【本当の母襲来2日目後編】購買で遊華と美沙里が喧嘩していた件について
今回は遊華と美沙里が喧嘩した話です
HR前に邑田と話し合いを終えた遊。そんな遊は一体誰と昼食をともにするのか?
では、どうぞ
屋上で遊華達の様子が変になった原因について話終えた後、俺達は教室へ戻り、朝のHR、午前の授業を普段通り受けた。だが、授業の内容は全く頭に入ってこなかった。そんな午前の授業も全て終了し、昼休みとなり、教室内が一気に騒がしくなった。そんな中、俺は1人、邑田との話を振り返っていた
「結局、収穫は邑田の父親が弁護士で俺の側にいる為に転校してきた事がわかったってくらいか……」
遊華達の様子がおかしくなった原因は俺に婚約者がいるという事を邑田が話したからだ。俺に婚約者がいたという事実は意外なものだとしても、当人である俺は何も知らない。本当の母の手紙にもそんな事は一言たりとも書いてなかった。それにだ、俺が大企業の社長?それこそ信じられるか!
「邑田の言った事を信じる信じないは保留にするとして、遊華達と話をしないとな……」
邑田の話が本当か嘘かは判らない。本当の母がどんな人物なのかは多分知っていると思う。これは俺の予想になるから絶対とは言えないが、邑田はおそらく本当の母とはかなり前から面識がある。それも、幼い頃から。だとしたら本当の母がどんな人物なのか知っているはずなのだが……
「本当の母の話をこれ以上しても無駄か……」
邑田も美沙里と同じで重要な事ははぐらかした。つまり、何か知っていてもそれを教えてはくれないという事だ。
「さて、どうしたものか……」
邑田と美沙里が重要な事を何も教えてくれない以上、俺はただ本当の母が来るのを待つしかない
「結局は待つしかないのか……」
俺は待つ事しかできない歯がゆさを感じつつ購買へと向かった。今日は珍しい事に浩太も敬も来なかったが、彼等は彼等で付き合いというものがあると思う事にした。その代わりに────────
「藤堂君、これからお昼かい?よかったら一緒にどうかな?」
邑田に声を掛けられた。転校生でまだ親しい友人がいないからなのか、それとも、屋上で言っていたように俺の側にいる事が重要だから声を掛けてきたのか……それは飯の時に聞こう
「いいぞ。今日は浩太も敬も友達や彼女と昼飯を食ってるっぽいしな」
「本当かい!?いやぁ~、転校してきてまだ友達がいなかったから助かったよ!」
特に断る理由がなかった俺は邑田と一緒に昼飯を食う事にした。が、その前に……
「そうかい。昼飯を一緒に食うのはいいんだが、その前に俺は購買に行くが、一緒に来るか?」
俺は昼飯を購買で買わなきゃいけなかった
「ああ!是非お供させてもらうよ!」
購買に行くだけなのに目を輝かせている邑田。もしかして購買に行った事ないのか?
「そ、そうか……だがな、邑田よ、購買に行くだけなのにそんな目を輝かせなくてもいいんだぞ?購買なんて所詮、コンビニの下位互換みたいなものなんだしよ」
購買で働く人には失礼かもしれんが、購買なんて所詮はコンビニの下位互換でしかない。そんな場所に行くというだけで目を輝かせる必要はない
「そうなのかい?僕は生まれてから1度も購買に行った事がなくてね。だから、購買に行く事に憧れてたんだ」
父親が弁護士をしている事が何か関係あるのだろうか?と一瞬思ってしまったが、すぐにその考えを捨てた。弁護士である父親はともかく、母親が毎日弁当を作ってくれているのなら購買で昼飯を買う必要がない。もっと言うのなら飲み物も家から持参しているのであれば尚更な
「そりゃ邑田の母親が毎日弁当を作ってくれて飲み物も持参してれば購買になんて行く機会なんて早々ないだろうよ」
今のは皮肉でも何でもなく、純粋に思った事だ。俺からしてみれば羨ましい限りだけどな
「確かに僕は毎日母さんが弁当を作ってくれてるし、飲み物だって持参している。でも、時々購買に足を運んでみたいと思う時だってあるよ」
「そうなのか?俺からしてみれば毎日母親が弁当を作ってくれて飲み物まで持たせてくれるのって羨ましいと思うが?」
「他人からしてみれば羨ましいのかもしれない。でもね、当事者からしてみれば疎ましく思う事もある」
邑田の表情には哀愁が漂っていた。他人からしてみれば羨ましくても当事者からしてみれば疎ましく思うか……邑田の言葉は持っているが故のものなんだろうな
「幸せは人それぞれか……」
「そういう事。それより、早く購買に行こう!」
「そうだな」
話し込んでいても仕方ないので俺と邑田は教室を出て購買へ
普段昼時になると賑わっている購買。しかし、今日に限っては女子生徒2人の怒鳴り声以外はしなかった。
「お兄ちゃんに婚約者がいるだなんて聞いてないよ!!」
「言ってないもん!当たり前でしょ!!」
購買に来るや否や耳に入ってきた2つの怒鳴り声。1つは遊華の、もう1つは美沙里のものだった
「遊華と美沙里……何を言い争ってるんだ?」
「何をって藤堂君に婚約者がいる事についてでしょ」
「だよな……」
遊華と美沙里が俺に婚約者がいる事について言い争っている。当事者からしてみれば目を背けたい事実ではあったのだが、隣にいる邑田はそれを無情にも突きつけてきた
「美沙里ちゃん、遊華ちゃん達に言っちゃったんだ……」
「だな……」
俺もHR前に屋上で邑田から聞いて驚いた。心の整理だってまだだ。だというのに美沙里は遊華達に喋ったらしい
「とにかく、美沙里ちゃんと遊華ちゃんを止めた方がよくないかな?問題が起こる前にね」
「だな」
俺達のいる位置から遊華と美沙里の様子は見えない。ただ、怒鳴り声が聞こえたという事はいつ殴り合ってもおかしくないというのは理解出来る。俺と邑田は今も怒鳴り合ってる遊華と美沙里を止めるべく人の波をかき分け、遊華達の元へと向かった
「そもそも!お兄ちゃんに婚約者がいて遊華ちゃんに何の関係があるのかな!!」
「お兄ちゃんは私のものなの!!婚約者なんて必要ないの!!」
熱くなっているとはいえ遊華は自分が彼女だからとは言わなかった。婚約者がいる事について納得はしてなくても俺達の関係を隠す事はするのか
「はぁ!?お兄ちゃんは私とお母さんのものなんだよ!!関係ない人はすっこんでいて!!」
美沙里さん?俺は貴女のものになった覚えも貴女のお母様のものになった覚えもありませんよ?
「お兄ちゃんは私達のもの!!そっちこそ関係ないんだからすっこんでてよ!!」
こういう時に俺はどんな反応をしていいのか戸惑う。ただ、早いとこ遊華と美沙里を止めなきゃ大変な事になる。それだけは言えた
「「このッ……!」」
人をかき分け、遊華と美沙里の元へ辿り着いた俺が見たものは互いの胸倉を掴み合い、今にも殴り合いそうな遊華と美沙里の姿。
「止せ。遊華、美沙里」
「「お兄ちゃん……」」
「遊ちゃん……」
「遊くん……」
「遊さん……」
遊華と美沙里が怒鳴っている状態で俺まで大声を出しては元も子もなかったから2人を出来るだけ優しく引き離したが、美月、美優、由紀の3人は側にいるなら止めろよ……
「遊華と美沙里が喧嘩していた原因は俺の婚約者についてだろうが、2人は場所を考えろ。美月達も美月達で見てないで止めろ。他の人に迷惑が掛かるだろ?」
本来なら喧嘩している遊華と美沙里を止めるのは側にいる美月達の役目だ。それをしなかったという事は遊華同様に美月達も納得してないという事だろう。だからと言って購買のような人が大勢集まるところで喧嘩するのはどうかと思うが
「「「「「ご、ごめんなさい……」」」」」
遊華達と美沙里は謝罪の言葉を口にする。しかしだ。それを言うのは俺にじゃない
「謝るのはいいが、それは俺にじゃないだろ?購買にいる人達にだろ?」
当事者である俺と喧嘩していた遊華と美沙里、側にいながら喧嘩を止めなかった美月達はその場で頭を下げ、謝罪した。そして、それが済んだ後、俺は昼飯と飲み物を買い、邑田と遊華達を引き連れ屋上に行く事にした。騒ぎの発端となった俺、購買で騒ぎを起こした遊華と美沙里。側にいた美月達。立場は違えど居心地が悪いのは確かだ
屋上へ来た俺達。メンバーはいつもの面子じゃないが、たまには違う面子での昼飯も悪くない。まぁ、不満があるとすれば……
「「「「「…………………………………………」」」」」
女性陣が黙ったままという事だけだ
「あ、あはは……」
気まずい空気の中、俺はどうする事も出来ず、邑田も邑田で苦笑いを浮かべていた
「空は晴れ渡っているのに俺達だけ葬式ムードかよ……」
空は雲1つない快晴。でも、俺達の間に流れる空気は葬式よろしく重苦しいものだった
「と、とりあえず食べないかい?」
重苦しい空気に耐えかねた邑田が口を開いた
「そうだな。いつまでも黙ったままじゃ昼飯を食い損ねるしな」
「「「「「うん…………」」」」」
邑田の鶴の一声と俺が便乗した事で昼飯を食べる事となった。なったのだが……
「「「「「…………………………………………」」」」」
女性陣の間に会話はなく、皆一様に無言だ。絶対に昼飯を食う時は会話をしなきゃいけないという決まりはないし、俺はそういった決まりを設けてはいないが、気まずい
「邑田、HR前にした話の続きをしていいか?」
女性陣の気まずい沈黙と遊華と美沙里が喧嘩した原因の解消を図る為、俺は邑田とHR前にした話の続きをする事にした
「ああ、もちろん。藤堂君の婚約者の話だよね?」
「ああ」
「「「「「────────!?」」」」」
邑田とHR前にした話は2つ。1つ目は邑田が転校してきた理由と邑田の親父の職業の話。2つ目は俺が将来大企業の社長になるという話と婚約者について。転校してきた理由と邑田の親父がどんな仕事をしているかは話した。俺が将来は大企業の社長になるという話は不明確な部分が多いので保留。自動的に俺の婚約者についての話が残ると察したのか、邑田は迷う事なく婚約者の話を出してきた。その話が出た瞬間、女性陣は驚いた顔で俺と邑田の方を見てきた
「HR前にも話したと思うけど、藤堂君の婚約者がどんな人なのかについては話せないよ?」
「ああ、俺の婚約者がどんな人かについて聞く気はないから安心しろ。俺がしたいのはその婚約者と婚約し、結婚する意志についてだ」
邑田も美沙里も俺の婚約者がどんな人間なのかと聞いたところで話しはしないというのは火を見るよりも明らかだ。話してくれないものを無理に聞いても仕方ない。
「藤堂君の意志か……それは興味深いね。是非聞かせてくれ」
「ああ。俺は婚約者がどんな人間でも婚約する気もなければ結婚する気もない。これが俺の意志だ」
「ほう……理由を聞いてもいいかな?」
俺が本当の母が決めたであろう婚約者と婚約および結婚する意志がない理由は単純に遊華達と付き合っているから。そう言えれば楽なのだが、重婚が認められてるのは10年後の話で今じゃない。となると、別の理由が必要だな
「理由は単純だ。俺の結婚相手は俺が決める。ただそれだけだ」
遊華達からしてみれば自分達との関係を出せと思っても無理はないと思う。俺だって出来る事ならそうしたい。それをしてしまうと未来が変わる可能性があるからしないだけで
「いいんじゃないかな。婚約者はあくまでも藤堂君の本当のお母さんが決めた事だ。君がそれに従う必要はないと思うよ?」
てっきり邑田は婚約者と絶対に婚約を結んで結婚しろ!そう言うと思ったが、意外な事に俺の意志を尊重してくれた
「意外だな。てっきり俺は絶対に婚約者と婚約を結んで結婚しろと言われるとばかり思っていたぞ?」
止められなかったのはよかったが、逆になんか気持ち悪い
「僕は藤堂君の意志をなるべくなら尊重したいのさ。それに、僕が守るのは藤堂君であって君の本当のお母さんじゃない」
邑田の言葉はまるでどこかの従者のそれだった
「そうかい。そう言ってる割に婚約者の情報はくれないのな」
俺の意志を尊重するのなら婚約者の情報くらいくれてもよくない?
「悪いけど、婚約者の情報は教えてあげられないんだ。でも、遊華ちゃん達を安心させられてよかったね」
遊華達の方をチラッと見てみると安心したような顔をしていた。逆に美沙里は穴が空くんじゃないかってくらい俺を睨んでいたがな
「ああ。俺は絶対に自分のものにならないアイドルと自分とは何の面識もない人間には好意を抱かない主義なんだ」
「それでいいんじゃない?僕は藤堂君の主義や意志を否定する事はしないよ」
邑田のイエスマンっぷりに若干の違和感を感じつつ、昼飯を食べ、午後の授業に臨んだ。
今回は遊華と美沙里が喧嘩した話でした
喧嘩の原因は遊の婚約者についてでした。遊華達が遊に婚約者がいると知った経緯は前回の話で邑田君がしてくれました。遊華と美沙里が喧嘩になった経緯は後々やります
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました