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【本当の母襲来編未来渡航】遊華に連れて来られたのが実家じゃなかった件について

実家だと思うたか?

 駅前で野宿を決意し、広い公園を探していたところを遊華に捕まり────


「お、おい……!」


 現在、強引に手を引かれていた


「何?」

「痛いんだが……」

「そう。それで?」

「いや、それでって……引っ張らなくても俺は逃げない。だから手を離してくれないか?」

「いやだ」

「いやだって……」

「いや……絶対に離さない」


 そう言う遊華の手は震えていた。彼女からすると10年ぶりの再会で俺は失踪していた身。是が非でも離したくないという気持ちは解からんでもない。しかし────


「気持ちは解かるが、少し力を弱めてくれ。さすがに手が痛い」

「いや……」

「はぁ……」


 これ以上の押し問答は無駄か……遊華を不安にさせた報いが手の痛み程度で済むなら甘んじて受けるしかない





 遊華に手を引かれて連れて来られたのは実家────ではなく……


「ここどこだよ……」


 10階建ての大きなマンション。てっきり実家へ連れて行かれると思っていた俺にとっては鳩が豆鉄砲を食ったような感覚だ


「どこって私の家だけど?」

「はい?お前一人暮らししてたのか?」

「一人暮らしじゃないけど、家には住んでないよ。お兄ちゃんがいなくなってから色々あったから」

「色々ねぇ……とりあえず話は着いてから聞くわ」

「うん」


 俺的には気になる部分しかないが、嫌な予感しかしない。そうだな……俺のせいで家族がバラバラになりましたとか。まさかな……




 そんなこんなで遊華に手を引かれてやって来たのが……マンションの最上階。一番奥に位置する部屋の前だった。俺が失踪────した事になっているこの未来で彼女がどんな職に就いてるかは知らん。一人暮らしじゃないらしいから一緒に住んでる奴もそれなりに稼いでるとは思うのだが……


「着いたよ」

「あ、ああ……」


 手慣れた……というのは言い得て妙だが、特に気にした様子もなく、ドアを開ける遊華。そして戸惑う俺。マジでこの10年の間に何があった?


「ただいま」

「お、お邪魔します……」


 中に入ると案の定玄関は広かった。ルームシェアしている面子の靴を全て出したままでもまだスペースが余るくらいだ。出てる靴は三足しかないところを見るにここに住んでる人間は遊華を入れて三人なんだろうが……その辺りは後で聞くとしよう。俺はこの広い玄関を目の当たりにし、若干委縮してしまった


「お邪魔しますじゃないでしょ?」

「いや、人ん家に来たんだからお邪魔しますだろ」

「お兄ちゃん?お邪魔しますじゃないよね?」


 ジト目で睨んでいた遊華は目のハイライトを消し、ずいっと俺へ顔を近づけてきた。遊華からするとここは自分の家だが、俺からするとここは人の家。お邪魔しますで間違ってないはずなんだが?


「俺的には人ん家だからお邪魔しますで合ってるだろ」

「違うでしょ?家に帰って来たらただいまでしょ?」


 彼女が何を言っているか全くわからん。ここは遊華と愉快な仲間達の家であって俺の家ではないんだが?なんて言ったら無駄な問答が始まる。大人しく従っとくか


「た、ただいま……」

「うん。おかえり。お兄ちゃん」


 遊華が満足気な笑みを浮かべながら顔をこちらに近づけてくる。ちょっと待て。俺はただいまと言っただけだぞ?キスする流れじゃないだろ


「どうして顔を近づけてくるんだ?」

「どうしてってキスするため?」

「キスする流れじゃなかったよな?」

「うん。でも、私がキスしたいからじゃダメ?」

「ったく……」

「呆れなくてもいいじゃ────」


 俺は遊華の唇に自身の唇を押し当てた。不意討ちを食らった彼女は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに目を閉じ、あろう事か舌を絡ませてきた


「これでいいだろ?」

「うん……」


 唇を離すと遊華は顔を真っ赤にして俯いた。自分からキスしようとしてきたクセに赤くなるとは……初めてしたわけじゃないのに……本当にこの10年で何があったのやら……


「んじゃ、リビングへ連れてってくれ」

「うん……」


 遊華はすぐに顔を逸らすといそいそと靴を脱ぐ。俺も彼女に倣って靴を脱ぐと後に続きリビングへと向かった





「広くね?」


 玄関の時点で知ってはいたが、案の定リビングは広々としていた。大きな窓とベランダからは街全体が一望できそうだ。リビングがこれだけ広いという事はキッチンもおそらくそれなりに広いと思う


「そりゃ高級マンションだから広いのは当たり前だよ」


 俺はこの一言に何も言えない。玄関ホールにはオートロック式の自動ドアがあったし、エレベーターも広々としていた。玄関も同じ。反論の余地なしだ


「さいですか」

「さいですよ。それより、お茶入れてくるから適当にくつろいでて」

「了解」


 そう言うと遊華はキッチンへ入り、俺は……目についたソファーに腰を下ろした。のだが……


「お、落ち着かねぇ……」


 大きいソファー、目の前には大画面テレビ。つい数分前?ほんの10年前?ダメだ、考えたら頭がこんがらがる。とにかく、今まで見た事のないもの、過ごした事のない空間で全く落ち着かない。遊華や他の住人からするとこの空間で過ごすのが日常。当たり前だから何の違和感がないんだろうが、俺は落ち着かない


「どんな職に就いたら高級マンションに住めるってんだ?」


 最初に飛ばされた未来、自分の子供達に呼ばれて行った未来。どちらとも遊華達の職業は声優だった。だから今回も声優の職に就いてると思うのだが……如何せん引きずり込まれた場所が実家ではなく高級マンションだ。職業に関しては前回と同じってわけじゃなさそうだと思う


「お待たせ」

「あ、ああ……」


 前回との差異を考えてると目の前にオレンジジュースが入ったグラスが置かれ、遊華は俺の隣に腰かける。彼女の方へ視線をやり、改めて思う。ここは10年後の未来なのだと。遊華の横顔は今までとは違い、少女から大人の女性のもの。常日頃一緒にいると変化など分からんが、改めて見るとマジで未来に来たのだと実感させられる。どこか寂しい気分だ


「ん?私の顔に何か付いてる?」


 そんな俺の視線に気づいたのか俺の顔を覗き込む遊華。マジで大人の女性になったんだな……10年も経ってたら当たり前か


「いや、付いてない」

「そう。でも、お兄ちゃん私の顔見てたよね?」

「見てない。気のせいだ」

「そう?」

「ああ」


 俺はオレンジジュースを一気に煽る。遊華の雰囲気といい、この部屋といい、落ち着かない。住み慣れた自分の家じゃないからってだけなのかもしれないが、とにかく落ち着かない





「さて、一息ついたところで話してくれるよな?この10年で何があったか」

「うん……」


 平和なティータイムを終わらせ、ここからが本題なのだが……遊華の表情はなぜか曇っている。俺には話しづらい事が────ないわけないよな……10年という長い年月の中には辛かった事もあるだろうし。聞き方が悪かった


「周りにいた奴のことは追々聞く。とりあえず俺に関することだけでも教えてくれないか?遊華から言いづらいなら俺が質問するからそれに答えてくれるだけでいい」

「わ、わかった……けど……」

「遊華の口からは話しづらいか?」

「うん……」

「わかった。んじゃ、俺が質問してくからそれに答えてくれ」

「うん……」


 顔を俯かせてるところから察するにこりゃ一筋縄じゃいかないな……とはいえ、何から聞いたものか……質問が浮かばねぇ……。年齢から聞いて次に趣味、職業と続き、子供は何人欲しいか────って、お見合いかよ……


「え、えっと……遊華さんのご職業は?」

「せ、声優をやらせて頂いております……」

「…………」

「…………」


 質問が浮かばなかったからってそりゃねーだろ……何が遊華さんのご職業はだよ……自分のアホさ加減に嫌気が差す。遊華も遊華で律儀に答えんでもよかろうて。そもそもアレだ。この配置が悪い。隣り合わせで座ってるとかカップルかよ。いや、カップルなんだけどよ


「ゆ、遊華の部屋に行っていいか?」

「うん……」


 何でしょう……俺はあれですか?初めて彼女の家に来た彼氏か何かですか?




「あの……遊華さん?」

「何?」

「いや、何じゃなくてね?」

「文句あるの?」

「文句はない。ただどうして俺達はベッドに横になっているのかと思ってな」

「決まってるじゃん。私がお兄ちゃんと寝たかったからだよ」

「何が決まっているんだ……」


 遊華の部屋に案内された俺は内装を見る間もなくベッドに引きずられた。なんと言うか……彼女はここまで強引な奴だったか?ヤンデレだから強引な部分はあったかもしれないが……


「それより、もっとくっ付いてよ」

「あ、ああ……」


 俺は遊華の方に身を寄せる。いつもしていることのはずなのに妙な懐かしさを覚えてしまうのは何でだろうか……

















今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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