私だよ!」


 美月の仕事に付き添っていた。アレだ。一緒にいる相手とされることが違うだけで流れは同じ。アフレコ現場に連れてかれ、その後はビジネスホテルの一室にGO。新鮮味がない。社畜の人達が変わり映えしない毎日に辟易してる気持ちがよく解かる。同じことの繰り返しじゃ飽きて当然だよな。俺が辟易してるのに太陽は輝き、空は雲一つないとか何の皮肉だよ


「はぁ……今日も同じことの繰り返しか……」


 日常に変化など求めていなかった。同じことの繰り返しに飽き飽きしていたってだけだ。何気なくや咄嗟に出た言葉が本心とはよく言ったものだ。今出た言葉が俺の本心なのだから。美月と一緒にいるのが嫌だと言ってるわけじゃない。同じことを繰り返すのに飽きたってだけで


「不満そうだね」


 隣を見ると不満そうに頬を膨らませながらこちらを睨む美月の姿が。ウッカリ本音が……


「不満ではない。人が変わっただけで変化がないことに飽き飽きしていただけだ」

「同じでしょ~」

「同じじゃない。美月と一緒に出歩くのは楽しいぞ」

「ほんと~?」

「本当だ」

「ならよし!」


 俺の答えに満足したのか美月がフンスと鼻を鳴らす。ヤンデレちょろいな







 はい、やってきました。昨日とは違うが、アフレコスタジオ。人と作品と場所は違えど俺のすることは変わらない。邪魔にならない適当な場所に腰を下ろしてぼんやりと物思いに耽る。考えることも昨日と変わらず元の時代に帰る方法。考えたところで見つかりはしないのだが、何もしないよりかはマシだ


「答えは見つからないのに同じことを考えるとか我ながら時間の使い方下手過ぎるだろ……」


 とは言ったところでアフレコが始まったら美月はブースで仕事中。スタッフも綿密なチェックしてて俺の相手をしている暇はない。連れて来られた俺はというと娯楽的なものを持って来てないから暇だ。必然的に無駄なことを考える他ないのだ。ふとブースに目をやると同僚だか後輩だか先輩らしき女性声優と楽しそうに談笑する美月の姿が目に入る。こうして見ると普通の女性なんだよな……中身がアレなだけで


「マジどうやったら帰れるんだよ……」


 楽しそうに話す美月や肉食獣みたいな遊華、クールを被っただけの香月を見ていると自分がどうやったら元の時代に帰れるか分からなくなる。遊華達は自分達が俺をこの時代に呼んだと言っていた。だが、彼女達が俺に何をしてほしいのか全く分からない。この時代に留まってもいいんだが、そうすると元の時代の遊華達がなぁ……どうにかならないかなぁ……





「遊亜!お待たせ!」


 無駄な考え事をしているとアフレコを終わらせただろう美月が声を掛けてきた。遊華の時も香月も時も今回もだが、考え事をしていたから何分、何時間経ったかはカウントしてない。退屈凌ぎに時間を数えてるのもいいのだが、数えると憂鬱になる。何はともあれ仕事が終わったらしい。さて、この後の予定でも聞くか


「別に待ってない。それより、この後の予定は?」

「この後はラジオの収録が一つあるだけだよ」

「ですよね……」


 遊華、香月と同じか……香月の時はホテルを出た後で知らされたんだっけ……とにかく、ラジオ収録があるということはだ、マジでこの後の流れは2人と同じになるのは目に見えてる


「この後時間あるし、ね?遊亜」

「そ、そうですね……」


 満面の笑みを浮かべる美月に俺は項垂れる。下着の遊華、膝枕の香月ときて美月はどんな要求をしてくるのやら……





 というわけでやって来ましたビジネスホテルの一室。美月で3人目。いい加減慣れたのだが……


「美月は要求してこないし、迫って来ないんだな」

「まぁね。私は遊とお話しできるだけで満足だから」


 意外なことに美月は下着姿にならず、膝枕を要求してこなかった。ただ、俺と向かい合う形で座ってるだけだった。俺にとっては本当に意外過ぎる。後でとんでもないことを要求されそうで怖いんだが……


「遊華と香月が何をさせたか知ってるだろ?」

「ええ、知ってるわ。とは言っても遊と2人きりになったら何をさせるか各自で決めたことよ。私はそれについてどうこう言うつもりはないわ」

「さいですか……それで美月は話以外で俺にしてほしいことってないのか?」

「別にないわ。遊とお話できるだけで満足だって言ったでしょ」

「そうは言われても話題なんて特にないぞ?俺達は常に一緒なんだからよ」


 俺達4人は常に一緒だ。この言い方だと固い絆で結ばれているとか一心同体みたいに聞こえるが、実は違う。この時代じゃ俺は学校に行く必要がなく、家から出る用事がない。オマケに遊華達は俺を家から出そうとはしない。出るとしたら彼女達の中の誰かが同行するのが基本。常に一緒にいるとはそういう意味だ


「そうね。私達はいつも一緒にいるのだから特別これと言った話題はないわね」

「だろ?」

「ええ。遊にとっては特別これと言った話題がなくても私にはあるのよ。そうね、貴方がこの時代に飛ばされてきた本当の理由でもお話しましょうか」


 俺は彼女の言葉に耳を疑った。遊華は俺に会いたかったからと言っていたし、俺も俺でそうなのかと思っていた。そのままズルズル過ごしているうちに一か月が経ち、どうしたものかと思いあぐねていたところだった


「俺がこの時代に飛ばされた本当の理由……?」

「ええ。遊華の言ったことは嘘ではないわ。けれど、本当の理由はそうじゃないの」


 そう言った美月は真剣な目をしていた


「俺に会いたかっただけじゃないのは何となく分かっていたぞ?」


 呼び出した奴の本当の願いを叶えなきゃ元の時代には帰れない。俺がこの時代に帰れてない時点でただならぬ事情があるのは察していたのだが、遊華達の誰かが話してくれるのを待っていた節もある。まさか美月が教えてくれるって言うとは思ってなかったけどな


「でも、見つけられなかった。当たり前よね。私達の本当の願いは一週間や一か月じゃ叶えられないもの」

「そう……なのか?」

「ええ。この程度で叶えられるなら呼んだりはしないわ。私達の本当の願い────それは遊とずっと一緒に暮らすこと。この言葉の意味分からない遊じゃないわよね?」


 分からないはずがない。ずっと一緒に暮らす。この一言で俺は絶望感にも似た何かを抱く。どうやら俺は死刑を突き付けられたらしい。とはいえ、ずっとこの時代に留まっているわけにもいかない


「分からなくはないが、ずっとこのままってわけにもいかない。それは解るだろ?」

「もちろんよ。でもね、頭じゃこのままじゃいけないと理解はしていても本能が遊を帰すなと訴えてるのよ。貴方を婚約者や実母に渡すなってね」


 美月の目からハイライトが消えた。俺は婚約者と結婚してやるつもりも実母の元へ行くつもりもない。よく分からん奴と結婚するのも10年以上実の息子を放ったらかしだった母を名乗る女と一緒に暮らすのも御免被る


「俺は婚約者と結婚してやるつもりも母を名乗る女と一緒に暮らすつもりもないんだが……」

「遊がそう思っていても現実────いや、大人の世界というのは汚いものなの。大金を目の前にすれば簡単に意志を曲げ、10年以上息子同然に育ててきた子供を簡単に売り飛ばす。そういうものなの」

「売り飛ばす……だと?」

「ええ。遊、実の父親に貴方は売り飛ばされたのよ。10年前にね。逆を言うと実母が婚約者を連れて貴方を買いに来たとも言えるわ」

「何だよそれ……」


 親父が俺を売り飛ばした。この事実が受け入れられない……親父は女好きで母さんを病ませていたが、息子を売り飛ばすようなクズじゃなかったはずだ


「言葉の通りよ。遊は10年前に売り飛ばされた。だから私達は高校生の貴方を呼んだし、お母さん以外の人間関係を全て断ち切り、家出した」


 家出のことも人間関係を断ち切ったことも遊華から聞いていて知っている。だが、詳しいことは何も話してくれなかったし、話そうとはしなかった。当たり前だよな。高校生に汚い大人のやり取りを言えるわけないよな……怒りが湧いてこないのは何でだ?


「そうだったのか……」

「驚いていないようね」

「驚いてるさ。親父が俺を売り飛ばしたことにも実母が婚約者を連れて俺を買いに来たこともな。ただ、何でか怒りが湧いてこないんだ」

「どうして?」

「分からん。本来ならここで親父への怒りが湧くか信じられるかと美月を怒鳴り散らしていてもいいはずなんだが……」


 美月の口から語られたことには驚いた。だが、驚いただけで怒りとかはなかった。本当に不思議でならない


「遊、貴方変よ?」

「そうだな。自分でも変だと思ってる。けどな、本当に怒りが湧かないんだ」


 人を金で売り買いするのは許される行為じゃないのは知ってる。売買の対象になったんだから怒って当然なんだが……マジで怒りが湧いてこない。どちらかと言うと湧くのは親父、実母、婚約者に対する哀れみだった









今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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