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【遊華の進路】私が進路表を提出する件について

今回は遊華の進路の話です

遊華は進路どうするんでしょうか?

では、どうぞ

 中3の夏。高校進学を考える私にとっては重要な季節。


「進路かぁ……」


 放課後の静かな教室で私、藤堂遊華は今まさに進路表と睨めっこしている最中だった。そろそそ進路について真面目に考えなきゃいけないとは思っていても実際に考えてみると自分がどうしたいかなんてすぐには浮かんでこない。


「どうしたの?遊華?何か悩み事?」

「由紀……うん、ちょっとね……」


 彼女は冬野由紀。私と同じ兄である藤堂遊の恋人の1人。私達の中では香月さんに次ぐしっかり者。そんな由紀の事だから進路なんてとっくの昔に決まっているんだろうなぁ……


「もしかしなくても進路の事だよね?」

「うん、よくわかったね」

「進路表とジッと見つめてて悩んでるって言ったら誰だって進路関係だってすぐにわかるよ」

「だ、だよね……」


 隠し事ができるできない以前に進路表を見つめて元気がない時点で『私は進路の事で悩んでますよ』って言ってるようなもの。バレるのは仕方ないよね


「うん。で?遊華は進路の何に悩んでいるの?」

「高校に進学するのは決まっているんだけど、進学先をどうしようかって……」


 私の中で高校に進学するのは決まっているけど、進学先の高校をどうしようかっていう問題があった。


「遊華なら成績いいんだしどこでも受かるでしょ?」

「そう……なんだけど……ね。成績の問題じゃないんだよ」


 自慢じゃないけど、私の成績ならある程度の高校なら受かる。でも、問題はそこじゃない


「成績の問題じゃなければ何?」


 由紀の私を見る目は真剣そのものだった。私の事を真剣に考えてくれている。でも、自分の事を真剣に考えてくれている親友にこんな事を相談していいのかな?


「成績じゃないんだけど、ちょっとね……」

「ちょっと何?遊華が何に悩んでいるか言ってくれないと解決しようがないんだけど?」


 由紀は本当に私の事を真剣に考えてくれている。でも、こんな事を相談していいのかな?


「相談した後で怒らない?」

「怒らないよ」


 昔お兄ちゃんが言ってたけど、怒らないって言ってる人に限って本当の事を言ったら怒るらしいよ?でも、相談に乗るって言ってくれているのならその好意に甘えてみようかなと思う


「なら、お言葉に甘えさせてもらうね」

「うん、それで?成績がいい遊華は何に悩んでいたの?」


 この際だから言うけど私の悩みは由紀の考えているような真面目な悩みじゃないんだけどなぁ……。でも、由紀ならきっと解ってくれるはず!


「先輩後輩気分を味わうためにお兄ちゃんと同じ高校に行くか、それとも、お兄ちゃんとは別の高校に行き毎日迎えに行って『来ちゃった♡』って言うかで悩んでたんだけど……くだらないよね」


 由紀なら解ってくれるという確信の元、私はあえて自分の悩みを卑下する。お兄ちゃん曰く、こうする事でどんなくだらない悩みも相手は真剣に考えてくれるらしい


「くだらなくないよ」

「えっ……?」

「私だって遊華と同じ事を考えた事あるよ。遊さんと同じ学校に進学するか、それとも、遊さんと別の学校に行って毎日お迎えに行くかってね。だから私は遊華にああしろ、こうしろって言えないけど、遊華が後悔しない選択をしたらいいと思う」

「由紀……」


 最初は『そんな事ないよ』って言ってもらえればいいかな程度に考えていた。でも、由紀も同じ事で悩んでいたのが意外だった。由紀ならそんな不真面目でくだらない事を考えた事ないと思っていたから。でも、結局は由紀も同じだったみたい。もしかすると美優もそうなのかな……


「自分の恋人と同じ学校に通ってお昼を一緒に食べる事やあえて別の高校に通って放課後迎えに行くって女の子なら誰しもが1度は夢に見るシチュエーションでしょ・私だって女の子なんだからそれくらい考えるよ」


 そう言って由紀はニッコリと微笑む。さすが、香月さんに次ぐ常識人なだけある


「そっか……ねぇ?由紀」

「ん?何?」

「参考までに聞きたいんだけど、由紀はどっちにしたの?」

「何が?」

「お兄ちゃんと同じ学校に通って先輩後輩の関係を楽しむか、別の学校に通って放課後に迎えに行くか」


 人に流されるのはよくない事。でも、参考にするくらいはいいよね?


「そんなの、遊さんと同じ学校に通って先輩後輩の関係を楽しむ方に決まっているでしょ」


 由紀は言いよどむ事なく答えた。進学先を決める時迷わなかったのかな?


「そっか……うん!私も決めた!」


 由紀の答えを聞いて私も決心がついた。不純な動機ではある。ひょっとしたら怒られるかもしれない。でも、私はもう迷わない!


「そう。遊華が後悔しないならそれでいいと思う」

「うん!」


 私は自分の出した答えを進路表に書き込む。誰がなんと言おうとこれが私の出した答えだ。誰にも文句何て言わせないんだから!


「進路表を書き終わったところ悪いんだけど、遊華」

「ん?何?」

「進路表の提出、今日までだよ」

「…………………は?」


 由紀が何を言ったのか理解できない……。進路表の提出が今日まで?あれ?そうだったっけ?


「いやだから、進路表の提出は今日までだって先生が言ってたでしょ?もしかして、聞いてなかった?」

「………………………………………………………」

「………………………………………………………聞いてなかったんだね」

「………………………………………………………………………………………はい」


 貰った時からお兄ちゃんと同じ高校に行くか、別の高校に行くかという事しか考えてなかった。提出期限の事なんて頭からスッポリ抜けていた


「でも、提出が今日までだし、今は放課後だから十分間に合うと思うよ?」


 由紀の言う通り、提出期限が今日までで今は放課後。申し込みもそうだけど、期限が決まっているものは日付が変わるか、時間内に出せばいい。それが例え時間ギリギリでもね!そうと決まれば私のする事は1つ!


「そ、そうだね!行ってくる!」


 私は由紀の返事を待たずにダッシュで教室から出て職員室に向かった




 遊華が走って出て行った後、私は1人、教室内に残った。全く、普段の遊華は凛とした雰囲気なのに肝心なところで抜けてるんだから……


「血は繋がってなくてもそういうところは遊さんと似てるんだから」


 藤堂遊さん。私と遊華、それから美優、香月さん、美月さんの恋人。いつもは冷静なのに肝心なところで抜けてたり、隠し事をする人。抜けているのはいいとして、例え小さな事でも隠し事をする度に私達は口を酸っぱくして『隠さないでちゃんと話して』って言うけど、あれは一種の病気なのか、中々治らない


「でも、初対面で遊華の友達でしかない美優を身体を張って守ってくれるお人よしでもあるんだけどね……」


 遊さんはお人よしだと思う。初対面で妹の友達でしかない美優の為に身体を張ったり、自分が藤堂家の本当の息子じゃないって知っても態度を荒れたりしない。本人は『顔も知らない母親に怒るだけ時間の無駄だ』なんて言うけど、本当にそれだけ?遊さん、本当にそれだけなんですか?


「遊さんってどんな時に泣くんだろう?」


 私は遊さんが弱みを見せたところを見た事がない。風邪で弱っているところは見た事があっても弱み見た事なんて1回もない。当然、誰かに縋り付いて泣いたところも……。


「遊さんって私達の事信頼してないのかな?」


 遊華が進路表を提出しに行って1人になり、遊さんの事を考えたまではよかったけど、1人だとどうしてもネガティブな事ばかり考えてしまう。頭では理解している。遊さんが私達を不安にさせないように弱いところを見せないって事なんて。でも、少しくらい弱いところを見せたって罰は当たらないと思う


「遊華、早く戻ってこないかな……?」


 放課後の静かな教室で私は夕日で紅く染まった空を見ながら呟いた。




「失礼しました」


 進路表を提出し、職員室を出た私は由紀の待つ教室へと向かう。幸い提出期限が今日までだったから怒られる事はなかったけど、慌てて職員室に入った時は何人かの先生に笑われてしまった


「何人かの先生には笑われちゃったけど、間に合ってよかった……」


 間に合うも何も提出期限が今日まで。つまり、今日の内ならどのタイミングで提出しても問題はないという事になる。私が怒られる謂れは何もない。だけど、先生達だって他の仕事があるからできるだけ提出期限は守った方がいい事を私は今日学習した


「由紀もう帰っちゃってるよね……」


 教室を出る時、私は由紀の返事を聞かずに飛び出した。特に待っているように頼んだわけでもなんでもない。だから、由紀が先に帰っていても私は何も言えない


「何も言わないで出てきちゃったから先に帰ってても文句は言えないよね……」


 私は由紀が待っているわけない。そう思いながら教室に戻った。


「おかえり遊華」


 教室に戻った私を迎えてくれたのは待っているはずがないと思っていた由紀。


「由紀……どう……して……?」


 別に喧嘩したわけじゃない。でも、飛び出してしまった手前気まずい


「どうしてって遊華を待ってたんだけど?」

「そ、それはありがたいけど、でも、用事とかなかったよね?」

「うん。ないよ」

「だったらどうして?」

「私が親友を待ってちゃダメ?」


 親友……。そっか、親友を待っているのに理由なんてないか


「ダメじゃないけど……暇じゃなかったの?」


 待っててくれるのは嬉しいけど、私を待っている間どうやって時間を潰してたんだろう?


「遊さんの事を考えてたから暇ではなかったよ」

「お兄ちゃんの事?それってどんな?」

「それは帰りながら話すよ」


 私達は荷物をまとめ、教室を出た。学校を出るまで私達の間に会話はなかった


「由紀、教室でお兄ちゃんの事を考えてたって言ってたけど、どんな事考えてたの?」


 私達はお兄ちゃんの彼女だから喧嘩になる事はないと思う。だけど、由紀が考えてた事は気になる


「遊さんってどんな時に泣くのか?とか、遊さんってどうして私達に弱い部分を見せないのかとかだよ」

「言われてみればお兄ちゃんの泣いてるところとか、弱い部分は見た事ない」


 私は幼い頃からお兄ちゃんが泣いてるところを見た事がない。弱い部分に関しても弱ってる部分は見た事あっても弱い部分は見た事がない。あれ?私───いや、私達って信頼されてない?


「でしょ?私達は遊さんの事を知っているようで何も知らない。そう思わない?」

「た、確かに……」


 由紀の言う通り私達はお兄ちゃんの事を知っているようで何も知らない。お兄ちゃんがどんな時に泣くのかとかを含めて。ただ、お兄ちゃんは私達が不安になった時に『ずっと一緒だ』と必ず言ってくれる。でも、本当にずっと一緒にいてくれるのかな?


「遊さんは彼氏として恰好付けたいのかもしれないけど、彼女の私からしてみれば少しくらい泣いてるところとか、弱い部分とか見せてもいいと思うけど……遊華は?」

「私もそう思う。お兄ちゃんはどうして弱い部分とか見せないのかな?やっぱり信頼されてないからかな?」


 考えがどんどん後ろ向きになってくる。だけど、それだけお兄ちゃんは肝心な事は何も言わない。手紙の一件以来ある程度の話はするようになったけど、それでもまだ足りない


「どうなんだろう?もしかしたら香月さんと美月さんの前では泣いたり弱い部分を見せてるかもしれないよ?」


 香月さんと美月さんはお兄ちゃんよりも年上。案外年上の方が甘えやすいのかもしれない


「そうだね。私達は年下だから甘えづらいのかもしれないね!」


 結局私達はお兄ちゃんは年下である私達には甘えづらいから泣く姿とか弱い部分を見せない。そう無理矢理結論付けた。お兄ちゃんの肝心な事は何も言わない悪癖が後に大変なことになるとは知らずに……



 家に帰ってからはいつも通り振る舞った。本当はお兄ちゃんに『私達の事どう思ってる?』って聞きたかったけど、いきなりそんな事を聞いてお兄ちゃんを困らせたくないから聞かなかったけど。あ、そうそう!香月さんの進路は声優の専門学校進学、美優の進路はお兄ちゃんと同じ学校に進学だって事を言い忘れていたよ!私と由紀の進路?それは後の秘密って事で




今回は遊華の進路の話でした

香月と美優の進路については触れましたが、肝心の遊華の進路と由紀の進路についてはここでは言いません。でも、何となく予想が付くと思います。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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