【本当の母襲来編未来渡航4】元の時代に全く帰れる気がしない件について
なんか……ごめんなさい
朝食を終えた俺達はソファーに座ってゆったり……
「さて、話せ。どうして俺をこの時代に呼んだ?」
していなかった。ソファーの横へ遊華達を正座させ、俺は彼女達を見下ろす。説教をしようってわけじゃない。ただ、これまでと同じくソファーに座ると彼女達のペースに乗せられ、聞きたいことが聞けないと思ったから正座させただけだ
「え、えっと……お兄ちゃんに会いたかったから?」
「そうか。次。遊華達が変態へジョブチェンジした理由は?」
「そ、それは遊不足と職業柄……かな?」
「……はぁ、次。お前らは俺に何をしてほしいんだ?」
「遊ちゃんに甘やかしてほしい」
美月の回答に頷く遊華と香月。なんなんだろうな……遊亜で慣れてしまったせいか、しょうもない理由で未来に呼ばれても腹立たしいとは思わない自分がいる。何はともあれ遊華達が痴女化した理由は察した
「俺が呼ばれた理由とお前らが変態になった理由は分かった。分かったんだが……。はぁ……」
分からなかったことが分かったというのにこの脱力感は何なんだろう……
「お、お兄ちゃん?」
「何だよ?」
「怒った……よね?」
「怒ってない。力が抜けただけだ」
「本当に怒ってないの?遊」
「怒ってないって」
「遊ちゃん、怒ってもいいんだよ?」
「怒っても仕方ないだろ」
遊亜のことを考えると怒る気が湧かない。コンビニ感覚で未来に呼ばれてるんだ、遊亜がよくて遊華達がダメだとは言わないし、言えない。何より例外はあれど泣きそうな顔してる女を怒鳴りつけるのは俺の主義に反する。とはいえ、彼女達の言ってることが本当だとしたら元の時代に帰れるのはいつになるのやら……
「お兄ちゃん本当に怒ってないの?」
「怒ってないって。ちょうど婚約者と実母の問題が面倒だと思っていたところだ。気晴らしになってちょうどいいとすら思ってる」
元の時代にいる遊華達には悪いが、今は実母と婚約者のことは忘れたい。本音を言うと両方とも迷惑だ。何年もほったらかしにしてたクセに今更迎えに来られても困る。未来に結婚相手を決められるなら納得するが、顔すら拝んだことない実母が決めた女と結婚なんてして堪るか!
「ならさ……ユウチャンココニトジコメテオイテモイイヨネ?」
「気晴らしになるんだったら……ユウヲココカラダサナクテイイヨネ?」
「お兄ちゃん監禁されるの好きだから……イイヨネ?」
気晴らしににちょうどいいと思ってるって言っただけなのに遊華達の目から光が消えてるのと発言がヤバいのは触れないでおく
「好きにしろよ。今更居場所に頓着なんてない。閉じ込めたきゃそうすればいい」
こうなってくると自分の居場所どころか時代にすら頓着がなくなってくる。理由は……遊亜のせいだって言えば解かるか?
「「「モチロン、スキニサセテモラウ」」」
「どうぞ……」
俺の言葉を皮切りに遊華達が一斉に飛びかかってきた。なぜか服を脱ぎながら
フローリングがひんやりして気持ちいい……慣れとは恐ろしいもので遊華達の下着姿を見ても動じなくなってきている自分がいる。上に香月、右に遊華、左に美月とハーレム状態なのに喜べない。柔らかな胸の感触や女性特有のいい匂い?ンなモン慣れた
「えへへぇ~お兄ちゃぁん~」
「ゆ~う~」
「ゆうちゃぁん~」
「はいはい」
リビングで下着姿の女達に抱き着かれているというのは客観的に見たら誤解される要素しかない光景だ。俺はちゃんと服着てんのに遊華達は下着姿だもんなぁ……第三者がこの光景を見たら完全に俺は変態扱いだ。彼女達の知名度は知らんが、ファンが見たら確実に発狂するだろうな……とか思いながら3人を抱きしめる俺。慣れって本当に恐ろしいな
「お兄ちゃん、襲っていいんだよ?」
「遊にならどこに何をされても構わない」
「遊ちゃんが望むなら多少マニアックなプレイでも受け入れるよ~」
本人達曰く声優業のせいで変態にジョブチェンジしたらしいのだが……確実に職業病だけじゃない気がしてならないのは俺だけだろうか?
「俺を何だと思ってるんだよ……」
遊華達が変わったのはどうやら中身だけじゃないらしい。俺の認識も変わったようだ。好意を寄せてくれるのは大変嬉しく思うが、俺の認識が変わったのは嬉しくないぞ
「「「私達の恋人」」」
何も間違ってないから反論できない。どうしてここで人に聞かれたら誤解されることを言わないのかな?この子達は
「何も言い返せねぇよ」
彼女達の恰好が恰好なだけに照れくささはなかった。元の時代だったら俺は照れてるのを誤魔化すために顔を逸らしていたんだろうが、この状態じゃやるだけ無駄だ。照れくさくはなかったが、代わりに遊華達が無償に愛おしく思えてならなかった
あれから早いものであっという間に一か月が経った。その間、遊華達に迫られた回数は数知れず。外出は……変装アリで遊華達の職場について行く程度だった。ちなみに俺の着る服や変装に使うメガネなんだが、気が付いたら用意されていた。毎日家と職場を往復するだけの生活を送っているリーマンの気持ちが少し分かったからいい社会勉強になったと言えば聞こえはいいが……正直、何とも言えない
遊華達に俺をこの時代に呼んだ理由その他諸々を訪ねてから一か月。特に変化らしい変化はない。計算が正しければ最初に未来へ飛ばされた時に起きた激痛がもうそろ起きてもいいはずなのだが、それもなく、まさに平凡そのもの。今日は遊華の仕事に付き添っていた
「はぁ……」
監督やその他スタッフが真剣な眼差しで遊華達のアフレコを見守る中、俺は天井を見上げながら溜息を吐く。一か月も経ったというのに元の時代へ帰れる気がしない……最初の未来じゃ遊華や周りの人間が色々隠してたから時間を要したが、今回は探りを入れる必要なんてないから長く見積もっても一週間程度で戻れると思っていたのだが……
「どうしたの?遊亜?溜息なんて吐いて」
「ゆ、遊華……お姉ちゃん……」
「うん。遊華お姉ちゃんだよ。それより、溜息なんて吐いてどうしたの?」
「別に何でもないよ」
どうやったら元の時代に帰れるか考えるのに夢中だったらしい。遊華に声を掛けられるまで彼女が近くにいることに気が付かなかった。ちなみに遊亜というのは外へ出た時の俺の呼び名だ。知ってる奴に会っても面倒だしな、俺が外では遊亜と呼ぶように遊華達に言ったのだ。お姉ちゃん呼びは遊華達からの希望だ。外じゃ俺は彼女の従弟ってことで通しているからお姉ちゃんと呼ぶようにきつく言いつけられている
「収録終わったよ?」
「そうなの?」
「うん、この収録はね。この後は別のスタジオでラジオの収録」
「そっか。じゃあ、早く移動しないとな」
アフレコブースの出入り口に目を向けると声優達がお疲れ様でしたと言いながらゾロゾロ出て来てるのが目に入る。人気声優も混じってるんだろうけど、俺は遊華、香月、美月以外に声優は知らない。10年も経ってるから新人と人気声優の区別など付くわけがないのは言わなくても解かるだろ?
「まだ時間はあるから慌てなくてもいいよ」
「そうはいかないだろ。遅刻したら怒られるのは遊華お姉ちゃんだしよ」
「そうだけど、ここから電車で一本だし急がなくても平気だよ」
「そうか?」
「うん。それに、今日は遅れて入るように言われてるしね」
「ならいいんだけどよ」
遅刻が許されているとは妙な現場もあったもんだ。制作スタッフというのはよく分からん
遅刻しても大丈夫という遊華の言葉を信じ、スタジオを出た俺達が向かった先は次の収録現場……ではなく、レストラン……でもなく……
「どう?」
「いや、どうって言われても……似合ってるとか綺麗だとかしか言えないんだが……」
ビジネスホテルだった。その一室で遊華は下着姿で俺に迫ってきているのだが……見慣れてるからなぁ……有名人の下着姿を間近で見られるって考えたら役得だが……似合ってる、綺麗しか言いようがない
「うわぁ、在り来たり……でも、お兄ちゃんからだったらそれでも嬉しいな……」
ハニカム遊華の顔は年相応。立派な大人の女性に見えた
「語彙力がなくて悪かったな」
「ううん。裸を見た時にちゃんと褒めてくれればそれでいいよ」
「あのなぁ……」
このビジネスホテルに来たのは遊華が次の収録まで時間があるから休憩しようと言い出したのがキッカケ。二人きりになれる場所に誘い込まれた時点で何となく予想はついた。彼女がこうなったのは完全に職業だけのせいじゃないと思うのは気のせいだろうか?
「好きな人からの誉め言葉は例え在り来たりでも嬉しいんだよ。さっきも言ったけど裸を見た時にちゃんと褒めてくれればそれでいいから」
「この一か月毎回褒めてるだろ……」
実を言うとこの時代に来てからというもの、俺は毎回ローテーションで遊華、香月、美月と風呂に入っている。最初は抵抗したが、ハイライトの消えた目で強引に迫られ、途中から抵抗するのを止めた。遊華達のヤンデレには慣れている俺なのだが、あくまでもヤンデレになったところで怖くもなんともないってだけで行動を起されると無力だってだけでな
「ふふっ、そうだね」
「毎回褒めてるんだからいい加減許してくれてもいいんだぞ?」
「ダーメ。毎回褒めてくれないと許さないんだから」
俺達はどちらともなく唇を合わせた。10年の間に変わってしまったことはある。だが、変わらないものもある。変わらないのも変わるのも難しいものがあると思う今日この頃
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました