俺を兄呼ばわりした女性と今度は学校で遭遇した件について
今回は病院で遊を兄と呼んだ女性と学校で遭遇する話です
さて、いよいよ本当の母襲来が目前に迫ってまいりました
では、どうぞ
「師匠!!今度こそ逃がさないっすよ!!」
「お、俺の安息が……」
悪夢からは逃れられない。俺はつくづくそう思う。一体どこで間違えればこうなるんだ?アレか?面倒事を浩太に任せて逃げたのが原因なのか?
「諦めろ遊」
うっせ!元はと言えばお前がコイツを連れてきたのが原因だろ!!そもそもこうなった原因はほんの数分前──────
「まさか美優の元・ストーカーに会うとは思わなかった……」
購買で美優の元・ストーカーに出くわした俺はすでに会計が済んでいた昼飯を持って逃走。ただでさえ朝の一件で精神的疲労が溜まっていた。これ以上疲れてなるものかと思い逃走し屋上までやってきた。
「朝は遊華達への告白集団。購買に行ったら1年前に遭遇した美優の元・ストーカー……今日は厄日か?」
ヤンデレの彼女達に囲まれているせいで危機的状況に対処できる能力はそれなりに備わっているとは思う。しかし、それとは別な厄介事にはなるべく関わりたくなかった
「ま、何はともあれ浩太が誤魔化してくれてるだろうから俺はそれまでのんびり待ちますか」
思い起こせばこれが悪かったのかもしれない。浩太なんて待たずにさっさと飯食って教室に戻ればよかった。俺のバカ……
「1人で食っても味気ないし浩太を気長に待ちますか」
別に1人が寂しいとかじゃなく、飯を1人で食っても味気ないと思った俺は浩太を待つことに。そして浩太を待つこと5分後……
「待ったか?遊」
屋上のドアが開き浩太がやってきた。ただ、余計な奴を数人と遊華達を引き連れて
「……………俺の安息の時間が消えた」
浩太が引き連れてきた連中を見て俺は自分の安息の時間が消えた事を悟った
そんなこんなで今に至る。
「おいふざけんな」
屋上に入って来て俺を見るなり『師匠~!』と言いながら少年は俺の元へと詰め寄ってきた。で、冒頭に戻る
「遊、せっかく後輩がお前を慕ってくれてるのに逃げるのは感心しないぞ?」
浩太の言葉は客観的に聞けば後輩思いのいい先輩の言葉に聞こえるだろうが俺には悪魔の囁きにしか聞こえない
「そうっすよ!師匠!」
少年、浩太に便乗するな
「俺は君の師匠になった覚えはないんだがなぁ……」
後輩が自分を慕ってくれているのは素直に嬉しいと思う。ただ、俺を師匠なんて呼ばなければ
「いや、遊は悠馬君の師匠だろ」
他人事のような言い草の浩太は後で酷い目に遭わせよう。明美さんを使って
「俺は弟子を取った覚えなんてない!」
「し、師匠酷いっす!」
「酷くない!事実だ!それに、俺が師匠だって言うなら一体何の師匠なんだよ?」
「もちろん!恋愛っす!」
俺は恋愛について熱く語った覚えはない!
「俺は恋愛について熱く語った覚えなんてねーんだけど?」
「いやいや!師匠は1年前俺に恋愛のいろはを教えてくれたじゃないっすか!」
うん、全く身に覚えがない
「は?俺が1年前に言ったのは年上の女性は魅力的だぞって事だけだ!」
1年前、当時美優のストーカーをしていた少年を退ける為に年上の女性の方がいいって事と親父の部屋に溜まっていたキャバ嬢の名刺を渡しはしたが、恋愛のいろはについて教えた覚えなんてない
「それっす!師匠は年上の女性の魅力について教えてくれたじゃないっすか!それ即ち恋愛のいろはっす!」
俺は少年が何を言ってるか理解できない。年上女性の魅力=恋愛のいろはになるのか全く理解できない
「年上女性の魅力=恋愛のいろはじゃねーぞ?」
「そんな事ないっす!」
年上女性の魅力を語っただけで恋愛マスターになれるなら苦労はしない。
「あー、盛り上がっているとこ悪いけどよ2人ともいいのか?」
「「何が?」」
「あれだよ、あれ」
「「あれ?」」
俺と少年は同時に浩太の指さした方向を見た。するとそこには……
「「「「…………………」」」」
「「「…………………」」」
少年を睨む遊華達と俺を睨む女性達がそこにいた。って言うか俺を睨んでいる女性達は誰?俺睨まれる事なんてしてないんだけど?
「「………………」」
遊華達にも女性達にも睨まれる謂れなんてないと強く出てもよかったのだが、本能的に逆らってはいけないと察してしまった俺と少年は無言になる。
「遊、悠馬君……ちゃんとフォローしとけよ」
どこまでも他人事の浩太に一言言ってやりたい。お前が少年を引き連れてきたんだろうが!
「わかってるよ……」
浩太には後で明美さんを通じて仕返しするとして、俺はひとまず遊華達のご機嫌取りに勤しむ事にした。その間、少年は女性4人組のご機嫌取りだ
「「「………………」」」
明らかに不機嫌な遊華達。ヤバい……早速手詰まりなんだけど
「あの……?皆さん?」
「「「つーん」」」
あ、これ完全にへそ曲げてますね
「いや、つーんじゃなくてね?」
「「「つーーーん」」」
どうしよう……本格的に拗ねちゃったよ……
「そ、そんなぁ……」
遊華達が本格的に拗ねてしまい途方に暮れていた俺なのだが、どうやら少年の方も同じ事態に陥ったみたいだ。親父ならこんな時どうするんだろうか?あの軽いノリの親父だからきっと……
「放置したお詫びと言っちゃ何だが遊華達には俺を1日好きにできる権利をやろう」
よくへそ曲げた母さんに親父がこう言ってるのを聞いた。子供の前で何してんだ?だなんて常日頃から思ってはいたが、まさか俺がそれを使う事になるとは……
「「「「本当!?」」」」
さっきまで拗ねていた遊華達があっという間にご機嫌に。ちょ、チョロ過ぎる……
「ああ。遊華達が機嫌を直してくるなら俺を1日好きにしていい」
「「「わかった!!」」」
言い方が悪いが俺は自分の身を犠牲にする事で平和な昼休みを手に入れた。っと、俺の昼休みも大事だが、少年の方はどうなっただろうか?
「お、俺が1日何でも言う事聞くから!」
「「「「よろしい!」」」」
少年の方も我が身を犠牲にし難を逃れたか……まぁ、あの4人は遊華達と同じ匂いがするからそれが無難だな
「独占欲が強い女に囲まれると大変なんだな」
思いっきり蚊帳の外にいる浩太の呟きがやけにハッキリ聞こえたのは気のせいにしておこう。それに、明美さんだって同じようにへそ曲げると思うぞ?
「さて……多少ハプニングがあったが、ようやく昼飯だ」
「だな」
「はいっす!」
俺と少年が1日言う事を聞く事で女性陣のご機嫌が治った後、遊華達は4人の女性と意気投合し、男子は男子、女子は女子で別れて飯を食う事になった。だったら最初から不機嫌にならないでほしいのだが……女心というのは複雑なものだ
「改めて藤堂遊だ。よろしくな。少年」
「うっす!川端悠馬っす!師匠!」
何度も言うが俺は弟子を取った覚えはないっつーの!
「な、なぁ?川端君?」
「何ですか?師匠?」
「いや、その師匠っての止めないか?なんかむず痒い」
「でも師匠は師匠っすから!」
俺は師匠ってガラじゃない。
「俺は師匠ってガラじゃない。できれば普通に呼んでくれたら助かる」
これからどうなるかは知らん。もしかしたら1、2年の合同授業とかあったとして、周りにクラスの連中がいる状況で師匠なんて呼ばれてみろ。絶対に勘違いされる
「で、でも……師匠は師匠ですし……」
いや、そんな事言われてもなぁ……
「川端君が心の中で俺を師匠って呼ぶのは構わないけど、人前ではせめて普通に藤堂先輩か遊先輩って呼んでくれた方が俺としてもありがたい」
「え!?下の名前で呼んでいいんすか!?」
物の例えで下の名前を出しただけなのにめっちゃ食いついてきたな
「ああ。師匠よりはマシだ」
「じゃ、じゃあ!遊先輩で!」
「いいぞ。川端君」
「自分の事も悠馬って呼んでください!」
「ああ、よろしくな。悠馬」
「はいっす!遊先輩!」
こうして俺と悠馬の1年越しの再会は無事とは言わないが果たされた。俺は別に約束した覚えなんてないけどな!
「あ……飲み物買うの忘れた……」
昼食が進み、飲み物を飲もうと思ったら飲み物がなかった。悠馬から逃げる事で頭がいっぱいで飲み物買ってなかったのを忘れていた
「遊先輩!自分買ってくるっすよ?」
悠馬が飲み物を買ってくると言ってくれたが、さすがに後輩をパシリにするほど俺は面の皮が分厚くはない
「飲み物を買い忘れたのは俺だ。自分の不注意を後輩に押し付けるほど俺は落ちぶれちゃいねぇ。って事で浩太、俺飲み物買ってくるわ」
「おう」
「あ、自分も行くっす!」
俺は悠馬と共に屋上を出た。別に付いて来なくてもいいんだけどな
「飲み物買いに行くだけなんだから付いて来なくてもよかったんだぞ?」
「いえ!遊先輩にならどこまででも付いて行くっす!」
美優のストーカーを止めたかと思ったがどうも違うらしい。
「そうか。で?本音は?」
「ほ、本音っすか?」
「ああ。本当はあの4人の女性と一緒にいたくない理由でもあるんだろ?」
「あ、あはは……バレてたっすか……遊先輩って鋭いんっすね」
別に俺は鋭い方ではない。ただ、悠馬を見ていると思うところがある。俺と遊華が他人で香月達と同じ年齢、同じ学年、同じ学校だったとしよう。そうしたら俺は多分、悠馬と同じ対応をしていた。そう思う
「別に。悠馬の境遇を自分に当てはめてみただけだ。んで、きっと悠馬はあの4人から離れたいとは思てなくても距離を置きたいとは思っているんじゃないかってな」
「………………当たりっす」
悠馬に言い寄っていた4人の女性の見てくれは悪くない。が、悠馬が距離を置きたいと思っている理由がわからない
「そうか」
「そうかって遊先輩は何も聞かないんすか?」
「ああ、聞かねぇ。別に興味がないわけじゃないが、あの4人とどうなるかは俺が決める事じゃないからな。それを決めるのは悠馬、お前だ」
馬に蹴られたくないとかそんなんじゃない。ただ、他人の人間関係に口出しできる程俺は人間ができてないだけだ
「遊先輩……」
「ま、悩みくらいなら聞いてやるよ。先輩としてな」
「はいっす!」
「さて、浩太達を待たせると悪いからさっさと行くか」
「うっす!」
俺と悠馬は自販機のある購買に向かって歩いた。別に購買じゃなくても自販機はあるのだが、体育館の側にある自販機は種類が少ない。自販機の数自体少ないんだけどな
「さて、飲み物も買ったし戻るか」
「はいっす!」
飲み物を買った俺達は屋上へと戻る。本当は奢ってやろうと思ったが、悠馬に奢ってやるって言ったら『そ、そんないいっすよ!俺はそんなつもりで付いて来たわけじゃないっすから!』と断られてしまった。
「あ、お兄ちゃん!やっほ~!」
屋上に戻る途中、俺は1年前に病院で会った女性に遭遇した。制服を着てるからこの学校の生徒だというのはすぐに解った。
「遊先輩?呼ばれてないっすか?」
「気のせいだ。行くぞ、悠馬」
俺1人か香月または美月が一緒だったらいいとして、それ以外の時に遭遇するとは運が悪い
「で、でも、コッチ向かって走って来てるっすよ?」
悠馬の言う通り俺を兄と呼んだ女性は俺の方に向かって走ってきている。だが、俺の後ろに兄がいる可能性もなくはない
「きっと俺の後ろにいる兄に向って走っているんだよ。気にするな」
「いや、それは無理があるっす」
悠馬、人間時には無理を通さなきゃいけない時だってあるんだよ
「も~!お兄ちゃん酷い!無視するなんて!」
俺を兄と呼んだ女性は俺の前で止まり、プリプリと怒っている。
「俺は君の兄ではないんだが……」
1年前、病院でも思ったが、俺は君の兄ではないぞ?
「何言ってるの?お兄ちゃん?」
「いや、だから、俺は君の兄ではないんだよ。もしかして人違いじゃないか?」
世の中には似た顔の人間が3人いるって言うしな。この子はもしかしたら勘違いしているのかもしれない
「ううん。人違いじゃないよ?お兄ちゃんって藤堂遊でしょ?」
俺は目の前の女性に名乗った覚えなんてない。そもそも、コイツと会ったのは病院だ。その時は制服じゃなく入院着だった。だというのにどうしてここに?
「そ、そうだけど、俺、名乗ったっけ?あ、もしかして同じ学年の誰かから聞いたとか?もしくは2年生か3年生の誰かからか?」
入院している時に名乗った覚えはない。病室まで後をつけて来たのかもしれない。だから名前を知っててもおかしくはない。が、病院であっただけの奴をつけるか?それだったら同学年の誰かに聞いたとか2年か3年の誰かに聞いたとかの方がまだ納得がいく
「ううん。そんな事しなくてもお兄ちゃんの名前は知ってたよ?お兄ちゃんと病院で会う前からね!」
病院で会う前から俺を知っていた?どういう事だ?
「病院で会う前から知っていた?どういう意味だ?」
「さぁ?どういう意味でしょう?まぁ、とにかく、今週末にお母さんと迎えに行くから!じゃあね~」
それだけ言い残すと女性はどこかへ歩き去った。そして、残された俺と悠馬は……
「ゆ、遊先輩……」
悠馬は何が起こったのかわからず唖然とした表情で俺を見つめるだけだった
「悠馬、今の事は浩太にも遊華達にも言うな」
唖然とした表情の悠馬に俺は釘を刺す事しかできない。本当の母が迎えに来るのは知っていた。それがいつになるかはわからなかったけど。でも、登場がいきなり過ぎる
「で、でも……」
「でもじゃない。あの子に関しては少し複雑な事情があるんだ。この事は他言無用にしてくれると助かる」
「は、はいっす……」
浩太には本当の母から手紙があった事を話してある。もちろん、遊華達にも言えるわけがない。それに、遊亜がさっきの女性が俺達の関係を壊そうとする。そう言っていたが、見た感じそうは見えなかった。一体どんな方法で俺達の関係を壊すってんだ?
「さて、戻るか」
「はいっす……」
屋上に戻った俺と悠馬は俺を兄と呼んだ女性について触れる事はなかった。それどころか悠馬は飲み物を買う前と変わらない態度で浩太や遊華達、4人の女性と談笑していた。が、俺はいよいよもって本当の母が迎えに来る事、遊亜が言っていた事が現実味を帯びてきた事を実感した
今回は病院で遊を兄と呼んだ女性と遭遇する話でした
本当の母襲来がいよいよ迫ってまいりましたが・・・・遊はこの試練を乗り越えられるのか?
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました