【体育祭】俺が体育祭を寝て過ごす件について
今回は体育祭を寝て過ごす遊の話です
遊は必要とあらば外に出ますが、基本、インドアで運動は可もなく不可もなく。そんな遊が体育祭に大人しく参加するのか?
では、どうぞ
高校生になって初めての体育祭。普段は冴えない奴やモテない奴が活躍するチャンスが与えられる場面だ。まぁ、文化祭も普段は冴えない奴やモテない奴が意外な才能を発揮したり、普段とは違う一面を垣間見る場面ではある。大きな違いと言えば体育会系か文科系かの違いだ。
「マジでだりぃ~」
みんなが体育祭で盛り上がる中、俺、藤堂遊だけは盛り上がる気にはなれなかった。むしろ怠かった
「こんな暑い日によく体育祭なんてやる気になるよな……」
9月の終わりとはいえ暑いもの暑い。俺はどちらかと言うとインドア派なので太陽照り付ける炎天下の中、長時間外にいるのは苦手だ。俺がいた施設に行った時は遊華達の前だったから気丈に振る舞ったが、本来俺は暑いのと寒いのが大の苦手なのだ
「まぁまぁ、そう言わないでよ、遊」
「敬……」
タオルで汗を拭いながら敬がこちらにやってきた。敬はさっきまで自分の出場種目に出ていてたった今戻ってきた
「僕だって暑いのと運動は苦手だよ?それでも何とかやってるんだからさ」
敬はさっき自分で言ってた通り暑いのと運動が大の苦手だ。自分で楽しむための運動ならまだしもクラスや学年対抗とか言われたら全力でサボろうとする。俺と一緒に。そんな敬が頑張れるのは一重に彼女である早川のお蔭と言っても過言ではない
「敬は早川がいるから頑張れるんだろ?俺なんて同学年に彼女がいないから頑張るだけ無駄だ」
遊華達を悪く言うつもりは毛頭ない。しかし、人間というのは報酬があった方がやる気を出す生き物だ。敬の場合は頑張ったご褒美に早川からのキスが待っているらしい(本人談)。んで、早川の方は敬からのキスがご褒美らしい(敬談)。どちらにしろ俺がクラスや学年の為に頑張る必要はない
「遊はご褒美ないの?」
「ねーよ。って言うか、学校行事を否定するわけじゃないが俺はクラスや学年対抗ってのは好きじゃないんだよ」
クラスや学年対抗っていうのはどうも好きになれない。優勝したクラスや学年はいい。活躍した奴もしてない奴もみんな優勝したという事実に喜び、その達成感に浸る。しかし、優勝できなかったクラスや学年はどうだろう?最悪の場合は魔女裁判よろしく足を引っ張った奴を探すだろう。そんな事しても意味なんてないのに
「遊にも同学年に彼女がいれば何かが違ったのかもしれないね」
同学年に彼女がいれば何かが違ったか……。敬には悪いが、たとえ同学年に彼女がいたとしても俺は何も変わらない。クラスや学年対抗で運動する事に対して馬鹿馬鹿しいとしか思わないし
「変わんねーよ。同学年に彼女がいたとしても俺はクラス対抗や学年対抗を否定し、これからする事と同じ事をするからな」
「これからする事?」
「ああ、俺はこれから体育祭をサボる。んな面倒な事してられっか!」
暑さに耐える限界もあった。優勝できないと諦めたわけでもない。ただ、純粋に面倒になっただけだ。
「ちょっ!?遊!?」
俺は敬が止めようとするのも聞かずその場を走り去る。
「ったく、炎天下での運動ってのはインドアの俺からしてみれば拷問だ」
敬の静止を振り切った俺は屋上に行くわけにも教室に行くわけにもいかず結局は保健室に逃げ込む事にした
「さて、これからどうすっかな……?」
敬を振り切って保健室に逃げ込んできたのはいい。しかし、当たり前だが俺にも出場しなきゃいけない種目がある。当然ながらその種目の時間になっても姿を現さなければどうなるか?答え─────
『グルグルバッドリレーに出場する1年の藤堂遊君、1年の藤堂遊君。至急選手入場口までお越しください。繰り返します1年の──────』
放送によって呼び出される。しかも、俺はグルグルバッドリレーに出場する事を承認してはいない。知らぬ間に決まっていた事だ。
「この暑い日にグルグルバッドって……あれか学校は俺に死ねと言ってるのか?」
時間までに選手入場口に行かなければ不参加扱いされてしまう。で、悪いが俺はバラエティー番組のミニゲームのような競技に参加する気は全くもってない
「体調悪い事にしてバックレるか」
小学校の運動会然り、中学校の体育祭然り、教師達は当然の事だが生徒達も自分の出場競技に出たり、他の生徒を応援したりとせわしない。それは高校になっても変わらない。何が言いたいかって?仮病でサボっても誰もその仮病が真実かどうかを確かめる術を持たないって事だ
「まぁ、俺1人がいなくても運動が得意な浩太とか、ご褒美に釣られた敬とかが頑張るだろう。無駄な事に労力を使うなんて俺らしくもない」
学校行事を無駄な事と言っていいのかは知らん!が、俺にとっては無駄な事だ。いや、俺にとってはって言うよりも運動が苦手な奴にとって体育祭ってのは拷問以外の何物でもないか。
「運動が得意な人達。精々頑張ってくれ。俺は……寝る!」
体育祭は運動が得意な奴か運動が好きな奴に任せればいい。別に運動が得意でも不得意でもない俺に体育祭で汗を流すなんて選択肢はない!って事で、おやすみ~
『おい』
いつも遊華達と過ごしている部屋。俺は早退した覚えなんてないし寝る前に誰かに見つかった覚えもない。何より声を掛けてきたのはもう1人の俺だ。これは夢だと断言できる
「何だよ?俺は中二病になった覚えなんてない。それに、俺の身内には海外に出張に行く人なんていないんだが?」
中学時代に特別な力とかもう1人の自分に憧れなかったわけじゃない。それに、奇抜な髪形をした主人公が出るアニメのゲームはした事があるが、自己投影する程ハマったという記憶はない。
『お前、バカだろ?』
自分に“おい”なんて声掛けられたと思ったら今度はバカにされた。納得がいかねーんだけど?
「俺がバカならお前もバカだろ。同じ俺なんだからよ」
『そうだな。お前がバカなら俺もバカだな。それより、本題に入ってもいいか?俺はお前とバカ談義したいわけじゃない』
「最初にバカって言ったのはお前だろ。まぁ、それはいいとしてだ。本題って何だよ?その言い草だと俺に話があるみたいじゃないか」
今まで遊亜から重要な話をされた事は何回かある。遊亜以外だと親父とか浩太とかだが、自分自身から重要な話をされるというのはどこか複雑だ
『みたいじゃない。重要な話がある』
自分以外から重要な話があると言われるなら緊張感も持てるが、自分自身から重要な話があると言われても緊張感が持てないのは何でだ?
「何だよ?実は多重人格障害でした!とかか?」
自分で言っておいてアレだが俺は過去に限界を超えた苦痛を受けた覚えはない。俺が覚えてないだけかもしれないが……それは置いといてだ。自分自身からの重要な話を聞こうじゃないか
『違うな。お前も知っていると思うが俺は幼い頃に限界を超えた苦痛を受けた事なんてない。重要な話というのはお前自身の事だ』
「俺自身の事?」
自分自身から自分の事に関する重要な話をされるというのはシュールな光景だと思う。だってそうだろ?自分が自分に重要な話をされるって長生きしている人でも中々ないだろ
『ああ。俺はお前だ。逆に言えばお前は俺だ。この意味が理解できるな?』
理解できるなって言われても俺には全くもって理解できない。俺が俺にある重要な話が何なのかすら把握してないのに
「ごめん、理解できない」
『はぁ……これが俺自身だと思うと情けない』
呆れたように溜息を吐くもう1人の俺。しかしだ。何も言わずに理解しろって方に無理があると思う
「お前が俺をどう思うが勝手だけどよ。何も言わずに理解しろって方が無理だろ?何でもかんでも言わずに理解できるなら争いなんて起こらない」
全ての人が言わずに相手の意志を理解できるのであれば争いなんて起こらない。日常で言えば意見が食い違う事もない
『理解出ないんだろうとは思っていたが……まぁいい。俺はお前に警告しに来ただけだからな』
「警告?重要な話は?」
『その警告が重要な話だ』
自分自身とはいえ話が飛ぶな。何なんだよ、重要な話って言ったり警告って言ったり……
「話が飛んでいるような気もしなくはないが……まぁいい。お前は俺に何を警告しに来たんだよ?」
重要な話なのかただの警告なのかはどうでもいい。とりあえず話の中身だ
『お前は今までどんな時だって怒らなかった。それこそ血の繋がった母親から高2に進級してすぐに迎えに行くと手紙越しに言われても。自分が生まれて間もない頃に施設に入れられ、その入れられた理由が借金でも。だがな、それは無意識にお前が怒りを飲み込んでいただけなんだよ』
相手は自分自身だから今まで俺の身に起きた事を知ってても不思議じゃない。だが、俺は本当の母からの手紙を読んだり、自分が借金を理由に施設に入れられた事に対して怒りを覚えた事なんてない
「本当の母限定で言えば覚えてない奴のする事に怒っても仕方ないと割り切っただけだ。別に怒りを飲み込んだ覚えはない」
覚えてない奴に対して怒りを覚えるくらいなら別のところにエネルギーを使うよりも別のところでエネルギーを使った方がいい。俺は本当の母からの手紙を読んだ後も施設に行って話を聞いた後もそう思った。ただ、それだけだ
『お前がそう言うなら別にいいけどよ。これだけは覚えておけ。お前の怒りはやがて他人の人生を狂わせる』
「………………俺1人の怒りで他人の人生が狂うわけないと思う。が、一応覚えておこう」
『今はその程度でいい。時が来たらお前にも理解できる。おっと、そろそろだな』
「何が──────」
何がだ?と聞く前に目が覚めた。当たり前だが、俺は保健室のベッドにいた。
「不思議な夢だったな……」
目が覚めた俺は寝起き特融の気怠さとかは全く感じなかった。むしろすんなりと目が覚めた。これもあの夢のお蔭なのか?
「俺の怒りは他人の人生を狂わせるか……」
夢の中で自分自身に言われた言葉が頭から離れない。俺1人の怒りで他人の人生が狂うはずがない
「俺が怒って人生が狂う人がいるなら見てみたいものだ」
怒りに任せて人を殺したって話はニュースとかで見るから否定はできない。でも、俺に人を殺す度胸なんてない
「深く考えていても仕方ない。クラスに戻るか」
自分自身に言われた事とはいえ深く考えても仕方ない。そう思った俺はクラスの方に戻る事にした。サボってしまった手前戻りづらい……
「はぁ……」
サボったのは俺だから文句を言われても仕方ないと思いつつ俺はクラスの連中がいるであろう応援席に向かった
「あっ!遊!もういいの?」
戻って早々敬に声を掛けられたのだが……敬は怒っているどころか俺を心配しているようだった。
「もういいって何の事だ?」
「身体の具合だよ。もういいの?」
唐突に体調の心配をされても何が何やらサッパリだ
「俺は別にどこも悪くはないぞ?」
「そう?サボるって言ってどこかに行く前の遊は顔色悪いように見えたんだけど?」
「気のせいだ。それよりも俺が出る予定だった種目はどうなった?」
体調うんぬんよりも俺が出るはずだった種目がどうなったのかの方が気になる
「それなら浩太とクラスの男子何人かが代わりに出たよ」
「そうか。後で浩太達に礼を言っておくか」
「そうした方がいいよ。それより……」
「何だ?」
敬は俺の耳元に顔を近づけてきた
「貸し1つね」
「了解」
クラスメイトが大勢いる手前、何の貸しかは言及しなかった。だが、敬の言う貸しとは俺がサボった事を言っているのは明白だった。って言ってもクラスメイトはみんな応援に夢中だからほとんどの奴が俺らの会話なんて聞いてないと思う
「まぁ、遊の出る種目の中で借り物競争以外は大して重要じゃないから代役で十分だったんだけどね」
「どういう事だ?」
「それはその時になってからのお楽しみだよ」
今日はその時になってからってワードをよく聞く日だな……。何なんだ?マジで
「はあ……まぁ、サボってたの怒られるよりはマシだから深くは聞かないけどよ……」
「そうしてくれると助かるよ。でも、借り物競争は絶対に出てよね?」
「了解」
他の種目をサボっておいて借り物競争までサボったらマジで怒られそうだ。借り物競争のどこが重要なのかはわからないが、サボっちゃいけない事だけは理解した。それから俺は別に興味も関心もないが形だけの応援をする事にした。人間マジで興味ない事に関しては無関心なのな
『いよいよ最終種目の借り物競争です。選手の皆さんは選手入場口までお越しください』
出場選手を集めるアナウンスが流れ、借り物競争に出る各学年、各クラスの選手が続々と選手入場口へと向かった
「遊!頑張ってね!」
「ああ、行ってくる」
敬に見送られ、俺は選手入場口へ
「借り物競争が最終種目ってどんな学校だよ……」
普通の学校ならリレーが最終種目というのが当たり前だが、この学校は借り物競争が最終種目だ。どの種目を最終に持ってくるかは学校次第だと思う。俺から言う事は何もない
「選手の皆さん!整列してください!」
係の生徒の指示に従い、出場者は整列を始めた。高校生ともなると待ち時間に騒ぐ奴はいない。その代わり、頬を赤く染めている奴が多い。下手したら耳まで真っ赤な奴もいる
「マジで何なんだ……?」
俺はこの時、他の連中が赤くなっている理由を気にも留めてなかったし、知ろうともしなかった。そして、俺はその事を深く後悔する事になる。
「……………………………………………………何だこれ?」
前の走者達が全員無事に完走したらしく、いよいよ俺達の番になった。そして、ピストルの音と共に軽快なスタートを決め、お題が書かれている紙を取り、中を開ける。説明になってしまうが、聞いてほしい。お題が書かれているであろう紙を取り、中を開けるとそこにはとんでもない事が書かれていた。
『自分が愛してやまない異性を2人』
俺は小・中と運動会的なものに出てきた。その中で借り物競争に出た事もある。そんな俺なのだが、『愛してやまない異性』というお題は初めてだ。まるで俺が複数の異性と付き合っている事を知っているかのようなお題だし
「……………どうしろと?」
考えすぎかもしれないが、どうして俺のところにだけピンポイントで愛してやまない異性を2人だなんてお題なのかは知らない。ここで考えを変えてみようと思う。これは学校行事の一環だ。俺が香月と美月を連れてゴールしたとしてもネタとしか思われないだろう。そう、所詮は学校行事だ。深く考えないでおこう
「ま、今日が終わればみんな忘れるし香月と美月を連れてゴールでいいだろ」
俺は香月と美月を早々に発見し、2人を連れてゴールへと向かった。その途中、他の走者の様子を窺ってみたが、誰一人としてその場から動く者はおらず、みんな一様に顔が真っ赤だった。んで、ゴールした俺は学校中の人から冷かしの言葉や嫉妬の視線を浴びせさせられる事となった。
「あれ何の罰ゲームだよ……」
香月と美月に礼を言ってからクラスの応援席に戻ると案の定クラスメイト達はニヤついた顔で俺を見つめてきた
「お疲れ、遊」
「ああ、疲れた」
他の連中同様にニヤついた顔で俺に声を掛けてくる敬
「遊なら絶対に1番にゴールするって信じてたよ」
「は?なんだそれ?」
「遊……やっぱり借り物競争が1番最後にある意味を理解してなかったんだね……」
敬が何を言っているのかが理解できない
「借り物競争が1番最後にある意味どころか俺はこの体育大会がクラス対抗なのか学年対抗なのかすら知らないぞ」
「そこからか……。この体育大会はクラス対抗だよ。で、借り物競争で1番を取った生徒のクラスには特別に1000点が与えられる。つまり、今まで取った点数がほぼ無意味になる。ここまではいいかな?」
「ああ。クイズ番組で言うところの最終問題は点数が跳ね上がるってシステムだろ?」
「うん」
この学校の体育大会はこれでいいのだろうか?とも思うが、校長がそれでいいって言うならそれでいいんだろう
「で、どうして借り物競争に出るのが俺だったんだ?」
借り物競争なんてお題さえ知らなければ俺じゃなくてもいい。出た後でもそう思う
「遊は借り物競争のお題を見たよね?」
「ああ。『愛してやまない異性を2人』だったぞ」
俺のお題を聞いた敬はふぅと息を吐き、この学校の借り物競争のお題について説明してくれた。話によると借り物競争のお題は全て異性関係のお題らしい。んで、その中には片思いの相手だったり、結婚したい相手だったりと公開処刑のようなお題ばかり。という話だ。で、俺が選ばれた理由が異性関係に全くもって興味がなさそうだからというクラスメイト達の迷惑な推薦らしい
「僕には望海ちゃんがいるし、浩太には明美さんがいる。で、他の子達は片思いの相手に告白する勇気なんてないから異性関係に興味のなさそうな遊が選ばれたんだけど、まさか、何の躊躇いもなく香月さんと美月さんを連れてゴールするとは……」
「何だよ?別にいいだろ?最終的にはうちのクラスが優勝したんだから」
閉会式はまだだが、俺は借り物競争で1位を取り他クラス。他学年との点差は圧倒的だ。開会式の時は怠い、眠い、運動したくねぇの三拍子揃っていたから覚えてないが、閉会式は……開会式と同じか。違うのは運動したくねぇじゃなく早く帰らせろに変わっているところくらいだな
「まぁね。優勝してなきゃ遊がサボった事言いふらしてたし」
「お前なぁ……」
サボりを見逃してもらった立場だから強くは言えない。だがな、敬。お前は俺を嵌めて楽しいのか?
「まぁいいじゃないか!優勝できたんだからさ!」
「はぁ……」
今回ばかりは完全に敬に頭が上がらなかった。そんなやり取りを終え、俺の高校初の体育祭は無事に終わった。クラスの連中はともかく、俺はただサボって保健室で惰眠を貪り、出た種目と言えば借り物競争のみ。とてもじゃないがちゃんと体育祭に参加したとは言えないが、結果として俺のクラスが優勝できたからその辺は多めに見てくれるだろう。
今回は体育祭を寝て過ごす遊の話でした
これは……体育祭メインってよりも遊の夢がメインなんじゃないか?って思った自分がいる……。一応、この後の伏線は張ったつもりです
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました