【文化祭後日談】俺が騒動に巻き込まれる件について
今回は文化祭の後日談です
劇の最中に逃走し、そのまま家に帰った遊には咎められるのか?
では、どうぞ
高校初の文化祭から1日が経ち、今日はその文化祭の後片付け。起きた時は学校に行きづらいと感じていた。男とキスするのが嫌でクラスの劇をほっぽり出して逃げたんだから当たり前と言ったら当たり前だ。が、いざ来てみたら何のこっちゃない。クラスの連中は特に何も言わなかった。
「遊……」
「敬か……どうした?」
どこか気まずそうにしている敬。キスを強要した事を謝りにでも来たのか?
「遊と浩太のキスショット高く売れたのにどうして逃げたの?」
「はい?」
気まずそうにしていたと思ったのは俺の勘違いだ。敬は劇の最中に逃げ出したのを咎めに来たんだ
「だーかーら!遊と浩太のキスショットは高く売れたのにどうして逃げたのって聞いてるの!」
開いた口が塞がらない……。同性愛を否定するわけじゃないが、ソッチの趣味がない俺には理解できない。男同士のキスショットなんて誰が買うんだよ?というよりも敬。お前は教室で何を言い出すんだよ?
「いやいや!俺も浩太も男とキスする趣味なんてないから逃げるのは当たり前だよな!?」
BLマンガだと男が男を押し倒すなんてシーンは大量にあるって話を聞いた事がある。しかし、それはマンガの中の話であって現実じゃあり得ないと俺は思う
「は?じゃあ、これ見てよ!」
そう言って敬が付きつけてきたのは1枚の紙だった。この紙きれがなんだっつーんだ?
「何だこの紙?」
「遊と浩太のキスショットの予約リストだよ!」
は?コイツは今何て言った?
「ごめん、もう1回言ってくれ」
俺の聞き間違いじゃなければ俺と浩太のキスショットの予約リストとか言わなかったか?
「遊と浩太のキスショットの予約リストだよ!遊、その年で難聴なの?」
聞き間違いじゃなかった。できれば聞き間違いであってほしかった。
「俺の聞き間違いだと思いたかった……」
聞き間違いだったらどれだけありがたかった事か……
「と・に・か・く!遊のキスショットで一儲けしようと思ったのに台無しだよ!」
俺はお前が人のキス顔で一儲けしようとしていた事の方が台無しだと思うぞ?しかも、さりげなく浩太を抜かして俺のキスショットとか言ってるし
「俺は男とキスする趣味も恋人以外の女とキスする趣味もない。俺のキス顔については諦めろ」
多分、ここは怒るところなんだろうが怒っても仕方のない事で怒ってもいい事は何一つない。だったら無駄なエネルギーを消費せず、そのエネルギーを別の事に使った方がまだマシというものだ
「うん。遊のキスショットは諦める……」
「ああ、そうしろ。仮に俺のキス顔が欲しけりゃ俺の恋人を連れてくるんだな」
敬と2人きりであれば恋人達と言うのだが、教室のど真ん中でそんな事を言った日にゃ俺はクラスの男子(主に彼女いない=年齢)の連中から殺される。自分の命を粗末にするほど俺はバカではない
「そうする……でも、遊のラブボイスは諦めないよ!」
え?ちょっと待って?ラブボイスって何?それ初耳なんだけど?っていうか、劇関係ないよな?
「ラブボイスはどっから出てきた?」
キスショットは理解したくはないが、まぁ、劇だという事で理解できる。だが、ラブボイスは全く理解できない。どっからそんな発想が出てくるんだ?あれか?早川と付き合い出して金にがめつくなったか?
「え?遊のラブボイスについては前々から考えてたよ?」
「はい?」
「だから、遊のラブボイスについては前々から考えてたんだって!」
「いや、それはさっき聞いた。そうじゃなくて、俺のラブボイスとか誰得だよ?」
「…………遊、それは守秘義務に反するから黙秘するね」
「今の間についてはツッコまない事にして、顧客の情報を教えてくれたら考えてもよかったんだが、教えてくれないのであれば俺のラブボイスは諦めてくれ」
そう言って俺は敬の元を離れようとした。別に俺は敬の商売に協力しなくてもいい。それに、敬が言いたくないのであれば無理に聞き出そうとは思わない
「わー!待って!言う!言うよ!」
離れようとした俺にしがみつく敬。コイツ、もう金儲けの事しか頭にないな
「別に無理して言わなくてもいいんだぞ?俺だって親友の言いたくない事を無理に聞き出したくはないんだ」
「い、言います……」
「そうか。言うのか。無理しなくてもいいのに」
「言わせてください……」
敬が観念したところで担任が入ってきて話は中断。まぁ、敬の商売についての話は教室でできるようなものじゃないので席に戻る前に敬と昼休みに屋上で会う約束を取り付けた。まぁ、今日は授業ではなく文化祭の後片付けだから授業はないし、片付けなんてサボってても問題はない。が、サボるのはよくない。俺は昼休みまでの間、真面目に後片付けに勤しむ事にした。
「「「……………」」」
昼休み。敬に言われた通り屋上に来た。それはいいとして、どうして誘ってない浩太が一緒にいるんだ?敬が声を掛けたのか?
「敬、浩太に声を掛けたのか?」
「うん。キスの件とラブボイスの件は浩太にも関係あるから」
キスは相手がいないとできない事だから仕方ない。しかし、ラブボイスに関しては別に相手がいなくてもいい。ラブボイスに関して言えば浩太は無関係だと思っていた。が、まさか浩太も巻き込まれていたとは……
「遊!俺が巻き込まれてないと思ったか!残念!ガッツリ巻き込まれてました!」
浩太、俺はどんな反応を取ればいいんだ?笑えばいいのか?それとも、泣けばいいのか?
「敬、お前のせいで浩太が壊れた。何とかしろ」
「えぇ……」
「お前のふざけた商売というか計画で浩太が壊れたんだ。お前が何とかするのが筋だろ?」
敬には壊れたと言ったが、本当は諦めてテンションが高いだけなのではないか?傍目から見てそう思う
「いや、それはそうだけど……」
敬は戸惑いながらも浩太を正気に戻そうと奮闘した。敬、こうなったのはお前が招いた事だ。精々苦労してくれ
「「「……………」」」
浩太が元に戻り、再び重い空気が流れる。
「浩太が元に戻ったところで本題に入るぞ。敬、お前の企みを話せ。もちろん、全てだ」
敬が1人で何かをする分には構わない。だが、それは俺が関係してない時に限る。今回は思いっきり巻き込まれている。しかし、状況の整理ができてない。敬には企てを全て話してもらう必要があった
「す、全てって言われても何から話せばいいか……」
敬、俺はさっき全て話せって言ったよな?言葉通り全て話せばいいんだよ
「何から話せばいいか戸惑っているのならまずはどうしてこんな事を考えたかを話せばいいだろ」
何から話せばいいか悩んでいる敬に浩太が助け船を出した。案外優しい所もあるんだな。浩太って
「そうだね……じゃあ、浩太の言う通りに事の始まりから話すね。あれは1か月前の日曜日の事だったんだけど──────」
1か月前の日曜日。僕、田端敬はいつも通り、彼女の望海ちゃんと僕の部屋で2人きり。所為お家デートをしていた
「ねぇ、敬……」
「何?望海ちゃん?」
「お願いがあるんだけど……」
最初の頃の高圧的な態度とは違い、今じゃ僕にとことん甘えてくる望海ちゃん。そんな望海ちゃんから上目遣いで見つめられ、お願いされたら断れるはずがない。
「お願い?僕にできる事なら何でも言ってよ!」
彼女のお願いとあれば法律や倫理に反する事以外であるなら極力叶えてあげたい。彼氏として
「敬がそう言うなら遠慮なく言わせてもらうけど、実は友達から藤堂と佐藤に愛を囁いてほしいって相談されたんだけど……その音声を手に入れてほしい」
「…………………………………………」
僕はこの時、どうしたものかと本気で頭を悩ませた。遊には5人の彼女が、浩太には明美さんっていう彼女がいるから。でも、望海ちゃんのお願いも叶えてあげたい。僕は……僕はどうしたらいいんだ!!
「やっぱ……無理……だよね……?」
望海ちゃんはションボリとした表情をして僕を見つめてくる。結論から言えば無理。遊も浩太も浮気するようなタイプじゃない。どちらかと言えば彼女一筋タイプだから。でも、望海ちゃんにハッキリ無理だと言うのも気が引ける。
「う、うーん……どうなんだろう?遊も浩太も浮気するようなタイプじゃないからねぇ~」
僕はお茶を濁す感じで答えた。遊が遊華ちゃん達以外の女子に愛を囁くとは思えない。浩太は明美さん以外の女子に愛を囁くとは思えない。僕にとっては八方塞がりだった。
「だよね……藤堂達が彼女以外に愛を囁くはずないもんね……友達には私から断っておくから敬は気にしなくていいよ……ホント、ごめんね。変な事言って」
そういう望海ちゃんの表情は暗かった。親友の恋愛を壊してまで自分が幸せになろうとは思わない。だけど、彼女のお願いくらい叶えてあげたい。だけど、遊は遊華ちゃん達一筋、浩太は明美さん一筋。どうしたものか……ん?遊華ちゃん達一筋?明美さん一筋?そうか!
「いや、望海ちゃんのお願い叶えてあげられるかもしれないよ?」
「本当!?」
先程までションボリしていた望海ちゃんがキラキラした目で僕を見つめてくる
「うん。ただし、遊と浩太にお願いする前に遊華ちゃん達と明美さんに許可を取らなきゃいけないけどね。あ、それと、遊華ちゃん達と明美さんにはこの事を正直に話すんだよ?」
「当然!電話してくる!」
そう言って望海ちゃんは一旦出て行った。電話の相手は遊華ちゃんか明美さんだろうけど、僕的には遊華ちゃんが先だろうと明美さんが先だろうと関係ない。どの道知る事になるんだから。
「遊華ちゃんと明美さんから許可出たよ!」
戻ってきた望海ちゃんから遊達の声を撮る許可が出たという報告が。でも、許可してもらっておいてアレだけど、何か条件が付いているのではないか?と勘ぐってしまう。遊華ちゃんも明美さんも彼氏が大好きな人達だから条件を付けないわけがない
「そう。で、条件か何か突きつけられなかった?」
「突きつけられたけど、敬、どうしてわかったの?」
電話の内容を聞いてないはずの僕がどうして条件を突き付けられたかを知っている理由なんて1つしかない。いや、知っているのではなく、遊風に言うなら『ヤンデレがタダで彼氏を使わせるわけがない』こんなところかな
「遊華ちゃんも明美さんも彼氏に関して言えば似たような性格だからね」
「そういえばそうだね」
望海ちゃんは遊華ちゃんと明美さんの性格に関する話をしたらすぐに納得してくれたけど、望海ちゃんも遊華ちゃんや明美さんと大差ないよとは言えなかった。
「それで、条件は?」
「あ、うん、条件は──────」
望海ちゃんから聞いた遊華ちゃんと明美さんが出した条件は至ってシンプルで『遊(浩太)に愛を囁かせるなら一言で済ませる事。名前ありで愛を囁かせない事』だった。まぁ、僕的にはそっちの方が楽だからいいけど。で、その後、望海ちゃんのお友達に許可が下りた事を報告したらあっという間に他の女子に広まり、収集が付かなくなった。で、僕は文化祭の日に遊と浩太に無茶振りをしてラブボイスを手に入れようと考えた。だけど、それだけじゃ割に合わないからお金を取る事にした。これが事の始まりだった
「──────という訳なんだけど……」
「「……………」」
俺と浩太は言葉が出てこなかった。正直、何からツッコめばいいんだ?
「ど、どうにかお願いできないかな?」
さっきとは裏腹に弱気の敬。俺としては遊華が許可しているし、特定の誰かに対しての愛じゃなく、ただ、一言『愛している』と言えばそれで済む。なら今回は特別に敬の頼みを聞いてもいいと思っている
「俺は別に構わない。浩太は?」
「俺も明美さんがいいって言っているなら構わないぞ」
何でもかんでも彼女に委ねるみたいになって情けないと思う。自分の事は自分で決めろと思う奴もいるかもしれない。浩太の彼女の事をよく知らなければ俺はきっと浩太にハッキリそう言っただろう。知らなかったらな。浩太の彼女である明美さんは遊華並みに独占欲が強い。浩太がこう言うのも理解できてしまうから何も言わないが、敬……いや、早川か……マジで厄介な案件を持ってきてくれたな
「2人ともありがとう!!」
厄介事を持ってきた張本人である敬はそんな事はいざ知らず。早川の願いを叶えられる事が大層嬉しいのか大喜びしている。ちなみに、俺と浩太は昼休みの間にラブボイスの録音を終えた。なぜか俺は遊華達の分、浩太は明美さんの分まで録らされたが……遊華達については録音などしなくとも生で聞けるだろうに……録音する意味あるのか?
「「「「………………………」」」」
放課後、俺達は昇降口の掲示板に貼られた1枚の紙を見て言葉が出てこなかった。文化祭の後片付けで全ての部活動は休みで久しぶりに浩太と敬、その彼女達と一緒に下校できると思っていた。敬の彼女である早川は当たり前だけど、敬と一緒に教室を出た。んで、浩太の彼女である明美さんは学年が違うから待ち合わせらしい。これは浩太本人が言ってた。俺の場合は香月と美月から家を出る時に言われている。それは別にいい。待ち合わせの仕方については各カップルの自由だ。でも、目の前に貼られた紙は何だろうか?
「「遊……頑張れ」」
俺の肩にそっと手を置き全くもって嬉しくないエールを送る浩太と敬
「藤堂、諦めなよ」
俺を助ける気ゼロの早川から掛けられる無情の言葉。
「…………マジで?」
そして、文化祭が終わった事でミスコンの事はクラスメイトや担任が忘れているものだと完全に油断していた俺。目の前の張り紙さえ見なければな。その張り紙には
『文化祭で唯一ミスコン無投票の藤堂遊君の票を掛けた鬼ごっこを今日の放課後に開催します!鬼は学校の女子(教師含む)全員!逃げるのは1年の藤堂遊君!』
と書かれていた。まぁ、端的に言うと、学校の女子(教師含む)全員VS俺1人という何ともまぁ、イジメみたいな構図の鬼ごっこを今日の放課後にするというミスコンに興味ない俺にとっては迷惑な事この上ない内容だ。
「遊、どうするの?」
敬、心配するか楽しむかどっちかにしろ。ニマニマした顔じゃ心配しているのか楽しんでるのかわからないから
「どうするも何も逃げるしかないだろ?大体、俺はミスコンのような女の査定するようなイベントはあまり好きじゃないんだよ。それに、誰が美しいかなんて興味ないしな」
ミスコンはミスコンであっていいとは思う。しかし、あくまでもあっていいとは思うが、投票は別だ。俺は興味ない。無投票なら無投票で済ませればいいものの、こんな張り紙までして俺に───────いや、1人の生徒に投票させる意味が理解できない
「遊がミスコンに興味ないのは理解した。だけど、いいの?」
「何がだよ?敬」
「アレ」
敬が指差した先にいたのは残っているであろう女子(教師含む)軍団。言うまでもなく張り紙を見た連中だろう。ん?ちょっと待て。
「よくはないが、あの中に香月と美月が混じってるのは気のせいか?」
こちらに向かってくる女子の大群の中に香月と美月の姿が見える。きっと他人の空似だろう
「遊ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「遊ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
騒がしい大群の中、やけにハッキリ聞こえる香月と美月の声。気のせいであってほしかったが、うん、これは幻聴でも何でもなく、本物の香月と美月の声だ。
「気の……せいじゃなかったね。遊」
「言うな敬。余計に現実を直視できなくなるから」
どうして香月と美月が大群の中に混じっているのか?なんて考えている暇はない。ものすごい勢いで女子の大群が迫ってきている。ぶっちゃけ、遊華達のヤンデレは慣れているのもあってか別に怖くはない。しかし、今の女子軍団は捕まったら最後、命がいくらあっても足りない。そう考える俺の選択はただ1つ
「逃げるが勝ちだ!!」
逃げる。今の俺にできる唯一の選択だ。
「遊ー!!香月さんと美月さん!どっちが美人だと思う?」
去り際に聞こえる浩太からの質問の声。でも、今の俺はそんな質問に答えている余裕なんてない。悪いが、その質問は俺の安住の地でゆっくり考えさせてもらうわ
「はぁ……はぁ……」
迫りくる女子軍団からやっとの思いで逃げ切った俺は現在、屋上にいた。たかが学校のミスコンごときで教師含めた女子全員に追われる事になるとは思わなかった。
「マジで勘弁してくれよ……」
俺が学校で困った時どこに行くかを把握しているのは浩太と敬。後はまぁ、盗聴していたであろう美優と俺の事なら何でも知っている遊華のみ。香月と美月を含めた女子が把握しているはずがない。
「はぁ、はぁ……か、香月と美月、どっちが美人かか……」
息を整えつつ、去り際に浩太からされた質問について考える。
「普段の香月はクール系でまぁ、美人だろう。で、対する美月はおっとりぽわぽわ系の可愛い。が、裏の顔は美人と言わざる得ない」
裏の顔を知っている俺だからこそ悩む。それを悩む前に、ミスコンの投票は文化祭終了までだ。それがなんだって片付けに割り当てられた今日、俺の票ごときでここまでするのやら……それが1番の謎だ
「票の事もそうだが、この俺にとって地獄の鬼ごっこはどうやったら終わるんだ?」
どうして文化祭のミスコンが結果が出た後であろう今も続いているのか、投票する場合はどうしたらいいのか等、疑問に思う事はある。が、しかし、今は香月と美月のどちらが美人かの答えを出す方が先決だ。
「香月と美月、どっちが美人か……普段の香月はクール、美月は可愛い。なら美人なのは香月だな」
美月には悪いが、美人なのは香月だ。浩太の質問は『香月と美月、どっちが美人だと思う?』だ。この質問が『香月と美月、どっちが可愛いと思う?』なら美月と答えたが、美人は香月だな。
「答えが出たはいいが、ここからどうやって抜け出そうか?」
香月と美月、どっちが美人かを考えている間に女子軍はどうやら学校中を探し回っていたらしい。そして、この場所にも迫りつつある。今抜け出そうものなら俺は確実に捕まってしまう。
「はぁ……浩太か敬のどっちかに放送室ジャックをしてもらうしかないか」
俺の身動きが取れないのであれば浩太か敬のどっちかに放送室をジャックしてもらうしかない。まぁ、こんな事態だ。先生達も咎めはしないだろう
「とりあえず浩太に電話だな」
俺は携帯を取り出し、浩太の番号に掛ける。できれば学校に残っていてほしいが、部活がないならとっくに下校しているか。
『よぉ!どうした!?遊!!』
電話に出た浩太はテンションが高かった。それはそれは久しぶりにウザいなコイツと思うほどに
「あー……テンションの高い理由は聞かないが、頼みがあって電話した」
浩太のテンションについて今はどうこう言っている暇はない。それよりも頼み事の方が重要だ
『何だ!?実はゲイでしたって告白を全校に向かってしたいのか!?』
ちょっと?チョーウザいんですけど?何なの?この浩太?もしかして誰かの成り代わりとかか?
「違う。それに、俺がゲイだったら5人も彼女いないだろ。っていうか、浩太君?テンション高いですね」
頼み事をする立場だから間違っても『テンション高くね?ウザいんだけど』なんて言えない
『はっはっは!テンション上げてないとやってらんねーんだ!許してくれ!』
テンションを無理矢理上げなきゃやってられない事が浩太にあったらしい。許してくれって言われても困るんだけどな
「お前に何があったかは敢えて聞かないが、頼みがあるんだ」
『ケツは貸さねーぞ』
この言葉を聞いた途端、俺の中で何かが切れる音がした。
「別にお前の汚ねーケツはいい。まぁ、今の言葉は明美さんにチクっといてやる。安心しろ」
俺は浩太への腹いせに明美さんへある事ない事ない事をチクろう。そう思った。
『ふっ、遊、お前はいつから近くに明美がいないと思った?ぶっちゃけ!電話が掛かってきた時からずっといたわ!!ついでに言うと俺はさっきから明美にハグされながら可哀そうなものを見るような目で見つめられているわ!!』
何て言うか、浩太に何があったかを聞くのが怖い。そんな事より、今は放送室ジャックだ
「あー、うん。浩太に何があったかは聞かないし、今の発言全て忘れてやる」
『…………そうしてくれると助かる。で、俺に頼みたい事って何だ?』
落ち着きを取り戻した浩太からは覇気がなかった。本当に何があったんだ?
「放送室をジャックしてくれないか?」
教師にバレたら反省文か停学なりそうな事を頼むのは気が引ける。しかし、俺にはこれしかない
『今、ちょうど放送室にいるんだが?』
「え?マジで?」
『ああ。マジで。そもそも、この事態を引き起こしたのは女性教師達らしい。んで、困った男性教師達が俺のところに来てどんな手を使ってでも遊に投票させろって言うから前もって放送室を借りといた』
何ともまぁ準備が早い友人だ。
「そうか。じゃあ、早速だが、俺が誰に投票するか言っていいか?」
『準備するから少し待て』
「了解」
電話の向こうでは何やら機械を操作しているであろう音と明美さんに指示を出している浩太の声が微かに聞こえる。
『いいぞ遊。誰に投票するかを思いっきり叫べ』
浩太から準備完了の声が掛かった。どうして叫ぶ必要があるかはこの際気にしない事にして、俺は思いっきり息を吸う。そして──────
「俺が美人だと思うのは香月だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は浩太に言われた通り思いっきり叫んだ。
『俺が美人だと思うのは香月だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
俺の叫び声が校内に響く。こうして本当の意味で俺の高校初の文化祭は終わりを告げた。余談だが、下校する際、香月は嬉しそうに頬を赤らめていた。それとは対照に美月は頬をこれでもかと言うくらい膨らませていた。まぁ、ちゃんと話したら納得してくれたからいいとして。で、こうなった原因は美人と人気が高い先生2人の醜い争いが原因でこうなったらしい。男性教師達にとっては俺がミスコンの投票をしようがしなかろうが別にどうでもよかったらしいが、争っていた美人2人はそうもいかず、俺を取っ捕まえて強引に白黒ハッキリさせる。というのが事の顛末だった。というのをゲッソリした担任から聞かされた。本当に勘弁してほしい。マジで
今回は文化祭の後日談でした
ミスコンの投票については・・・・しょうもない理由で後日談にまで持ち越しになりましたが、何とか終えられました・・・・さて、文化祭の話はこれで終了ですが、次は何にしよう?