【美月のいない日】俺が美月と電話する件について
今回は美月が不在の遊達の話です
遊と一緒にいるキャラの1人が不在はこの作品では初めて。さて、どうなる事やら
では、どうぞ
文化祭が終わり、ミスコン騒動から時は流れ、11月。気が付けばもう秋だ。
「食欲の秋、読書の秋、運動の秋とはよく言うが……俺にはどれも当てはまらないような気がする」
秋と言えば食が進んだり、読書に集中できたり、運動しやすかったりといろいろあるが、普段から食べる事には人一倍気を使い、暇さえあればゲームか読書をし、遊華達の前じゃ絶対に言えないが、適度に運動したりしている俺にはあまり関係ない。運動と言ってもスーパーまで歩く程度なのだが。
「遊、お前が関係ないって思うのは普段から食う事に気を使ったり本読んだり、適度な運動をしているから関係ないと感じるだけで実際問題、世の食欲旺盛な奴はこの時期に活発化し、普段本を読む時間のない人間や本を読まない人間はこの時期になると本を読む。んで、普段運動不足の奴はこの時期に慌てて運動するんだよ」
秋空の下、俺達は特に中身のない話をしながら屋上で飯を食う。俺達はともかく、遊華達にとっては多分だが、ダイエットの秋になるのか?
「そうなのか?敬はどうか知らないけど、俺達って基本、なんとかの秋とは無縁だからイマイチピンと来ないんだよ」
「ピンと来ないのは俺も同じだっての!ったく、遊と敬はどうか知らねーけど、俺は明美に秋の食ツアー、読書ツアー、運動ツアーなんて意味不明な企画を聞かされて頭が痛いんだ。これ以上、秋の話は聞きたくない」
浩太が明美さんから聞かされたツアーについてはツッコまない。食べ歩きすれば食ツアーと運動ツアーの2つが同時に消化できるぞ。とか、電車や車で移動している最中に本読めるんじゃね?なんてツッコミはしない。少し考えればアホでも思いつくだろうしな
「そうか。秋はともかく、敬はそういう季節のイベント関係で早川から何か言われたりとかしたのか?」
季節のイベントとは秋に限った事じゃない。春ならお花見したり、夏なら海水浴に行ったり、肝試しをしたりする。秋なら紅葉狩りとかするな。んで、冬はクリスマスから始まり、ホワイトデーで終わる。考えてみれば1年中イベントはある
「僕は望海ちゃんと紅葉狩りしたり、2人でゆったり過ごそうねって話をしてる程度だよ。そういう遊は何かないの?」
何かないの?と聞かれても俺は遊華達と何をするかなんて具体的に決めてない。何しろ遊華・美優・由紀・香月は受験生だ。受験に関係ないのは俺と美月ぐらい。そんな受験生の割合が多い中、遊びに行こうとは言い出せない
「何かないのかって言われても遊華達年下組と香月は受験がある。受験がないのは俺と美月ぐらいだが、受験生の割合が多い中で遊びに行こうって言えるか?」
俺にも覚えがあるが、進学する学校によっては春から本腰を入れて勉強しなきゃいけなかったり、成績を気にしなきゃいけない。そんな中で誘惑なんてしてこようものなら俺はソイツに噛みつく自信がある
「言えない……よね……」
何かを思い出した敬の表情は見る見る暗くなった。そう言えば敬は勉強面で苦労する事はなかったが、受験本番で腹痛に襲われたって話をしてたな。
「ああ。遊華達と香月がどこに進学するかは聞いてないが、なるべくアイツ等の負担になる事はしたくないんだし、不吉な事は言わないようにしているんだ」
受験生にとって『落ちた』『滑った』等のワードは禁句だ。
「遊華ちゃん達や香月さんが受験でも美月さんがいるだろ?2人でどこかに行こうかって話にはならないのか?」
浩太の言いたい事はよく解る。受験のない俺と美月はデートに行かないのかって話だ
「遊華達と香月が受験なのに俺達だけどこかに遊びに行くのはナシだって話はよくする。それに、美月は3日程帰ってこない」
「「家出したの?」」
俺の言い方も悪かった。でもな、2人とも。家出したならどうして3日程帰らないって事を俺が知ってるんだ?
「違うわ!美月は修学旅行に行ってるから3日程いないんだよ!」
美月は修学旅行で3日程いない。考えてみればいつも一緒にいる奴に短い期間とはいえ会えないというのは初めてだ
「そうか。で?遊は寂しくないのか?」
「そうだよ。遊。寂しくないの?」
浩太と敬の言いたい事は何となく察しがつく。
「別に寂しくなんてない。無理矢理引き離されたわけでもあるまいし」
誰かの陰謀で無理矢理引き離されたのならどんな手を使ってでも会いに行く。しかし、学校行事で少しの間家を空けたくらいで寂しがっても仕方ない
「遊ってそういうところ冷めてるよね」
「だな。遊は少し女心を勉強するべきだな」
正直な感想を言ったのに浩太と敬から返ってきたのは非難の声だった
「俺が女心の何を勉強しなきゃいけないのか知らないけど、仕事によっては長期間家を空ける事だってあるんだ。それが学校行事ごときで寂しがってちゃどうしようもないだろ」
「「はぁ~……」」
「何なんだ?」
浩太と敬の溜息の意味は解らず終いで昼休みを終え、そのまま午後の授業も終えた。そして、夕飯の時間────────────
「「「「………………寂しい」」」」
「……………………」
いつもは賑やかな食卓。だが、今日は美月がいない事もあり、静かだった
「お兄ちゃん寂しい……」
遊華よ、俺に寂しいと訴えたところで美月は帰ってこないぞ
「遊、寂しいよ……」
香月、自分だって2年の時に修学旅行に行っただろ?
「遊さん……美月さんを連れ戻しに行ってください」
由紀さん?俺はRPGとかファンタジー小説に出てくる主人公でもないからできる事とできない事があるんですよ?
「遊くん、美月さんを攫って来て」
美優、そのコンビニ行ってこい的な感じで簡単に言うの止めてくれませんかね?
「あのなぁ~寂しいのは解るが、学校行事なんだから仕方ないだろ?」
俺は間違った事は言ってない。学校行事で家を空ける。仕事に例えるなら出張と同じだ。それをやれ連れ戻せとか、攫えとか、寂しいとか……遊華達の将来が果てしなく不安だ
「「「「でもぉ~……」」」」
事実を突きつけた途端に涙目になる遊華達に俺は頭が痛くなった。俺が最初に飛ばされた未来じゃ声優だったが、その時だって地方の仕事があっただろうに、どうやって寂しさを乗り越えてたんだ?
「でもじゃない。3日もすれば帰ってくるんだ。それまでの辛抱だ」
俺はそう言って食べ終わった食器を食洗器に持っていった。後ろで遊華が『女心を勉強しろ。鈍感』なんて言ってたが、少しの間会えないだけだろ?全く……
「浩太達といい、遊華達といい、少しの間会えないくらいで大袈裟な……」
食器を食洗器に入れ終わった俺は1人愚痴る。修学旅行は学校行事だ。別に全員参加じゃないから当然、行かないという選択もできる。しかし、修学旅行は学校最大のイベントと言っても過言じゃない。普段見られないクラスメイトの意外な一面を見る事だってできる貴重な行事だ。だと言うのに……
「はぁ……美月でこれじゃ来年俺が修学旅行に行った時にゃどうなる事やら……」
遊華達年下組と香月の進学先がどうなるかは知らない。それは本人達が決める事だ。俺がとやかく言う事ではない。しかし、そんな事は関係なく、来年俺は2年生で修学旅行がある。その時の事を考えると今から胃が痛い
「修学旅行の前に本当の母か……」
修学旅行の前に本当の母を退けなければならない。そして、本当の母襲来まで俺に残された時間は残り少なくなってきている。そう考えると2年生は波乱万丈な気がする
「来年の事を考えるのは止そう。考えただけで胃が痛い」
俺は来年について考えるのを止め、遊華達のいるリビングへと戻った。無計画ではないが、どうなるかもわからない事を考えていても仕方のない事だ。
「「「「…………………」」」」
リビングに戻ると遊華達は無言で俺を見つめてきた。うん、無言で見つめられるのって怖い
「な、何だよ?」
「お兄ちゃん、携帯鳴ってたよ」
なぜか唇を尖らせながら携帯を渡してくる遊華
「お、おお、さんきゅ」
遊華から携帯を受け取り、着信履歴を確認する。着信は美月からか
「遊、浮気相手からの電話?」
「美月からの電話だよ」
俺に電話してくるのなんて親父達か浩太と敬。それか恋人であるお前らしかいない
「遊さん、本当に美月さんからですか?」
由紀まで何だ?どうして今日に限って浮気を疑うんだよ?
「本当だよ。何なら実際に確認するか?」
「そうだね!遊くんが浮気してないとも限らないから確認させてもらおうかな!」
美優が由紀の横から俺の携帯を掻っ攫う。そして、着信が本当に美月からのものかを美優達で確認した
「本当に美月さんからだったね!お兄ちゃん!」
「だから言っただろ。着信は美月からだって」
「よかったね。遊。本当に美月からの着信で」
「あのなぁ……」
遊華と香月の言い方に棘を感じるのはどうしてだ?
「遊さん、美月さんはきっと寂しくて電話してきたんだと思います。ですが、遊さんは食事中もそんな素振り一切見せませんでしたよね?」
「ああ、学校行事だからって割り切ってたしな」
学校行事だから仕方ない。これは紛れもなく俺の本心だ
「遊くん、学校行事で仕方のない事でも私達から見たら本当に遊くんは私達の事が好きなのかなって思うんだよ?あまりにもノーリアクションだと尚更ね」
そういう美優の目には薄っすら涙が溜まっていた。考えてみれば学校行事だから仕方ないと割り切るのは簡単だ。だが、頭では解っていても感情がそれに追いつかない。それが人間だ。
「俺が悪かったよ。美月がいなくなって寂しいのを割り切る事で誤魔化していたのかもしれない」
割り切る事や誤魔化す事は簡単だ。しかし、素直になるのは難しいものだ。特に俺のように割り切る事に慣れてしまっている人間は
「「「「うん!そうだね!」」」」
俺が悪いのは認めるが、笑顔で肯定されるのは若干傷つくぞ……
「美月に電話してくる……」
俺は美月に電話するためリビングを出て────────────
「「「「待て」」」」
「…………何か?」
行けなかった。出ようとした瞬間、遊華達に捕まった
「ここで電話しなよ。遊くん」
「美優の言う通りです。ここで談話してください。遊さん」
「うんうん、ここで電話した方がいいと思うよ?お兄ちゃん」
「遊華ちゃん達の言う通りここで電話しなよ」
「何で?別に寝室とかキッチンとかで電話してもよくない?」
「「「「よくない!!」」」」
解せぬ……どうして寝室やキッチンで電話しちゃダメなんだ?
「わ、わかったよ!ここで電話すればいいんだろ?」
「「「「うん!」」」」
遊華達に押し切られる形で俺はリビングで、しかも、遊華達の前で電話する事になった。
1コール──────
『もしもし!?遊ちゃん!?』
驚きの早さ!1コールで出るとは思わなかった
「よ、よぉ、美月。今大丈夫か?」
1コールで出た驚きを隠しつつ俺は大丈夫かを確認する。今の時間は20時。時間的に自由時間になっていてもいい時間だ
『うん!大丈夫だよ!それよりどうしたの?電話してくるなんて』
「着信があったから折り返したんだよ」
『あ、そういえば遊ちゃんに電話してた』
「だろ?んで?どうだ?修学旅行は楽しいか?」
『うん!』
「そうか。それはよかった」
美月と電話中、俺は遊華にポンポンと肩を叩かれ、遊華の方を向いた。
『スピーカーにして』
遊華が持っていたメモ帳にはスピーカーにしろと書かれており、その指示通りスピーカーに切り替える
『どうしたの?遊ちゃん?』
「いや、何でもない。ところで美月は何で俺に電話してきたんだ?」
しつこいようだが、美月は修学旅行中だ。俺に電話するよりも友達との会話を楽しんでほしい
『何でって遊ちゃんの声が聴きたくなったからだよ!』
俺の声が聴きたいって……帰ってきたらいくらでも聴けるだろうに
「帰ってきたらいくらでも聴けるだろ?」
『そうなんだけど……遊ちゃんの声って聴いてると落ち着くから……』
彼氏として彼女に声を聴いてるだけで落ち着くと言われるのは嬉しい。しかし、友達との交流も大事にしてもらいたいものだ
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、友達との交流も大事にしないとダメだろ?」
『それなら大丈夫!』
「何が大丈夫なん──────」
何が大丈夫なんだ?と聞く前に電話の向こうから騒ぐ女子の声が聞こえた。うるさくて上手く聞き取れないが、内容的には『美月の彼氏!?』とか『え!?マジで!?興味あるんだけど!?』とかだろう。俺は見世物じゃないぞ。
『もぉ~、静かにしてよぉ~』
電話の向こうで騒ぐ女子に注意している美月のワタワタしている姿が目に浮かぶ
「あー、取込み中なら一旦切るぞ?」
友達とも少し話すか?と聞くのは簡単だが、俺は今1人じゃない。遊華達が一緒にいる。そんな事を言った暁にゃ殺されはしないだろうが、拗ねるに決まっている
『え~!もうちょっと話そうよ~!』
「わかった。俺も家事があるからもう少しだけな」
『うん!』
結局俺は美月(お友達含む)と1時間電話し、風呂の時間になったという事でようやく電話を切れた。俺が今日学んだ事は女子って怖い。それだけだった。余談だが、美月とだけ話しているなら遊華達は特に何も言わなかったが、美月の友達と話している時の遊華達の顔はとてもじゃないが見れなかったし、電話が終わった後、俺は遊華達のご機嫌取りの為に奔走した事を言っておく
今回は美月が不在の遊達の話でした
この作品ではキャラの1人が不在は初めてでした。まぁ、遊華達はまだ学生ですのでそうそう家を留守にする事がないってのが一番の原因ですが
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました